今回のテーマは「世界のバイオーム」です。

バイオームの種類は10種類前後になるため、それぞれを覚えるのを苦手としているやつも多い。具体的な生物の名前や、国の名前とともに、それぞれのバイオームをまとめて学んでいこう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

バイオームとは?

バイオーム(biome)とは、その地域に生育している動物や植物、土壌中の微生物にいたるまでをまとめ、グループ分けした分類のことです。生物群系といわれることもあります。

地球上には多種多様な環境があり、もちろんそれぞれの場所にみられる生物も色々です。しかしながら、主に植物を基準にして考えると、似た特徴をもついくつかのグループ=バイオームに分けることができます。

簡単にいってしまうと、その土地にどんな動物が生育できるかは、生えている植物の種類(植生)に大きく左右されるからです。

生態系の中でも”生産者”として位置づけられるのが植物ですよね。植物が生えていれば、それをエサにしたり、住みかにしたりする昆虫や草食動物がやってきます。

それらの動物が定着すれば、今度はそれをエサにする”消費者”の動物がやってきて、さらに大型の動物がやってきて…と、生物の種類が増えていくわけです。

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もちろん、それ以外にも動物や細菌の種類に影響を与える因子は考えられますが、植生はバイオームを決定する大きな要因です。

そのため、基本的にバイオームの種類の名前は、植生の特徴を元にしたものになっていますし、バイオームを「植物群系」といってしまうこともあります。

その土地にどんな植物が生育できるかを決める要因でとくに重要なのが、降水量気温です。樹木のような、たくさんの水を必要とする植物が育つためには、ある程度の年間降水量が必要。また、年間平均気温があまりにも低い土地では、降水量の少なさも相まって植物が育つのが難しくなります。

つまり、「その土地のバイオームを決める大きな要因は植生であり、気候である」ということができるのです。

バイオームの種類

より細分化されることもありますが、一般的に高校の生物学では、地球上にみられるバイオームを、大きく10にわけて学習します。教科書などに掲載されているのは、次のような図でしょう。

image by Study-Z編集部

それでは、この10種類のバイオームについて、世界のどんなところで見られるのか、どんな動植物がいるのかを確認していきます。

世界のバイオーム

熱帯多雨林・亜熱帯多雨林

まずは、世界の中でもとくに年間降水量が多く、年間平均気温の高いところから。

熱帯多雨林亜熱帯多雨林は、年間降水量がおおむね2000mmを超え、年間の平均気温も20℃を超えるような環境に成立します。マレーシアインドネシアなど、東南アジアのうっそうとした森や、南米大陸にみられるジャングルなどは、熱帯多雨林の典型です。

亜熱帯多雨林は、熱帯多雨林の成立する条件よりもやや緯度の高い(少し赤道から離れた)、気温が少し低めのところにみられます。熱帯多雨林にまとめて含めてしまうこともありますよ。

image by iStockphoto

熱帯多雨林や亜熱帯多雨林の植生は、樹木の種類・量の多さが特徴的です。極相に達した森林では何層にもおよぶ階層構造がみられます。

樹木が発達しているため、林床は暗め。さらに、つる植物や着生植物も豊富なため、より一層”密林”という印象が増します。

豊富な植物の種類と量、複雑な構造があるため、このバイオームでは動物の種類も多種多様です。サルの仲間や多数の昆虫類など、枚挙にいとまがありません。

\次のページで「雨緑樹林」を解説!/

雨緑樹林

熱帯雨林や亜熱帯多雨林の成立する環境よりも、やや年間降水量が少ない場所では雨緑樹林のバイオームが成立します。具体的には、タイインドなどの国々で、雨緑樹林がみられますね。

雨緑樹林の成立する土地では、一年の中に「乾季」と「雨季」があります。乾季には降水量がぐっと少なくなるのです。

このバイオームでは、乾季の厳しい気候に耐えるため葉を落とし、雨季には葉を茂らせるような落葉広葉樹木がみられます。代表例はチークなど。また、林床は比較的明るく、イネ科の植物や竹の仲間などが生育します。

雨緑樹林にみられる動物の例は、アジアゾウなどです。

照葉樹林

照葉樹林は、一年中緑の葉をつける常緑広葉樹が多く見られるバイオームです。熱帯多雨林や雨緑樹林の成立する条件よりも、低い年間平均気温と降水量のある地域で発達します。

日本の中でも、九州西日本の広範囲にみられるバイオームが、この照葉樹林です。

植生を構成する代表的な植物には、シイカシのなかまがあげられます。シイ類やカシ類はいずれもブナ科の樹木。秋にはいわゆるどんぐりを付ける樹木です。日本では、ほかにもタブノキやモチノキツバキなどがよくみられます。

夏緑樹林

照葉樹林よりもさらに年間平均気温の低い地域にみられるバイオームが夏緑樹林です。夏に葉を茂らせ、寒さの厳しい秋冬には葉を落とす、落葉広葉樹が多く見られます。

こちらも、日本国内…東北や、西日本でも標高の高いところでよくみられるバイオームのタイプです。ブナミズナラケヤキカエデなどの樹種が多くなります。

もちろん、日本以外でも夏緑樹林のバイオームが成立するところはありますよ。中国ヨーロッパの国々アメリカの広い範囲でも夏緑樹林がみられるんです。

硬葉樹林

照葉樹林や夏緑樹林が成立するような降水量と気温の土地にあっても、「夏に非常に乾燥し、冬は比較的暖かい」という条件を満たすと別のバイオームが発達することがあります。それが、硬葉樹林です。

硬葉樹林では、名前の通り硬い葉をもった樹木がみられますが、これは夏の厳しい乾燥にも耐えられるよう適応した植物の姿といえます。よく例で挙げられるのは、オリーブゲッケイジュですね。

image by iStockphoto

硬葉樹林がよくみられるのは、ヨーロッパの地中海沿岸、スペインイタリアギリシャなどの沿岸地域などです。

日本でも硬葉樹林の条件と同じくらいの降水量や気温になりますが…日本の夏が高温多湿なのは、皆さんご存じの通り。夏にからっとした気候になりにくく、硬葉樹林も発達しにくいのです。

針葉樹林

森林ができる気候条件の中でも、比較的気温や降水量が少ない場所に成立するのが針葉樹林です。

日本では、北海道本州の高い山でこのバイオームがみられます。また、カナダロシアの広大な範囲に分布する針葉樹林も有名ですね。

針葉樹林に生息する動物の例として、教科書などではヒグマヘラジカなどがあげられます。

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サバンナ

年間平均気温が20℃以上あっても、年間降水量が1000mmに満たないような地域では、サバンナのバイオームが発達します。

イネ科の草本類が多く、大型の樹木はまばらにしか見ることができません。生育できる樹木は地域によって異なりますが、アカシアやバオバブなど、限られた樹種になります。

世界でサバンナがみられるのは、アフリカ大陸の一部やオーストラリアなど。また、ブラジルの一部にも広がっています。

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サバンナで見られる動物の例を挙げるときには、アフリカのサバンナの動物をイメージするとよいでしょう。ライオン、シマウマ、キリン…これらの動物が広い草原を悠々と歩きまわる姿、テレビなどで見たことがありませんか?

ステップ

サバンナが成立する環境よりも、気温が低いところではステップとよばれるバイオームがみられます。

ステップでは、樹木がほとんど見られず、イネ科の草本類が植生の主体です。

世界では、モンゴルなどのユーラシア大陸中央部のエリアが代表的ですが、あわせて、北アメリカ大陸中部のステップも覚えておきましょう。北アメリカのステップはプレーリーとよばれます。

プレーリーの名を冠したプレーリードッグや、ウサギのなかまなど、小型の草食動物が生息していますよ。

砂漠

砂漠は気温が高い日が多く、降水量も非常に少ない地域で成立するバイオームです。

サボテン多肉植物などのように、乾燥に強い性質をもった植物が植生を構成しますが、森林のバイオームのような多様性はみられません。

植物の種類が少ないので、ここで見られる動物の種類も限られます。少ない水分でも生きられるよう特殊化したトカゲサソリ、哺乳類では小さなネズミの仲間などがあげられるでしょう。また、ラクダのように水分や栄養を蓄えて生きる動物も覚えておきたいですね。

世界では、アフリカ大陸の北部アラビア半島中央アジアなどにみることができます。

ツンドラ

降水量が少ないのみならず、一年を通して寒い日がほとんどを占めるような環境では、ツンドラとよばれるバイオームがみられます。

その気候条件から植物が非常に少なく、植物や動物の遺体があっても分解されるのが遅いため、土壌が未発達。多くの生物にとって、最も厳しい環境といえます。

image by iStockphoto

みられる光合成植物といえば、コケ類地衣類などが大半です。コケモモのような低木がまれに生えていることがありますが、樹高が非常に低くなる特徴があります。

以上のように、生育には難しい環境ではあるものの、動物が一切生息していないわけではありません。わずかなコケ類や地衣類をエサとするトナカイや、海生生物を食べるホッキョクグマなどがみられます。

どこに行ってみたい?

今回はバイオームを代表的な10種類に分け、それぞれを解説しました。

皆さんには、外国で行ってみたい場所や国はありますか?自分の行ってみたい場所がどんな気候か、どんなバイオームが成立する環境か…ぜひ考えてみてください。

それぞれの地域の人々の食生活や文化は、成立しているバイオームに依存するところが大きいのです。「なぜこのようなものを食べるのか?」などの疑問をもったときには、バイオームという観点がヒントをくれることがありますよ。

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理科生態系生物

「世界のバイオーム」を総まとめ!バイオームにはどんな種類があるの?現役講師がわかりやすく解説します

今回のテーマは「世界のバイオーム」です。

バイオームの種類は10種類前後になるため、それぞれを覚えるのを苦手としているやつも多い。具体的な生物の名前や、国の名前とともに、それぞれのバイオームをまとめて学んでいこう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

バイオームとは?

バイオーム(biome)とは、その地域に生育している動物や植物、土壌中の微生物にいたるまでをまとめ、グループ分けした分類のことです。生物群系といわれることもあります。

地球上には多種多様な環境があり、もちろんそれぞれの場所にみられる生物も色々です。しかしながら、主に植物を基準にして考えると、似た特徴をもついくつかのグループ=バイオームに分けることができます。

簡単にいってしまうと、その土地にどんな動物が生育できるかは、生えている植物の種類(植生)に大きく左右されるからです。

生態系の中でも”生産者”として位置づけられるのが植物ですよね。植物が生えていれば、それをエサにしたり、住みかにしたりする昆虫や草食動物がやってきます。

それらの動物が定着すれば、今度はそれをエサにする”消費者”の動物がやってきて、さらに大型の動物がやってきて…と、生物の種類が増えていくわけです。

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