この記事では「語彙」について解説する。

端的に言えば語彙の意味は「語の集まり」ですが、正確な意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

日本語学者である船虫堂を呼んです。一緒に「語彙」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/船虫堂

今回の記事を担当するのは文学博士で日本語学の研究者の船虫堂だ。言葉に対して幅広い興味を持つ船虫堂が、丹念な調査をもとに語句の解説をわかりやすくしていく。

「語彙」の意味や語源・使い方まとめ

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英語やビジネス関連の書籍の謳い文句で「語彙力」アップなどという言葉をよく聞くようになりました。ところが、「語彙力」という語が掲載されている辞書はまだ少なく、そもそも「語彙」に「力」を後続させることに違和感を覚える人もいます。なぜでしょう。この問題には「語彙」が持っている本来の意味が関わっているのです。

この記事では「語彙」の本来の意味である「語の集まり」という点に着目して説明をしていきます。少しつかみづらい言葉ですが正確な意味を理解して使い方をマスターしましょう。

「語彙」の意味は?

「語彙」の意味の概要について説明します。「語彙」とはある個人や集団など、一定の範囲が用いる単語の集合、つまり集まりです。一定の範囲とは個人の言語でも良いですし、地域の方言だったり、業界の専門用語であったり、小説や映画などある作品の中に出てくる全ての単語であってもよく、しばしば「単語の総体・体系」と言い表されます。

その他、もう少し突っ込んだ「語彙」の捉え方もご紹介しましょう。それは語とその語に関する知識も含むという考え方で、例えば「飲む」は液体も個体(薬など)も対象になりますが、液体を「食べる」とは言わないだとか、「足が棒になる」とは「疲れる」足がという意味であるというようなことです。

ご-い ..ヰ【語彙】

〘名〙 (「彙」は集まり、類集したものの意)

① 単語の集まり。一言語の有する単語の総体、ある人の有する単語の総体、ある作品に用いられた単語の総体、ある領域で、またはある観点から類集された単語の総体など。単語を集合として見たもの。

※国文学読本緒論(1890)〈芳賀矢一〉五「其語彙甚だ寡少にして」

② 一定の順序に単語を集録した書物。文部省編輯寮の「語彙」(明治四年)、上田万年・樋口慶千代の「近松語彙」など。

※国語のため(1895)〈上田万年〉今後の国語学「文部省が斯学の名家を集めて大成せんと企てたる語彙」

③ (俗に) ある単語の集まりに属する単語。用語。

※「遊蕩文学」の撲滅(1916)〈赤木桁平〉三「単に語彙句法の彫琢と、感傷咏嘆の濫費とによって捻出せられたものであるから」

出典:『精選版 日本国語大辞典』(小学館)

『精選版 日本国語大辞典』にあるように、「語彙」の第1の意味は「単語の総体・集合」です。2番目に掲げられている意味は、日常生活では使わない意味ですがその語の集合を納めた書物ということで、例にある「近松語彙」というのは1930年に刊行された書物で、江戸時代に活躍した劇作家である近松門左衛門の作品で用いられた語およそ6000語を収録しています。

3番目に掲げられている意味は(俗に)とあるように本来の意味としては認められているとは言い難い用法です。しかし、日常会話の中で特定の語を指して「この語彙は知らない」などという言い方はわりによく耳にします。「特定の語を指す用法」を誤用としている辞書もあり、時代と共に市民権を得るかもしれませんが現状では正しい用法とは言えないという点は押さえておきたいものです。

「語彙」の語源は?

次に「語彙」の語源を確認しておきましょう。熟語なので「語彙」という語を構成する漢字に注目していきます。「語彙」の「彙」とはどのような意味の漢字なのでしょうか。漢和辞典を引いてみましょう。

\次のページで「「語彙」の使い方・例文」を解説!/

彙 彚(*注:異体字)
[字義]
❶はりねずみ
❷たぐい。なかま。同類のもの。
❸あつめる。また、あつまる。あつまり。
❹うるわしい。さかん。

『新漢語林』第二版(大修館書店)より抜粋

「語彙」の「彙」に「ハリネズミ」の意味があるとは驚きですね。「彙」という感じは意味を表す文字とと発音を表す文字とが合わさってできた形声文字で、『新漢語林』第二版の解説には毛の長い獣を表す文字と群がるという意味の文字から成り立っているとあり、そこから「毛が密生しているはりねずみ」の意味を表すとしています。

そこから転じて「同類のもの」の「集まり」という意味で用いられているのです。そして「語」の「彙」=集まりということで「語彙」という語ができあがっています。

「語彙」の使い方・例文

「語彙」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.色彩の語彙は国によって差がある。
2.源氏物語の語彙は述べ20万語にのぼると言われる。
3.「あげぽよ」は自分の理解語彙には含まれるが使用語彙には含まれない。

例文1の色彩の語彙というのは、各国語の色に関する語の集合という意味です。色に対する認識は言語によってさまざまで、色に関する言葉がたくさんある言語もあれば少ない言語もあります。また、虹の色が言語によって6色であったり7色であったりするように、色の切り分け方も各国語によって様々です。

例文2は『源氏物語』という作品に収録されている語をカウントしたという意味で、述べ20万語というのはいわゆる「述べ語数」という数え方で、重複している語も別に数えるという方法を表します。

例文3には「理解語彙」と「使用語彙」というふたつの言葉を挙げました。「理解語彙」とはその人が知識として「知っている語」の集まりのことを表し、「使用語彙」とは実際にその人が「使う語」の集合のことを表します。例のように理解はしているが使用しないという語がありますので、「理解語彙」のほうが「使用語彙」より属している語の数が多いです。

\次のページで「「語彙」の類義語は?違いは?」を解説!/

「語彙」の類義語は?違いは?

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「語の集合・集まり」という意味での「語彙」の類義語といえば、「ボキャブラリー」でしょう。「ボキャブラリー」は英語"vocabulary"が語源の外来語で、一般的な「語彙」の英訳語として知られています。

「ボキャブラリー」

「ボキャブラリー」のほうが「語彙」よりも耳にする機会が多いかもしれません。「ボキャブラリーが貧困」という意味の「ボキャ貧」と言う言葉は1998年の「新語・流行語大賞」の特別賞に選ばれています。受賞対象者は時の総理大臣であった小渕恵三氏。不名誉な受賞と評されることが多いですが、自分のことを卑下していった言葉ともいわれており、「新語・流行語大賞」公式サイトでは逆に小渕氏の「造語能力」をたたえるコメントが添えられています。

「語彙」の英訳は?

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類義語の「ボキャブラリー」と重なりますが、英語"vocabulary"について説明します。

「vocabulary」

英和辞典を引くと「語彙」の対訳として出てくる英単語はやはり"vocabulary"です。正確な意味を把握するために英英辞典を引いてみましょう。

1  all the words that someone knows or uses
2  all the words in a particular language
3  the words that are typically used when talking about a particular subject
4  the range of possible features, effects, actions etc, especially in a type of music or art
 (the word) failure/guilt/compromise etc is not in somebody’s vocabulary
6  old-fashioned a list of words with explanations of their meanings, especially in a book for learning a foreign language


『オンライン版ロングマン現代英英辞典』より抜粋

1〜3は「語の集合(総体)」という意味で、ここからも「語彙」の持つ意味合いを読み取ることができるでしょう。1は個人が持っている語、2は諸言語が持つ語、3は特定の話題や場面で使われる語(料理用語のようなもの)の総体のことを説明しています。4からは拡張した意味の説明です。4は芸術などの表現の幅、5はいわゆる「私の辞書に○○は無い」という表現、6は語のリストや辞書のことを表しています。

\次のページで「「語彙」を使いこなそう」を解説!/

「語彙」を使いこなそう

この記事では「語彙」について、意味・使い方・語の成り立ち・類語・英訳の側面から説明しました。やや複雑な概念ですが、基本的な意味である「語の集まり」を多方面から見ることによって理解していきましょう。桜木先生のコメントにもあったように、日常会話の中では特定の単語という意味で「語彙」という語が慣用的に使われることもありますので、基本をしっかり押さえた上で相手や場面にあわせて使っていくと良いでしょう。

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国語言葉の意味

「語彙」の意味や使い方は?例文や類語を日本語学者がわかりやすく解説!

この記事では「語彙」について解説する。

端的に言えば語彙の意味は「語の集まり」ですが、正確な意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

日本語学者である船虫堂を呼んです。一緒に「語彙」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/船虫堂

今回の記事を担当するのは文学博士で日本語学の研究者の船虫堂だ。言葉に対して幅広い興味を持つ船虫堂が、丹念な調査をもとに語句の解説をわかりやすくしていく。

「語彙」の意味や語源・使い方まとめ

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英語やビジネス関連の書籍の謳い文句で「語彙力」アップなどという言葉をよく聞くようになりました。ところが、「語彙力」という語が掲載されている辞書はまだ少なく、そもそも「語彙」に「力」を後続させることに違和感を覚える人もいます。なぜでしょう。この問題には「語彙」が持っている本来の意味が関わっているのです。

この記事では「語彙」の本来の意味である「語の集まり」という点に着目して説明をしていきます。少しつかみづらい言葉ですが正確な意味を理解して使い方をマスターしましょう。

「語彙」の意味は?

「語彙」の意味の概要について説明します。「語彙」とはある個人や集団など、一定の範囲が用いる単語の集合、つまり集まりです。一定の範囲とは個人の言語でも良いですし、地域の方言だったり、業界の専門用語であったり、小説や映画などある作品の中に出てくる全ての単語であってもよく、しばしば「単語の総体・体系」と言い表されます。

その他、もう少し突っ込んだ「語彙」の捉え方もご紹介しましょう。それは語とその語に関する知識も含むという考え方で、例えば「飲む」は液体も個体(薬など)も対象になりますが、液体を「食べる」とは言わないだとか、「足が棒になる」とは「疲れる」足がという意味であるというようなことです。

ご-い ..ヰ【語彙】

〘名〙 (「彙」は集まり、類集したものの意)

① 単語の集まり。一言語の有する単語の総体、ある人の有する単語の総体、ある作品に用いられた単語の総体、ある領域で、またはある観点から類集された単語の総体など。単語を集合として見たもの。

※国文学読本緒論(1890)〈芳賀矢一〉五「其語彙甚だ寡少にして」

② 一定の順序に単語を集録した書物。文部省編輯寮の「語彙」(明治四年)、上田万年・樋口慶千代の「近松語彙」など。

※国語のため(1895)〈上田万年〉今後の国語学「文部省が斯学の名家を集めて大成せんと企てたる語彙」

③ (俗に) ある単語の集まりに属する単語。用語。

※「遊蕩文学」の撲滅(1916)〈赤木桁平〉三「単に語彙句法の彫琢と、感傷咏嘆の濫費とによって捻出せられたものであるから」

出典:『精選版 日本国語大辞典』(小学館)

『精選版 日本国語大辞典』にあるように、「語彙」の第1の意味は「単語の総体・集合」です。2番目に掲げられている意味は、日常生活では使わない意味ですがその語の集合を納めた書物ということで、例にある「近松語彙」というのは1930年に刊行された書物で、江戸時代に活躍した劇作家である近松門左衛門の作品で用いられた語およそ6000語を収録しています。

3番目に掲げられている意味は(俗に)とあるように本来の意味としては認められているとは言い難い用法です。しかし、日常会話の中で特定の語を指して「この語彙は知らない」などという言い方はわりによく耳にします。「特定の語を指す用法」を誤用としている辞書もあり、時代と共に市民権を得るかもしれませんが現状では正しい用法とは言えないという点は押さえておきたいものです。

「語彙」の語源は?

次に「語彙」の語源を確認しておきましょう。熟語なので「語彙」という語を構成する漢字に注目していきます。「語彙」の「彙」とはどのような意味の漢字なのでしょうか。漢和辞典を引いてみましょう。

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