この記事では「ニッチ」について解説する。

端的に言えばニッチの意味は「隙間」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

情報誌系の記者を10年経験したライター・にべこを呼んです。一緒に「ニッチ」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/にべこ

某大手情報誌の記者を務め、その後フリーライターに。ビジネス用語ならおまかせ。さまざまなシーンで使えるカタカナ言葉を噛み砕いて紹介。

「ニッチ」の意味や語源・使い方まとめ

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昨今、よく使われるようになった「ニッチ」という言葉。正しく意味を理解していますか?一言で「ニッチ」といっても様々な意味があります。さっそく語源や使い方を詳しく見ていきましょう。

「ニッチ」の意味は?

「ニッチ」には、次のような意味があります。

1. 西洋建築で、厚みのある壁をえぐって作ったくぼみ部分。彫像や花瓶などを置く。壁龕(へきがん)。
2.ある生物が生態系の中で占める位置。生態的地位。ニッチェ。
3.橋・トンネルなどのわきに設けられる非常用の退避空間。
4.《すきまの意》市場で、大企業が進出しない小規模な分野。また一般に、普通には気づきにくいところ。「ニッチ産業」「ニッチな趣味」

出典:デジタル大辞泉(小学館)「ニッチ」

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一番聞き覚えのあるのは、上記4.の「隙間」という意味ではないでしょうか。特に「隙間市場」「隙間産業」のように、ビジネスシーンで使うことが多いかと思います。

ですが実は、1.の建築用語としての使い方が本来です。例えばキッチンカウンターやリビングなどの壁面を利用して作る、収納や飾り棚などとして使う奥行きのさほど無いスペースなどのことを指しています。そしてその他に、進化論の研究過程から生まれた生物学用語としての使い方も。

建築用語→生物学用語→ビジネス用語といったように、段階を経て派生していったということですね。では、なぜこのようにまったく関連のない分野に跨って、「ニッチ」という言葉の意味が広がったのでしょう?それは「ニッチ」の語源を辿っていくとわかります。

「ニッチ」の語源は?

「ニッチ」は英語では「niche」と書き、ラテン語の「nidus(巣、巣窟)」が語源です。それが古代フランス語では、装飾物などを飾る壁面のくぼみをあらわす意味の言葉に転じました。

そして、イギリスの動物学者チャールズ・サザーラント・エルトン(1900ー1991)が執筆した「動物生態学(原題:「Animal Ecology」、1927年出版)」では、生物生態学用語として登場します。

\次のページで「「ニッチ」の使い方・例文」を解説!/

エルトンは、「動物共同体の関係の多くは食物関係、いわゆる食物連鎖で繋がっている」とし、そのうえで生態系におけるある動物の位置付け(生態学的地位)を「ニッチ」と呼びました。

同じ環境に多様な種の生物が存在する場合、その環境に最も適した、または適するように進化した生物が生き残ります。さらにその同じエリア内でも、昼は昼行性の動物が活動し、夜は夜行性の動物が活動するなどの細かな棲み分けが行われており、環境に適応した生態的役割がそれぞれにあり同じニッチを持つ他種の生物はいないと説きました。

このように、エルトンが「棲み分け」という意味で提唱した「ニッチ」という概念。これが数十年の時を経て次第に「隙間」という意味に変わっていき、現代で一般的に使われるようになった…という背景があります。使用する範囲の裾野が広がるうちに意味に差異が生じるのは言葉の常ですね。

下記では、現代における日常会話、特にビジネスシーンを中心にした「ニッチ」の意味と使い方のご説明をしていくことと致しましょう。

「ニッチ」の使い方・例文

「ニッチ」の使い方を例文を使って見ていきましょう。

1.潜在的に需要があるニッチ市場に向けた、ピンポイントなニーズの商品を開発する。
2.大規模マーケットにおいて、他社が参入しにくい特定の市場で専門性の高い商品やサービスを提供することをニッチ戦略と言う。
3.マイナーで一風変わったニッチな趣味を持つ人に向けたビジネスマーケティングを行う。

上記例文中の1.と2.においては、「ニッチ」という言葉を「隙間」に置き換えると意味がよりわかりやすいかと思います。3.の例文は「マニアック」という言葉にも置き換えられるでしょう。

では、次は「ニッチ」を使ったさまざまなビジネス用語をご紹介していきましょう。

\次のページで「「ニッチ」の関連ビジネス語は?」を解説!/

「ニッチ」の関連ビジネス語は?

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「ニッチ」を使ったビジネス用語は多数存在します。それだけビジネスシーンで注目されている概念ということなのでしょうね。

「ニッチ戦略」

「隙間戦略」のこと。多数の企業が参入して鎬を削っているようなレッドオーシャン市場、いわゆる激戦区の中でピンポイントのニーズを狙う戦略です。一昔前は「隙間産業」なんて言い方もしていたようですね。

「ニッチ市場」

「隙間市場」のこと。上記の「ニッチ戦略」はすでに認知されている大きな市場の中でのピンポイントを狙っていく戦略ですが、「ニッチ市場」は規模が小さく誰も手をつけていない市場そのものを指します。

ニッチ市場は競合が少なく、専門性が高いのでコアで熱狂的な顧客を獲得しやすく顧客単価が高いのが特徴。ですが、そのマニアックさから「商品を作ってもあまり売れなくて採算が取れないかも知れない」というリスクもあります。

「ブルーオーシャン市場」

ビジネス用語において「ブルーオーシャン市場」は「未開拓市場」です。「ニッチ市場」同様、競合相手がいないと市場ではありますが、「ニッチ市場」と違うのはブルーオーシャンが「いまだかつてまだ誰も開拓していないまったく新しい分野」であること。パイオニアと言ってもいいでしょう。それに比べて「ニッチ市場」はある程度認知されている既存市場のこと。その中で既存商品やサービスでは満足できないニッチ層を狙っていくのが、下記でご紹介する「ニッチマーケティング」です。

「ニッチマーケティング」

専門性の高い小さな市場をテーマに行うマーケティング戦略のこと。既存の企業が進出していない市場で、どのような可能性とニーズがあるかを探っていく方法です。

「ニッチマーケティング」の対義語は「マスマーケティング」となります。これは対象者をピンポイントに絞り込まない、大量消費が見込める大きな市場が対象です。

「ニッチ商品」

ニッチ市場やニッチ層に向けた専門性の高い商品のこと。潜在的な需要があるけれども多くの企業が手を出していない、ニーズの隙間をぬったピンポイント商品を指します。

\次のページで「「ニッチ」の対義語は?」を解説!/

「ニッチ」の対義語は?

ビジネス用語としての「ニッチ」の対義語をご紹介します。

「メジャー」

規模が大きく、広く知られているさまを指します。ビジネスシーンでは「メジャー市場」「メジャーライン」など言いますね。

「マス」

大規模であることをあらわす言葉。「マス市場」などといった言い方をします。また、「マスメディア」「マスコミ」などは頻繁に使うでしょう。

「スモールマス市場」

関連語で「スモールマス市場」という言葉もあります。これはかつては大規模な市場だったマス市場がニーズの変化により縮小し、その末に残ったいくつかの小さな市場のこと。

今までヒットしていた安価で大量生産の商品を使っていた層が、クオリティやブランドイメージなどにこだわり出してその商品から離れてしまい、メーカーはそれを受け安価なイメージを刷新した高価な商品を売り出して離れた顧客の一部を再獲得する…なんてことはよくあります。これが「スモールマス市場」ですね。

「ニッチ」を使いこなそう

この記事では「ニッチ」の意味・使い方・類語などを説明しました。様々な使われ方をしていることがわかりましたね。特にビジネス、マーケティングの分野でよく使われる言葉かと思います。

昨今では海外の隙間市場を狙った「グローバルニッチ戦略」なんていう世界的なマーケティング手法もあり、注目が集まっているようです。隙間にチャンスあり、ということですね。

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国語言葉の意味

「ニッチ」の意味や使い方は?例文や類語をWebライターがわかりやすく解説!

この記事では「ニッチ」について解説する。

端的に言えばニッチの意味は「隙間」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

情報誌系の記者を10年経験したライター・にべこを呼んです。一緒に「ニッチ」の意味や例文、類語などを見ていきます。

ライター/にべこ

某大手情報誌の記者を務め、その後フリーライターに。ビジネス用語ならおまかせ。さまざまなシーンで使えるカタカナ言葉を噛み砕いて紹介。

「ニッチ」の意味や語源・使い方まとめ

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昨今、よく使われるようになった「ニッチ」という言葉。正しく意味を理解していますか?一言で「ニッチ」といっても様々な意味があります。さっそく語源や使い方を詳しく見ていきましょう。

「ニッチ」の意味は?

「ニッチ」には、次のような意味があります。

1. 西洋建築で、厚みのある壁をえぐって作ったくぼみ部分。彫像や花瓶などを置く。壁龕(へきがん)。
2.ある生物が生態系の中で占める位置。生態的地位。ニッチェ。
3.橋・トンネルなどのわきに設けられる非常用の退避空間。
4.《すきまの意》市場で、大企業が進出しない小規模な分野。また一般に、普通には気づきにくいところ。「ニッチ産業」「ニッチな趣味」

出典:デジタル大辞泉(小学館)「ニッチ」

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一番聞き覚えのあるのは、上記4.の「隙間」という意味ではないでしょうか。特に「隙間市場」「隙間産業」のように、ビジネスシーンで使うことが多いかと思います。

ですが実は、1.の建築用語としての使い方が本来です。例えばキッチンカウンターやリビングなどの壁面を利用して作る、収納や飾り棚などとして使う奥行きのさほど無いスペースなどのことを指しています。そしてその他に、進化論の研究過程から生まれた生物学用語としての使い方も。

建築用語→生物学用語→ビジネス用語といったように、段階を経て派生していったということですね。では、なぜこのようにまったく関連のない分野に跨って、「ニッチ」という言葉の意味が広がったのでしょう?それは「ニッチ」の語源を辿っていくとわかります。

「ニッチ」の語源は?

「ニッチ」は英語では「niche」と書き、ラテン語の「nidus(巣、巣窟)」が語源です。それが古代フランス語では、装飾物などを飾る壁面のくぼみをあらわす意味の言葉に転じました。

そして、イギリスの動物学者チャールズ・サザーラント・エルトン(1900ー1991)が執筆した「動物生態学(原題:「Animal Ecology」、1927年出版)」では、生物生態学用語として登場します。

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