タイムパラドックスという言葉を聞いたことがあるでしょうか。これは過去にタイムトラベルして歴史を変えてしまった時に生じる矛盾のことです。例えば、10年前から現在まで大事に使っている傘を持って5年前にタイムスリップし、5年前の傘を壊してしまったら持って行った傘はどうなるのか?という問題。5年前に傘が壊れていたら捨ててしまうから現在まで残っていないであろう。ということで、傘を壊した瞬間に持って行った傘がそこに存在すると矛盾が生じる。この記事では、その矛盾について唱えられている説をいくつか紹介しよう。

ライター/R175

とある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許持ち。教科書には出てこない日常の身近な現象に結びつけて分かりやすい解説を強みとする。

1.タイムパラドックスとは

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過去にタイムスリップして、歴史を変えてしまうことで起きる矛盾のことです。よく言われるのは、両親殺しのパラドックスや自分殺しのパラドックスなどががりますが、この記事では、物騒な表現を避けるために「傘壊しのパラドックス」で解説したいと思います。10年以上大事に使っている傘を持って5年前にタイムスリップし、「5年前の傘」を壊してしまったら持って行った「現在の傘」が壊れず存在していると矛盾が生じますね。

一部のSF作品では、そういった矛盾を解決するため、歴史を変えた瞬間矛盾を取り消すため「現在」が変化するといった描写が見られます。傘の例でいうなら、5年前の世界で傘を壊した瞬間、持って行った傘が消滅するといった現象です。そう言った現象以外にも、矛盾が起きないように唱えられている節に以下のようなものがあります。

2.時間順序保護説~過去へのタイムスリップは不可能?

イギリスの理論物理学者、スティーヴン・ホーキング氏が唱えた「時間的順序保護仮説」によれば、過去へのタイムトラベルは不可能とされています。その理由は時空を抜け出してタイムスリップしようと1つの手段として、「時間的閉曲線」という考え方が必要になりますが、これが存在するためには物質のエネルギーが無限大になるというもの。

時間も、縦・横・高さといった位置空間と同じ「座標」として考えたとき、時間座標を動かせるような状態にするには物質が無限のエネルギーが持っていなければならないというイメージですね。

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未来へのタイムスリップは可能?

未来へのタイムスリップは超高速移動することで実現可能という考え方もあります。時間遅れと言って、光速度(秒速3億メータ)に近い速度で移動すると、「時間遅れ」が発生、外界(静止系)で1秒経っていても移動する系では0.9秒あるいは0.8秒、0.1秒しか経っていないといったことが起こるのです。

理論上、光速度に到達すれば時間は完全に止まります。外界でどれだけ時間が経過しようとも移動系では、時間が全く経過しないわけです。この原理を使えば、例えば外界で5年経過するまで光速度で移動し続けていれば外界では5年経過しているのに移動系では全く時間が経過していない。ということであたかも5年後にタイムスリップしたかのようになるわけです。

ただし、これは未来一方向のみであり、一旦に未来に行ったあと帰ってくることはできません。歳をとらずにただただ時間の経過を待っているようなイメージですね。

時間遅れについては高校物理で扱う「相対速度」の概念から導くことができます。以下、その解説に移りましょう。

相対速度

相対速度

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同じ動きを観測していても、観測する基準によって速度が変わってきます。相対速度は、任意の観測基準(静止系とは限らない)から見た速度であり、絶対速度は静止系から観測しますが、相対速度の観測する基準は任意です(動いている系から観測してもよい)。

例えば、Aさんが時速21kmで壁と平行に走りながら時速72kmで壁に向かってボールをの相対速度を考えましょう。動いているAさんからみるとボールの速度は時速72kmですね。

一方、止まっている人から見たらボールは壁に真っ直ぐ向わずAさんと共に横方向に時速21kmの成分も加わり、その速度は三平方の定理から時速75kmとなります。このように、同じ動きを捉えていても系(観測する基準)によって速度は異なるものです。

光速度不変の原理

時間遅れを考える上でのルールは「光速度はどんな系から観測しても変わらない」ということ。普通は、上記のように観測する基準が変わると、物体(例えばボール)の相対速度が変わりますが、光を観測する場合はどの観測基準からであってもその速度は一定というルールです。

上記の例で、Aさんから見た時より静止している人から見た時の方がボールの移動距離は長くなっていますがその分速度も速くなっていて、壁に到達するまでの時間はAさんから見ても静止している人からも見ても同じと考えますね。

しかし、光を観測する場合は速度は同じというルールがあります。上記の例なら、Aさんから見ても、静止している人からみてもボールは時速72kmでなければなりません。しかし、静止している人から見たら移動距離が長くなっている。どこで埋め合わせをするのか。経過時間で埋め合わせとします。静止している人から観測した方が、ボールが壁にぶつかるまでに長く時間を要するように見えるという考え方をするのです。

異なる系から見た移動距離と時間遅れ

異なる系から見た移動距離と時間遅れ

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前項で壁までの距離が24mだったとしましょう。ボールが壁にぶつかるまでの移動距離は何mでしょうか?

Aさんから観測するとボールは真っ直ぐ壁に向かって行ったように観測されるためボールの移動距離は24m。一方静止系から観測するとボールは斜めに投げられたように観測されるため作図よりその移動距離は25mと求まりますね。

光の場合、移動距離が長く観測される静止系でも、短く観測される移動系でも光速度は変わらない(というルールがる)ため、どの系から観測しても速度は同じになるため、静止系では光が移動する時間が長く移動系では短くなります。移動系ではあまり時間が経過しない=時間遅れが発生するわけです。詳しい導出は以下に示します。

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時間遅れの原理で過去へのタイムスリップを考えると

上記の時間遅れの式から、時間が逆行するような条件を考えてみましょう。移動系の経過時間を負の値にするのは不可能、つまり時間の逆行は出来ないことが分かります。時間遅れの原理による過去へのタイムスリップアは説明が成り立たないようです。

ただし、2乗して-1になる数を虚数単位iのように0.5乗して負の数になる数を定義し説明できれば話は別ですが。

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タイムパラドックスを解決する考え方

さてタイムパラドックスに話を戻しましょう。上記のように、そもそも過去へのタイムスリップが不可能という考え方も1つですが、それ以外には以下のような考え方もあります。

事後選択説

仮に過去に戻ることが出来たとしても、矛盾が起きないような選択肢しかできないという考え方です。そもそも、過去へのタイムトラベルをするためには時間的閉曲線という概念を成立させる必要があります。パラドックスを起こしてしまうと、そもそも時間的閉曲線が成立しなくなるため、過去に戻って歴史を変えようとしても矛盾が起きないようすべて出来事が修正されるという考え方が事後選択説です。

例えば、感染症のパンデミックが起きる前にタイムスリップして対策をしようと試みても何らかの干渉が入り、結局失敗するというようなもの。パンデミックが起きるという情報をそのトラベラーが知っているという事象に矛盾を生じさせないように出来事が起きるわけですね。

パラレルワールド

日本語でいう多世界説で、今我々が見ている世界の他に同時刻に無数の世界が存在するという考え方です。それもそんな気がしますね。ビリヤードの玉を全く同じ配置にして打ってみるということを複数回繰り返しましょう。これはビリヤードを打つ前の過去に行って打ち直す(歴史を変える)ことに相当します。ビリヤードを打ち直すと、その当り方は打つたびに変わることでしょう。

1回目に打った時の挙動は偶然発生したのもので、確率論で考えると他の当り方も無数に存在することでしょう。他の当り方は見ることは出来ませんが、確かに存在しているものと考えることができ、それがパラレルワールドです。

こういったモデルで考えると、A君が5年前に行って昔から大事にしている傘を壊してしまっても、持って行った傘には変化がありません。タイムスリップした世界はその時点で傘が壊れてしまった場合の世界となり、それから5年が経過してもA君が知っている現在とは異なる現実となるわけです。

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【そもそも「あなたが知っている過去」には行けない?】

パラレルワールドの考え方でいくと、「~だった場合の世界」、「~だった場合の世界」というのが無数に存在するわけですが、仮にA君が5年前にタイムスリップしたとして「A君が知っている5年前の世界」に行けるでしょうか。A君が知っている5年前には「少し年老いたA君が突然現れる」という事象は発生していません。とすれば、A君がタイムスリップ出来る5年前はA君が知っている5年前ではなく、別の世界つまり「少し年老いてA君が突然現れた」場合の世界になり、A君が知っている世界には行けないことでしょう。

そう考えると、5年前に行って自分が居るかどうかは分かりません。生命の誕生は偶然に偶然が重なった結果であり、もしかしたらトラベラーがタイムスリップした先が「自分が産まれなかった場合」の世界かもしれません。また同様に、タイムスリップした先に両親が居るかどうかも分かりませんし、自分の家が建っているはずの場所は別の建物かもしれません。そもそも地球が灼熱のマグマに包まれ生命が宿るような環境になっていないかもしれません。そう考えると、怖くて過去に行けませんね。

タイムパラドックスは何らかの解決されるかもしれない

過去に行って歴史を変えてしまうことで起きる矛盾(タイムパラドックス)は何らかの理屈で解決される可能性があります。1つは、そもそも過去へのタイムスリップは不可能(時間的順序保護仮説)という考え方、もう一つは矛盾を生じさせることが出来ない(事後選択説)という考え方、そしてもう一つは歴史を変えてしまっても別の歴史(パラレルワールド)が出来るだけで私たちが知っている歴史には影響しないという考え方です。

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物理理科統計力学・相対性理論

タイムパラドックスって何?タイムトラベルした時に何が起こるの?理科教員を持つライターがわかりやすく解説

未来へのタイムスリップは可能?

未来へのタイムスリップは超高速移動することで実現可能という考え方もあります。時間遅れと言って、光速度(秒速3億メータ)に近い速度で移動すると、「時間遅れ」が発生、外界(静止系)で1秒経っていても移動する系では0.9秒あるいは0.8秒、0.1秒しか経っていないといったことが起こるのです。

理論上、光速度に到達すれば時間は完全に止まります。外界でどれだけ時間が経過しようとも移動系では、時間が全く経過しないわけです。この原理を使えば、例えば外界で5年経過するまで光速度で移動し続けていれば外界では5年経過しているのに移動系では全く時間が経過していない。ということであたかも5年後にタイムスリップしたかのようになるわけです。

ただし、これは未来一方向のみであり、一旦に未来に行ったあと帰ってくることはできません。歳をとらずにただただ時間の経過を待っているようなイメージですね。

時間遅れについては高校物理で扱う「相対速度」の概念から導くことができます。以下、その解説に移りましょう。

相対速度

相対速度

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同じ動きを観測していても、観測する基準によって速度が変わってきます。相対速度は、任意の観測基準(静止系とは限らない)から見た速度であり、絶対速度は静止系から観測しますが、相対速度の観測する基準は任意です(動いている系から観測してもよい)。

例えば、Aさんが時速21kmで壁と平行に走りながら時速72kmで壁に向かってボールをの相対速度を考えましょう。動いているAさんからみるとボールの速度は時速72kmですね。

一方、止まっている人から見たらボールは壁に真っ直ぐ向わずAさんと共に横方向に時速21kmの成分も加わり、その速度は三平方の定理から時速75kmとなります。このように、同じ動きを捉えていても系(観測する基準)によって速度は異なるものです。

光速度不変の原理

時間遅れを考える上でのルールは「光速度はどんな系から観測しても変わらない」ということ。普通は、上記のように観測する基準が変わると、物体(例えばボール)の相対速度が変わりますが、光を観測する場合はどの観測基準からであってもその速度は一定というルールです。

上記の例で、Aさんから見た時より静止している人から見た時の方がボールの移動距離は長くなっていますがその分速度も速くなっていて、壁に到達するまでの時間はAさんから見ても静止している人からも見ても同じと考えますね。

しかし、光を観測する場合は速度は同じというルールがあります。上記の例なら、Aさんから見ても、静止している人からみてもボールは時速72kmでなければなりません。しかし、静止している人から見たら移動距離が長くなっている。どこで埋め合わせをするのか。経過時間で埋め合わせとします。静止している人から観測した方が、ボールが壁にぶつかるまでに長く時間を要するように見えるという考え方をするのです。

異なる系から見た移動距離と時間遅れ

異なる系から見た移動距離と時間遅れ

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前項で壁までの距離が24mだったとしましょう。ボールが壁にぶつかるまでの移動距離は何mでしょうか?

Aさんから観測するとボールは真っ直ぐ壁に向かって行ったように観測されるためボールの移動距離は24m。一方静止系から観測するとボールは斜めに投げられたように観測されるため作図よりその移動距離は25mと求まりますね。

光の場合、移動距離が長く観測される静止系でも、短く観測される移動系でも光速度は変わらない(というルールがる)ため、どの系から観測しても速度は同じになるため、静止系では光が移動する時間が長く移動系では短くなります。移動系ではあまり時間が経過しない=時間遅れが発生するわけです。詳しい導出は以下に示します。

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