今回は「体液濃度調節」をテーマに勉強します。
生き物の身体に最も多く含まれている成分は「水」で、体内に存在する液体を体液と呼んでいる。体液は化学反応の場になったり、酸素や各種栄養素、細胞から排泄された老廃物や二酸化炭素の輸送の媒介をしている。その体液の濃度を維持することは生体の環境を一定に保つため(恒常性維持)に非常に大切なシステムです。
今回はヒトの体液濃度調節に焦点を当てて、生物に詳しい現役理系大学院生ライターCaoriと一緒に解説していきます。

ライター/Caori

国立大学院の博士課程に在籍している現役の理系大学院生。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。

体液とは

image by iStockphoto

健康なヒトの身体の約50~80%は水分(=体液)でできています。体重50 kgの成人男性ならば水分量が60%とされているため、体液量は約30 Lですね。体液とは生体内にある液体成分の総称で、大きく分類すると、細胞の内側の水分(細胞内液)細胞の外側の水分(細胞外液)の2種類です。細胞外液には組織間を満たす液(組織液)や体腔内に存在する液(体腔液)、あるいは全身に広がった管や循環系(血液、リンパ液)の中を満たしている液体を指します。その他、消化液や汗、尿や涙など様々な液体を体液と呼ぶ場合もありますが、これらは生体の外に分泌・排泄されるため「生物学的な定義としての体液」には当てはまらない場合が多いです。

体液の成分

体液の成分

image by Study-Z編集部

前述したように成人男性の身体の水分量は体重の約60%でしたね。そのうち、体重の約40%が細胞内液に存在し、体重の20%が細胞外液です。細胞外液はさらに間質液(体重の約15%)と血漿などの管内細胞外液(体重の約5%)に分けられます。細胞内液と細胞外液では電解質などの成分が違うことが特徴です。細胞内液と細胞外液は半透性をもつ細胞膜によって隔てられていて、細胞膜は水は通過できますが、電解質やその他の物質は簡単には通過できないようになっています。この細胞内外での電解質成分の違いが物質のやりとりをするために重要なのです。

細胞内液に多く含まれるのは陽イオンのカリウム(K+)、マグネシウム(Mg2+)、陰イオンは主にリン酸水素(HPO42-)。細胞外液の電解質は、陽イオンはナトリウム(Na+)、陰イオンはクロール(Cl–)、次に重炭酸イオン(HCO3–)が多く、塩分濃度が0.9%の環境になっています。

体液濃度調節が必要な理由

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ヒトの身体は約37兆個の細胞から構成されており、細胞のひとつひとつが活動に必要なエネルギーを生み出したり、身体を作るタンパク質を合成しています。その細胞内の代謝の舞台となっているのが細胞内液(細胞質基質)です。細胞を取り巻く細胞外液は、細胞へ栄養素や酸素を運搬したり、細胞から出た老廃物や二酸化炭素を運び出す役割を果たしています。

生体内で細胞が正常な機能を営むためには、それを取り巻く細胞外液の組成が常に一定に保たれていなければなりません。この細胞外液の電解質の濃度が少しでも変化すると細胞は生きていけなくなるからです。このためヒトの身体は、体液量、電解質濃度、pH、血糖濃度、酸素濃度などをほぼ一定に保つための仕組みを備えています。

\次のページで「腎臓の体液濃度調整」を解説!/

腎臓の体液濃度調整

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腎臓はそらまめのような形をした握りこぶしくらいの大きさの臓器で、腰のあたりに左右対称に2個あります。腎臓の最も重要な働きは尿の生成です。腎臓は血液から尿の生成をすることによって、老廃物や過剰な水分や電解質を体外へと排出し、細胞外液の量や成分を一定に保っています

腎臓の基本的な機能単位は「ネフロン」です。糸球体とボーマンのうからなる「腎小体」と、腎小体から続く近位尿細管、ヘンレループおよび遠位尿細管からなる「尿細管」を一つの単位として「ネフロン」と呼びます。左右の腎臓それぞれネフロンが約100万個あり、腎臓は「ネフロン」の集合体です。

尿の生成

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腎臓は腎動脈から1分間に約800~1200mlという大量の血液を供給されており、腎臓に送り込まれた血液は糸球体でろ過されて「原尿」になります。原尿はあくまでも尿の元で、この時点では尿ではありません。原尿は一日に150Lも作られ、老廃物などの他にもブドウ糖、アミノ酸、ナトリウムなどの身体に必要な成分も含まれています。原尿は尿細管を通り、水分や必要な成分など約99%が再吸収されて、最終的に尿として排泄されるのは1%程度です。

なぜこのような「ろ過→再吸収」という「しくみ」になっているかというと、ヒトが摂取する水や電解質の量は一定ではないため、一度すべて「ろ過」してから、必要なら再吸収し、不要なら排泄することで体液の濃度を一定に保つしくみになっています。

尿細管での体液濃度調節システム

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体液濃度の調整は尿細管で水や電解質などの再吸収量を調節することで行われています。これらの調節をしているのは、抗利尿ホルモン(ADH)やアルドステロン、心房性ナトリウム利尿ペプチドなどのホルモンです。

たとえば、脱水などによって脳の視床下部が「体内の浸透圧の上昇」や「体液量の減少」を感知すると、脳下垂体後葉から抗利尿ホルモン(バソプレッシンとも呼びます)分泌が促進されます。その作用は、腎臓の集合管で水の再吸収を行うこと。つまり、抗利尿ホルモンが作用すると尿量は減少します(抗利尿作用)。逆に水分量が多く、浸透圧低下が間脳の視床下部で感知されると脳下垂体後葉からの抗利尿ホルモンの分泌が抑制されます。すると腎臓の水の再吸収量が減少して尿が増えるしくみです。

他にもアルドステロンはナトリウムイオンの再吸収を促進し、逆に心房性ナトリウム利尿ペプチドはナトリウムイオンの排泄量と尿量の増加の作用を持っています。このようにホルモンによって原尿からの再吸収をコントロールして体液濃度を一定に調整しているのです。

生物種によって異なる体液濃度調節

今回はヒトの体液濃度調節の基礎を解説しました。テストなどで頻出な大切な内容ですので学習の役に立ててくださいね。

体液濃度調節は恒常性を維持するために非常に重要な分野である上に、ほ乳類と水生生物ではまったくシステムが異なるとても奥深い分野でもあります。また、同じ魚類でも淡水魚と海水魚でも違うので確認してみてください。

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物質の状態・構成・変化理科生物細胞・生殖・遺伝

3分で簡単「ヒトの体液濃度調節」を現役理系大学院生がわかりやすく解説!

今回は「体液濃度調節」をテーマに勉強します。
生き物の身体に最も多く含まれている成分は「水」で、体内に存在する液体を体液と呼んでいる。体液は化学反応の場になったり、酸素や各種栄養素、細胞から排泄された老廃物や二酸化炭素の輸送の媒介をしている。その体液の濃度を維持することは生体の環境を一定に保つため(恒常性維持)に非常に大切なシステムです。
今回はヒトの体液濃度調節に焦点を当てて、生物に詳しい現役理系大学院生ライターCaoriと一緒に解説していきます。

ライター/Caori

国立大学院の博士課程に在籍している現役の理系大学院生。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。

体液とは

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健康なヒトの身体の約50~80%は水分(=体液)でできています。体重50 kgの成人男性ならば水分量が60%とされているため、体液量は約30 Lですね。体液とは生体内にある液体成分の総称で、大きく分類すると、細胞の内側の水分(細胞内液)細胞の外側の水分(細胞外液)の2種類です。細胞外液には組織間を満たす液(組織液)や体腔内に存在する液(体腔液)、あるいは全身に広がった管や循環系(血液、リンパ液)の中を満たしている液体を指します。その他、消化液や汗、尿や涙など様々な液体を体液と呼ぶ場合もありますが、これらは生体の外に分泌・排泄されるため「生物学的な定義としての体液」には当てはまらない場合が多いです。

体液の成分

体液の成分

image by Study-Z編集部

前述したように成人男性の身体の水分量は体重の約60%でしたね。そのうち、体重の約40%が細胞内液に存在し、体重の20%が細胞外液です。細胞外液はさらに間質液(体重の約15%)と血漿などの管内細胞外液(体重の約5%)に分けられます。細胞内液と細胞外液では電解質などの成分が違うことが特徴です。細胞内液と細胞外液は半透性をもつ細胞膜によって隔てられていて、細胞膜は水は通過できますが、電解質やその他の物質は簡単には通過できないようになっています。この細胞内外での電解質成分の違いが物質のやりとりをするために重要なのです。

細胞内液に多く含まれるのは陽イオンのカリウム(K+)、マグネシウム(Mg2+)、陰イオンは主にリン酸水素(HPO42-)。細胞外液の電解質は、陽イオンはナトリウム(Na+)、陰イオンはクロール(Cl–)、次に重炭酸イオン(HCO3–)が多く、塩分濃度が0.9%の環境になっています。

体液濃度調節が必要な理由

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ヒトの身体は約37兆個の細胞から構成されており、細胞のひとつひとつが活動に必要なエネルギーを生み出したり、身体を作るタンパク質を合成しています。その細胞内の代謝の舞台となっているのが細胞内液(細胞質基質)です。細胞を取り巻く細胞外液は、細胞へ栄養素や酸素を運搬したり、細胞から出た老廃物や二酸化炭素を運び出す役割を果たしています。

生体内で細胞が正常な機能を営むためには、それを取り巻く細胞外液の組成が常に一定に保たれていなければなりません。この細胞外液の電解質の濃度が少しでも変化すると細胞は生きていけなくなるからです。このためヒトの身体は、体液量、電解質濃度、pH、血糖濃度、酸素濃度などをほぼ一定に保つための仕組みを備えています。

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