今回のテーマは血液中のカルシウム濃度をを調節するホルモン「パラトルモン」です。
血液中に存在するカルシウムは様々な働きをしていて、その濃度を維持することは身体の機能を保つために非常に重要です。

血液中のカルシウム濃度を維持する仕組みについて、生物に詳しい現役理系大学院生ライターcaoriと一緒に解説していきます。

ライター/Caori

国立大学院の博士課程に在籍している現役の理系大学院生。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。

パラトルモンとは

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パラトルモンは血液中のカルシウムを増加させるように調節しているホルモンです。

血液中のカルシウム濃度が低下すると、首にある甲状腺の後ろにある米粒大の4つの「副甲状腺(上皮小体)」が感知して、パラトルモンを循環血液中に放出します。分子量は 8500、84個のアミノ酸から構成される ポリペプチドホルモンで、パラソルモン、副甲状腺ホルモン(PTH)や上皮小体ホルモンなど、複数の名前で呼ばれますが全部同じものです。

血液中のカルシウム濃度が高くなると、パラトルモンの分泌が減り、濃度を下げようとします(ネガティブフィードバック調節)。このようにして、血液中のカルシウム濃度は一定に保たれます。

なぜカルシウムの濃度調節が必要なのか

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カルシウムというと「骨」のイメージが強いかもしれませんね。実際に体内のカルシウムの約99%は骨に存在していて、骨や歯を形成するために重要な栄養素です。実はカルシウムは実は骨や歯を作ること以外にも重要な働きを持っています。

体内のカルシウムの残りの1%は細胞、血液、筋肉、神経などに存在し、筋肉の興奮収縮、心臓が拍動リズムの維持、神経の興奮、ホルモンの分泌血液凝固作用の促進。細胞の浸透圧を調節したり、酵素の活性化、情報を伝えるメッセンジャーとして働いて細胞内の応答媒介など、多種多様な働きをしています。つまり生物が生きていくための様々な代謝過程にカルシウムが必要なのです。

身体の状態を維持するため(恒常性を維持するため)、血中のカルシウム濃度は8.4~10.2 mg/dL程度の範囲に保たれています。

パラトルモンによるカルシウム濃度の上げ方

パラトルモンによるカルシウム濃度の上げ方

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パラトルモンによるカルシウムの濃度の上げ方の戦略は3つです。

1つめは貯蔵庫である骨から溶かす。2つめは腸で食べ物に含まれるカルシウムの吸収を促進。3つめは腎臓から排泄しないように再吸収を促進することです。このため、パラトルモンの刺激を感知するパラトルモン受容体は骨、腸、腎臓の3箇所の臓器に発現が見られます。

骨からのカルシウムの濃度の上げ方

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1つめはカルシウムを大量に貯蔵している骨を溶かすことで、血中カルシウム濃度を上昇させる方法です。骨のカルシウムの約1%がカルシウム濃度を保つために利用されます。

骨には二種類の細胞が存在しており、一つは骨を作る「骨芽細胞」、もう一つは骨を壊す「破骨細胞」。驚くべきことに、パラトルモンの指令を受けるのは骨を作る「骨芽細胞」の方なのです。「骨芽細胞」はパラトルモンによって活性化されると、破骨細胞前駆細胞に分化して破骨細胞になるように指示をだします。つまり、パラトルモンは破骨細胞を間接的に刺激して骨を溶かす(骨吸収)のです。骨を溶かして溶け出たカルシウムによって血液中のカルシウム濃度が上昇する仕組みになります。

\次のページで「小腸でのカルシウム吸収の促進」を解説!/

小腸でのカルシウム吸収の促進

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2つめは食べ物から摂取したカルシウムの吸収を促進して血中カルシウム濃度を上昇させる方法です

食べ物に含まれるカルシウムはまず胃酸などによって溶かされカルシウムイオンになり、小腸で吸収されます。吸収のメカニズムは2つあり、1つめは活性型ビタミンDの作用により能動的にカルシウムを吸収する方法(能動輸送)。2つめは濃度差を利用した受動輸送により血管内に吸収する方法です。パラトルモンは活性型ビタミンDの産生を促進させることで小腸でのカルシウムの吸収量を増加させて血中カルシウム濃度を上昇させます。

腎臓での再吸収の促進

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最後、3つめは腎臓の遠位尿細管でのカルシウムの再吸収を促進させて血中カルシウム濃度を上昇させる方法です。

通常、腎臓の糸球体で濾過されたカルシウムのうち約98〜99%は再吸収され、残りの1~2%(1日200 mg程度)のカルシウムを尿中に排出しています。パラトルモンはカルシウムの再吸収を促進して尿中に排泄されるカルシウムを減らし、血液中のカルシウム濃度を上げる仕組みです。

また、パラトルモンが骨を溶かした際にはカルシウムだけでなく血液中のリンも増加します。これは骨を作っているカルシウムはリンと結合した「リン酸カルシウム」で存在しているためです。血液中でもリンはカルシウムと結合する性質があり、リンの増加は血中カルシウム濃度の低下につながってしまうため、パラトルモンは腎臓でのリンの排泄を促進させています。

さらに、パラトルモンは腎臓でビタミンDを活性型ビタミンDへと変換させることで小腸でのカルシウムの吸収を促進させる働きもあり、このようにパラトルモンは様々な方法で血液中のカルシウム濃度を上げているのです。

カルシウム濃度を低下させるホルモン

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パラトルモンは血中カルシウム濃度を上昇させるホルモンなら、低下させるホルモンはあるの?という疑問が湧くと思いますが、もちろん存在しています。

血液中のカルシウムを減少させるように働くホルモンは甲状腺から分泌される「カルシトニン」です。カルシトニンによるカルシウムの濃度の下げ方の戦略は2つ。1つめは破骨細胞に作用して骨からのカルシウムの放出を抑制して、骨へのカルシウムとリン酸の沈着を促進すること。2つめは腎臓に作用して、尿中へのカルシウムとリン酸の排泄を促進して血液中のカルシウム濃度を下げる方法です。カルシウム濃度が低下すると分泌が抑制されるようにネガティブフィードバック調節を持っています。

カルシウムを摂って日光に当たろう!

血液中のカルシウム濃度を上げる「パラトルモン」について解説をしました。カルシウム濃度は非常に厳密に保たれいて、この調整メカニズムが破綻すると、高カルシウム血症や低カルシウム血症など様々な病気の原因になります。

また、現代の食生活ではカルシウムの摂取不足が大きな問題のひとつです。食事からのカルシウムが足りなければ骨から補給するしかないため、この状態が続くと骨のカルシウム沈着障害により骨が弱くなり、くる病や骨軟化症や将来的には骨粗鬆症へと繋がります。

そして、実はカルシウムを補給するだけでは不十分です。いくらカルシウムを食べたとしてもそれが腸から吸収されなければなりません。そのためには活性型のビタミンDが必要で、ビタミンDの活性化には日光(紫外線)も必要なのです。カルシウムは必要量を摂り日光に当たってカルシウム濃度を保ち、骨の健康を守りましょう。

イラスト使用元:いらすとや

" /> 「パラトルモン」って何?血中のカルシウムを調整するホルモン?現役理系大学院生がわかりやすく解説! – Study-Z
タンパク質と生物体の機能理科生物生物の分類・進化細胞・生殖・遺伝

「パラトルモン」って何?血中のカルシウムを調整するホルモン?現役理系大学院生がわかりやすく解説!

今回のテーマは血液中のカルシウム濃度をを調節するホルモン「パラトルモン」です。
血液中に存在するカルシウムは様々な働きをしていて、その濃度を維持することは身体の機能を保つために非常に重要です。

血液中のカルシウム濃度を維持する仕組みについて、生物に詳しい現役理系大学院生ライターcaoriと一緒に解説していきます。

ライター/Caori

国立大学院の博士課程に在籍している現役の理系大学院生。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。

パラトルモンとは

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パラトルモンは血液中のカルシウムを増加させるように調節しているホルモンです。

血液中のカルシウム濃度が低下すると、首にある甲状腺の後ろにある米粒大の4つの「副甲状腺(上皮小体)」が感知して、パラトルモンを循環血液中に放出します。分子量は 8500、84個のアミノ酸から構成される ポリペプチドホルモンで、パラソルモン、副甲状腺ホルモン(PTH)や上皮小体ホルモンなど、複数の名前で呼ばれますが全部同じものです。

血液中のカルシウム濃度が高くなると、パラトルモンの分泌が減り、濃度を下げようとします(ネガティブフィードバック調節)。このようにして、血液中のカルシウム濃度は一定に保たれます。

なぜカルシウムの濃度調節が必要なのか

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カルシウムというと「骨」のイメージが強いかもしれませんね。実際に体内のカルシウムの約99%は骨に存在していて、骨や歯を形成するために重要な栄養素です。実はカルシウムは実は骨や歯を作ること以外にも重要な働きを持っています。

体内のカルシウムの残りの1%は細胞、血液、筋肉、神経などに存在し、筋肉の興奮収縮、心臓が拍動リズムの維持、神経の興奮、ホルモンの分泌血液凝固作用の促進。細胞の浸透圧を調節したり、酵素の活性化、情報を伝えるメッセンジャーとして働いて細胞内の応答媒介など、多種多様な働きをしています。つまり生物が生きていくための様々な代謝過程にカルシウムが必要なのです。

身体の状態を維持するため(恒常性を維持するため)、血中のカルシウム濃度は8.4~10.2 mg/dL程度の範囲に保たれています。

パラトルモンによるカルシウム濃度の上げ方

パラトルモンによるカルシウム濃度の上げ方

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パラトルモンによるカルシウムの濃度の上げ方の戦略は3つです。

1つめは貯蔵庫である骨から溶かす。2つめは腸で食べ物に含まれるカルシウムの吸収を促進。3つめは腎臓から排泄しないように再吸収を促進することです。このため、パラトルモンの刺激を感知するパラトルモン受容体は骨、腸、腎臓の3箇所の臓器に発現が見られます。

骨からのカルシウムの濃度の上げ方

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1つめはカルシウムを大量に貯蔵している骨を溶かすことで、血中カルシウム濃度を上昇させる方法です。骨のカルシウムの約1%がカルシウム濃度を保つために利用されます。

骨には二種類の細胞が存在しており、一つは骨を作る「骨芽細胞」、もう一つは骨を壊す「破骨細胞」。驚くべきことに、パラトルモンの指令を受けるのは骨を作る「骨芽細胞」の方なのです。「骨芽細胞」はパラトルモンによって活性化されると、破骨細胞前駆細胞に分化して破骨細胞になるように指示をだします。つまり、パラトルモンは破骨細胞を間接的に刺激して骨を溶かす(骨吸収)のです。骨を溶かして溶け出たカルシウムによって血液中のカルシウム濃度が上昇する仕組みになります。

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