この記事では「マッチポンプ」について解説する。

マッチポンプの意味は「自ら起こした問題を自ら鎮静化させ、利益や賞賛を得ること」であり、端的に言うと「自作自演」となるが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると使いこなせるシーンが増えるぞ。

情報誌系の記者を10年経験したライター・にべこを呼んです。一緒に「マッチポンプ」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/にべこ

某大手情報誌の記者を務め、その後フリーライターに。ビジネス用語ならおまかせ。さまざまなシーンで使えるカタカナ言葉を噛み砕いて紹介する。

「マッチポンプ」の意味や語源・使い方まとめ

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「マッチポンプ」という言葉。見聞きはするものの、その文字面からしてもどういう意味なのかいまひとつイメージしにくいのではないでしょうか。

しかし、日常的にだけではなく、ビジネスシーンでも昨今よく使われるようになった言葉ではあります。さっそくその意味や使い方を見ていきましょう。

「マッチポンプ」の意味は?

「マッチポンプ」には、次のような意味があります。

自分で問題やもめごとを起こしておいてから収拾を持ちかけ、何らかの報酬を受け取ろうとすること。また、その人。マッチで火を付けてポンプで消火するという二役を一人でこなす意。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「マッチポンプ」

「マッチポンプ」を端的にあらわすと「利益を得るための自作自演」

自らマッチで火をつけておきながら自らポンプで水をかけ消火するさまを揶揄した表現で、注目を集めて利益に繋げるという極めて利己的な目的のものです。決して良い意味や良いイメージの言葉ではありません。利益が絡むことから、ビジネスシーンで使われることも多いです。

その発祥は日本の政治経済の世界。下記の項目で語源を詳しくご説明していきましょう。

「マッチポンプ」の語源は?

「マッチポンプ」は、英語の「match(マッチ:燐寸)」と、オランダ語の「pomp(ポンプ:喞筒)」とを合わせた和製英語です。

1961年の衆議院本会議にて、松井誠衆議院議員が以下のように発言した記録が残っています。

「世に、いわゆるマッチ・ポンプ方式といわれるものがあります。右手のマッチで、公共料金を上げて、もって物価値上げに火をつけながら、左手のポンプでは、物価値上げを抑制するがごとき矛盾したゼスチュアを示すのをいうのでございましょう」

— 松井誠、第38回国会衆議院本会議 1961(昭和36)年4月11日

これが「マッチポンプ」の語源となったかは実は定かではありませんが、残っている記録の中では最も古いもののようです。

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そして、1969年代に起きた政界汚職事件でこの言葉は一躍有名になりました。

1966年8月、東京地検は自民党のある代議士を恐喝・詐欺の容疑で逮捕。当時この代議士は、衆議院決算委任理事という肩書を乱用して政財界のあらゆる癒着を調べ上げ、表向きは糾弾しているように見せかけてその裏では「追求をやめて欲しければ金を払え」などと当事者を脅し、不正な金銭を受け取っていました。それまで善良でクリーンなイメージだったこの代議士が行なった卑劣な行為は、後に「政界のマッチポンプ」と呼ばれ、世間から大いに非難を受けることになったのです。

そしてこれを皮切りに、この年はあらゆる不正・不祥事が自民党を中心とした政界において相次いで発覚。当時の首相であった佐藤栄作氏が12月27日に衆議院を解散することで一応の決着を見ましたが、このことで国民からの信頼は著しく失墜。これら一連の事件は後に「まるで永田町を黒い霧が覆っているようだ」と揶揄され、「黒い霧事件」と呼ばれるようになりました。

ちなみに、「マッチポンプ」は和製英語なので海外では通じません。

近い意味の英語は、ネット上で行う自作自演行為をあらわす「sock puppet(靴下で作った指人形のことで、一人が複数の人間を演じている様をさすネットスラング)」や「staged photo(舞台用の青写真。やらせの意)」、「hoax(でっちあげ)」などがあります。

「マッチポンプ」の使い方・例文

「マッチポンプ」の使い方を例文を使って見ていきましょう。

1.何も問題がないにも関わらず、自ら問題を作り出して解決することで利益を得るのがマッチポンプ商法と言う。
2.あの企業は手荒れを起こす成分を追加した洗剤を作っておきながら、ハンドクリームも販売するというマッチポンプ的方法で利益を得ている。
3.日頃から何かとマッチポンプ的にトラブルを作り出すのが自作自演型の人間の特徴だ。
4.パソコン内のデータを勝手に暗号化し、復元費用をだまし取るマッチポンプ型ランサムウェア(※1)が蔓延している。

上記例文でもわかるように、「マッチポンプ」はネガティブなイメージの使い方をします。

※1.ランサムウェア:「Ransom(身代金)」と「Software( ソフトウェア)」を組み合わせた言葉で、マルウェアと呼ばれるコンピューターウィルスの一つ。コンピューターがこれに感染すると、データ等やパソコン自体にロックがかかってしまい、解除するためには費用を支払うよう要求されます。

 

\次のページで「「マッチポンプ」の類義語や関連語は?違いは?」を解説!/

「マッチポンプ」の類義語や関連語は?違いは?

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ここからは「マッチポンプ」の類義語や関連語を詳しく見ていきましょう。

「マッチポンプ商法」

「自作自演で利益を生み出す商法」です。もともとない問題をでっちあげて利益に繋げるということですね。禁忌とされているビジネスモデルではあるのですが、手法としては古くから存在しています。

「マッチポンプ商法」で実際にあった事例としては、以下のようなものがあります。

・害虫駆除業者が自宅に来て床下無料点検サービスを持ちかけ、本当はいないのに「シロアリがいるので駆除する」と言い法外な費用を請求
・動物医療現場で、健康な動物に対してわざと有害な治療を施し病気にさせ、長期にわたり治療費を請求
・占い師を装い、「運勢が悪い」「このままでは命が危ない」などと言って不安にさせ、高額なお祓いや印鑑や壺などの商品を買わせる
・「あなたの住んでいるアパートから盗聴器の電波をキャッチした」などとでたらめを言い、あたかも最初から仕掛けられていたかのように装って撤去費用を請求

このほかに、「ステルスマーケティング」「炎上商法」も関連語として挙げられます。

「ステルスマーケティング」は、広告だとは謳わずにあたかも本当のレビューであるかのように商品やサービスを好評価して宣伝に繋げる手法。

「炎上商法」は、主に著名人が不用意な行為や発言をしてネットでの検索数をアップさせるなど世間から注目させ知名度を上げ、転じて人気を得たり、宣伝に繋げたりするという手法です。

「捏造(ねつぞう)」

「ありもしない事を本当にあるかのように偽る事」です。古い読み方は「でつぞう」で、「でっちあげ」という言葉の由来になっています。

「偽装工作(ぎそうこうさく)」

「真実を偽りごまかすために手を加え別の物事であるかのように装う事」です。「偽装」を使った言葉としては「産地偽装」「食品偽装」「偽装結婚」などがあります。

\次のページで「「やらせ」」を解説!/

「やらせ」

「事実に反した偽装を行っておきながらそれを隠蔽し、あたかも事実であるかのように見せる事」を指します。元々はマスコミの業界用語であった影響から、今もテレビやYouTube番組などのメディアにおいて行われる偽装をこう呼ぶことが多いです。

「マッチポンプ」の対義語は?

明確な対義語はありません。強いて挙げるのであれば「自作自受(じさくじじゅ)」という言葉が対義に近いでしょうか。自身の働いた悪事の結果、その報いを受けている状態を指します。

「マッチポンプ」を使いこなそう

今回は「マッチポンプ」の意味・使い方・類語などを詳しくご説明しました。

「マッチポンプ」を行う主な目的は利益を得ることのため、言い換えると確かに「自作自演」ではありますがより利己的なニュアンスが強くなるので、使う場面には十分気をつけたいところです。特にビジネスシーンで使う場合は要注意ですね。

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国語言葉の意味

「マッチポンプ」の意味や使い方は?例文や類語をWebライターがわかりやすく解説!

この記事では「マッチポンプ」について解説する。

マッチポンプの意味は「自ら起こした問題を自ら鎮静化させ、利益や賞賛を得ること」であり、端的に言うと「自作自演」となるが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると使いこなせるシーンが増えるぞ。

情報誌系の記者を10年経験したライター・にべこを呼んです。一緒に「マッチポンプ」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/にべこ

某大手情報誌の記者を務め、その後フリーライターに。ビジネス用語ならおまかせ。さまざまなシーンで使えるカタカナ言葉を噛み砕いて紹介する。

「マッチポンプ」の意味や語源・使い方まとめ

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「マッチポンプ」という言葉。見聞きはするものの、その文字面からしてもどういう意味なのかいまひとつイメージしにくいのではないでしょうか。

しかし、日常的にだけではなく、ビジネスシーンでも昨今よく使われるようになった言葉ではあります。さっそくその意味や使い方を見ていきましょう。

「マッチポンプ」の意味は?

「マッチポンプ」には、次のような意味があります。

自分で問題やもめごとを起こしておいてから収拾を持ちかけ、何らかの報酬を受け取ろうとすること。また、その人。マッチで火を付けてポンプで消火するという二役を一人でこなす意。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「マッチポンプ」

「マッチポンプ」を端的にあらわすと「利益を得るための自作自演」

自らマッチで火をつけておきながら自らポンプで水をかけ消火するさまを揶揄した表現で、注目を集めて利益に繋げるという極めて利己的な目的のものです。決して良い意味や良いイメージの言葉ではありません。利益が絡むことから、ビジネスシーンで使われることも多いです。

その発祥は日本の政治経済の世界。下記の項目で語源を詳しくご説明していきましょう。

「マッチポンプ」の語源は?

「マッチポンプ」は、英語の「match(マッチ:燐寸)」と、オランダ語の「pomp(ポンプ:喞筒)」とを合わせた和製英語です。

1961年の衆議院本会議にて、松井誠衆議院議員が以下のように発言した記録が残っています。

「世に、いわゆるマッチ・ポンプ方式といわれるものがあります。右手のマッチで、公共料金を上げて、もって物価値上げに火をつけながら、左手のポンプでは、物価値上げを抑制するがごとき矛盾したゼスチュアを示すのをいうのでございましょう」

— 松井誠、第38回国会衆議院本会議 1961(昭和36)年4月11日

これが「マッチポンプ」の語源となったかは実は定かではありませんが、残っている記録の中では最も古いもののようです。

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そして、1969年代に起きた政界汚職事件でこの言葉は一躍有名になりました。

1966年8月、東京地検は自民党のある代議士を恐喝・詐欺の容疑で逮捕。当時この代議士は、衆議院決算委任理事という肩書を乱用して政財界のあらゆる癒着を調べ上げ、表向きは糾弾しているように見せかけてその裏では「追求をやめて欲しければ金を払え」などと当事者を脅し、不正な金銭を受け取っていました。それまで善良でクリーンなイメージだったこの代議士が行なった卑劣な行為は、後に「政界のマッチポンプ」と呼ばれ、世間から大いに非難を受けることになったのです。

そしてこれを皮切りに、この年はあらゆる不正・不祥事が自民党を中心とした政界において相次いで発覚。当時の首相であった佐藤栄作氏が12月27日に衆議院を解散することで一応の決着を見ましたが、このことで国民からの信頼は著しく失墜。これら一連の事件は後に「まるで永田町を黒い霧が覆っているようだ」と揶揄され、「黒い霧事件」と呼ばれるようになりました。

ちなみに、「マッチポンプ」は和製英語なので海外では通じません。

近い意味の英語は、ネット上で行う自作自演行為をあらわす「sock puppet(靴下で作った指人形のことで、一人が複数の人間を演じている様をさすネットスラング)」や「staged photo(舞台用の青写真。やらせの意)」、「hoax(でっちあげ)」などがあります。

「マッチポンプ」の使い方・例文

「マッチポンプ」の使い方を例文を使って見ていきましょう。

1.何も問題がないにも関わらず、自ら問題を作り出して解決することで利益を得るのがマッチポンプ商法と言う。
2.あの企業は手荒れを起こす成分を追加した洗剤を作っておきながら、ハンドクリームも販売するというマッチポンプ的方法で利益を得ている。
3.日頃から何かとマッチポンプ的にトラブルを作り出すのが自作自演型の人間の特徴だ。
4.パソコン内のデータを勝手に暗号化し、復元費用をだまし取るマッチポンプ型ランサムウェア(※1)が蔓延している。

上記例文でもわかるように、「マッチポンプ」はネガティブなイメージの使い方をします。

※1.ランサムウェア:「Ransom(身代金)」と「Software( ソフトウェア)」を組み合わせた言葉で、マルウェアと呼ばれるコンピューターウィルスの一つ。コンピューターがこれに感染すると、データ等やパソコン自体にロックがかかってしまい、解除するためには費用を支払うよう要求されます。

 

\次のページで「「マッチポンプ」の類義語や関連語は?違いは?」を解説!/

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