この記事では「失念」について解説する。

端的に言えば失念の意味は「もの忘れ」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

今回は、日本文学を専攻し研究している翠を呼んです。一緒に「失念」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/翠

中古の日本文学を研究している。様々な時代やジャンルの作品を読み、ことばに触れている。中学校と高校の国語科の教員免許も取得しており、ことばについて分かりやすく説明する。

「失念」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「失念」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「失念」の意味は?

辞書によると、「失念」には、次のような意味があります。

1.うっかりして忘れること。もの忘れ。度忘れ。

2.({梵}musitasmrtih の訳語)仏語。二十随煩悩の一つ。記憶を妨げる精神作用。

3.江戸時代、元祿年間(一六八八~一七〇四)に江戸新吉原で流行した歌。現在も「忘れ唱歌」の名で地歌として残る。

出典:日本国語大辞典 第二版(小学館)「しつ-ねん」

「失念」は、辞書には三つの意味が載っていますが現代では「うっかりして忘れること」という意味で用いることがほとんどです。特に、ビジネスの場面では自分のタスクをうっかりして忘れたことを示す際に用います。

「権者にも失念」ということわざがありますが、これは「どんなに偉い人にも失敗はある。」という意味です。「失念」は「失敗」のニュアンスが強いことがうかがえますね。

「失念」の語源は?

次に「失念」の語源を確認しておきましょう。

先ほど紹介した例の二つ目にあったように、「失念」はもともと仏教の言葉でした。仏教において「失念」とは、煩悩の一つです。物忘れや、気づきのなくなった状態、心が散乱しているを指しています。仏教における「失念」の反対語は「正念場」でおなじみの「正念」で、意味は「真実を表す仏の姿を念ずる」というものです。

「失念」は仏教的意味から転じて、現代の意味である「うっかり忘れること」が生まれました。

\次のページで「「失念」の使い方・例文」を解説!/

「失念」の使い方・例文

「失念」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.先方に連絡を入れるのを失念しておりました。大変申し訳ありません。

2.申し訳ありません。計画書の添付を失念しておりました。

3.同僚に会議の開始時間を伝えることを失念してしまった。

「失念」は「もの忘れ」という意味があるので、ビジネスの場面で使う時は相手に迷惑がかかっている場合があることが多いです。そのため「失念」はしばしば、謝罪の際に謝罪の理由として使われます。また、このとき「失念」は謙譲語として用いられるため、「失念」の主語を上司などの目上の人にすることはできません。目上の人が忘れた、という文脈には「お忘れになる」などの尊敬語を使いましょう。

さらに、「失念」は自分の行為について言うものです。そのため、「ペンを失念した」など物品を忘れたことに対して使うことはできません。

「失念」の類義語は?違いは?

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ここでは、「失念」の類義語を紹介していきます。それぞれの類義語と「失念」との違いについて見ていきましょう。

その1「放念」

「放念」は「心に留めないこと。心配しないこと。」という意味です。「失念」と同じくビジネスシーンで使うこともあります。「失念」と違うところは、「失念」が「自分がうっかり忘れる」という意味なのに対して「放念」は「相手が忘れる」という意味であるところです。

また、「放念」は、「ご放念ください。」「ご放念いただけるでしょうか。」という形で目上の人に「気にしないでください。」「忘れていただけるとありがたいです。」という意味を伝えます。「放念」は「失念」と見かけは似ていますが、ニュアンスも使い方も全く異なるものなのです。

\次のページで「その2「忘却」」を解説!/

その2「忘却」

「忘却」は「すっかり忘れ去ること。」という意味です。「忘却の彼方」という形で「記憶や思い出を完全に忘れる」という意味を表すこともできます。忘れる、といった点では「失念」と似ていますね。

「忘却」と「失念」とで異なるところは、「失念」は「うっかり忘れること」であるのに対し「忘却」は「すっかり忘れる」という意味であるところです。また、「忘却」は「失念」とは異なり、詩的な表現で用います。ビジネスシーンで使うことはあまりありません。

「失念」の対義語は?

ここでは、「失念」の対義語を見ていきましょう。「失念」は「もの忘れ」という意味の言葉であるため、対義語は「覚えている」「気を付ける」という意味あいのものが適切でしょう。

「留意」

「留意」は「ある物事に心を留めること。気を付けること。」という意味です。「失念」の「もの忘れ」に対し、まさに対義語と言うことができるでしょう。

「留意」は、「ご留意のほどよろしくお願いいたします。」など、丁寧な表現で目上の人に対して使うことも可能です。ビジネスシーンで使うことも多いので是非覚えておきましょう。

「失念」の英訳は?

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ここでは、「失念」の英訳について見ていきましょう。「失念」は「忘れる」という意味なので英訳も様々にあります。その中でも目的や場面に合ったものを使っていきましょう。

その1「forget」

中学校でも学習する英単語、「forget」はご存知のように「忘れる」という意味があります。「失念」の意味は平たく言えば「忘れる」ですから、英訳として「forget」を使うこともできるでしょう。

しかし、ビジネスにおいて自分がすべきことをうっかり忘れていたという時、「forget」を使うと、やや無責任な感じが否めません。そのため、ビジネスにおいては別の言葉を用いる方が良いでしょう。

その2「mistake」

「失念」という意味にまさにぴったりな表現として「mistake」があります。「ミスをした」というニュアンスが「失念」の「うっかり忘れる」という意味によく合っていますね。

この表現は「make」を使い、「I made a mistake.」の形にしましょう。子の表現を使う時は、お詫びの言葉も一緒に添えるのが大切です。

\次のページで「その3「slip my mind」」を解説!/

その3「slip my mind」

ネイティブがよく使う表現として「slip my mind」があります。「slip」は「滑る」という意味の英単語ですが、「忘れる」という意味もあるのです。「forget」よりも婉曲な言い回しですね。

この表現を使う時は、主語は「I」ではいけません。「It slipped my mind」という形で使い、「It」は自分の忘れた行為を表します。

「失念」を使いこなそう

この記事では「失念」の意味・使い方・類語などを説明しました。「失念」はややかしこまった場面からカジュアルな場面まで幅広く使うことができます。「失念」は失態であることが多いので「失念」という言葉を使う場面が多いことはあまり喜ばしいものではありませんが、いざ「失念」を使うことになったら、ぜひ正しい使い方で表現しましょう。

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国語言葉の意味

「失念」の意味や使い方は?例文や類語を文学院生がわかりやすく解説!

この記事では「失念」について解説する。

端的に言えば失念の意味は「もの忘れ」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

今回は、日本文学を専攻し研究している翠を呼んです。一緒に「失念」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/翠

中古の日本文学を研究している。様々な時代やジャンルの作品を読み、ことばに触れている。中学校と高校の国語科の教員免許も取得しており、ことばについて分かりやすく説明する。

「失念」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「失念」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「失念」の意味は?

辞書によると、「失念」には、次のような意味があります。

1.うっかりして忘れること。もの忘れ。度忘れ。

2.({梵}musitasmrtih の訳語)仏語。二十随煩悩の一つ。記憶を妨げる精神作用。

3.江戸時代、元祿年間(一六八八~一七〇四)に江戸新吉原で流行した歌。現在も「忘れ唱歌」の名で地歌として残る。

出典:日本国語大辞典 第二版(小学館)「しつ-ねん」

「失念」は、辞書には三つの意味が載っていますが現代では「うっかりして忘れること」という意味で用いることがほとんどです。特に、ビジネスの場面では自分のタスクをうっかりして忘れたことを示す際に用います。

「権者にも失念」ということわざがありますが、これは「どんなに偉い人にも失敗はある。」という意味です。「失念」は「失敗」のニュアンスが強いことがうかがえますね。

「失念」の語源は?

次に「失念」の語源を確認しておきましょう。

先ほど紹介した例の二つ目にあったように、「失念」はもともと仏教の言葉でした。仏教において「失念」とは、煩悩の一つです。物忘れや、気づきのなくなった状態、心が散乱しているを指しています。仏教における「失念」の反対語は「正念場」でおなじみの「正念」で、意味は「真実を表す仏の姿を念ずる」というものです。

「失念」は仏教的意味から転じて、現代の意味である「うっかり忘れること」が生まれました。

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