
3分で簡単「芳香族性」ベンゼン環の安定性に潜む法則とは?京大卒の研究者が分かりやすくわかりやすく解説!
芳香族性とは分子の結合に関係した性質です。今日は単純な分子の結合について学んだ後にキーワードの一つであるπ電子について学び、最後に芳香族性を勉強する。化学に詳しいライター珈琲マニアと一緒に解説していきます。
ライター/珈琲マニア
京都大学で化学を学び、現在はメーカーで研究職として勤務。企業で芳香族系の化合物を専門に扱っていたこともあり、分子の性質についても詳しい。
1.分子の電子軌道と結合

image by iStockphoto
芳香族性とはベンゼンに代表される芳香族化合物が持っている大きな特徴の一つであり、キーワードはπ電子と呼ばれる電子です。芳香族化合物は他の分子とは異なる安定性や反応性を持っており、エチレンのような単純な二重結合を持つ分子とは異なる性質を示します。ではこのような芳香族特有の性質はどのような理論のもとで説明されるのでしょうか。
この章でははじめにベンゼンの歴史や特徴について簡単に紹介したあと、芳香族性を理解するためにまずエチレンというシンプルな分子で単結合や二重結合の源について見ていきましょう。
1-1.ベンゼンの化学構造
不明 – https://www.gettyimages.ie/detail/news-photo/german-organic-chemist-friedrich-august-kekule-von-news-photo/72242781, パブリック・ドメイン, リンクによる
ベンゼンという化合物は炭素が正六角形状につながった化合物で、亀の甲とも言われる分子です。名前は知らなくても以下の構造を見たことがある人はいるのではないでしょうか。
このベンゼンという化合物の構造は謎に包まれていましたが、ドイツのケクレという化学者がベンゼンの構造を明らかにしました。ちなみにケクレ本人が残した講演の記録によると、ケクレは教科書を書いている途中でうたた寝してしまい、そのときに見た夢をもとにベンゼンの構造を思いついたそうです。その夢では3本の蛇がお互いのしっぽに噛み付いて、蛇が正六角形を作っていたとか。本当に夢から思いついたのかはわかりませんが、夢からひらめきが生まれるというのは面白いエピソードですね。
さて先ほど紹介したベンゼンの化学構造を改めて見てみると正六角形の真ん中に点線で円が描かれていますね。この点線はどのような意味なのでしょうか。実はこのような書き方をするのはベンゼンの結合は通常の単結合、二重結合と異なる性質を持っているためです。この結合が「芳香族性」に関係しています。
1-2.シュレーディンガー方程式で分かる電子軌道

image by iStockphoto
ベンゼンの芳香族性を考えるためには最初に通常の共有結合を理解しなければなりません。そもそもなぜ原子同士で結合を作ることができるのでしょうか。原子同士が結合を形成して分子になるためには原子同士の電子の受け渡しが必要です。ここからは電子の受け渡しについて炭素2つと水素4つから作られているエチレン分子を題材にして量子化学的に考えていきます。
さて結合の形成や電子の受け渡しを量子化学的に考えるにはシュレーディンガー方程式と呼ばれる式を解かなければなりません。今回はシュレーディンガー方程式の数学的な話を割愛して結論だけお伝えしますが、この式を解くことで電子のエネルギー、空間分布(これらをまとめて電子軌道と呼びます)がわかります。
1-3.エチレンの電子軌道とπ電子
分子の軌道、結合とはシュレーディンガー方程式を解くことで得られる各原子の電子軌道の足し合わせのことです。例えばエチレンでは炭素が持つ3つの電子軌道と水素が1つ持つ電子軌道が重なり合ってsp2混成軌道と呼ばれる軌道ができます。
ところで結合に関与する炭素の電子軌道は全部で4つであり、sp2混成軌道では全ての軌道を使い切ってはいません。では2つの炭素それぞれに1つ余った電子軌道はどのように結合に関与するのでしょうか。余った電子軌道はそれぞれの炭素を中心にsp2混成軌道の面に対して垂直に存在しており、これをp軌道と呼んでいます。そして隣り合う原子にp軌道が存在するとp軌道同士の重なりによる新たにπ軌道と呼ばれる結合が形成され、実はこれがエチレンの二重結合のうちの一つの結合になるのです。
\次のページで「2.ベンゼンが示す芳香族性」を解説!/