3分で簡単「ヒトの体液濃度調節」を現役理系大学院生がわかりやすく解説!
生き物の身体に最も多く含まれている成分は「水」で、体内に存在する液体を体液と呼んでいる。体液は化学反応の場になったり、酸素や各種栄養素、細胞から排泄された老廃物や二酸化炭素の輸送の媒介をしている。その体液の濃度を維持することは生体の環境を一定に保つため(恒常性維持)に非常に大切なシステムです。
今回はヒトの体液濃度調節に焦点を当てて、生物に詳しい現役理系大学院生ライターCaoriと一緒に解説していきます。
ライター/Caori
国立大学院の博士課程に在籍している現役の理系大学院生。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。
体液とは
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健康なヒトの身体の約50~80%は水分(=体液)でできています。体重50 kgの成人男性ならば水分量が60%とされているため、体液量は約30 Lですね。体液とは生体内にある液体成分の総称で、大きく分類すると、細胞の内側の水分(細胞内液)と細胞の外側の水分(細胞外液)の2種類です。細胞外液には組織間を満たす液(組織液)や体腔内に存在する液(体腔液)、あるいは全身に広がった管や循環系(血液、リンパ液)の中を満たしている液体を指します。その他、消化液や汗、尿や涙など様々な液体を体液と呼ぶ場合もありますが、これらは生体の外に分泌・排泄されるため「生物学的な定義としての体液」には当てはまらない場合が多いです。
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体液の成分
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前述したように成人男性の身体の水分量は体重の約60%でしたね。そのうち、体重の約40%が細胞内液に存在し、体重の20%が細胞外液です。細胞外液はさらに間質液(体重の約15%)と血漿などの管内細胞外液(体重の約5%)に分けられます。細胞内液と細胞外液では電解質などの成分が違うことが特徴です。細胞内液と細胞外液は半透性をもつ細胞膜によって隔てられていて、細胞膜は水は通過できますが、電解質やその他の物質は簡単には通過できないようになっています。この細胞内外での電解質成分の違いが物質のやりとりをするために重要なのです。
細胞内液に多く含まれるのは陽イオンのカリウム(K+)、マグネシウム(Mg2+)、陰イオンは主にリン酸水素(HPO42-)。細胞外液の電解質は、陽イオンはナトリウム(Na+)、陰イオンはクロール(Cl–)、次に重炭酸イオン(HCO3–)が多く、塩分濃度が0.9%の環境になっています。
体液濃度調節が必要な理由
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ヒトの身体は約37兆個の細胞から構成されており、細胞のひとつひとつが活動に必要なエネルギーを生み出したり、身体を作るタンパク質を合成しています。その細胞内の代謝の舞台となっているのが細胞内液(細胞質基質)です。細胞を取り巻く細胞外液は、細胞へ栄養素や酸素を運搬したり、細胞から出た老廃物や二酸化炭素を運び出す役割を果たしています。
生体内で細胞が正常な機能を営むためには、それを取り巻く細胞外液の組成が常に一定に保たれていなければなりません。この細胞外液の電解質の濃度が少しでも変化すると細胞は生きていけなくなるからです。このためヒトの身体は、体液量、電解質濃度、pH、血糖濃度、酸素濃度などをほぼ一定に保つための仕組みを備えています。
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