君はほとんどの生物が明確にオスとメスに分かれているってことは知っていますね。ですが、不思議なことに1つの個体でオスとメスの両方を併せ持っている生き物も存在するんです。このような個体を雌雄モザイクというぞ。雌雄モザイクの個体は体の右半身と左半身どちらかがオス若しくはメスという風に、体に雄と雌を分ける明確な境界線があるんです。
今回は雌雄モザイクがなぜ起こるのかを、生物に詳しいライターオリビンと一緒に解説していきます。

ライター/オリビン

医学部の研究室で実験助手をしている。主な仕事は患者さんの遺伝子を解析すること。他には動物実験や細胞培養も行っている。

性別が決定される仕組み

image by iStockphoto

今回のテーマに入る前に、生き物の性別がどのようにして決まるのかを解説します。

遺伝子によって性が決定される場合

生き物の体細胞には核と呼ばれる器官があり、その中には染色体といって体の設計図の情報であるDNAが保管されている器官が収まっているんです。染色体には常染色体と性染色体の2つから構成されています。常染色体には生き物が生命活動を行うために必要な情報がおさめられているんですよ。そして、性染色体にはオスメス(男女)の性を決めるための情報がおさめられています。性染色体にはX染色体とY染色体があり、どのような組合せ化によって性が決まるのです。このように遺伝によって性が決定されることを遺伝性決定といいます。

環境によって性が決定される場合

image by iStockphoto

生き物によっては遺伝ではなく、その時にどのような環境に置かれていたかによって性が決定される生き物もいます。たとえば、ワニや亀は卵が低温で孵化するとメス、高温で孵化するとオスになるそうです。環境によって性が決定されることを環境性決定といいます。

雌雄モザイクとは

雌雄モザイクとは

image by Study-Z編集部

多くの生物は先ほど解説した通り、遺伝的若しくは環境的要因でオスかメスのどちらかの性を持ちます。よって、1つの個体に1つの性ということが常識です。しかし、まれに1つの個体のなかにオスの部分とメスの部分がはっきりとした境界線で区別できる形で混在する生き物が存在します。このような現象を雌雄モザイクと呼ぶのです。

雌雄モザイクがみられる生き物

image by iStockphoto

雌雄モザイクは昆虫やザリガニなどの甲殻類や節足動物にみられることが多いです。ごく稀に鳥類でも見られる場合があります。雌雄モザイクが発生する確率は10000分の1ともいわれ、めったに見ることはできません。

\次のページで「節足動物などで雌雄モザイクが起こる理由」を解説!/

節足動物などで雌雄モザイクが起こる理由

実は哺乳類では雌雄モザイクは起こりません。ではなぜ甲殻類や節足動物では雌雄モザイクになりえるのでしょうか。

発生の仕方の違いに原因がある

哺乳類の受精卵が分裂して成長するとき、初期にできた細胞はまだどの器官になるのかは決定されていません。分裂を繰り返していくうちにだんだんとどこが何になるのかが決まっていきます。

しかし、甲殻類や節足動物の場合は受精卵が最初に分裂して2個の細胞になった時に、その細胞が今後どこのどの器官になるのかが決定されているのです。

蝶の接合子の場合

image by iStockphoto

蝶の接合子(哺乳類でいう受精卵)が最初に分裂してできた2つの細胞は、それぞれ蝶の右半分と左半分になります。そして、2回目の分裂で生じた細胞は蝶の上半分と下半分に分化していくのです。細胞分裂では分裂前の細胞に含まれているDNAの情報が分裂後の細胞にも全く同じようにコピーされるのですが、最初の分裂でコピーミスが起きて性染色体に異常が起きてしまうと、蝶の体が部分的に雌雄が混在してしまいます。また、細胞分裂の途中でコピーミスが起きてしまうと体のごく一部のみ違う性の器官ができるのです。

雌雄モザイクの鶏の謎

雌雄モザイクは甲殻類と節足動物にみられる現象だと解説しましたが、鶏でも雌雄モザイクが現れる場合があります。確率も甲殻類などと同じ10000分の1です。雌雄モザイクの鶏は体の半分に大きなとさかといったオスの特徴を持っており、残りの半分はメスの特徴となっています。鶏も遺伝子の異常によって雌雄モザイクが起こっているのでしょうか?

鶏の雌雄モザイクの原因

image by iStockphoto

雌雄モザイクの鶏の細胞を解析したところ、全く異常はなかったそうです。しかし、体の半分は正常なオスの細胞でできており、体の半分は正常なメスの細胞でできている部分は異常ですよね。実は、鶏の場合1つの卵の中にオスとメスの胚が融合することで形成されたといわれています。

哀川翔さんが羽化させた雌雄モザイクのカブトムシ

image by iStockphoto

昆虫愛好家であり俳優の哀川翔さんは2015年に雌雄モザイクのカブトムシを2匹羽化させたことで大きくニュースに取り上げられました。10000万分の1の確率である雌雄モザイクの個体を2匹同時というのは非常にまれです。哀川さんはこれまで2万匹以上のカブトムシを羽化させているそうなので、今後も雌雄モザイクのカブトムシを羽化させることができるかもしれませんね。

\次のページで「雌雄モザイクと雌雄同体との違い」を解説!/

雌雄モザイクと雌雄同体との違い

雌雄モザイクはしばしは雌雄同体と混同されます。雌雄同体は1つの個体にオスの生殖器とメスの生殖器を両方もっている生き物のことです。雌雄同体として有名な生き物はカタツムリやミミズ、アメフラシですね。雌雄同体の生き物が1つの個体にオスとメスの生殖器が両方そろっているからと言って、交尾をしないわけではありません。カタツムリやミミズは2匹が並んでお互いの精子を交換することで受精させるそうです。

雌雄モザイクの個体はオスとメスどちらとしてふるまうのか

クロマルハナバチも雌雄モザイクとなる生き物の一つです。玉川大学の農学博士によると、ある雌雄モザイクのクロマルハナバチは体の右上半分がメスで残りがオスの体でした。この個体はメスに対して猛烈に接近しアピールしますが、交尾直前でやめてしまうそうです。

雌雄モザイクのポイントは遺伝子のコピーミス

性別は性染色体によって決まります。性染色体にはX染色体とY染色体があり、両親からどちらを引き継ぎどのような組み合わせになるかで雌雄が決まるのです。また、染色体の組み合わせの他に環境によって雌雄が決まるパターンもあります。爬虫類は孵化する環境によって雌雄が決まるため、飼育者は孵化温度を調整して狙った性別を得ることもあるのです。雌雄モザイクは同じ個体内に明確な境界線を持って雌型の部分と雄型の部分が共存していることをいいます。節足動物や甲殻類によく見られ、雌雄モザイクの個体が高額で取引されることもあるんですよ。

雌雄モザイクが起こる原因で最も多いものが遺伝子のコピーミスです。しかも胚の発生途中でコピーミスが起こるため部分的に雄と雌に分かれてしまいます。ザリガニの雌雄モザイク個体は専門店でよく見かけますよ。また、生き物イベントにはそのようなレアな個体を出品している業者さんがいることもあるため、実際に雌雄モザイクの個体を見たければ生き物の即売会に参加するのも一つの方法ですね。

イラスト使用元:いらすとや

" /> 雌雄モザイクって何?1つの個体に雌雄両方が共存する?医学部の実権助手が5分でわかりやすく解説 – Study-Z
理科生物細胞・生殖・遺伝

雌雄モザイクって何?1つの個体に雌雄両方が共存する?医学部の実権助手が5分でわかりやすく解説

君はほとんどの生物が明確にオスとメスに分かれているってことは知っていますね。ですが、不思議なことに1つの個体でオスとメスの両方を併せ持っている生き物も存在するんです。このような個体を雌雄モザイクというぞ。雌雄モザイクの個体は体の右半身と左半身どちらかがオス若しくはメスという風に、体に雄と雌を分ける明確な境界線があるんです。
今回は雌雄モザイクがなぜ起こるのかを、生物に詳しいライターオリビンと一緒に解説していきます。

ライター/オリビン

医学部の研究室で実験助手をしている。主な仕事は患者さんの遺伝子を解析すること。他には動物実験や細胞培養も行っている。

性別が決定される仕組み

image by iStockphoto

今回のテーマに入る前に、生き物の性別がどのようにして決まるのかを解説します。

遺伝子によって性が決定される場合

生き物の体細胞には核と呼ばれる器官があり、その中には染色体といって体の設計図の情報であるDNAが保管されている器官が収まっているんです。染色体には常染色体と性染色体の2つから構成されています。常染色体には生き物が生命活動を行うために必要な情報がおさめられているんですよ。そして、性染色体にはオスメス(男女)の性を決めるための情報がおさめられています。性染色体にはX染色体とY染色体があり、どのような組合せ化によって性が決まるのです。このように遺伝によって性が決定されることを遺伝性決定といいます。

環境によって性が決定される場合

image by iStockphoto

生き物によっては遺伝ではなく、その時にどのような環境に置かれていたかによって性が決定される生き物もいます。たとえば、ワニや亀は卵が低温で孵化するとメス、高温で孵化するとオスになるそうです。環境によって性が決定されることを環境性決定といいます。

雌雄モザイクとは

雌雄モザイクとは

image by Study-Z編集部

多くの生物は先ほど解説した通り、遺伝的若しくは環境的要因でオスかメスのどちらかの性を持ちます。よって、1つの個体に1つの性ということが常識です。しかし、まれに1つの個体のなかにオスの部分とメスの部分がはっきりとした境界線で区別できる形で混在する生き物が存在します。このような現象を雌雄モザイクと呼ぶのです。

雌雄モザイクがみられる生き物

image by iStockphoto

雌雄モザイクは昆虫やザリガニなどの甲殻類や節足動物にみられることが多いです。ごく稀に鳥類でも見られる場合があります。雌雄モザイクが発生する確率は10000分の1ともいわれ、めったに見ることはできません。

\次のページで「節足動物などで雌雄モザイクが起こる理由」を解説!/

次のページを読む
1 2 3
Share: