分圧や全圧といった言葉での説明を読むと何だか難しそうに感じる「分圧の法則」ですが、実は至って簡単な内容です。ポイントは、気体分子をランダムに動き回る「粒」と考え、圧力を粒がぶつかってくることによる「衝撃」と考えることです。このイメージを抑えておけば、やや複雑な問題が出てきても対処しやすい。理科教員免許を持つライターR175と例題を交えて解説していこう。

ライター/R175

とある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許持ち。教科書には出てこない日常の身近な現象に結びつけて分かりやすい解説を強みとする。

1.ドルトンの分圧の法則とは

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混合気体の分圧の合計が全体の圧力になるという法則。例えば、空気中の窒素の圧力は約0.8気圧、酸素が約0.2気圧で、その混合気体の圧力が約1気圧となります。大気圧(全圧)は窒素圧と酸素圧の合計(厳密には他に微量に気体が含まれます)であり、その分圧の比率はその気体の混合割合の比率に等しいです。空気の場合は、約80%が窒素で約20%が酸素であることから、分圧の比率もおよそ8:2となります。

気体の分子数と圧力

気体の分子数と圧力

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気体分子をランダムに運動する粒と考え、圧力はそれがぶつかってくることによる衝撃と考えましょう。例え話でいうなら、ある大きさの硬い箱の内部にスーパーボールを入れて振り、箱をランダムに振るといったイメージです。

気体が存在する範囲の体積(箱の大きさ)が変わらないとすると圧力、つまりぶつかってくる衝撃は粒の個数に比例しますね。また、粒が複数種類ある場合(例えば、青と赤のスーパーボールが3個ずつあるなら)、それぞれの粒からの衝撃(赤ボールからの衝撃と青ボールからの衝撃)を足し合わせることで正味の衝撃が求まります。

衝撃を圧力と言い換えればこれがこのままドルトンの分圧の法則です。

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\次のページで「気体分子数と質量」を解説!/

気体分子数と質量

気体だけには限りませんが、通常物質の量は分子数約6×10^23個で、1mol(モル)として数え、物質量と言い、1molあたりの分子の個数(約6×10^23)をアボガドロ数と言います。

少し話がそれますが、塩と砂糖(ショ糖)は同じ質量で混ぜるとしょっぱくなりますね。これは塩の方が分子1粒あたりの質量が軽いため、同じ質量にて換算すると塩の方が物質量(分子の個数)が多くなるためです。塩および砂糖などの糖類の分子量(1mol辺りの質量)は以下の通りです(小数点2桁以下四捨五入)。

塩=NaCl→58.4

ショ糖(スクロース)=C12H22O11→342.3

2.ドルトンの分圧の法則を使った例題

ここからは、分圧の法則を使った例題の解説に移りたいと思います。今回の例題は常温常圧で液体である水を気体に変化させるという内容の計算問題です。窒素と酸素からなる空気に加え、水蒸気という気体も登場しするため、分圧の法則を活用しましょう。

減圧させて水蒸気発生

減圧させて水蒸気発生

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断面積Sのシリンダ内に液体の水18gを入れてピストンを付けて引っ張り、シリンダ内を減圧することで液体の水を蒸発させて気体に変える実験を考える問題です。これを行う実験室の温度を25℃とし、シリンダやピストンは十分な強度を有し、仮にシリンダ内が完全真空になるまで引っ張てもリークしたり破損したりしないものとします。また、水の分子量は18とし、液体の水の体積はシリンダ内体積に比べ十分に小さく無視できるものとして以下の問を考えましょう。

問1

質量mの物体を吊り下げることでシリンダ容器内を減圧します。大気圧をP0、減圧後のシリンダ内圧力をP、重力加速度をgとして鉛直方向の力のつり合い式を立てましょう。ただし、ピストンとシリンダ間の摩擦力は無視します。

問2

問1で重りを吊り下げた後のシリンダ内高さをL'として、PをL'、L、P0、m、gのうち必要なパラメータを用いて表しましょう。ただし、シリンダ内の温度は25℃のまま変わらないものとします。

問3

問3

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水は大気圧下では約100℃で沸騰し気体となりますが、雰囲気圧力が低くなるとより低い温度で沸騰し気体になります。例えば、富士山頂では0.63気圧程度と圧力が低く、水が87℃で沸騰するのはこのためです。気圧を大気圧の0.03倍(大気圧の3/100の圧力、ここでは0.03P0)程度より小さくすると約25℃で水が蒸発することが分かっているとしましょう。

つまり、ある一定以上の重さの重りを吊るすとシリンダ内圧が低くなりやがて蒸発して水蒸気になります。今回の実験条件にて、水が蒸発するためには重りの質量はいくら以上にすればよいか計算しましょう。

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問4

問3で求めた質量の重りを吊るして、シリンダ容器内高さがL'に伸びた後、ただちに重りを外してピストンを固定(体積を一定に)しました。その後液体の水が全て水蒸気になったとします。この時、シリンダ内の内圧はいくらになりますか?問1~問3で登場した文字パラメータ、および気体定数Rを利用して表しましょう。ただし、シリンダ内温度は摂氏25℃から変わらないものとし、摂氏25℃=298Kとします。

解説-問1

題意より、鉛直方向下向きには重りの重力mgと、内圧Pでピストンを圧す力が働き、上向きには大気圧でピストンを圧す力が働きますね。これらがつりあうので、

m・g+P・S=P0・S

が成り立ちます。

問2-解説

ここでは、温度一定で圧力と体積が変化する問題でボイルの法則が適用できます。圧力×体積が一定なので、引っ張る前後の崇つを当てはめると、

P0・S・L=P・S・L'が成り立ち、ここからPについて解くと、

P=P0・L/L’

となります。

\次のページで「問3-解説」を解説!/

問3-解説

題意より、引き伸ばした後の圧力Pが0.03P0となるときの質量mを求めればよいですね。問1にて、P=0.03P0を代入すると、

mg+0.03P0・S=P0・Sより、m=0.97P0・S/gとなり、これよりmが大きくなると水蒸気が発生します。

問4-解説

題意より、重りをぶら下げてピストンを吊り下げて、シリンダ内圧が0.03P0になった後水蒸気が発生するというもの。水蒸気発生前の時点では、空気圧の0.03P0が内圧で、これに水蒸気の圧力(分圧)が加わったものが問4の答えである全圧です。

水蒸気の圧力(分圧)を求めるにあたり、理想気体の状態方程式を使いましょう。体積、物質量、気体定数、絶対温度が分かれば圧力が求まりますね。まず、体積はSL'、物質量は水18gが蒸発しているので1mol、気体定数は与えられた通りでR、絶対温度は298。以上より水蒸気の分圧は298R/SL'。

よって求めたい全圧は0.03P0+298R/SL'です。

気体をボール、圧力は衝撃

ドルトンの分圧の法則は、気体をボール、圧力を衝撃とイメージする点がみそです。圧力(全圧)は全てのボールから受ける衝撃の合計値ですから、これは1個1個のボールからの衝撃を足し合わせれば求まります。

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物理理科

「ドルトンの分圧の法則」とは?おもしろ例題とともに理科教員免許を持ったライターがわかりやすく解説!

問3-解説

題意より、引き伸ばした後の圧力Pが0.03P0となるときの質量mを求めればよいですね。問1にて、P=0.03P0を代入すると、

mg+0.03P0・S=P0・Sより、m=0.97P0・S/gとなり、これよりmが大きくなると水蒸気が発生します。

問4-解説

題意より、重りをぶら下げてピストンを吊り下げて、シリンダ内圧が0.03P0になった後水蒸気が発生するというもの。水蒸気発生前の時点では、空気圧の0.03P0が内圧で、これに水蒸気の圧力(分圧)が加わったものが問4の答えである全圧です。

水蒸気の圧力(分圧)を求めるにあたり、理想気体の状態方程式を使いましょう。体積、物質量、気体定数、絶対温度が分かれば圧力が求まりますね。まず、体積はSL’、物質量は水18gが蒸発しているので1mol、気体定数は与えられた通りでR、絶対温度は298。以上より水蒸気の分圧は298R/SL’。

よって求めたい全圧は0.03P0+298R/SL’です。

気体をボール、圧力は衝撃

ドルトンの分圧の法則は、気体をボール、圧力を衝撃とイメージする点がみそです。圧力(全圧)は全てのボールから受ける衝撃の合計値ですから、これは1個1個のボールからの衝撃を足し合わせれば求まります。

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