身の回りにある電化製品にはコンデンサと呼ばれる電気を蓄えたり放電できる部品が使われている。みんなも高校物理で名前は聞いたことがあるかもしれませんね。ではコンデンサが電気を蓄えられる理由を知っているでしょうか。
今回学ぶ「分極」は分子に電子の偏りが生じることで起こる現象で、コンデンサの動作原理にも関連しているんです。初めに一つの分子に着目して、それからコンデンサのように外から電圧を加えたときの分極現象を学んでいこう。化学に詳しいライター珈琲マニアと一緒に解説していきます。

ライター/珈琲マニア

京都大学で化学を学び、化学メーカーの研究員として勤務。大学時代に物理化学を専攻しており、分子に関する知識が豊富。

1.分子の分極

image by iStockphoto

原子は原子核と電子から構成されており、それぞれの原子が持っている電子を受け渡すことで分子の結合が作られます。ところで学校の授業で「電流が流れるとは電子が流れることである」と習ったことを覚えているでしょうか。電子はマイナスの電荷を持っているため、電子が動くことによって電気に関係する様々な現象が起こります。

今回取り上げる「分極」という現象も電子が電気的にマイナスの性質を持っているため起こる現象です。分子を構成する原子の組み合わせによっては分子内で電子の偏りが生じ、電子が過剰な部分はマイナス、電子が不足している部分はプラスの電荷を持つようになります。このように「分子内で正負の極に分かれる」現象が分極現象です。この章では1つの分子の中で分極現象を考えていきましょう。

1-1.原子や分子に存在する電子

image by iStockphoto

まずは分子の中で電子がどのように存在しているか学んでいきましょう。みなさんは高校の化学で「原子は原子核と電子から構成され、粒状の電子が原子核を中心に回転運動をする」というモデルを学んだかもしれません。しかし、このモデルは量子化学に基づく正確なモデルではありません。

量子化学の進歩によって「電子のようなミクロな物体は位置と運動量を同時に特定することはできない」ということがわかりました。つまりどれだけ高性能な装置で測定しても電子の位置と動き方を厳密に調べることができないのです。代わりに量子化学では波動関数と呼ばれる関数を用いて電子の存在を確率で表現する、すなわち「この位置に電子が存在する確率は〇〇%」という形式で表します。

1-2.異なる原子が結合したときの分極現象

image by iStockphoto

量子化学では原子の周りに存在する電子を確率で表現すると説明しました。では分子に存在する電子は各原子の周りにランダムに存在しているのでしょうか。実は原子によって電子を引きつける力は異なっており、アメリカの化学者ポーリングはこの力を電気陰性度という数値で表しました。電気陰性度が大きい原子は塩素やフッ素のようなハロゲンや酸素などの原子、電気陰性度が小さい原子はナトリウムなどのアルカリ金属、中間の値を持つ原子は水素や炭素です。

ここで水分子を例にして電気陰性度から電子の偏りを考えてみましょう。水分子は1つの酸素と2つの水素から作られており電気陰性度が大きい原子は酸素です。そのため酸素は水素から電子を引っ張り、電子の分布が変化することであたかも酸素はマイナスの電荷を、水素はプラスの電荷を持つようになります。

分極とはこのように分子の中でプラスとマイナスの部分が生じる現象のことです。そして分極の大きさは双極子モーメントというベクトル、つまり向きと大きさを持った量で定義されます。

1-3.瞬間的に起こる分極現象

先ほどは電気陰性度が異なる原子から作られた分子について分極現象を取り上げました。では電気陰性度が同程度の原子から作られる分子、すなわち無極性分子では分極現象は起こらないのでしょうか。実はこのような分子でもある瞬間を切り取って電子の分布を見てみると偏りが見られます。

このように一瞬でも分子の中でプラスとマイナスの部分が存在すると、分子間でプラスとマイナスが引き合う力、すなわち引力が生まれるのです。そしてこの分子間に働く引力をロンドンの分散力と呼び、この力はファンデルワールス力の源になっています。

\次のページで「2.電場を加えたときの分極現象」を解説!/

2.電場を加えたときの分極現象

image by iStockphoto

前の章では原子によって電子を引っ張る力、すなわち電気陰性度が異なること、ならびに電子の偏りが生まれると分子内でプラスとマイナスの電荷が生まれることを学びました。また電気陰性度が同程度の分子でもある瞬間を切り取ると電子の偏りが生まれることも学びました。ではこのような電気的にプラス、マイナスを持った分子に外から電圧を加えるとどのような現象が起こるのでしょうか。

電圧を加えるということは、ある方向を向いた電場を分子が感じるということです。電子はマイナスの電荷を持っているので電場によって分子に含まれる電子が動きます。この章では無極性分子、極性分子に電場を加えたときの現象を見た後に、実生活に関連する分極現象の例として電気回路でよく使われるコンデンサについて学んでいきましょう。

2-1.電場が加えられた分子の挙動

前の章では分子一つ、もしくは隣り合う数個の分子について考えてきましたが、この章ではそのような分子が集まった場合を考えます。物質に外から電圧を加えたときに物質を構成する一つ一つの分子がどうなるか考えてみましょう。電圧を加えると分子は電場を感じるため、一つ一つの分子で電子が電場とは逆の方向に動きます。

先ほど分子の中で電子が偏ると分子の中にプラスとマイナスが生まれるという話をしましたね。電圧を加えることでこのような電子の偏りが生まれ、無極性分子でも常に電子が偏った状態になるのです。もちろんこの現象は分子内でもともと分極が起こっている極性分子でも生じます。

つまり電場が加わる環境ではどんな分子でも分極するということですね。なお分極の大きさは分子によって異なっており、分極の起こりやすさに関連する物性値として分極率や誘電率という値が使われています。また電場によって生じる分極と前の章で見た分子の分極は同じ「分極」という用語を使っていても状況が異なるので注意が必要です。電場を加えて発生する分極を「誘電分極」と呼ぶこともあります。

2-2.分極現象を利用しているコンデンサ

image by iStockphoto

最後に分極現象の応用例としてコンデンサについて考えていきましょう。コンデンサとは誘電体と呼ばれる電気を流さない物質を電極で挟んだ電子部品であり、一時的ではありますが電池のように電気を蓄えることができます。

先ほど外から電圧を加えると物質を構成する一つ一つの分子が分極するというお話をしました。コンデンサにおいて誘電体に電圧を加えてみると誘電体の片方がプラス、もう片方がマイナスになります。その結果、電極の表面には誘電体とは逆の電荷が蓄積されていき、電気を蓄えたり放電することができる、これがコンデンサの動作原理です。

コンデンサは一般的にセラミックスと呼ばれる物質で作られており、用途に応じて材料が異なります。代表的なものは酸化アルミニウムやチタン酸バリウムなどの無機化合物の結晶です。このような誘電体は様々な電気回路に組み込まれているため、今もなお日本、そして世界中のメーカーがより高品質な製品の開発に注力しています。

電子部品にも量子化学の知見が使われている

現代のようなテクノロジーが大きく進歩した時代においては数え切れないほど多くの電子部品が用いられており、私たちは全ての部品の詳細を理解することはもはや不可能です。しかし、このような電子部品に使われている技術を紐解くと、分極のような分子の性質が使われていることがわかります。

分極という現象からコンデンサの仕組みを学んだように、分子のようなミクロの世界の現象を学ぶことで世の中の製品の動作原理を知ることが可能です。だからこそ分子の動きのような基礎的な部分から学ぶことは重要だと言えますね。

" /> 5分で分かる「分極」分子内でプラスとマイナスの電荷がなぜ生まれる?京大卒の研究者がわかりやすく解説! – Study-Z
化学原子・元素有機化合物無機物質理科量子力学・原子物理学

5分で分かる「分極」分子内でプラスとマイナスの電荷がなぜ生まれる?京大卒の研究者がわかりやすく解説!

身の回りにある電化製品にはコンデンサと呼ばれる電気を蓄えたり放電できる部品が使われている。みんなも高校物理で名前は聞いたことがあるかもしれませんね。ではコンデンサが電気を蓄えられる理由を知っているでしょうか。
今回学ぶ「分極」は分子に電子の偏りが生じることで起こる現象で、コンデンサの動作原理にも関連しているんです。初めに一つの分子に着目して、それからコンデンサのように外から電圧を加えたときの分極現象を学んでいこう。化学に詳しいライター珈琲マニアと一緒に解説していきます。

ライター/珈琲マニア

京都大学で化学を学び、化学メーカーの研究員として勤務。大学時代に物理化学を専攻しており、分子に関する知識が豊富。

1.分子の分極

image by iStockphoto

原子は原子核と電子から構成されており、それぞれの原子が持っている電子を受け渡すことで分子の結合が作られます。ところで学校の授業で「電流が流れるとは電子が流れることである」と習ったことを覚えているでしょうか。電子はマイナスの電荷を持っているため、電子が動くことによって電気に関係する様々な現象が起こります。

今回取り上げる「分極」という現象も電子が電気的にマイナスの性質を持っているため起こる現象です。分子を構成する原子の組み合わせによっては分子内で電子の偏りが生じ、電子が過剰な部分はマイナス、電子が不足している部分はプラスの電荷を持つようになります。このように「分子内で正負の極に分かれる」現象が分極現象です。この章では1つの分子の中で分極現象を考えていきましょう。

1-1.原子や分子に存在する電子

image by iStockphoto

まずは分子の中で電子がどのように存在しているか学んでいきましょう。みなさんは高校の化学で「原子は原子核と電子から構成され、粒状の電子が原子核を中心に回転運動をする」というモデルを学んだかもしれません。しかし、このモデルは量子化学に基づく正確なモデルではありません。

量子化学の進歩によって「電子のようなミクロな物体は位置と運動量を同時に特定することはできない」ということがわかりました。つまりどれだけ高性能な装置で測定しても電子の位置と動き方を厳密に調べることができないのです。代わりに量子化学では波動関数と呼ばれる関数を用いて電子の存在を確率で表現する、すなわち「この位置に電子が存在する確率は〇〇%」という形式で表します。

1-2.異なる原子が結合したときの分極現象

image by iStockphoto

量子化学では原子の周りに存在する電子を確率で表現すると説明しました。では分子に存在する電子は各原子の周りにランダムに存在しているのでしょうか。実は原子によって電子を引きつける力は異なっており、アメリカの化学者ポーリングはこの力を電気陰性度という数値で表しました。電気陰性度が大きい原子は塩素やフッ素のようなハロゲンや酸素などの原子、電気陰性度が小さい原子はナトリウムなどのアルカリ金属、中間の値を持つ原子は水素や炭素です。

ここで水分子を例にして電気陰性度から電子の偏りを考えてみましょう。水分子は1つの酸素と2つの水素から作られており電気陰性度が大きい原子は酸素です。そのため酸素は水素から電子を引っ張り、電子の分布が変化することであたかも酸素はマイナスの電荷を、水素はプラスの電荷を持つようになります。

分極とはこのように分子の中でプラスとマイナスの部分が生じる現象のことです。そして分極の大きさは双極子モーメントというベクトル、つまり向きと大きさを持った量で定義されます。

1-3.瞬間的に起こる分極現象

先ほどは電気陰性度が異なる原子から作られた分子について分極現象を取り上げました。では電気陰性度が同程度の原子から作られる分子、すなわち無極性分子では分極現象は起こらないのでしょうか。実はこのような分子でもある瞬間を切り取って電子の分布を見てみると偏りが見られます。

このように一瞬でも分子の中でプラスとマイナスの部分が存在すると、分子間でプラスとマイナスが引き合う力、すなわち引力が生まれるのです。そしてこの分子間に働く引力をロンドンの分散力と呼び、この力はファンデルワールス力の源になっています。

\次のページで「2.電場を加えたときの分極現象」を解説!/

次のページを読む
1 2
Share: