この記事では、「煩悩」について解説する。

「煩悩」の意味はおぼろげにわかっている人が多いでしょう。「108煩悩」って言葉も漫画『ワンピース』で出てくるしな。しかし「煩悩」が「欲望」とまったく同じ意味ではないことは知っていたか?両者の違いは、「煩悩」って言葉を使いこなすためにぜひ知っておきたいところです。

今回はある時期酒に溺れて、煩悩になされるがまま生きていたライターであるぷーやんを呼んです。「煩悩」の本当の意味や、108もある種類の内訳などについて説明してもらおう。

ライター/ぷーやん

webライター歴6年。鍛えられた語彙と文章力は本業でも発揮され、社内ルールの書き換え担当に。学生時代には毎晩ひとり酒に浸り、「煩悩」にまみれて過ごしていた。

「煩悩」を使いこなすために意味をつかもう!

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「煩悩」がなんとなく欲望を示すことや、108個あることなどは知っている方も多いのではないでしょうか。そうしたおぼろげな「煩悩」の輪郭をはっきりさせるため、まずは言葉の意味からみていきましょう。

辞書に書かれている「煩悩」

「煩悩」を辞書で引くと、次のように書かれています。

《(梵)kleśaの訳。苦悩・心痛の意》仏語。身心を悩まし苦しめ、煩わせ、けがす精神作用。貪 (とん) ・瞋 (しん) ・痴 (ち) は根元的な煩悩として三毒という。染。結。垢 (く) 。「―にさいなまれる」「―を解脱する」
出典:デジタル大辞泉(小学館)  「煩悩」

難しい漢字がたくさん出てきましたが、要するに「煩悩」は「心や体に苦痛を与えるであろう精神作用」です。

「煩悩」は欲望とどう違う?

「煩悩」という言葉が「欲望」と同義で使われていることをしばしば見かけますが、実は両者はイコールでは結ばれません。『種類』と『強さ』の2つの点で違いがあります。

まず種類についてですが、欲望は数多くある「煩悩」のうちの一部です。すべてではありません。「煩悩」には「なにかが欲しい」というような欲望のほかに、「優越感」「疑念」「怒り」など様々なものがあります。

次に強さですが、「なにか食べたい」というような、生きるために必要な欲望までを「煩悩」とは言いません。その欲望に執着するようになったときにはじめて、「煩悩」と呼ばれるようになります。食べることで言えば、グルメに固執したりあまりに大量に食べたりすることですね。

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例文を参考に「煩悩」を使いこなそう!

言葉を正確に使えるようになる次のステップとして、「煩悩」を使った例文をご紹介します。

1.体重を落とさないと健康的にまずいことは理解しているのだが、煩悩にまみれて暴飲暴食してしまった。
2.人肌の恋しさから他人とのつながりを求めても、自制心なく煩悩の赴くままに行動していては、いずれ関係が破綻していくものだ。
3.課長はいつも定時で帰宅する。プライベートはいつも子どもにべったりな子煩悩っぷりらしいよ。

1の例文は欲望とそのまま置き換えることができますね。例文2の場合も欲望と置き換えられそうですが、人とのつながりを保つためには欲望の自制だけではなく、自分の感情・考え方・行動を自制して相手を思いやることも、ときには必要でしょう。

3の例で登場する「子煩悩」は固有名詞と言っても差し支えない、やや特殊な使われ方ですね。「子どもが好きすぎてたまらない」という欲望を軸に生活を回すようになると、それは「煩悩」と呼べるのかもしれません。

「煩悩」に類義語と対義語はある?

さて、「煩悩」の基本的な意味を押さえたところで、次に類義語と対義語がないかを確認しておきましょう。

「煩悩」と似た言葉は「邪念」「雑念」

「身心を乱す精神作用」という「煩悩」の本来の意味からすれば、「邪念」や「雑念」が類義語として挙げられます。これらの言葉には「余計な考え」という意味も。「煩悩」があると身心を乱されることによって、なりたい姿から遠ざかりかねません。そのため、「煩悩」もやはり「余計な考え」と言えそうです。

「煩悩」の対義語は「正覚」「菩提」

「正覚」は「正しい悟り」という意味。「菩提」も「悟り」あるいは「正覚の智」です。面白いことに仏教には「煩悩即菩提」という概念もあります。煩悩と菩提は相反するものですが、煩悩があるからこそ菩提が求められ、逆に菩提があるからこそ煩悩を認めることができる、という考えです。

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煩悩にはなにがある?

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108個あるとされる煩悩ですが、具体的にどんなものがあるのかは気になるところ。そこで次に、煩悩の種類をご紹介します。

「108煩悩」の種別を解説!

実は煩悩が108個あるとする根拠にはいくつかの説がありますが、もっともらしいものは2つです。1つ目は、人の感覚と心に由来するもの。これは、人の6つの感覚(六根;眼・耳・鼻・舌・身・意)×3つの感情(好・嫌・平)×2つの様態(浄染;きれい・汚い)×3つの世(前世・今世・来世)で計算されます。

2つ目は、『倶舎論(くしゃろん)』という仏教の教義に定められている煩悩の数。これは「九十八随眠(ずいみん)」と呼ばれる根本的な煩悩と、それらに伴う2次的な煩悩の中で特に重い「十纏(じってん)」からなります。

煩悩の根底を成す「三毒」

仏教で克服するべきとされる、もっとも根本的な3つの煩悩『貪・瞋・癡(とん・じん・ち)』。これらは毒に例えられ、『三毒』と呼ばれます。『貪』は必要以上に求める心、『瞋』は怒りの心、『癡』は真理に対する無知の心のことです。

煩悩を一文字で表す漢字がある⁉

煩悩が108個ある根拠の1つとして、六根による計算をご紹介しました。この計算の要素である『眼・耳・鼻・舌・身・意・好・悪・平・浄・染』に『苦』を加えてひとまとめにして、「ぼんのう」と読ませる漢字があります。これは2011年に一般の方が創作した漢字です。作成者の「ウケそうだから」という煩悩によって生まれたこの漢字は、幾重にもくすねられる形で拡散されたそうで、誤字も多いのだとか。

\次のページで「煩悩を払うためにできること」を解説!/

煩悩を払うためにできること

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ここまでに、煩悩のアウトラインをはっきりさせるために諸々ご紹介してきました。しかし煩悩の意味が何かを求める方には、その克服に悩まれている方も多いはず。そこでこの記事の最後に、煩悩の克服について少し触れようと思います。

『無駄な刺激』で生まれる煩悩

現代は自分の生活範囲に対して情報が過剰にあふれています。そこには、SNSなどの普及で会ったこともない他者と自分の人生を比較したり、将来や社会に対して漠然と不安を感じたりする、『無駄な刺激』も豊富。現代に生きる人にとって、本質的には自分の人生にも生活にも関係のないこれらの『無駄な刺激』が煩悩を生み出してしまっています。

反応しない練習で煩悩を克服!

『無駄な刺激』による煩悩を克服するためには、そうした情報に反応しないことが特効薬。そうは言っても、悲しいニュースや人生が充実している(ように見える)他人のSNSに反応しないというのも、なかなか難しいもの。反応しないようになるためには、自分の心を整理することが大切とされています。それでは心の整理の実践は、どのようにすればいいのでしょうか?

反応しないための心構え

無駄な反応をなくすための心構えを4つ挙げます。1つ目は、一つのことに集中すること。やらなければならないことを、漫然と「あれもこれも」と意識し続けるのは疲れるものです。やることをリスト化して1つずつ着実にこなしていくと、「意外と忙しくないな」と気づくことも。

2つ目は過去のことにとらわれないこと。過去の記憶は今起きていることではありませんので、気にしすぎるのは禁物。

3つ目は苦手な人と対峙しているときなどに、自分の心の状態を意識すること。こうすることで、余計に緊張したり怒りを感じたりしなくなるものです。

4つ目は『無駄な刺激』に捉われそうなときに、体を動かすこと。頭を働かせることを一時停止して体を動かすことは、思考をリセットするのに役立ちます。

煩悩克服の第一歩は自分を見つめなおすこと

この記事では「煩悩」について言葉の意味だけではなく、108の種別や煩悩にまみれないための手法なども加味して解説してきました。

煩悩は古くから仏教の経典に示されているものですが、現代においてもその意義は廃れていません。煩悩はいつの世でも人である限り、人生の課題としてつきまとうもののようです。『無駄な刺激』によって生み出される煩悩の克服は、私たちが自分らしい人生を歩むための試みにほかなりません。そしてそのための第一歩は、自分はなにが好きか・なにを大切にしたいのかを見つめなおし、勇気をもって余分なものを切り捨てることです。

この記事が煩悩の意味を知るためにとどまらず、あなたのなにか新しい一歩に寄与することを願います。

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国語言葉の意味

108の「煩悩」はただの欲望じゃない?本当の意味・種類・使い方を煩悩まみれのwebライターがわかりやすく解説!

この記事では、「煩悩」について解説する。

「煩悩」の意味はおぼろげにわかっている人が多いでしょう。「108煩悩」って言葉も漫画『ワンピース』で出てくるしな。しかし「煩悩」が「欲望」とまったく同じ意味ではないことは知っていたか?両者の違いは、「煩悩」って言葉を使いこなすためにぜひ知っておきたいところです。

今回はある時期酒に溺れて、煩悩になされるがまま生きていたライターであるぷーやんを呼んです。「煩悩」の本当の意味や、108もある種類の内訳などについて説明してもらおう。

ライター/ぷーやん

webライター歴6年。鍛えられた語彙と文章力は本業でも発揮され、社内ルールの書き換え担当に。学生時代には毎晩ひとり酒に浸り、「煩悩」にまみれて過ごしていた。

「煩悩」を使いこなすために意味をつかもう!

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「煩悩」がなんとなく欲望を示すことや、108個あることなどは知っている方も多いのではないでしょうか。そうしたおぼろげな「煩悩」の輪郭をはっきりさせるため、まずは言葉の意味からみていきましょう。

辞書に書かれている「煩悩」

「煩悩」を辞書で引くと、次のように書かれています。

《(梵)kleśaの訳。苦悩・心痛の意》仏語。身心を悩まし苦しめ、煩わせ、けがす精神作用。貪 (とん) ・瞋 (しん) ・痴 (ち) は根元的な煩悩として三毒という。染。結。垢 (く) 。「―にさいなまれる」「―を解脱する」
出典:デジタル大辞泉(小学館)  「煩悩」

難しい漢字がたくさん出てきましたが、要するに「煩悩」は「心や体に苦痛を与えるであろう精神作用」です。

「煩悩」は欲望とどう違う?

「煩悩」という言葉が「欲望」と同義で使われていることをしばしば見かけますが、実は両者はイコールでは結ばれません。『種類』と『強さ』の2つの点で違いがあります。

まず種類についてですが、欲望は数多くある「煩悩」のうちの一部です。すべてではありません。「煩悩」には「なにかが欲しい」というような欲望のほかに、「優越感」「疑念」「怒り」など様々なものがあります。

次に強さですが、「なにか食べたい」というような、生きるために必要な欲望までを「煩悩」とは言いません。その欲望に執着するようになったときにはじめて、「煩悩」と呼ばれるようになります。食べることで言えば、グルメに固執したりあまりに大量に食べたりすることですね。

\次のページで「例文を参考に「煩悩」を使いこなそう!」を解説!/

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