この記事では「僭越(せんえつ)ながら」について解説する。

端的に言えば僭越ながらの意味は「出過ぎたことですが」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

国語力だけでこれまでの社会人生活を乗り切ってきたライター、ヤザワナオコに「僭越ながら」の意味や例文、類語などを説明してもらおう。

ライター/ヤザワナオコ

コールセンターの電話応対指導やマナー講師、テレビ番組の字幕製作経験もあるライター、ヤザワナオコ。

大舞台でスピーチやプレゼンをした経験はないため、「僭越ながら」と自ら口にしたことはまだないとのこと。どんなときに使う言葉なのか、類語との違いはどんな点か、解説してもらう。

「僭越ながら」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「僭越ながら」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「僭越ながら」の意味は?

辞書には「僭越」にこのような意味が載っています。

「僭越」

自分の地位や立場を越えて出過ぎたことをすること。また、そのさま。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

「僭越」という字は読めなくても、結婚式に列席したときに「僭越ながら乾杯の音頭を取らせていただきます」と耳にした人は多いことでしょう。もはやスピーチの前置きとして常套句になっていて、深く意味を考えたことはないという人もいるかもしれませんね。

「こんな晴れやかな場で自分ごときが挨拶させてもらうなんて申し訳ない」と謙虚に恐縮するニュアンスが込められているのがこの「僭越ながら」という表現です。

もちろんパーティーなどの挨拶だけでなく、講演会で講師をするときに司会者から紹介されて自己紹介をするとか、ビジネスシーンで目上の人に何か意見をするなど、「本来そんな立場ではないけれどさせてもらう」という気持ちをにじませたいケース全般に使えますよ。

「僭越ながら」の語源は?

次に「僭越ながら」の語源を確認しておきましょう。

まず、あまり見みかけない「僭」という字は、「身分不相応なことをする」という意味を持っています。「僭する(せんする)」という動詞で「思いあがって力量が上の人をまねる」もありますよ。「越」は訓読みなら「こえる」と読むとおり、「物事の程度をこえる」「手順を踏まずに進む」ということ。

この2つの文字が合わさって、「自分の地位に見合わない行動をすること」を表すのが「僭越」です。そこに「ながら」がつくのですから、「不相応ながら」とか「本来そこまでの人間ではないのだけれど」といった謙遜の表現になっています。

\次のページで「「僭越ながら」の使い方・例文」を解説!/

「僭越ながら」の使い方・例文

「僭越ながら」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

・僭越ながら、ご指名ですので新郎新婦の門出を祝い、乾杯の発声をさせていただきます。

・ただいまご紹介いただきました○○です。僭越ながら皆様にこれまでの研究に基づくアドバイスをお伝えいたします。

・僭越ながら、今期の決算内容の解釈について私の考えを述べさせてください。

この「僭越ながら」は、口頭で用いるだけではなく、手紙やメールといった文章で使うこともできます

例えば何かの招待を断らなくてはならないとか、取引先からの納品物に対し修正を依頼するような場合、「伺えません」「修正してください」といった直接的な表現だと印象が悪くなりそうで心配ではありませんか。そんなときに「僭越ながら出席は辞退させていただきます」とか「僭越ながら○○を以下のように修正していただけると幸いです」としてみてはいかがでしょうか。

このように、「僭越ながら」は人間関係をスムーズにするための大人の知恵の一つとして覚えておくと便利な表現です。

「僭越ながら」の類義語は?違いは?

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では、「僭越ながら」と同じような意味で使える表現にはどのようなものがあるのでしょうか。「僭越ながら」との違いも含めて見ていきましょう。

「及ばずながら」

「十分ではないかもしれないが」、「力不足でしょうが」という意味で、誰かを手助けすると申し出る際に使える謙遜した表現です。

似た表現に「微力ながら」もありますよ。新入社員が思わぬ重要な任務を引き受ける際などに、「微力ながら精いっぱい努めます」などと言えると、日本人らしい謙虚な印象になりますね。

どちらも自分の能力を卑下していう言葉で、「僭越」の持つ「身の程知らずで図々しい」といったニュアンスとは少々異なります。

\次のページで「「憚りながら(はばかりながら)」」を解説!/

「憚りながら(はばかりながら)」

「憚り(はばかり)」は「遠慮すべきこと」とか「差し障りあること」という意味。そこからトイレを「はばかり」と表すこともあります。

ですから「憚りながら」といえば「遠慮すべきことでしょうが」、「自己主張が激しいようですが」ということ。日常生活でそう耳にすることはないかもしれませんが、聞いたら意味は分かるようにしておきましょう。

「僭越ながら」の対義語は?

謙虚さや身の程知らずな人間ではないことをアピールする意味でも使われるのが「僭越ながら」ですが、反対の意味で挨拶の冒頭につける慣用句は見当たりません。

そこで「僭越」の対義語を紹介します。

「神妙」

殊勝なことや、かしこまった様子を指します。

時代劇などで「神妙にお縄につけ」といえば、「抵抗せずに捕まれ」ということですね。

「慎ましい(つつましい)」

遠慮深いことや控えめな様子、また質素なさま、気恥ずかしい様子を表します。

「僭越」が持つ出過ぎた感じとは正反対ですね。

・人の話を聞くときは神妙な態度を心がけましょう。

・有名でなくとも、野に咲く花の慎ましさに心が和みます。

「僭越ながら」の英訳は?

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英語圏の人々の性質なのか、日本人ほど遠慮や謙虚さを言葉に出して表す国民性が珍しいのかはわかりませんが、英語で「僭越ながら」の直訳といえる表現は見当たりません

確かにざっくりしたイメージではありますが、外資系の会社では自分の能力をアピールすることが重要で、「私なんか…」と遠慮していたら競争に負けそうな気もします。

そこで、重要な会議など「素晴らしい場で機会をもらえた」ことに感謝する表現を挙げておきますね。

\次のページで「「Thank you for」」を解説!/

「Thank you for」

「Thank you for○○」で「○○をありがとう」という意味です。

余談ですが、このフレーズから筆者は山口百恵さんの名曲を思い出します。「○○」にいろいろな名詞が入ることを学べた曲でもありました。

・Thank you for giving me this opportunity.

(このような機会を頂いて感謝します。)

「僭越ながら」を使いこなそう

この記事では「僭越ながら」の意味・使い方・類語などを説明しました。

謙虚さが美徳と捉えられる組織では、過度な自己アピールをすると図々しいと思われかねません。そこで目立つ場面や自己主張をオブラートに包む役割を果たしてきたのが「僭越ながら」なのかもしれませんね。

他方、グローバル化した社会では「日本人だから遠慮してるだけ」などという理屈は通用しないおそれもあります。

その場に合わせて適切に、控えめにすべき点としっかり主張する点を見極められるといいですね。

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国語言葉の意味

「僭越ながら」の意味や使い方は?例文や類語をWebライターがわかりやすく解説!

この記事では「僭越(せんえつ)ながら」について解説する。

端的に言えば僭越ながらの意味は「出過ぎたことですが」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

国語力だけでこれまでの社会人生活を乗り切ってきたライター、ヤザワナオコに「僭越ながら」の意味や例文、類語などを説明してもらおう。

ライター/ヤザワナオコ

コールセンターの電話応対指導やマナー講師、テレビ番組の字幕製作経験もあるライター、ヤザワナオコ。

大舞台でスピーチやプレゼンをした経験はないため、「僭越ながら」と自ら口にしたことはまだないとのこと。どんなときに使う言葉なのか、類語との違いはどんな点か、解説してもらう。

「僭越ながら」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「僭越ながら」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「僭越ながら」の意味は?

辞書には「僭越」にこのような意味が載っています。

「僭越」

自分の地位や立場を越えて出過ぎたことをすること。また、そのさま。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

「僭越」という字は読めなくても、結婚式に列席したときに「僭越ながら乾杯の音頭を取らせていただきます」と耳にした人は多いことでしょう。もはやスピーチの前置きとして常套句になっていて、深く意味を考えたことはないという人もいるかもしれませんね。

「こんな晴れやかな場で自分ごときが挨拶させてもらうなんて申し訳ない」と謙虚に恐縮するニュアンスが込められているのがこの「僭越ながら」という表現です。

もちろんパーティーなどの挨拶だけでなく、講演会で講師をするときに司会者から紹介されて自己紹介をするとか、ビジネスシーンで目上の人に何か意見をするなど、「本来そんな立場ではないけれどさせてもらう」という気持ちをにじませたいケース全般に使えますよ。

「僭越ながら」の語源は?

次に「僭越ながら」の語源を確認しておきましょう。

まず、あまり見みかけない「僭」という字は、「身分不相応なことをする」という意味を持っています。「僭する(せんする)」という動詞で「思いあがって力量が上の人をまねる」もありますよ。「越」は訓読みなら「こえる」と読むとおり、「物事の程度をこえる」「手順を踏まずに進む」ということ。

この2つの文字が合わさって、「自分の地位に見合わない行動をすること」を表すのが「僭越」です。そこに「ながら」がつくのですから、「不相応ながら」とか「本来そこまでの人間ではないのだけれど」といった謙遜の表現になっています。

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