今回のテーマは「核小体」です。
核は知っているけれど、核小体は知らないという人は多いんじゃないか?核小体はrRNAを持ち、リボソーム生合成の拠点となる場です。さらに、核小体はタンパク質生合成の基礎となるだけでなく、近年の研究で細胞のストレス応答に関与しているという論文が多数報告され、細胞の癌化や老化研究の分野でもとても注目されているぞ。
生物に詳しい現役理系大学院生ライターCaoriと一緒に解説していきます。

ライター/Caori

国立大学院の博士課程に在籍している現役の理系大学院生。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。

核小体とは

Diagram human cell nucleus ja.svg
Mariana Ruiz LadyofHats (translated by Hatsukari715) - Diagram human cell nucleus.svg, パブリック・ドメイン, リンクによる

核小体とは、真核生物の細胞核の中に存在する最も顕著な領域で、rRNAの転写やリボソームの構築が行われる場所のこと。rRNAはリボソームを構成するRNA、リボソームはmRNAの遺伝情報を読み取ってタンパク質への翻訳が行われるタンパク質の合成工場ですね。つまり核小体はタンパク質合成システムの根幹となる部分ともいえます。

核小体の機能というとリボソーム生合成が最もよく知られていますが、近年の研究で細胞周期の制御や、細胞の栄養状態の検知、オートファジー制御、ストレスへの応答などに関与し多彩な役割を持つことが分かってきました。多くの実験から、核小体の機能異常が多くの疾患の原因になることが報告され、医療や創薬のターゲットとして注目されている分野でもあります。

核小体の歴史

John Gurdon Cambridge 2012.JPG
Deryck Chan, courtesy to cameraman Sien Yi Tan. - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

核小体研究の歴史は古く1781年にイタリアの研究者フェリーチェ・フォンタナによって観察されたことが始まりです。その後、1934年にトウモロコシを用いた染色体研究で知られるアメリカの細胞遺伝学者バーバラ・マクリントックが「核小体形成体」について発表し、核小体の機能と詳細な構造への関心を高めました。

1964年にイギリスの生化学者のジョン・ガードンは、アフリカツメガエルの核移植実験でカエルの卵の25%には核小体がなく、そのような卵は生きることが出来ない事。そして、卵の50%は核小体を1つ、25%は核小体を2つ持つことを発見し、その結果から「核小体は生命に必要な機能を有する」と結論付けたのです。さらに1966年には、スイスの分子生物学者マックス・ビルスティエルが、核小体内のDNAがリボソームRNAをコードすることを核酸ハイブリダイゼーション実験によって示しました。

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核小体の構造

核小体の構造

image by Study-Z編集部

核小体は光学顕微鏡で明瞭に観察できる核の中にある分子密度の高い「領域」です。核小体は他の核成分と隔てる膜成分を持っていませんが、非常に密度が高いため周囲との境界をはっきりと観察できます。大部分の細胞の核には1~2個の核小体が存在しており、成長期の細胞や活発に機能する細胞には通常より多くの核小体が存在、さらに悪性度の高いがん細胞では核小体のサイズが大きく変化することが特徴です。

核小体の構造は電子顕微鏡で見ることができ、核小体は3層の構造に分類できます。中心部分は繊維状中心部 (Fibrillar centre: FC)、FCの周囲を高密度繊維状部 (Dense fibrillar component: DFC) が取り囲み、この2つが 周辺部にある顆粒部 (Granular component: GC)の中に埋め込まれる形です。全体はヘテロクロマチンで覆われており、クロマチンは核小体内部にも侵入しています。

核小体の機能

image by iStockphoto

核小体の最も代表的は機能はリボソームの生合成です。

真核生物のリボソーム生合成は、まず RNA ポリメラーゼによって rDNAを鋳型にrRNA 前駆体が転写されるところから始まります。このrRNA前駆体は修飾やプロセッシングを受けて成熟型 rRNAになり、いくつかのリボソームタンパク質と核小体で結合して40S と60S リボソームサブユニットを形成するのです。その後、細胞質に運ばれた後に2つのサブユニットが80Sリボソームを構築してタンパク質合成工場として機能します。

核小体の機能は、リボソーム生合成の他にもストレス応答や細胞周期の調節、免疫、栄養飢餓やオートファジーなど、様々な生命現象に関与することが報告されており、現在、大変研究が盛んな分野です。最後に日本で研究された「核小体」の最新研究をご紹介します。

核小体の最新研究

image by iStockphoto

細胞の核小体の数や大きさはその細胞の増殖状態を反映しており、増殖の盛んな細胞は巨大な核小体を有していることから、医療の現場では「がんの悪性度(増殖の促進)」の確認法の一つとして用いられています。しかし、これまで核小体と細胞分裂がどのように関連しているのか、そのメカニズムは解明されていませんでした。

2020年6月に筑波大学の研究グループは、細胞分裂の際に娘細胞へと染色体を均等に分配する役割を持つ、NOL11、WDR43、Cirhinという3つの核小体たんぱく質からなる複合体を発見したと発表しました。この核小体タンパク質の複合体を特殊な試薬で減少させると、細胞分裂期を制御する酵素の活性化が抑制され、細胞分裂の開始が遅延することを明らかにしたのです。この結果から、核小体の異常が細胞分裂期の異常の原因となり、ガンが悪化する原因の一つである「染色体不安定性」を増大させることが示唆されました。

この研究は細胞分裂における核小体の働きを分子レベルで明らかにしたもので、核小体を介したがんの進展メカニズムの理解にもつながる成果です。

がん研究の発展にも貢献する「核小体」

今回は「核小体」をテーマにその歴史や構造、基本的機能から最新研究まで解説しました。

核小体の機能は増殖細胞において特に活性化されていることから、古くからがんの悪性度の診断にも利用されてきました。核小体のメカニズム解明することができれば、がんを始めとする多くの病気のメカニズムの解明につがながり、抗がん剤開発ターゲットになったり、患者さんの治療や予防の役に立つことが期待されています。

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理科生物細胞・生殖・遺伝

3分で簡単「核小体」最も重要な細胞小器について現役理系大学院生がわかりやすく解説!

今回のテーマは「核小体」です。
核は知っているけれど、核小体は知らないという人は多いんじゃないか?核小体はrRNAを持ち、リボソーム生合成の拠点となる場です。さらに、核小体はタンパク質生合成の基礎となるだけでなく、近年の研究で細胞のストレス応答に関与しているという論文が多数報告され、細胞の癌化や老化研究の分野でもとても注目されているぞ。
生物に詳しい現役理系大学院生ライターCaoriと一緒に解説していきます。

ライター/Caori

国立大学院の博士課程に在籍している現役の理系大学院生。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。

核小体とは

Diagram human cell nucleus ja.svg
Mariana Ruiz LadyofHats (translated by Hatsukari715) – Diagram human cell nucleus.svg, パブリック・ドメイン, リンクによる

核小体とは、真核生物の細胞核の中に存在する最も顕著な領域で、rRNAの転写やリボソームの構築が行われる場所のこと。rRNAはリボソームを構成するRNA、リボソームはmRNAの遺伝情報を読み取ってタンパク質への翻訳が行われるタンパク質の合成工場ですね。つまり核小体はタンパク質合成システムの根幹となる部分ともいえます。

核小体の機能というとリボソーム生合成が最もよく知られていますが、近年の研究で細胞周期の制御や、細胞の栄養状態の検知、オートファジー制御、ストレスへの応答などに関与し多彩な役割を持つことが分かってきました。多くの実験から、核小体の機能異常が多くの疾患の原因になることが報告され、医療や創薬のターゲットとして注目されている分野でもあります。

核小体の歴史

John Gurdon Cambridge 2012.JPG
Deryck Chan, courtesy to cameraman Sien Yi Tan. – 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

核小体研究の歴史は古く1781年にイタリアの研究者フェリーチェ・フォンタナによって観察されたことが始まりです。その後、1934年にトウモロコシを用いた染色体研究で知られるアメリカの細胞遺伝学者バーバラ・マクリントックが「核小体形成体」について発表し、核小体の機能と詳細な構造への関心を高めました。

1964年にイギリスの生化学者のジョン・ガードンは、アフリカツメガエルの核移植実験でカエルの卵の25%には核小体がなく、そのような卵は生きることが出来ない事。そして、卵の50%は核小体を1つ、25%は核小体を2つ持つことを発見し、その結果から「核小体は生命に必要な機能を有する」と結論付けたのです。さらに1966年には、スイスの分子生物学者マックス・ビルスティエルが、核小体内のDNAがリボソームRNAをコードすることを核酸ハイブリダイゼーション実験によって示しました。

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