化学有機化合物理科量子力学・原子物理学

5分でわかる「芳香族性」ベンゼン環の安定性に潜む法則とは?京大卒の研究者が分かりやすく解説!

2.ベンゼンが示す芳香族性

前の章ではエチレンを例に、隣り合うp軌道同士が重なり合ってπ軌道という新しい軌道が生まれることを確認しました。ベンゼンでもエチレンと同じようにp軌道が重なり合ってπ軌道が生まれ、このπ軌道が芳香族性の源になっています。一方、ベンゼンとエチレンで異なる点はp軌道を持つ炭素の数で、エチレンは2つ、ベンゼンは6つです。

このように3つ以上の原子でπ軌道が形成されると軌道は広がっていき、電子の非局在化が起こります。この章ではベンゼンのπ軌道の形成メカニズムを学び、そこから芳香族性について学んでいきましょう。

2-1.ベンゼンのπ軌道と電子の安定性

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ベンゼンには6つの炭素があり、それぞれの炭素はエチレンと同様に3つのsp2混成軌道と1つのp軌道を持っています。そして6つのp軌道がお互いに重なるとπ軌道も6つの炭素に広がる、すなわちπ軌道に存在する電子は6つの炭素全体に広がって存在するのです。このような電子の広がりを電子の非局在化と呼びます。

ではなぜベンゼンは広がったπ軌道を形成するのでしょうか。これを理解するためには電子のエネルギーを考えることが重要です。2つの原子の軌道が重なると分子は2つの軌道を作ります。一つは元々の軌道よりもエネルギーが低い、すなわち安定な軌道で、もう一つは元々の軌道よりもエネルギーが高く不安定な軌道です。そして電子は低いエネルギーの軌道から順番に埋まっていきます。ベンゼンのπ軌道の数は6つで3つが安定、3つは不安定な軌道ですがπ電子6つは元々の炭素のp軌道よりも安定な軌道に入ることができるため、ベンゼンは元の炭素よりも安定になるのです。

2-2.芳香族性の定義と当てはまる分子

ドイツの化学者であるヒュッケルはベンゼンなどの芳香族の特徴をまとめて芳香族性と名付けました。芳香族性とは以下の3つの条件を満たす分子であると定義されています。

1.π電子系に含まれる電子の数が4n+2(n=0,1,2,3・・・)個である

2.環状の化合物は平面構造を持っている

3.環の原子はsp2混成軌道を持っている

早速ベンゼンでこの芳香族性が当てはまるか確認してみましょう。ベンゼンはπ電子の数が6つであり、4×1+2=6となるため1の条件を満たします。そしてベンゼンの炭素はいずれもsp2混成軌道を作っており、その構造は平面である、従ってベンゼンは芳香族性化合物です。

この芳香族性は炭素以外の原子が環を構成する原子に含まれていても成立します。例えばベンゼンの炭素一つが窒素に変化したピリジン、こちらもπ電子の数は6個、sp2混成軌道から作られる平面分子なので条件を満たすのです。ちなみに芳香族性とは逆に安定して存在することができない分子の性質を表現した反芳香族性という用語もあります。これは条件1の代わりに「π電子の数が4nとなる」という条件を満たす分子であり、反芳香族性の分子は名前の通り芳香族性を持たない、それどころかほとんど安定に存在することができません。

2-3.芳香族性を示す分子の応用例

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芳香族性を満たす分子のなかには太陽電池などに応用できる材料もあります。例えばベンゼン環が5つつながったペンタセンという化合物は太陽電池の材料として20年以上前から研究されてきました。ペンタセンは可視光と呼ばれる人間の目に見える波長の光を吸収しますが、このような可視光は太陽光に含まれているため太陽電池として使うことができます。ペンタセンを初めとする有機太陽電池は最近でも熱心に研究されている分野の一つです。

ちなみにペンタセンが可視光を吸収する背景には先に説明した電子の非局在化という現象が関係しており、電子がより広い範囲に非局在化すると分子が吸収する光の波長は長くなります。ペンタセンはベンゼンに比べて非局在化できる距離が約5倍になるため、より長い波長の光、すなわち可視光を吸収できるようになっているわけですね。

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