
端的に言えば市井の意味は「人が多く集まる場所」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。
哲学、思想、政治に強い文系大学院生を呼んです。一緒に「市井」の意味や例文、類語などを見ていきます。
ライター/南原眞一
法学研究科にて哲学、思想、政治を学んでいる現役文系大学院生。本来の専門は20世紀辺りのドイツ政治思想。大衆に訴えかける能力があると指導教授に言われた筆致で言葉を丁寧に解説していく。
「市井」の意味は?
「市井」には、次のような意味があります。
((古く、中国で、井戸のある所に人が多く集まり、市が立ったところから))人が多く集まり住む所。まち。ちまた。
出典:デジタル大辞泉(小学館)「市井」
「市井」という言葉を見たとき、「井」が「井戸」の「い」であることから、「市井」を「しい」と読む方が多いのではないでしょうか。しかし、それは間違いで正しくは「しせい」と読みます。普段、耳慣れない言葉ですので、ここで読みと用法をしっかりと覚えましょう。
「市井」の語源は?
次に「市井」の語源を確認しておきましょう。ルネ・デカルトの「困難は分割せよ」とのアドバイスに則って、まずは「市井」を分けて考えてみましょう。
「市」は二つの読み方がありますね。一つは「し」、二つは「いち」です。「し」は日常会話だと「町」を意味しています。一方で、「いち」の意味は物品等の売り買いをする場所です。
では、次に「井」を考えてみましょう。「井」も実は二つの読み方があります。一つは「い」、二つは「せい」です。しかし、読みは異なっているものの「い」も「せい」も地中に穴を掘って水を貯めている「井戸」を同じく意味しています。
「い」の読み方は我々現代人にとっても馴染み深いですが、「せい」は現代ではほぼ使われていません。例えば、人間の本性は「善」であると主張した中国古典の『孟子』の一節「今人乍見孺子將入於井」は、書き下し文だと「今、人、乍(たちまち)孺子(じゅし=子供)の將(まさ)に井(せい)に入らんとするを見れば」となり、「井」を「せい」と読んでいます。
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