この記事では「相殺」について解説する。

端的に言えば相殺の意味は「物事の相反する要素や競合する要素が、互いに差し引きされること」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

今回は、日本文学を専攻し研究している翠を呼んです。一緒に「相殺」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/翠

中古の日本文学を研究している。様々な時代やジャンルの作品を読み、ことばに触れている。中学校と高校の国語科の教員免許も取得しており、ことばについて分かりやすく説明する。

「相殺」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「相殺」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「相殺」の意味は?

辞書によると「相殺」には、次のような意味があります。

1.物事の相反する要素や競合する要素が、互いに差し引きされること。そうさつ。

2.二人が相互に同種の債務を負っている場合に、互いに弁済する代わりに、当事者の一方の意思表示により、双方の債務を対当額だけ差し引いて消滅させること。

出典:日本国語大辞典 第2版(小学館)「そう-さい」

上記の辞書にもある通り、「相殺(そうさい)」には、二つの意味があります。いずれにしても言えることは、二つある要素が互いの力を帳消しにする、というものです。

一つ目の意味としては、「全体的な分野において二つの要素を差し引きする」というもので、二つの要素は、相反するものもあれば競り合う、対等のものもあります。とにかく、二つの要素が打ち消しあう様子を言ったものです。

二つ目は、法律用語として使われています。日本では、民法第505条が「相殺」の要件を記した条項です。

例えば、Aという人物とBという人物がいるとします。AはBに対して、100万円の借金があり、BはAに対して、50万円の借金があるとしましょう。このとき、いちいちそれぞれが借金の額を丁寧に帰すのは面倒ですので、相殺させることにします。そうすると、お互いの借金の中の対等な額である50万円は打ち消されて、最終的にAがBに対して残り50万円を貸金として返せばいいという状態になるのです。

このように、「相殺」には法律用語としての意味も含まれています。そこでは、特にお金に関して、特に借金の返済に関して使われるケースが多いです。

「相殺」の語源は?

次に「相殺」の語源を確認しておきましょう。「相殺」は「相」と「殺」という字が合体したものです。

「相」には様々な意味がありますが、ここでは「お互いに」という意味を表します。「殺」は「殺人」「殺傷」に使われるように、何やら物騒な漢字のようですね。ここでの「殺」は「そぐ、へらす」の意味で用いられます。

古代中国の歴史書である『春秋』の注釈書、『春秋公羊伝』に「春秋の辞繁くして殺がざる者」という言い回しがありますが、これは「殺」を「そぐ、へらす」という意味で使っているものです。

「少なくすること」を「減殺(げんさい)」と言いますが、「相殺」の「殺」もこの意味を持っていると言えましょう。また、「減殺」も「相殺」も「殺」の読み方は「さい」と、日本語にしては珍しい読み方です。

\次のページで「「相殺」の使い方・例文」を解説!/

「相殺」の使い方・例文

「相殺」の使い方を例文を使って見ていきましょう。今回は、法律用語としての「相殺」以外の例を見ていきますね。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.オリンピックのおかげで、多数の人が動いた影響でわが社は大いに利益を得て、これまでの赤字を相殺することができた。
2.彼女の第一印象はとても良かったものの、部屋が散らかっていたため、魅力は相殺された。
3.いつも彼を会社まで車で送って行っているため、昨夜のディナー代は相殺してもらった。

一つ目と二つ目の例文は、相反する要素を打ち消した例です。一つ目は「赤字・黒字」、二つ目は「長所(魅力という長所)・短所」をそれぞれ打ち消しあい、一方の効力を消滅、または減少させている様子がうかがえます。

三つ目は「会社まで毎日送る」ことと「ディナー代金」という、ベクトルの異なるものが挙げられていますね。このように、同質のものではなくても、自分と相手方との双方が対等に価値のあるものと認めたとき、相殺は成り立ちます。

そして、全体を通して言えることですが、「相殺」は主に「相殺する」といった、動詞の形で使うことが多いです。

「相殺」の類義語は?違いは?

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ここからは、「相殺」の類義語について見ていきましょう。

その1「埋め合わせ」

「相殺」の類義語にあげられる言葉の一つ目は「埋め合わせ」です。

「埋め合わせ」は「不十分なところや損失などを他のことで補うこと」という意味を持ちます。「埋める」とあるのですから、何かの過失があることが前提です。「相殺」は必ずしも過失を必要としているわけではないこともあり、こういった点では「相殺」とは異なると言えるでしょう。

「埋め合わせ」という言葉は、ややカジュアルな印象を与えるため、デートの場面などで使うこともしばしばあるそうです。

\次のページで「その2「帳消し」」を解説!/

その2「帳消し」

「帳消し」も「相殺」の類義語としてあげることができます。

「帳消し」は「帳面に記載された事項が、その記載の意味や価値を失い、棒線で消されること。」「その行動、感情、状況などによって、それ以前の行動、感情、状況などの価値が消滅すること。差し引いて残りがなくなること。」という意味を持ち、まさに「相殺」と同義の言葉として使うことができるでしょう。

その3「棒引き」

「棒引き」は、先ほどの「帳消し」から関連して「相殺」の類義語としてあげることができます。

「棒引き」は帳簿などの記載を棒を引いて消すことから、意味は「金銭の貸し借りや支払いの義務などをなしにすること」というものです。「帳消し」は感情や状況などにも使うことができますが、「棒引き」は主に支払い関係について言うことが多いことがうかがえますね。「帳消し」よりも一層、金銭の取引のニュアンスが強い言葉です。

「相殺」の対義語は?

ここまでで、「相殺」の類義語を見てきました。ここからは、「相殺」の対義語について見ていきましょう。

「相乗」

「相殺」の対義語として「相乗」という言葉があげられます。

「相殺」は互いの効力を打ち消しあうのに対して、「相乗」の意味は「幾つかの因子が累積して働き合い、個個の総和以上の大きな力が生じること」です。相互に影響力を高めあっているという点で「相殺」とは逆の意味を持つと言えるでしょう。

「相殺」の英訳は?

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互いに力を打ち消しあうという「相殺」は、英語にも同じ意味の言葉があります。

その1「offset」

「offset」は「相殺」をまさに英訳したと言える言葉です。

「offset」には「~を埋め合わせる、~を相殺する」という意味があります。また、「~を弱める」という意味もあり、「効力を弱める」という意味がある「相殺」のニュアンスをカバーできていると言えましょう。

\次のページで「その2「cancel out」」を解説!/

その2「cancel out」

「cancel out」も「相殺」するを英訳したものです。

「cancel out」には「~を無効にする」「~を打ち消す」という意味があります。「~する余地をなくす」という意味もあり、「消す」というイメージの強い言葉です。

その3「counterbalance」

少々長めの単語ですが、「counterbalance」も「相殺」を英訳しています。

「counterbalance」の第一義は、「均衡」「釣り合うおもり」「対抗勢力」という名詞です。その後、第二義として「~を釣り合わせる」という動詞があります。「counter」が「反対の」という意味を持つため、釣り合いを重視した言葉と言えるでしょう。

「相殺」を使いこなそう

この記事では「相殺」の意味・使い方・類語などを説明しました。

「相殺」は一見、血なまぐさい意味の言葉のようですが、ここの「殺」は「へらす」という意味のものです相反する、または競合する二つの要素が互いの効力を打ち消しあう、という意味を持った「相殺」は日常でもビジネスでも使うことができます。

法律用語や「相殺請求書」のように、かたい場面で使うことも少なくないので、是非「相殺」について知識をつけてみてください。

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国語言葉の意味

「相殺」の意味や使い方は?例文や類語を文学院生がわかりやすく解説!

この記事では「相殺」について解説する。

端的に言えば相殺の意味は「物事の相反する要素や競合する要素が、互いに差し引きされること」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

今回は、日本文学を専攻し研究している翠を呼んです。一緒に「相殺」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/翠

中古の日本文学を研究している。様々な時代やジャンルの作品を読み、ことばに触れている。中学校と高校の国語科の教員免許も取得しており、ことばについて分かりやすく説明する。

「相殺」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「相殺」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「相殺」の意味は?

辞書によると「相殺」には、次のような意味があります。

1.物事の相反する要素や競合する要素が、互いに差し引きされること。そうさつ。

2.二人が相互に同種の債務を負っている場合に、互いに弁済する代わりに、当事者の一方の意思表示により、双方の債務を対当額だけ差し引いて消滅させること。

出典:日本国語大辞典 第2版(小学館)「そう-さい」

上記の辞書にもある通り、「相殺(そうさい)」には、二つの意味があります。いずれにしても言えることは、二つある要素が互いの力を帳消しにする、というものです。

一つ目の意味としては、「全体的な分野において二つの要素を差し引きする」というもので、二つの要素は、相反するものもあれば競り合う、対等のものもあります。とにかく、二つの要素が打ち消しあう様子を言ったものです。

二つ目は、法律用語として使われています。日本では、民法第505条が「相殺」の要件を記した条項です。

例えば、Aという人物とBという人物がいるとします。AはBに対して、100万円の借金があり、BはAに対して、50万円の借金があるとしましょう。このとき、いちいちそれぞれが借金の額を丁寧に帰すのは面倒ですので、相殺させることにします。そうすると、お互いの借金の中の対等な額である50万円は打ち消されて、最終的にAがBに対して残り50万円を貸金として返せばいいという状態になるのです。

このように、「相殺」には法律用語としての意味も含まれています。そこでは、特にお金に関して、特に借金の返済に関して使われるケースが多いです。

「相殺」の語源は?

次に「相殺」の語源を確認しておきましょう。「相殺」は「相」と「殺」という字が合体したものです。

「相」には様々な意味がありますが、ここでは「お互いに」という意味を表します。「殺」は「殺人」「殺傷」に使われるように、何やら物騒な漢字のようですね。ここでの「殺」は「そぐ、へらす」の意味で用いられます。

古代中国の歴史書である『春秋』の注釈書、『春秋公羊伝』に「春秋の辞繁くして殺がざる者」という言い回しがありますが、これは「殺」を「そぐ、へらす」という意味で使っているものです。

「少なくすること」を「減殺(げんさい)」と言いますが、「相殺」の「殺」もこの意味を持っていると言えましょう。また、「減殺」も「相殺」も「殺」の読み方は「さい」と、日本語にしては珍しい読み方です。

\次のページで「「相殺」の使い方・例文」を解説!/

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