今回は「血液脳関門」をテーマに学習していこう。

聞きなれない用語だと思うが、血液脳関門は簡単にいうと、「脳を守るためのバリアシステム」です。我々の脳がどのようにして毒物などから守られているのか、興味はないか?

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々活動中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

血液脳関門とは

血液脳関門(けつえきのうかんもん)とは、血液中の成分が無差別に脳の組織(細胞)へ到達しないよう、移動を制限する仕組みです。英語ではblood-brain barrierとよぶため、BBBと記載されることもあります。

なぜこのようなしくみがあるのでしょうか?その理由は、脳の組織が体の中でも特に守らなくてはいけない細胞からなるためです。

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私たちの体内では、組織と体液の間で常に物質の交換が行われています。栄養を一つ一つの細胞へ送るとともに、細胞から出る老廃物を回収し、細胞とその周辺環境を整えることが生命維持には不可欠です。

これは、脳の細胞でも同じこと。グルコース(ブドウ糖)やアミノ酸など、細胞の栄養となる物質は積極的に細胞へ運ばれ、老廃物は回収されます。このような、からだに必要な物質、または細胞から出た老廃物のみならよいのですが…血液中には、細胞に悪影響を及ぼす毒物や、脳細胞に不必要な物質が含まれていることも少なくありません

それらのような、脳の組織にとって不要な物質が侵入しないように防御している仕組み。これが血液脳関門です。

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血液脳関門はどこにある?

それでは、血液脳関門とは脳のどこにあるのでしょうか?

”関門”という言葉から連想して、血管中に扉や弁のような構造物があるようなイメージをする人もいますが…実際に血液脳関門が存在するのは、脳の毛細血管です。脳の毛細血管を形成する細胞に特殊な機構があり、分子レベルで物質を選択的に輸送しています

Tightjunction BBB.jpg
CC 表示-継承 2.5, リンク

ただし、脳の中でも例外的に「脳室周辺器官」とよばれる器官のあるあたりでは、毛細血管に血液脳関門の仕組みが存在しません。

具体的には、視床下部(正中隆起)や脳下垂体後葉松果体などが脳室周辺器官に含まれます。これらの器官ではホルモンなどの物質を分泌し、それを血流に乗せて全身へ送らなくてはならないのです。そのため、物質の移動を制限する血液脳関門が発達していないのだといわれています。

血液脳関門の構造

では、少し専門的な内容になりますが、血液脳関門の構造についてご紹介しましょう。

脳の毛細血管を構成し、血液脳関門の役目を果たしているのは3種類の細胞です。

内皮細胞

毛細血管の最も内側。血流に常に触れている部分は、内皮細胞からなります。内皮細胞同士は密着結合(タイトジャンクション)によって細胞間が結合。すき間なく敷き詰められています。

毛細血管に間隙をつくらないことで、意図しない物質の移動を防いでいるわけですね。

この内皮細胞の細胞膜には、特定の物質のみを通過させるタンパク質(トランスポーター)や受容体などがあります。それらが複合的にはたらくことで、選択的に物資を輸送。血液脳関門としての機能を果たしているのです。

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ペリサイト(周皮細胞)

さらに一部の内皮細胞には、その外側にペリサイト(周皮細胞)とよばれる細胞がくっついていることがあります。

ペリサイトは、内皮細胞の密着結合に必要な物質を増加させたり、血流量を調整するなどの役割を果たしていると考えられているようです。内皮細胞とペリサイトはまとめて膜(基底膜)で包まれています。

アストロサイト(星状膠細胞)

内皮細胞や周皮細胞の外側に存在は、アストロサイト(星状膠細胞)という細胞が存在しています。アストロサイトは、グリア細胞(神経細胞以外で脳を構成する細胞)の一種で、非常に細かな枝分かれをした形が特徴的な細胞です。

Astrocytes (40123548492).jpg
NIH Image Gallery from Bethesda, Maryland, USA - Astrocytes, パブリック・ドメイン, リンクによる

アストロサイトをはじめとするグリア細胞は、神経細胞や脳の構造を支えるためだけの細胞だと思われていた時期がありました。

ところが研究が進むと、グリア細胞ではさまざまな物質がつくられていたり、神経細胞のはたらきや構造を左右するような機能があること等が次々と判明し、神経細胞同様に重要な存在であることが知られるようになったのです。

image by Study-Z編集部

脳の毛細血管では、アストロサイトから伸びた、足のような突起が内皮細胞と周辺細胞をおおっています。内泌細胞を通過した物質は、さらにアストロサイトの細胞膜上に存在するトランスポーターも通過し、ようやく神経細胞へ向かうことができるのです。これも、血液脳関門の仕組みの一部といえますね。

血液脳関門を通過してしまう物質

このように厳重に見える血液脳関門の仕組みですが、栄養や老廃物以外の物質で、本来であれば通過させたくないような物質が、このバリアを突破してしまうことがあります。

例えば、お酒に含まれるアルコール。内泌細胞などにあるトランスポーターは、脂溶性の物質を通過させやすい傾向にあります。アルコールは脂溶性のため、血液脳関門を通ることができてしまうのです。

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また、タバコにふくまれるニコチンや、眠気覚ましでおなじみのカフェインなども血液脳関門を突破できます。

血液脳関門と薬

先ほどの項目とは反対に、「脳に届けたい物質があるのに、血液脳関門が邪魔になる」ことがあります。それが、脳の組織で効果を発揮するような薬です。

脳細胞を標的とした薬剤をつくる際には、血液脳関門を突破する物質であることを前提にしなくてはなりません。ところが、血液脳関門の厳密なバリアをかいくぐれる物質は本当に限られています。

脳腫瘍やアルツハイマー病など、脳の組織に効果がある薬の開発が難しいのも、血液脳関門の存在が要因の一つになっているのです。

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近年は血液脳関門ではたらくトランスポーターや、各細胞の機能に関する研究が進んできています。それともない、脳組織に作用する薬剤の開発も現実的なものになってきているんです。

さらに研究開発が進めば、頭を手術しなくても脳腫瘍を治療したり、アルツハイマー病を直せるような薬が登場してくるかもしれません。今後に期待したいですね。

血液脳関門は脳の”砦”

必要なものだけを出入りさせ、害になる可能性のあるものは通さない…そんな血液脳関門は、脳という最重要器官を守るための”砦”のような仕組みといえます。

とはいえ、日々体内に取り入れる物質の中には、誤って血液脳関門を通過してしまうような物質も存在しました。我々は「脳によくない影響を与える成分が入っている」という認識があれば、それらの摂取を控えることができる生物です。一生使い続ける脳に負担をかけすぎないよう、気を付けていきたいものですね。

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理科環境と生物の反応生物

3分で簡単「血液脳関門」!脳を守る重要な関門!その構造としくみを現役講師が簡単わかりやすく解説

今回は「血液脳関門」をテーマに学習していこう。

聞きなれない用語だと思うが、血液脳関門は簡単にいうと、「脳を守るためのバリアシステム」です。我々の脳がどのようにして毒物などから守られているのか、興味はないか?

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々活動中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

血液脳関門とは

血液脳関門(けつえきのうかんもん)とは、血液中の成分が無差別に脳の組織(細胞)へ到達しないよう、移動を制限する仕組みです。英語ではblood-brain barrierとよぶため、BBBと記載されることもあります。

なぜこのようなしくみがあるのでしょうか?その理由は、脳の組織が体の中でも特に守らなくてはいけない細胞からなるためです。

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私たちの体内では、組織と体液の間で常に物質の交換が行われています。栄養を一つ一つの細胞へ送るとともに、細胞から出る老廃物を回収し、細胞とその周辺環境を整えることが生命維持には不可欠です。

これは、脳の細胞でも同じこと。グルコース(ブドウ糖)やアミノ酸など、細胞の栄養となる物質は積極的に細胞へ運ばれ、老廃物は回収されます。このような、からだに必要な物質、または細胞から出た老廃物のみならよいのですが…血液中には、細胞に悪影響を及ぼす毒物や、脳細胞に不必要な物質が含まれていることも少なくありません

それらのような、脳の組織にとって不要な物質が侵入しないように防御している仕組み。これが血液脳関門です。

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