今日は「共沸」という現象について学んでいきます。共沸は沸点が異なる2つの液体が沸騰するとき、液体の組成を変えずに沸騰が起こるという現象です。

身近な物質ではお酒のような水とエタノールを混ぜた溶液でも共沸という現象は起こる。共沸という現象が起こるため、お酒は蒸留を何回繰り返してもアルコール度数を96%以上にすることはできなのです。今回はまず沸騰という現象について学んだ後に水とエタノールの混合液を中心に共沸という現象を学んでいこう。解説するのは京都大学卒業のメーカー研究員、珈琲マニアです。

ライター/珈琲マニア

京都大学で化学を学び、今はメーカーの研究員として勤務。大学時代に物理化学を学んでおり共沸などの物理現象に関しても詳しい。

1.化学で考える沸騰現象

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水とエチルアルコール(エタノール)が混ざったお酒のように、2つの化合物が混ざった溶液を沸騰させると蒸発した気体の組成はどうなるでしょうか。直感的には沸点が低い化合物が多くなりそうですよね。通常はその直感通りの挙動を示しますが、2つの化合物をある組成で混ぜると沸騰した気体が溶液の組成と同じになります。これが共沸という現象です。

例えば水とエチルアルコール(エタノール)の混合溶液の共沸点はエタノールが96%、水が4%の割合。この組成になると水とエタノールは組成を保ったまま沸騰、気化していきます。ちなみにこの共沸点に到達するまで蒸留を繰り返したアルコール度数96%のお酒の一種がスピリタスと呼ばれるお酒です。

では共沸点ではなぜ沸点が異なる2つの化合物が同じ組成で気化するのでしょうか。その理由を知るためには「ものが沸騰する」とはどういうことか知ったほうが良いでしょう。そこでまずは一種類の液体で沸騰という現象を考えてみます。

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1-1.沸騰とは分子の気化現象の一つ

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皆さんは「ものが沸騰する」という言葉を聞いて何を思い浮かべるでしょうか。一般的には沸騰といえば水のことを指すかと思います。水は100℃まで加熱するとボコボコと泡を立てて沸騰しますよね。この「沸騰」という現象は化学では「気化」に関連する現象の一つとみなされます。

気化するということは「気体に変化する」ということです。物質には固体、液体、気体の3つの状態があり、それぞれの状態をミクロの視点で見ると分子の動き方が全く異なります。固体は分子がきっちりと詰め込まれて自由に動くのが不可能な状態、液体は分子同士が緩やかにつながっている状態、気体は分子同士の繋がりが解消して一個一個の分子で動いている状態です。

1-2.沸点は大気圧と蒸気圧が等しくなる温度

水を例にして沸騰という現象をもう少し深く掘り下げてみましょう。実は20℃程度の温度でもある程度の量の水は気化しています。例えば濡れたタオルを部屋に置いておくと徐々に乾いていきますが、これはタオルの水が徐々に気化しているためです。このような気体に変化した物質が持つ圧力を蒸気圧と呼びます。

この蒸気圧は温度が上がるとともに大きくなり、蒸気圧と大気圧が同じになるのが沸騰する温度、すなわち沸点です。大気圧に押されていた液体が熱によって解放されるイメージですね。沸騰を化学の用語で書き直すと「液相から気相へ蒸発する成分の蒸気圧(圧力)が大気圧と等しくなる温度」となります。

ちなみに沸騰する温度は大気圧によって変わるため、高い山のような気圧が低い場所では水の沸点は変わり、富士山の頂上では水の沸点は90℃弱です。高い山では気圧が下がる、すなわち水を押す力が弱くなるため低い蒸気圧でも沸騰することができるというわけですね。

2.混合溶液の沸騰現象

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では次に今回のテーマである共沸という現象について説明します。沸騰とは液体の蒸気圧が大気圧と等しくなる温度であることを前の章で説明しましたが、では沸点が異なる2つの化合物を混ぜて加熱すると溶液はどのように沸騰するのでしょうか。

ポイントは2つの化合物を混ぜる比率です。この比率がある値になると2つの化合物が一緒に沸騰する共沸という現象が起こります。まずは2つの化合物が混ざったときの蒸気圧を考えてみましょう。

\次のページで「2-1.混合溶液の蒸気圧」を解説!/

2-1.混合溶液の蒸気圧

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2つの化合物を混ぜた場合、混ぜた溶液の蒸気圧はそれぞれの化合物の蒸気圧に従って決まります。それぞれの化合物の蒸気圧の足し合わせになるというイメージですね。そして混ぜた溶液の蒸気圧は2つの化合物の割合によって決まり、この蒸気圧と2つの化合物の割合を表したグラフは蒸気圧曲線と呼ばれます。

 

2-2.混合溶液の沸騰と蒸留操作

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では次に縦軸を温度、横軸を2つの化合物の比率にして考えてみましょう。化合物Aの温度をTA℃、化合物Bの沸点をTB℃とします。このとき、AとBの比率を変えたときの沸点は比率によって変化しており、それをグラフにしたのが以下の図です。

このグラフでは2つの境界線があり、線の下側が液体、上側が気体、そして2つの境界線の間は液体と気体が混ざった状態になっています。

ところでみなさんは蒸留という言葉を聞いたことがありますか。ウィスキーなどのお酒を飲む人は聞いたことがあるかもしれませんね。蒸留とは液体を沸騰させて気体を別の容器に回収して冷やして液体に戻すことで沸点が異なる成分を分離する操作のことです。ウィスキーの場合は蒸留装置を使ってエタノールや香りの成分の純度を上げているわけですね。

この蒸留という操作を沸点曲線で表してみましょう。2つの溶液の混合物を加熱すると、ある温度で境界線を超えて沸騰が始まることは上の図で説明しました。この沸騰したときの気体の組成はもとの液体の組成とは異なっており、沸騰する温度と気体の境界線が交差する点が気体の組成になります。そしてこの気体を液体に戻した後にもう一度気化させるとまた組成が変わる、つまり沸騰→液化→もう一度沸騰、という操作を繰り返すと沸点が低い成分を濃縮することができるのです。

2-3.共沸が起こる混合溶液

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先ほどの蒸留の説明では境界線は片方に向けて単調に下がっていきました。しかし物質によってはこの境界線が山や谷、つまり極大点や極小点を持つことがあり、例えば水とエタノールの混合溶液の液体、気体の境界線も極小点を持っています。

このような混合溶液で蒸留をすると溶液はいずれ極小点に到達して、極小点に到達した後は何回蒸留しても組成が変わることがありません。この組成が変わらない点を共沸点と呼びます。共沸点は化合物によって異なっており、例えば胃酸に含まれている塩化水素と水の共沸点は塩化水素が約20%の点です。

ちなみに最初にお話したスピリタスというアルコール度数96%のお酒は水とエタノールの共沸点に到達するまで蒸留を繰り返して作られています。その蒸留回数はなんと70回を超えるとのこと。ちなみに私も一度だけ試しにスピリタスを飲みましたがエタノールが口の中で一気に広がり、一口も喉を通りませんでした。

共沸とは身近な化合物でも見られる不思議な現象

沸点が異なる溶液を混ぜると沸点が低い液体が先に気化する、それが直感的なイメージかもしれません。しかし共沸点ではその直感とは異なり、沸点が異なる溶液が組成を変えずに気化していきます。

共沸はエタノールや水などの身近な物質でも起こる現象です。身近な物質でも直感とは異なる現象が起こること、そしてそのような不思議な現象も法則や理論を用いることで合理的に説明できること、これらが化学の面白さの一つなのかもしれません。

イラスト提供元:いらすとや

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化学有機化合物物質の状態・構成・変化理科生活と物質

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今日は「共沸」という現象について学んでいきます。共沸は沸点が異なる2つの液体が沸騰するとき、液体の組成を変えずに沸騰が起こるという現象です。

身近な物質ではお酒のような水とエタノールを混ぜた溶液でも共沸という現象は起こる。共沸という現象が起こるため、お酒は蒸留を何回繰り返してもアルコール度数を96%以上にすることはできなのです。今回はまず沸騰という現象について学んだ後に水とエタノールの混合液を中心に共沸という現象を学んでいこう。解説するのは京都大学卒業のメーカー研究員、珈琲マニアです。

ライター/珈琲マニア

京都大学で化学を学び、今はメーカーの研究員として勤務。大学時代に物理化学を学んでおり共沸などの物理現象に関しても詳しい。

1.化学で考える沸騰現象

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水とエチルアルコール(エタノール)が混ざったお酒のように、2つの化合物が混ざった溶液を沸騰させると蒸発した気体の組成はどうなるでしょうか。直感的には沸点が低い化合物が多くなりそうですよね。通常はその直感通りの挙動を示しますが、2つの化合物をある組成で混ぜると沸騰した気体が溶液の組成と同じになります。これが共沸という現象です。

例えば水とエチルアルコール(エタノール)の混合溶液の共沸点はエタノールが96%、水が4%の割合。この組成になると水とエタノールは組成を保ったまま沸騰、気化していきます。ちなみにこの共沸点に到達するまで蒸留を繰り返したアルコール度数96%のお酒の一種がスピリタスと呼ばれるお酒です。

では共沸点ではなぜ沸点が異なる2つの化合物が同じ組成で気化するのでしょうか。その理由を知るためには「ものが沸騰する」とはどういうことか知ったほうが良いでしょう。そこでまずは一種類の液体で沸騰という現象を考えてみます。

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