微生物、植物、動物…すべての生き物は「塩」がなければ生きていくことはできない。塩類濃度を適切に調節することは生命の維持や恒常性の維持に非常に重要なシステムです。
前半では「ヒトの体液中の塩類濃度調節」、後半では「魚類の塩類濃度調節」に焦点を当てて、生物に詳しい現役理系大学院生ライターCaoriと一緒に解説していきます。
ライター/Caori
国立大学院の博士課程に在籍している現役の理系大学院生。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。
体液に含まれる塩とは
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「塩」というと、塩化ナトリウムを主成分とする「食塩」などを想像される方が多いかもしれません。しかし、化学・生物分野での「塩(えん)」とは、塩基由来の陽イオン(カチオン)と酸由来の陰イオン(アニオン)とがイオン結合した化合物のことです。塩は水溶液に溶かすと電気を帯びた陰イオンと陽イオンに電離し、このように溶解して電離する物質のことを「電解質」といいます。
生物の体液中に含まれる塩とは、主に電解質のことを指し、ナトリウムイオン (Na+)、カリウムイオン (K+)、カルシウムイオン (Ca2+)、マグネシウムイオン (Mg2+)、塩化物イオン (Cl−)、リン酸イオン (PO43−)、硫酸イオン(SO42-)、炭酸水素イオン (HCO3−)などです。体液の組成は細胞の内外、細胞の種類、生物種によって異なります。
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なぜ塩分濃度調節が必要なのか
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生体内の塩(電解質)にはさまざまな役割があり、細胞の浸透圧調整、pHの維持、代謝や酵素の働きを助ける、神経細胞の伝達、筋肉細胞の収縮と弛緩など非常に広範囲にわたる生命現象に関与しています。
塩類のバランスが崩れてしまうと、上記の役割が果たせなくなるため、ヒトの場合は不整脈やけいれん、意識障害、浮腫、重症例では致死的不整脈など、生命を脅かすことも少なくありません。このように、生物の生命の維持や恒常性の維持に重要な役割を果たしているため、体液中に含まれる塩類の濃度は厳密にコントロールされているのです。
ヒトのナトリウムの濃度調節
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ナトリウムは細胞外液に多く含まれ、その働きは水分を保持しながら細胞の浸透圧を維持したり、循環血液の量を維持し血圧を調節することです。体液調整とは主に細胞外液の調整をすることなので、ナトリウムの濃度調節について説明します。
ナトリウムを始めとする塩類は体内で合成できないので、食事などで体外から摂取するしかありません。ナナトリウムはトリウムイオンと塩素イオンが結合した食塩の形で摂取されることが多く、まず胃で胃酸によってイオン化され、小腸の上皮細胞から吸収されて細胞外液に入り、体液中のナトリウムの濃度が上昇します。
ヒトのナトリウム濃度の下げ方
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塩類の過剰な摂取などでナトリウム濃度が高くなりすぎると、心房から分泌される心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)や心室から分泌される脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)が腎臓の尿細管でのナトリウムと水の再吸収を抑制します。これは尿量を増やして、ナトリウムと水を尿として体外に排出される量を増やす仕組みです。
また、ナトリウム濃度の上昇を脳の視床下部が感知すると脳下垂体後葉から「バソプレシン(抗利尿ホルモン)」分泌されます。バソプレシンの働きは抗利尿の名の通り尿量を減らす事です。腎臓の尿細管での水分の再吸収を促進して、尿量を減らす事で体内の水分が保持され、結果ナトリウムが薄まり濃度が低下します。
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