今回は「桿体細胞」と「錐体細胞」をテーマに学習していこう。

これらは我々がものを見る・認識するのに欠かすことのできない、特別な細胞です。今この文章を読んでいる瞬間にも、桿体細胞と錐体細胞が機能している。それぞれの基本的な構造や性質についてまとめていこう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

桿体細胞と錐体細胞とは

桿体細胞(かんたい-さいぼう)と錐体細胞(すいたい-さいぼう)は、どちらも眼に光が入ったとき、それを刺激として受け取る細胞=視細胞の仲間です。いずれも眼の網膜に存在しますが、錐体細胞は網膜上でも黄斑(おうはん)という部分に多く分布します。

大まかにいってしまうと、桿体細胞は光の強弱(明暗)を感じる細胞、錐体細胞は色を感じる細胞です。

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桿体細胞

桿体細胞は、細長い棒のような形をした細胞です。「桿」という漢字自体が、”さお”状の棒を意味しています。

生物の世界では、細長い形をした細菌を指す「桿菌(かんきん)」という単語にも見られます。ちなみに、異体字である「杆」を使って杆体細胞と書かれることもあるんです。

英語にすると桿体細胞はrod photoreceptor cellといいます。rodはこん棒や細長い棒のこと。ゲームや漫画の世界で、「ロッド」という武器を使うことがありますよね。photoreceptorは”光の受容体”を意味します。

Cone2.svg
Madhero88 - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

桿体細胞内にはロドプシンという色素が含まれています。ロドプシンはタンパク質の一種であるオプシンと、レチナールという化合物からなる色素です。

桿体細胞は”明暗”を感知

では、桿体細胞の機能について、改めてみていきます。桿体細胞の主なはたらきは、光の明暗を感じることです。光を受け取ると、それに応じてロドプシンが活性化し、細胞が興奮状態になります。これが電気的な信号となり、脳に送られることで「明るい」「暗い」という認識が生じるのです。

image by iStockphoto

私たちは夜でも明かりをともして生活していますが、寝る前に電気を消しても、しばらくすると目が慣れてきて、部屋にあるものの姿がぼんやりと見えるようになりますよね。「暗順応」という反応です。桿体細胞のロドプシンは、とてもわずかな光でも活性化することができる、非常に敏感なセンサーといえます。

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一方で、桿体細胞は”色彩を感知する”ことができません。明暗を感じ取り、モノの輪郭が分かっても、それが何色かを判別することができないのです。

暗闇で目が慣れたとき、部屋にあるものを眺めてみると、カタチはわかっても、色が分かりにくくモノクロのように見えてしまいますよね。

錐体細胞

錐体細胞は、細胞の先端が円錐形(えんすいけい)のような形をした視細胞です。やはりこちらも、形状が名前の由来になっていますね。

英語ではcone cell。coneが円錐を意味しています。工事現場などにおかれている「三角コーン」などが身近な例ですね。

錐体細胞は”色”を感知

錐体細胞も、その内部に光を感じ取るタンパク質、オプシンをもっています。オプシンは、先ほどご紹介したロドプシンを構成するタンパク質ですが、桿体細胞のオプシンと錐体細胞のオプシンは、少しずつ構造が違っています

Cone cell.svg
Distorted - 投稿者自身による作品, Image based on File:Cone cell.png, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

さらにいうと、ヒトの場合、錐体細胞に含まれているオプシンには3種類あるんです。一つの錐体細胞には、基本的に3種類のオプシンのいずれか1種類が含まれています。

3種類のオプシンは、それぞれ異なる色(異なる波長の光)を感知し、視神経を介して脳に信号が送られます。「赤」「緑」「青」の3色で、それぞれの光を感じる錐体細胞はL錐体(赤錐体)、M錐体(緑錐体)、S錐体(青錐体)などともよばれるんです。

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image by iStockphoto

私たちの脳でも同じようなことがおきていると考えられます。3種類の錐体細胞からおくられる情報の相対的なバランス(例:「赤が多い」「青と緑が同じくらいで赤が少ない」)などにより、脳が様々な色を認識できるのです。

さて、この錐体細胞たちですが、桿体細胞よりもやや感度が低く、ある程度の光の強さ(光量)がないとはたらくことができません。さきほど、「暗い中では物体がモノクロのように見える」といいましたが、これは錐体細胞が機能することができていないためともいえます。

image by Study-Z編集部

錐体細胞と色覚異常

”錐体細胞には3種類あり、それぞれが「赤」「緑」「青」を感知する”…この知識があると理解できるようになるのが、色覚異常という現象です。

色覚異常は色盲、色弱ともいわれますが、ある特定の色が見えなかったり、色の識別が困難になっている状態をいいます。先天性(生まれつき)の場合と、後天性の場合がありますが、日本人では男性の20人に1人程度は先天性の色覚異常をもっているといわれるなど、決して珍しい症状ではありません。

色覚異常は基本的に、3種類の錐体細胞のいずれかが存在しなかったり、機能が弱くなってしまうために起こります。とくに、緑錐体がない/機能が弱い「2型色覚」とよばれるタイプの色覚異常が比較的多いようです。これに、赤錐体がない/機能が弱い「1型色覚」をあわせると、色覚異常の患者さんの大部分を占めます。

「2型色覚」や「1型色覚」では、赤色と緑色の区別がつきにくくなるのです。

ヒト以外の視細胞は…?

今回は、我々人間の桿体細胞や錐体細胞についてご紹介してきました。実は、生物の種類によって視細胞には違いがあります。とくに、もっている錐体細胞の種類が異なるんです。霊長類以外の哺乳類のほとんどは、錐体細胞を2種類しか持っていません。一方で、哺乳類以外の脊椎動物では4種類の錐体細胞をもつ種が多いのです。

錐体細胞に違いがあるということは、それぞれに「世界の見え方」が異なるということですよね。どうしてそのような違いがうまれたのかは、生物の進化の歴史が関係しているのですが…それはまた別の機会に。興味のある方はぜひ調べてみてください。

イラスト提供元:いらすとや

" /> 3分で簡単「桿体細胞と錐体細胞」ものを見るのに必要不可欠!現役講師がわかりやすく解説します – Study-Z
理科環境と生物の反応生物

3分で簡単「桿体細胞と錐体細胞」ものを見るのに必要不可欠!現役講師がわかりやすく解説します

今回は「桿体細胞」と「錐体細胞」をテーマに学習していこう。

これらは我々がものを見る・認識するのに欠かすことのできない、特別な細胞です。今この文章を読んでいる瞬間にも、桿体細胞と錐体細胞が機能している。それぞれの基本的な構造や性質についてまとめていこう。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

桿体細胞と錐体細胞とは

桿体細胞(かんたい-さいぼう)と錐体細胞(すいたい-さいぼう)は、どちらも眼に光が入ったとき、それを刺激として受け取る細胞=視細胞の仲間です。いずれも眼の網膜に存在しますが、錐体細胞は網膜上でも黄斑(おうはん)という部分に多く分布します。

大まかにいってしまうと、桿体細胞は光の強弱(明暗)を感じる細胞、錐体細胞は色を感じる細胞です。

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