今回学ぶ「分極」は分子に電子の偏りが生じることで起こる現象で、コンデンサの動作原理にも関連しているんです。初めに一つの分子に着目して、それからコンデンサのように外から電圧を加えたときの分極現象を学んでいこう。化学に詳しいライター珈琲マニアと一緒に解説していきます。
ライター/珈琲マニア
京都大学で化学を学び、化学メーカーの研究員として勤務。大学時代に物理化学を専攻しており、分子に関する知識が豊富。
1.分子の分極
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原子は原子核と電子から構成されており、それぞれの原子が持っている電子を受け渡すことで分子の結合が作られます。ところで学校の授業で「電流が流れるとは電子が流れることである」と習ったことを覚えているでしょうか。電子はマイナスの電荷を持っているため、電子が動くことによって電気に関係する様々な現象が起こります。
今回取り上げる「分極」という現象も電子が電気的にマイナスの性質を持っているため起こる現象です。分子を構成する原子の組み合わせによっては分子内で電子の偏りが生じ、電子が過剰な部分はマイナス、電子が不足している部分はプラスの電荷を持つようになります。このように「分子内で正負の極に分かれる」現象が分極現象です。この章では1つの分子の中で分極現象を考えていきましょう。
1-1.原子や分子に存在する電子
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まずは分子の中で電子がどのように存在しているか学んでいきましょう。みなさんは高校の化学で「原子は原子核と電子から構成され、粒状の電子が原子核を中心に回転運動をする」というモデルを学んだかもしれません。しかし、このモデルは量子化学に基づく正確なモデルではありません。
量子化学の進歩によって「電子のようなミクロな物体は位置と運動量を同時に特定することはできない」ということがわかりました。つまりどれだけ高性能な装置で測定しても電子の位置と動き方を厳密に調べることができないのです。代わりに量子化学では波動関数と呼ばれる関数を用いて電子の存在を確率で表現する、すなわち「この位置に電子が存在する確率は〇〇%」という形式で表します。
1-2.異なる原子が結合したときの分極現象
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量子化学では原子の周りに存在する電子を確率で表現すると説明しました。では分子に存在する電子は各原子の周りにランダムに存在しているのでしょうか。実は原子によって電子を引きつける力は異なっており、アメリカの化学者ポーリングはこの力を電気陰性度という数値で表しました。電気陰性度が大きい原子は塩素やフッ素のようなハロゲンや酸素などの原子、電気陰性度が小さい原子はナトリウムなどのアルカリ金属、中間の値を持つ原子は水素や炭素です。
ここで水分子を例にして電気陰性度から電子の偏りを考えてみましょう。水分子は1つの酸素と2つの水素から作られており電気陰性度が大きい原子は酸素です。そのため酸素は水素から電子を引っ張り、電子の分布が変化することであたかも酸素はマイナスの電荷を、水素はプラスの電荷を持つようになります。
分極とはこのように分子の中でプラスとマイナスの部分が生じる現象のことです。そして分極の大きさは双極子モーメントというベクトル、つまり向きと大きさを持った量で定義されます。
1-3.瞬間的に起こる分極現象
先ほどは電気陰性度が異なる原子から作られた分子について分極現象を取り上げました。では電気陰性度が同程度の原子から作られる分子、すなわち無極性分子では分極現象は起こらないのでしょうか。実はこのような分子でもある瞬間を切り取って電子の分布を見てみると偏りが見られます。
このように一瞬でも分子の中でプラスとマイナスの部分が存在すると、分子間でプラスとマイナスが引き合う力、すなわち引力が生まれるのです。そしてこの分子間に働く引力をロンドンの分散力と呼び、この力はファンデルワールス力の源になっています。
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