世の中の物質は原子や分子から作られているが、原子同士が分子を形成するときにもルールがあるんです。今回一緒に学んでいく「原子価」とは各原子が作ることができる結合の数であり、「原子の手の数」と説明されることもある。
では原子価の値はどのように決まるのでしょうか。キーワードになるのが原子が持っている電子の数です。化学に詳しいライター珈琲マニアと一緒に解説していきます。

ライター/珈琲マニア

京都大学で化学を学び、今はメーカーの研究職として勤務。高校理科の教員免許も有しており、高校化学で学ぶ内容についても詳しい。

1.原子の中にある電子と原子価

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世の中には数え切れないほど多種多様な物質が存在しており、全ての物質は炭素や酸素、水素などの原子の組み合わせによって形成されています。では原子の組み合わせにはどのようなルールがあるのでしょうか。

今回お話する「原子価」は原子が結合を作るときのルールに関する用語の一つです。高校の化学でよく似た言葉である「価電子」とセットで勉強したり、テストや模試対策で先生から覚えなさいと言われて各原子の原子価を暗記した人もいるのではないでしょうか。今回は原子価を丸暗記するのではなく、なぜ原子価が重要なのか、という点も含めて一緒に学んでいきましょう。

1-1.原子の中にある電子の数

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まずは各原子が持っている電子の数から確認していきましょう。すべての原子は原子核と電子から構成され、原子核は陽子と中性子から構成されています。そして炭素や窒素などの各原子が持っている電子、陽子の数は原子番号と同じ数になる、つまり異なる元素で電子、陽子の数が同じになることはありません。

原子中の電子は原子核の周りに存在しており、この電子が存在する空間を「電子殻」と呼びます。電子が卵の殻のような球状の空間を飛び回っているとイメージするとわかりやすいですね。この電子殻は内側からK殻、L殻、M殻と呼ばれており、それぞれの電子殻で電子が入ることができる数、つまり「定員」が決まっています。

1-2.原子の最外殻電子

さて、原子同士が分子を形成するときに重要なのが一番外側の電子、つまり「最外殻電子」の数です。原子の間で最外殻電子の受け渡しが起こることで分子が作られたり、化学反応が起こります。極端に言えば「最外殻電子以外の電子は無視しても良い」と言ってもいいかもしれません。

このように化学反応、物質の変化を考える上で重要な最外殻電子の数を「価電子」と呼びます。周期表で同じ族である原子の価電子は同じ値で、例えば炭素やケイ素などの14族元素の価電子は4、フッ素や塩素などの17族元素(ハロゲン)の価電子は7です。典型元素においては周期表の族の1の位の数字と価電子の数は同一になります。

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1-3.原子価と最外殻電子

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お互いの原子が持つ最外殻電子(価電子)の受け渡しが行われることで分子が作られるということを説明しました。しかし全ての価電子が反応に関係しているわけではありません。実は原子ごとに受け渡しができる電子の数は決まっています。

ここで重要なのが「最外殻電子は2つで1セット」という考え方です。先程電子殻には定員があると説明しましたが、さらに細かく見ると電子殻は定員が2つの電子軌道から作られています。

電子軌道に2つの電子が入って満員の状態では原子は電子を受け取ることができません。分子の結合形成や化学反応に関与するのは軌道に1つだけ入った電子です。例えば共有結合では2つの原子が電子を1つずつ出し合い、1つの電子軌道に2つの電子を埋めることで作られます。

このように電子軌道に1つだけ入った電子の数、つまり他の原子と受け渡しできる電子の数が「原子価」です。例えば炭素は上の図のように、軌道に1つだけ入った電子の数は4なので原子価は4、18族(希ガス元素)であるネオンは最外殻電子の数が8であり全ての電子軌道が満員となっているので原子価は0となります。

2.原子価と結合形成

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前の章では結合は電子の受け渡しによって作られること、そして他の原子と受け渡しできる電子の数を原子価と呼ぶことを学びました。他の原子と結合できる数を示すことから、高校化学の授業ではよく「原子の手の数」という例え話を使って原子価を説明しています。

この章では原子価について化学結合の形成という現象を元に深堀りしてみましょう。まずは原子同士が結合を作るときのメカニズムを学び、その後に鉄などの遷移金属を例にして原子価という考え方が適用できない原子を考えていきます。

2-1.結合形成のメカニズム

そもそも原子はなぜ他の原子と結合を形成するのでしょうか。この理由を考える上で重要なポイントは分子になったときと原子1個でいるときのどちらがエネルギー的に安定か、という考え方です。2つの原子が近づいたとき、原子の電子軌道よりも安定な軌道と不安定な軌道が生まれます。これらの軌道に電子を入れたときの分子のエネルギーが原子1個でいるときのエネルギーよりも安定ならば原子同士が結合を作って分子となるのです。

電子が1つしか入っていない軌道同士が近づくと、新たに生まれた安定な電子軌道に1つずつ電子が入ります。逆に既に電子が2つ入っている軌道同士が近づくと安定な軌道と不安定な軌道両方に電子が入り、結果的に分子を作るメリットがありません。つまり既に2つ電子が入っている軌道は原子の手として働けない、そのため電子が1つだけ入った軌道の数が原子価と一致するのです。

2-2.遷移金属の原子価

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遷移金属の結合の数(原子の手の数)は一つに決まっていません。鉄が酸素と結合した鉄酸化物を例として紹介します。「黒さび」と言われる四酸化三鉄と「赤さび」と言われる酸化第二鉄などが自然界には存在しており、黒さび中の鉄原子の結合数は2つもしくは3つ、赤さび中の鉄原子の結合数は3つと両者の結合数は一致していません。

このように遷移金属の場合は結合数が化合物によって異なるため、原子価を一つの値として表すことができません。そのため遷移金属では原子価という考えを適用せず、代わりに酸化鉄(III)のようにローマ数字を用いて化合物中の金属原子の結合数を表現します。

原子価を理解するためには軌道の電子の数を考えよう

原子価とは「原子の手の数」であると説明しました。この考え方のポイントは、原子価の値は1つだけ電子が入った電子軌道の数に対応すること、前述の電子軌道には1つ空きがあるため他の原子と電子を分け合えることです。結合を作るときは電子の移動が起こりますが、移動先の軌道が満員だと電子の行き先がありません。そのため空きがある電子軌道の数、そしてそこに入っている電子の数が重要になるのです。

今回紹介した定員2の電子軌道、エネルギー的に安定な軌道の形成という考え方は量子化学の基礎となる重要な概念ともいえます。今回のように量子化学から学ぶことで高校化学で学習する「原子価」という用語の理解も深まることでしょう。用語をただ暗記するのではなく、その用語の背景にある理論から学ぶことで応用できる範囲が広がっていくはずです。

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化学原子・元素物質の状態・構成・変化理科

5分で分かる「原子価」原子の結合数と電子の関係とは?京大卒の研究者がわかりやすく解説!

世の中の物質は原子や分子から作られているが、原子同士が分子を形成するときにもルールがあるんです。今回一緒に学んでいく「原子価」とは各原子が作ることができる結合の数であり、「原子の手の数」と説明されることもある。
では原子価の値はどのように決まるのでしょうか。キーワードになるのが原子が持っている電子の数です。化学に詳しいライター珈琲マニアと一緒に解説していきます。

ライター/珈琲マニア

京都大学で化学を学び、今はメーカーの研究職として勤務。高校理科の教員免許も有しており、高校化学で学ぶ内容についても詳しい。

1.原子の中にある電子と原子価

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世の中には数え切れないほど多種多様な物質が存在しており、全ての物質は炭素や酸素、水素などの原子の組み合わせによって形成されています。では原子の組み合わせにはどのようなルールがあるのでしょうか。

今回お話する「原子価」は原子が結合を作るときのルールに関する用語の一つです。高校の化学でよく似た言葉である「価電子」とセットで勉強したり、テストや模試対策で先生から覚えなさいと言われて各原子の原子価を暗記した人もいるのではないでしょうか。今回は原子価を丸暗記するのではなく、なぜ原子価が重要なのか、という点も含めて一緒に学んでいきましょう。

1-1.原子の中にある電子の数

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まずは各原子が持っている電子の数から確認していきましょう。すべての原子は原子核と電子から構成され、原子核は陽子と中性子から構成されています。そして炭素や窒素などの各原子が持っている電子、陽子の数は原子番号と同じ数になる、つまり異なる元素で電子、陽子の数が同じになることはありません。

原子中の電子は原子核の周りに存在しており、この電子が存在する空間を「電子殻」と呼びます。電子が卵の殻のような球状の空間を飛び回っているとイメージするとわかりやすいですね。この電子殻は内側からK殻、L殻、M殻と呼ばれており、それぞれの電子殻で電子が入ることができる数、つまり「定員」が決まっています。

1-2.原子の最外殻電子

さて、原子同士が分子を形成するときに重要なのが一番外側の電子、つまり「最外殻電子」の数です。原子の間で最外殻電子の受け渡しが起こることで分子が作られたり、化学反応が起こります。極端に言えば「最外殻電子以外の電子は無視しても良い」と言ってもいいかもしれません。

このように化学反応、物質の変化を考える上で重要な最外殻電子の数を「価電子」と呼びます。周期表で同じ族である原子の価電子は同じ値で、例えば炭素やケイ素などの14族元素の価電子は4、フッ素や塩素などの17族元素(ハロゲン)の価電子は7です。典型元素においては周期表の族の1の位の数字と価電子の数は同一になります。

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