
3分で簡単「共沸」なぜ2つの液体が沸騰しても組成が変わらない?京大出身研究員が分かりやすくわかりやすく解説!

身近な物質ではお酒のような水とエタノールを混ぜた溶液でも共沸という現象は起こる。共沸という現象が起こるため、お酒は蒸留を何回繰り返してもアルコール度数を96%以上にすることはできないんだ。今回はまず沸騰という現象について学んだ後に水とエタノールの混合液を中心に共沸という現象を学んでいこう。解説するのは京都大学卒業のメーカー研究員、珈琲マニアだ。

解説/桜木建二
「ドラゴン桜」主人公の桜木建二。物語内では落ちこぼれ高校・龍山高校を進学校に立て直した手腕を持つ。学生から社会人まで幅広く、学びのナビゲート役を務める。
ライター/珈琲マニア
京都大学で化学を学び、今はメーカーの研究員として勤務。大学時代に物理化学を学んでおり共沸などの物理現象に関しても詳しい。
1.化学で考える沸騰現象

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水とエチルアルコール(エタノール)が混ざったお酒のように、2つの化合物が混ざった溶液を沸騰させると蒸発した気体の組成はどうなるでしょうか。直感的には沸点が低い化合物が多くなりそうですよね。通常はその直感通りの挙動を示しますが、2つの化合物をある組成で混ぜると沸騰した気体が溶液の組成と同じになります。これが共沸という現象です。
例えば水とエチルアルコール(エタノール)の混合溶液の共沸点はエタノールが96%、水が4%の割合。この組成になると水とエタノールは組成を保ったまま沸騰、気化していきます。ちなみにこの共沸点に到達するまで蒸留を繰り返したアルコール度数96%のお酒の一種がスピリタスと呼ばれるお酒です。
では共沸点ではなぜ沸点が異なる2つの化合物が同じ組成で気化するのでしょうか。その理由を知るためには「ものが沸騰する」とはどういうことか知ったほうが良いでしょう。そこでまずは一種類の液体で沸騰という現象を考えてみます。
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1-1.沸騰とは分子の気化現象の一つ

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皆さんは「ものが沸騰する」という言葉を聞いて何を思い浮かべるでしょうか。一般的には沸騰といえば水のことを指すかと思います。水は100℃まで加熱するとボコボコと泡を立てて沸騰しますよね。この「沸騰」という現象は化学では「気化」に関連する現象の一つとみなされます。
気化するということは「気体に変化する」ということです。物質には固体、液体、気体の3つの状態があり、それぞれの状態をミクロの視点で見ると分子の動き方が全く異なります。固体は分子がきっちりと詰め込まれて自由に動くのが不可能な状態、液体は分子同士が緩やかにつながっている状態、気体は分子同士の繋がりが解消して一個一個の分子で動いている状態です。
1-2.沸点は大気圧と蒸気圧が等しくなる温度
水を例にして沸騰という現象をもう少し深く掘り下げてみましょう。実は20℃程度の温度でもある程度の量の水は気化しています。例えば濡れたタオルを部屋に置いておくと徐々に乾いていきますが、これはタオルの水が徐々に気化しているためです。このような気体に変化した物質が持つ圧力を蒸気圧と呼びます。
この蒸気圧は温度が上がるとともに大きくなり、蒸気圧と大気圧が同じになるのが沸騰する温度、すなわち沸点です。大気圧に押されていた液体が熱によって解放されるイメージですね。沸騰を化学の用語で書き直すと「液相から気相へ蒸発する成分の蒸気圧(圧力)が大気圧と等しくなる温度」となります。
ちなみに沸騰する温度は大気圧によって変わるため、高い山のような気圧が低い場所では水の沸点は変わり、富士山の頂上では水の沸点は90℃弱です。高い山では気圧が下がる、すなわち水を押す力が弱くなるため低い蒸気圧でも沸騰することができるというわけですね。

液体は時間とともに気体に変化する、この変化した気体の量を表す値が蒸気圧だ。蒸気圧は温度とともに上昇して、大気圧と等しくなる店で沸騰が起こる。次の章では2つの液体を混ぜたときの沸騰現象について学び、その次に共沸という現象を学んでいこう。
2.混合溶液の沸騰現象

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では次に今回のテーマである共沸という現象について説明します。沸騰とは液体の蒸気圧が大気圧と等しくなる温度であることを前の章で説明しましたが、では沸点が異なる2つの化合物を混ぜて加熱すると溶液はどのように沸騰するのでしょうか。
ポイントは2つの化合物を混ぜる比率です。この比率がある値になると2つの化合物が一緒に沸騰する共沸という現象が起こります。まずは2つの化合物が混ざったときの蒸気圧を考えてみましょう。
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