この記事では「いささか」について解説する。
端的に言えばいささかの意味は「ほんの少し」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。
今回は、ロシアで2年間日本語教師として働いた大学院生の「むかいひろき」を呼んです。一緒に「いささか」の意味や例文、類語などを見ていきます。
ライター/むかいひろき
ロシアの大学で2年間日本語教師として働いた経験を持つ大学院生。その経験を活かし、「言葉」について分かりやすく解説していく。
「いささか」には、次のような意味があります。
[形動][文][ナリ]
1.数量・程度の少ないさま。ほんの少し。わずか。「―な蓄えはある」「―なりともお役に立ちたい」
2.かりそめであるさま。ついちょっと。
「―に思ひて来しを多祜(たこ)の浦に咲ける藤見て一夜経ぬべし」〈万・四二〇一〉
3.(多く「いささかに」の形で、打消しに呼応して用いる)少しも。
「―に知りたる人もなければ」〈今昔・二七・一五〉
[副]
1.少し。わずかばかり。「この問題は―難しい」「―所見を述べる」「気勢に押されて―たじろいだ」
2.(あとに打消しの語を伴って)少しも。ちっとも。→いささかも
「―さりげもなく」〈枕・二五〉
出典:デジタル大辞泉(小学館)「いささ‐か【×聊か/×些か】」
「いささか」は、「ほんの少し」「わずかに」という意味を持った言葉です。後ろに「~ない」などの打消し・否定の意味を持った言葉がある場合は、「少しも~ない」「全く~ない」という意味の言葉になります。
「いささか」には、「いささかな」や「いささかに」の形で使う形容動詞の用法と、「いささか○○」のように「いささか」をそのまま使う副詞の用法があり、現代語では副詞の用法で使用されることが多いです。
次に「いささか」の語源を確認しておきましょう。「いささか」の正確な語源は不明ですが、8世紀後半、奈良時代の万葉集に既に登場しており、一部の例外を除き、古語でも現代語でもほぼ同じ意味で使われている言葉です。古語辞典にも「いささか」が掲載されていますね。
万葉集にある久米広縄の「伊佐左可爾(イササカニ)思ひて来しを多祜の浦に咲ける藤見て一夜経ぬべし」という歌には、「いささか」が「ほんの少し」という意味で使用されています。
\次のページで「「いささか」の使い方・例文」を解説!/
[形容動詞]
1.真犯人は黒田さんじゃないかと、いささかな疑いを持っている。
2.いささかなりともお役に立てるよう努力いたします。
3.(現代語では「いささかに~打消し」の形はほぼ使用されません。)
[副詞]
1.きのう田中さんにはいささか申し訳ないことをした。
2.今日の試合について、いささかの不安もない。
まずは[形容動詞]の例文から見ていきましょう。
例文1では、「少し疑いを持っている」という意味で「いささか」が使用されています。
形容動詞として使用する場合は、例文2のように「いささかなりとも」=「わずかなりとも」、「いささかながら」=「わずかながら」といった複合語の表現で使用されることが多いです。
次に[副詞]の例文を見ていきましょう。
例文1では、「少し申し訳ないことをした」という意味で「いささか」が使用されています。
例文2は、今日の試合について「全く不安がない」という意味です。「いささか~ない」「いささかの~ない」の形で「少しも~ない」「全く~ない」という意味を表します。
「いささか」の類義語には「若干」「いくばくか」「心持ち」があります。
「若干」は「いささか」と似た言葉で、「それほど多くない少しの量」という意味を表します。「若干」には「正確な量はハッキリしないが」というニュアンスが含まれるのが特徴です。
ちなみに「若干」の語源は、「干」の字を分解して「一の若く(ごとく)十の若し(ごとし)」という意味を表すところから来ています。「一のようで十のようである」ハッキリしない少量を表す表現です。
たとえば、「山田さんがパーティーに遅刻しないか、若干不安である」は「少し不安である」という意味を表します。
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「いくばくか」は漢字では「幾許か」または「幾何か」と書きます。「いささか」と似た「少量」「ある程度」を表す表現です。
「いくばくも~ない」の形で、「わずかしか~がない」という意味を表します。
たとえば、「貯金はいくばくもない」は、「貯金はわずかしかない」という意味です。
「いささか~ない」は「少しも~ない」「全く~ない」という意味を表すので、後ろに「~ない」などの打消し・否定の言葉が来るときは、意味が異なりますね。
「心持ち」は名詞と副詞で意味が異なります。名詞の場合は「心のもち方、気だて」や「気持ち、気分」といった意味です。
「いささか」と類義語になるのは副詞として用いられるときで、「わずかな程度」「ちょっと」「ほんの少し」といった意味を表します。
たとえば、「心持ち右側に移動してください」は、「ほんの少し右側に移動してください」という意味です。
「いささか」の対義語には、数量や程度がある程度より多い、またはそれ以上…といったニュアンスの言葉が当てはまります。
たとえば、「随分」「甚だ」「非常に」です。どのような意味があるか見ていきましょう。
「随分」は「ふさわしい程度を超えているさま」や「普通の程度を超えているさま」を表す表現です。「わずか」や「ほんの少し」を表す「いささか」とは反対の意味ですね。
たとえば、「随分お金が貯まりました」は、「普通より多くのお金が貯まりました」という意味を表します。
ただ「随分」は、文脈や場合によっては「20歳と聞いていたのに、年齢の割には随分と老けている印象を受ける」のように、「予想外」や「不本意」というニュアンスが含まれることがあるので注意が必要です。
「甚だ」は「はなはだ」と読み、「普通の程度をはるかに超えているさま」を表す表現です。「わずか」や「ほんの少し」の意味の「いささか」とは反対の意味を持っていますね。
たとえば、「甚だ申し訳ありません」は、「大変申し訳ありません」という意味になります。
「甚だ」にはマイナスのニュアンスはありません。「甚だしい」の形で使われる場合は、マイナスのニュアンスが含まれます。
「非常に」は「普通の程度を超えているさま」を表す表現です。「わずか」や「ほんの少し」という意味の「いささか」とは反対の意味を持っている表現ですね。
たとえば、「非常に多くの雨が降った」は、「普通ではないほど多くの雨が降った」という意味になります。
\次のページで「「いささか」を使いこなそう」を解説!/
この記事では「いささか」の意味・使い方・類語などを説明しました。
「いささか」は「ほんの少し」「わずかに」という意味を持った言葉で、「いささか~ない」の形では「全く~ない」「少しも~ない」という意味を表します。
「随分」「甚だ」「非常に」といった「普通の程度を超えているさま」を表す表現が対義語です。
今回の解説が、皆さまにとって「いささかでも」お役に立てればと思います!