今回のテーマは「物質の分類と構成粒子」です。

物質は何からできているのか?という疑問は2,000年以上も昔から続く根本的な問いかけです。ある種哲学的な質問とも思えるが、高校化学におけるその答えは全て原子で成り立っているというもの、そして最新の素粒子物理学の立場に立てば全ては素粒子から成り立っているという回答になる。

ここでは構成原子と結合方法の違いによる4分類と原子の構成の基礎、そして原子を構成する素粒子について国立大学の理系出身で環境科学を専攻し、物質の分類と構成粒子についても詳しいライターNaohiroと一緒に解説していきます。

ライター/Naohiro

国立大学の理系出身で重工メーカーの技術者として働いてきました。塾講師として数学、理科を担当した経験と併せて誰にでも分かりやすい解説を心掛けていく。

1. 物質は何で構成されているのか?

Four elements representation ja.svg
MICCAgo - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

物質は何からできているのか?という疑問は古くは紀元前6世紀初頭、古代ギリシアのタレス(タレース、Thalēs、紀元前624-546頃)から始まり、その後エンペドクレス(Empedoclēs、紀元前490-430頃)によって全ての物質は「土・空気(風)・火・水」の4つの「元素(element)」により構成されるという四元素説(しげんそせつ)の考え方が生み出され、アリストテレス(アリストテレース、Aristotelēs、紀元前384-322)による「熱・冷・湿・乾」の四性質と組み合わさり、それからなんと2,000年以上に渡り多くの科学者達に信じられていたのです。

その後18世紀に近代科学の父と呼ばれるアントワーヌ=ローラン・ド・ラボアジエ(Antoine-Laurent de Lavoisier、1743-1794)が近代的な元素の概念を確立ジョン・ドルトン(John Dalton、1766-1844)が原子説を提唱したことにより「物質の根源は原子である」という結論に到達します。

現代において「全ての物質は原子により構成される」ということはもはや常識となっていますが、この常識が実は100年前にはまだ非常識でした。そして実は同じ原子で構成されていても見た目や物理的・化学的性質が異なる物質が存在するのですね。ここでは金属結晶イオン結晶共有結合結晶そして分子結晶の4種類について見ていきましょう。

1-1. 金属結晶

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まず最初に解説するのは金属結晶。金属結晶を構成する粒子は金属原子で、それらは金属結合により結びついています。金属結晶の物質としては金、銀、銅を始めとして鉄や鉛、チタン等様々な例が挙げられますね。

金属結合の特徴としては展性(malleability、叩くと変形する性質)延性(ductility、引っ張ると変形する性質)を代表として電気伝導性と熱伝導性が高いこと、見た目に金属光沢をもつこと、そして遮光性が強いことといった特徴があります。

これらの特徴は結合に使用されず余っている価電子、自由電子(free electron)と呼ばれる電子の一部が金属結晶内を自由に動き回っていることがその理由です。

\次のページで「1-2. イオン結晶」を解説!/

1-2. イオン結晶

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H. Hoffmeister - first upload in de wikipedia on 17:21, 14. Okt 2005 by Lanzi, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

次にイオン結晶について説明していきましょう。イオン結晶の構成粒子はずばり「陽イオン」と「陰イオン」で、それらがイオン結合することで成り立っています。最も身近な例としては塩として毎日摂取している塩化ナトリウム(NaCl)が代表的ですね。

陽イオンと陰イオンとなった原子がそれぞれのクーロン力で結びついているため結合がとても強いため硬く、高い融点をもちます。しかしながら一度強い衝撃が加わり陽イオンと陰イオンの結合がずれてしまうと陽イオン同士、陰イオン同士の反発がおこり一瞬で崩れてしまう、つまり硬いが脆いという性質があるのです。

また固体の状態では電気伝導性はありませんが、液体もしくは溶質として水に溶けると電気伝導性をもつようになります。水中で電離する物質を電解質と言いますね。

陽イオンは金属元素陰イオンは非金属元素から成り立つという特徴も覚えておきましょう。

1-3. 共有結合結晶

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共有結合結晶は原子同士で電子対(価電子)を共有する共有結合によってできる結晶ですね。物質としては炭素の共有結合でできたダイヤモンドや二酸化ケイ素と酸素からなる石英(水晶)等が挙げられます(ガラスは非晶質もしくはアモルファスと呼ばれ構造が異なります)。

共有結合は4種類の結合の中で最も強力な結合で硬く、融点も極めて高いという特徴があります。逆に共有結合で電子が固定されているため電気伝導性や熱伝導性は低いのですね。

非金属元素が共有結合結晶を形成します。

1-4. 分子結晶

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分子結晶というのは構成粒子である分子同士が分子間力によって結びつくことで分子が規則的に配列してできる結晶になります。物質の例としては二酸化炭素分子が結びついてできたドライアイスにヨウ素、氷、ナフタレン等が有名です。

分結晶には結合エネルギーが小さく不安定なため柔らかく、融点が低いという特徴があります。分子間力が弱いことから常温で固体から気体に状態変化する昇華しやすい傾向があるのですね。

また、分子間力は更に極性引力、水素結合にファン・デル・ワールス力と細かく分けられることも覚えておきましょう。

2. 原子は何でできている?

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さて原子により構成される物質の分類にフォーカスして解説をしてきましたが、原子自体はどのように成り立っているのでしょうか。原子の成り立ちを見ていきましょう。

2-1. 原子の構成要素

2-1. 原子の構成要素

image by Study-Z編集部

原子は原子核と原子核外に存在する電子とで成り立っています。そして原子核は更に陽子と中性子で構成されていますね。ちなみにこの原子、高校化学ではボーアの原子模型を使って学習するため円もしくは球形をしていると多くの人が考えていますが実はそうではありません。実際には雲でできた球のようなものなのです。

20世紀初頭アーネスト・ラザフォード、続いてニールス・ボーアが提唱した原子核の回りを電子が軌道運動を行うとするモデルでは電子が回転しながら光(エネルギー)を放出することで最終的に原子核に衝突してしまうことになるのですが、実際にはそうはなりません。

大学で学ぶ量子力学という学問において、電子は電子雲(電子軌道)の範囲内に確率的に存在するという考え方をするようになります。興味があれば調べてみて下さいね。

\次のページで「2-2. 同位体」を解説!/

2-2. 同位体

2-2. 同位体

image by Study-Z編集部

さて、原子の中心には陽子と中性子からなる原子核がありますね。陽子の個数によりその原子名前が決まり、陽子が1個の原子は原子番号Z=1の水素(H)、陽子が2個の原子は原子番号Z=2のヘリウム(He)ということになります。しかし同じ陽子数をもつ原子でも中性子の数が異なることがあるのですね。それを同位体と呼びます。

ここでは水素原子を考えてみましょう。陽子と中性子を合計した数を質量数Aとすると中性子を全く持っていないA=1の水素を(軽)水素(記号H)A=2の水素を重水素(記号D)A=3の水素を三重水素(記号T)と表現します。中性子数が異なる同位体はそれぞれの原子に存在し、中でも放射線を放出する同位体を放射性同位体と呼びます

意外と理解されていることが少ないのですが、これら同位体を含む原子番号の等しい原子の集団のことを「元素」と呼ぶことをしっかり理解しておいてください。

3. 陽子と中性子が更に分けられる?

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MissMJ, Cush - Own work by uploader, PBS NOVA [1], Fermilab, Office of Science, United States Department of Energy, Particle Data Group, パブリック・ドメイン, リンクによる

陽子、中性子そして電子によって原子が構成されることをみてきました。しかしながら現代の学問では陽子、中性子ともに更に小さな粒子に分けられることが分かっています。現代において物質は何で構成されているか?という問いに対する最終的な答えは「素粒子」です。

陽子はアップクォーク(u)2個とダウンクォーク(d)1個中性子はアップクォーク(u)1個とダウンクォーク(d)2個というそれぞれ3つの素粒子で構成されているのですね。

物質を構成する上述のクォークに加えてレプトン、相互作用を媒介するゲージボソン、クォークの複合粒子であるハドロン、そして電荷の反転した反粒子等々様々な素粒子が素粒子物理学という最先端の学問の中で研究されています。

ノーベル物理学賞の時期になるとよく話題にあがる内容ですので、ぜひ興味を持ってみて下さい。

物質の分類は大きく分けて4種類

全ての物質は金属原子により構成される金属結晶、陽イオンと陰イオンからなるイオン結晶、非金属元素が電子対を共有することによる共有結合結晶、そして分子間力により結合する分子結晶の4種類について見てきました。それぞれ融点や硬さ、脆さ、電気・熱伝導性に関して大きな違いがあることが分かりました。

そして原子がどのように構成されているのかというのも非常に大切な化学の基本です。陽子・中性子が更に小さな粒子から構成されているということも頭の片隅におきながら、更に興味をもって化学を学んでいってみて下さいね。

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化学原子・元素理科量子力学・原子物理学

物質は何でできている?結合の仕方で性質が変わる?構成粒子を理系ライターがわかりやすく解説

今回のテーマは「物質の分類と構成粒子」です。

物質は何からできているのか?という疑問は2,000年以上も昔から続く根本的な問いかけです。ある種哲学的な質問とも思えるが、高校化学におけるその答えは全て原子で成り立っているというもの、そして最新の素粒子物理学の立場に立てば全ては素粒子から成り立っているという回答になる。

ここでは構成原子と結合方法の違いによる4分類と原子の構成の基礎、そして原子を構成する素粒子について国立大学の理系出身で環境科学を専攻し、物質の分類と構成粒子についても詳しいライターNaohiroと一緒に解説していきます。

ライター/Naohiro

国立大学の理系出身で重工メーカーの技術者として働いてきました。塾講師として数学、理科を担当した経験と併せて誰にでも分かりやすい解説を心掛けていく。

1. 物質は何で構成されているのか?

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MICCAgo投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

物質は何からできているのか?という疑問は古くは紀元前6世紀初頭、古代ギリシアのタレス(タレース、Thalēs、紀元前624-546頃)から始まり、その後エンペドクレス(Empedoclēs、紀元前490-430頃)によって全ての物質は「土・空気(風)・火・水」の4つの「元素(element)」により構成されるという四元素説(しげんそせつ)の考え方が生み出され、アリストテレス(アリストテレース、Aristotelēs、紀元前384-322)による「熱・冷・湿・乾」の四性質と組み合わさり、それからなんと2,000年以上に渡り多くの科学者達に信じられていたのです。

その後18世紀に近代科学の父と呼ばれるアントワーヌ=ローラン・ド・ラボアジエ(Antoine-Laurent de Lavoisier、1743-1794)が近代的な元素の概念を確立ジョン・ドルトン(John Dalton、1766-1844)が原子説を提唱したことにより「物質の根源は原子である」という結論に到達します。

現代において「全ての物質は原子により構成される」ということはもはや常識となっていますが、この常識が実は100年前にはまだ非常識でした。そして実は同じ原子で構成されていても見た目や物理的・化学的性質が異なる物質が存在するのですね。ここでは金属結晶イオン結晶共有結合結晶そして分子結晶の4種類について見ていきましょう。

1-1. 金属結晶

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まず最初に解説するのは金属結晶。金属結晶を構成する粒子は金属原子で、それらは金属結合により結びついています。金属結晶の物質としては金、銀、銅を始めとして鉄や鉛、チタン等様々な例が挙げられますね。

金属結合の特徴としては展性(malleability、叩くと変形する性質)延性(ductility、引っ張ると変形する性質)を代表として電気伝導性と熱伝導性が高いこと、見た目に金属光沢をもつこと、そして遮光性が強いことといった特徴があります。

これらの特徴は結合に使用されず余っている価電子、自由電子(free electron)と呼ばれる電子の一部が金属結晶内を自由に動き回っていることがその理由です。

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