今回のテーマは「閉殻構造」。

閉殻構造というとただ単に一番外側の原子殻が一杯でもう入れない状態では…と思ってしまう人が多いかと思うが実はそうではない。高校化学で学ぶ範囲では閉殻構造を正確に説明することが難しのですが、ここでヒントになるのが「量子力学」と「電子軌道」です。

簡単そうで奥が深い閉殻構造。国立大学の理系出身で環境科学を学び化学に詳しいライターNaohiroと一緒に解説していきます。

ライター/Naohiro

国立大学の理系出身。環境科学について学んだ後技術者として化学に携わってきた知識と経験をもとにテクニックではなく、本質的な理解にもとづき閉殻構造について分かりやすく解説する。

1. 閉殻構造とは

image by iStockphoto

まず、高校化学の範囲で閉殻構造がどのように定義できるかを確認してみましょう。高校化学で学習する範囲で閉殻構造は「最外殻の電子数が8個である状態」と説明することができます。

これは原子の最外殻電子の数が8個あると化合物やイオンが安定に存在するという経験則である、オクテット則と同じ内容を示していることが分かりますね。

1-1. ボーアの原子模型

Niels Bohr.jpg
The American Institute of Physics credits the photo [1] to AB Lagrelius & Westphal, which is the Swedish company used by the Nobel Foundation for most photos of its book series Les Prix Nobel. - Niels Bohr's Nobel Prize biography, from 1922, パブリック・ドメイン, リンクによる

高校生までのカリキュラムで学ぶことになっているボーアの原子模型、これはデンマーク人の理論物理学者ニールス・ボーアが1913年に確立した皆さんお馴染みの原子モデルで、中心に陽子と中性子からなる原子核をもち、その周りのK殻から始まるエネルギー準位の異なる電子殻を電子が回るというもの。

これは当時ドイツ人物理学者マックス・プランクが発見した、電子の励起が連続的ではなくプランク定数hを用いたプランクの法則にもとづきとびとびの値をとるということに上手く対応したモデルでした。

1-2. 各電子殻における最大電子収容数

1-2. 各電子殻における最大電子収容数

image by Study-Z編集部

そしてボーアの原子模型における電子殻K殻からO殻までの最大電子収容数を見てみると、K殻が最大2個、L殻8個、M殻18個、N殻32個、そしてO殻が50個となっています。これらの最大電子収容数は2n2に従っていることが知られておりK殻はn=1で2、L殻はn=2で8、そしてO殻はn=5で50となるのです。

1-3. 最外殻電子数8個=閉殻構造

1-3. 最外殻電子数8個=閉殻構造

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次に安定核種である第18族希ガス(貴ガス)原子の電子配置を見てみます。図に示すようにヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、ラドン(Rn)と最初のヘリウムを除いて全て最外殻電子数が「8個」になっていることが分かりますね。

ヘリウム2個、ネオン10個、アルゴン18個、クリプトン36個、キセノン54個、ラドン86個という原子が安定化する電子数のことを電子の魔法数と呼ぶことも覚えておきましょう。

ここで先ほどの希ガス(貴ガス)原子での各原子殻の電子配置を見返してみると、ヘリウムからクリプトンまではK殻から順に原子殻が埋まっているのですが、キセノンはN殻が埋まる前にO殻に電子が8個ラドンではO殻が埋まる前にP殻に電子が8個収容されてしまっていることが分かりますね。

1-4. 閉殻構造の謎

なぜ内側の外殻が電子で一杯になってから外側の電子殻に電子が入らないのだろうというのは受験勉強をしていると誰しもが一度は疑問に思ったことがあると思います。

ボーアの原子模型は電子が変化しない特定の軌道(電子殻)ととびとびのエネルギーの値をもち、突然ある状態から別の状態に移行(励起)するという特徴をもつモデルです。そしてこの原子模型はその後に発展した量子力学的な観点から

\次のページで「2. 電子軌道から見た閉殻構造」を解説!/

・原子核の周囲を回り続ける理由が説明できない(外からのエネルギーが必要)
・とびとびの値をとる理由が説明できない

という致命的な欠陥を持っていました。そしてこの矛盾を解消したモデルが量子力学の波動関数と不確定性原理という考え方を取り入れて完成しました。それが電子軌道を用いたモデルです。

2. 電子軌道から見た閉殻構造

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ボーアの原子模型を用いて閉殻構造について見ていくと数多くの謎や矛盾が生じてしまうことが分かります。そこで今回は更に一歩踏み込んで大学の量子化学で学習することになる電子軌道の考え方を解説していきますね。

2-1. 電子軌道の考え方

電子軌道を細かく説明するとシュレーディンガーの波動関数を計算したりと難しいものになるのでそういったことは割愛しますが、ざっくり表現するとボーアの原子模型でK殻、L殻などと表現していたものを更に電子軌道に分割して考えるということになります。

電子軌道にはs軌道、p軌道、d軌道、f軌道がありそれぞれ電子の収容数は2、6、10、14。そしてK殻は1s軌道、L殻は2sと2p軌道、M殻は3s、3p、3d軌道で構成されているのです。

K殻 : 1s

L殻 : 2s + 2p

M殻 : 3s + 3p + 3d

N殻 : 4s + 4p + 4d + 4f

O殻 : 5s + 5p + 5d + 5f

P殻:6s + 6p + 6d

\次のページで「2-2. 電子の入り方」を解説!/

Neon orbitals.png
Rakudaniku - 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, リンクによる

ちなみに電子軌道の形はs、p、d、fとそれぞれがもつ方位量子数により決まっており一番小さいs軌道は球型(画像はs軌道とp軌道)。

難しい話ですがこの電子軌道の範囲を中が見えない雲に例えて、雲の中に電子が確率的に存在するというのが電子軌道における考え方になります。

2-2. 電子の入り方

2-2. 電子の入り方

image by Study-Z編集部

そして、電子が電子軌道に入る順番について見てみると閉殻構造の謎に一歩近づきます。これは構造原理や増成原理(ぞうせいげんり)とも言われ、エネルギー準位の低い電子軌道から1s→2s→2p→3s→3p→4s→3d→4p→5s→…という順番に電子が埋まっていくことが知られているのです。

Periodic Table structure.svg
Sch0013r - File:PTable structure.png, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

そして周期表と電子軌道の対応を見ていくと面白いことが分かりますね。第1族と第2族元素(およびヘリウム)はs軌道が、そして第13族から第18族(ヘリウムを除く)はp軌道が最終的な電子の埋まり方に関与していることが分かります。

2-3. 閉殻構造の正確な定義

以上電子軌道の考え方をみてきて、閉殻構造の正確な定義とは何か分かるでしょうか。閉殻構造の正確な定義、それはその原子における最もエネルギー準位の高いs軌道とp軌道が電子で満たされること結果として最外殻の電子が8個となることを言うのです。

3. 最外殻電子(s軌道+p軌道)=8個が閉殻構造

以上ボーアの原子模型と電子軌道の考え方について見てきました。ボーアの原子模型の考え方ではアルゴンの最外殻であるM殻には8個の電子があり、M殻には最大18個まで電子がはいることから次のカリウムの電子はM殻に9個目として入りそうなものですが、実際には次のN殻に入ります。多くの受験生はこの現象に疑問を感じつつも学習を続けなければなりません。そこでこの疑問を解消してくれるのが電子軌道という考え方。

電子殻が更にエネルギー準位ごとにs軌道、p軌道…と分けられることで電子の次の行き先を分かり易く示してくれています。そして結果的に最外殻電子(s軌道+p軌道)=8個が「閉殻構造」という結論になるわけです。

\次のページで「ボーアの原子模型、電子軌道両方の良い所を使っていこう」を解説!/

ボーアの原子模型、電子軌道両方の良い所を使っていこう

ボーアの原子模型は1913年に確立された、化学をとてもなじみのあるものにしてくれている素晴らしいモデルですが理論的な矛盾も抱えています。その矛盾を解消してくれるのが量子力学という学問における電子軌道の考え方です。

ボーアの原子模型は理論的矛盾があったり、電子軌道は考え方が難しすぎたりとそれぞれ難点はありますが、それぞれの良い所を理解した上で化学を学習することでより理解が深まりますね。

" /> 「閉殻構造」って何?「電子軌道」と「量子力学」がキーワード?理系ライターがわかりやすく解説 – Study-Z
化学原子・元素理科

「閉殻構造」って何?「電子軌道」と「量子力学」がキーワード?理系ライターがわかりやすく解説

今回のテーマは「閉殻構造」。

閉殻構造というとただ単に一番外側の原子殻が一杯でもう入れない状態では…と思ってしまう人が多いかと思うが実はそうではない。高校化学で学ぶ範囲では閉殻構造を正確に説明することが難しのですが、ここでヒントになるのが「量子力学」と「電子軌道」です。

簡単そうで奥が深い閉殻構造。国立大学の理系出身で環境科学を学び化学に詳しいライターNaohiroと一緒に解説していきます。

ライター/Naohiro

国立大学の理系出身。環境科学について学んだ後技術者として化学に携わってきた知識と経験をもとにテクニックではなく、本質的な理解にもとづき閉殻構造について分かりやすく解説する。

1. 閉殻構造とは

image by iStockphoto

まず、高校化学の範囲で閉殻構造がどのように定義できるかを確認してみましょう。高校化学で学習する範囲で閉殻構造は「最外殻の電子数が8個である状態」と説明することができます。

これは原子の最外殻電子の数が8個あると化合物やイオンが安定に存在するという経験則である、オクテット則と同じ内容を示していることが分かりますね。

1-1. ボーアの原子模型

Niels Bohr.jpg
The American Institute of Physics credits the photo [1] to AB Lagrelius & Westphal, which is the Swedish company used by the Nobel Foundation for most photos of its book series Les Prix Nobel. – Niels Bohr’s Nobel Prize biography, from 1922, パブリック・ドメイン, リンクによる

高校生までのカリキュラムで学ぶことになっているボーアの原子模型、これはデンマーク人の理論物理学者ニールス・ボーアが1913年に確立した皆さんお馴染みの原子モデルで、中心に陽子と中性子からなる原子核をもち、その周りのK殻から始まるエネルギー準位の異なる電子殻を電子が回るというもの。

これは当時ドイツ人物理学者マックス・プランクが発見した、電子の励起が連続的ではなくプランク定数hを用いたプランクの法則にもとづきとびとびの値をとるということに上手く対応したモデルでした。

1-2. 各電子殻における最大電子収容数

1-2. 各電子殻における最大電子収容数

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そしてボーアの原子模型における電子殻K殻からO殻までの最大電子収容数を見てみると、K殻が最大2個、L殻8個、M殻18個、N殻32個、そしてO殻が50個となっています。これらの最大電子収容数は2n2に従っていることが知られておりK殻はn=1で2、L殻はn=2で8、そしてO殻はn=5で50となるのです。

1-3. 最外殻電子数8個=閉殻構造

1-3. 最外殻電子数8個=閉殻構造

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次に安定核種である第18族希ガス(貴ガス)原子の電子配置を見てみます。図に示すようにヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、ラドン(Rn)と最初のヘリウムを除いて全て最外殻電子数が「8個」になっていることが分かりますね。

ヘリウム2個、ネオン10個、アルゴン18個、クリプトン36個、キセノン54個、ラドン86個という原子が安定化する電子数のことを電子の魔法数と呼ぶことも覚えておきましょう。

ここで先ほどの希ガス(貴ガス)原子での各原子殻の電子配置を見返してみると、ヘリウムからクリプトンまではK殻から順に原子殻が埋まっているのですが、キセノンはN殻が埋まる前にO殻に電子が8個ラドンではO殻が埋まる前にP殻に電子が8個収容されてしまっていることが分かりますね。

1-4. 閉殻構造の謎

なぜ内側の外殻が電子で一杯になってから外側の電子殻に電子が入らないのだろうというのは受験勉強をしていると誰しもが一度は疑問に思ったことがあると思います。

ボーアの原子模型は電子が変化しない特定の軌道(電子殻)ととびとびのエネルギーの値をもち、突然ある状態から別の状態に移行(励起)するという特徴をもつモデルです。そしてこの原子模型はその後に発展した量子力学的な観点から

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