この記事では「手にかける」について解説する。

端的に言えば、手にかけるの意味は「自分で直接行う」ことです。しかし、意味はそれだけではない。「手にかける」には相反する複数の意味があるぞ。

日本放送作家協会会員でWebライターのユーリを呼んです。一緒に「手にかける」の意味や例文、類義語などを見ていきます。

ライター/ユーリ

日本放送作家協会会員。シナリオ、エッセイをたしなむWebライター。時代によって変化する言葉の面白さ、奥深さをやさしく解説する。

「手にかける」の意味・語源・例文

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「手にかける」という言葉は、驚くような正反対の意味を持っていますよ。

「手にかける」の意味

ではさっそく「手にかける」の意味を辞書でチェックしましょう。

1.自分で直接行う。
2.自分で世話をする。手塩にかける。
3.人に処理などをたのむ。
4.自分の手で人を殺す。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「手にかける」

1番目は「自分で直接行う」という意味です。「彼が手にかけた作品」という使い方をします。2番目は「自分で世話をする」という意味ですね。「手にかけて育てた娘」などと表現します。

3番目は、「人に処理などを頼む」という意味です。「医者の手にかけることなく治った」という使い方ですね。4番目は「自分の手で人を殺す」という意味。「実の娘を手にかけた」などと表現します。2とまったく逆の意味ですね。

なぜ相反する二つの意味で使われるようになったのかはわかりませんが、「自分で直接行う」ことは共通しています。4の意味で使うことはまれなので、間違えることはないと思いますが、どの意味で使われているかは、前後の文脈から判断しましょう。

「手にかける」の語源は?

古語辞典を見ると「手に掛(か)く」に下記の意味が載っています。

1.自分の思うようにする。手塩にかける。世話をする。
2.自分の手で殺す。

出典:学研全訳古語辞典(学研)「手に掛く」

昔から、「世話をする」と「自分の手で殺す」という二つの意味で使われていたようですね。「手にかける」の語源はよくわかりませんが、源氏物語にも使われていることから、かなり古くからあった言葉であることがわかります。

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手にかくるものにしあらば藤の花松よりまさる色を見ましや

出典:『源氏物語』四十四帖「竹河」

「竹河」は五十四帖ある『源氏物語』の巻名の一つ。光源氏の息子・薫(かおる)は玉鬘(たまかづら)の娘である大君(おおいきみ)に想いを寄せていましたが、かないませんでした。現代語訳は「自分の思うようにすることができるならば、藤の花の、松に勝る美しい色をただ見ていただろうか」です。「手にかける」「自分の思うようにする」という意味で使っていますね。

「手にかける」の例文

次に「手にかける」の例文で使い方を見ていきましょう。

1.新しいレストランは、わが設計事務所の所長自らが手にかけた設計で、依頼主も大変気に入ったようだ。
2.母が手にかけて育てた玉簾(たますだれ)が今年も咲いた。小さな白い花びらに黄色いおしべの花は、夏の到来をお知らせしているかのようだ。
3.彼女は離婚してからずっとシングルマザーとして子どもを育ててきた。パートの仕事をリストラされて再就職先も見つからず、いよいよ困窮した彼女はわが子を手にかけて無理心中しようとした。

最初の例文は、所長が「自分で直接行った」設計という意味です。2番目の例文は、「手塩にかける」という意味で使っていますね。3番目は、「自分の手で殺す」という意味の例文です。

「手にかける」の類義語

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「手にかける」の類義語を見てみましょう。

「手塩にかける」:みずから世話をして育てる

「手塩にかける」「みずから世話をして大切に育てる」という意味です。しかし、「手にかける」とは語源が異なります。「手塩」とは、お膳に添えて、食べる人が自由に使えるようにした塩のこと。昔は、料理の味を手塩で自分好みに調えていたのです。そこから転じて「みずから世話をする」という意味あいになりました。

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「精魂(せいこん)を込める」:たましいを込める

「精魂」とは「たましい」のこと。「精魂を込める」「自分の魂を込めるように心を込めて物事に打ち込む」ことです。「精魂を傾ける」ともいいます。「精根尽き果てた」という場合は「精魂」ではなく「精根」、つまり精力と根気です。混同しないように注意しましょう。

「手間暇(てまひま)をかける」:労力と時間をかける

「手間」は労力、「暇」は時間のことです。「手間暇をかける」「時間と労力を費やして何かを作る」こと。「手間暇を惜しまず」ともいいます。

「丹精する」:真心を込めて行う

「丹精」とは「真心を込めて行う」こと。「父が丹精した庭」「母が丹精して育てた野菜」といった使い方をしますよ。

「手にかける」の反対語

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「手にかける」の反対語も見てみましょう。

「手を抜く」

「手」という言葉には「仕事」「作業」や「手数」「手間」という意味があります。「手間」を「抜く」ので、「手を抜く」「いいかげんな仕事をする」「必要な手間を省く」という意味です。「自分で世話をする」という意味の反対語ですね。「手」も辞書で調べてみると非常に多くの意味がある言葉ですよ。

「手にかける」の英訳

英語では「手にかける」はどのように表現するのでしょうか。

「take care of」:~の世話をする

「take care of」には「~の世話をする」「~を処理する」などの意味があります。

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Please take care of a sick child.
病気の子どもの面倒を見てください。

「take care of the plants」は「植物の世話をする」するという意味です。「Thank you very much for taking care of my children.」は子どもを預かってもらったときのお礼の言葉。意味は「子どもがお世話になりました」ですね。

「kill someone with one's own hands」:自分の手で殺す

「kill someone with one's own hands」は「自分の手で殺す」ということです。

I’ll kill you with my own hands.
この手であなたを殺す。

「own」は「自分の」「自分自身の」という意味があり、よく「my own(私のもの)」「his own(彼のもの)」の形で用いられます。

複数の意味を理解して「手にかける」を使いこなそう!

この記事では、「手にかける」の意味や例文、類義語などを解説しました。

 「手をかける」には「自分で直接行う」「自分で世話をする」「人に処理などを頼む」「自分の手で人を殺す」という複数の意味があります。「自分で世話をする」と「自分の手で殺す」は、まったく逆の意味ですが、共通するキーワードは「自分で直接行う」ことです。前後の文脈からどの意味で使われているかを理解し、「手にかける」を使いこなせるようにしましょう。

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国語言葉の意味

正反対の意味がある!「手にかける」の例文・類義語などを日本放送作家協会会員がわかりやすく解説

「精魂(せいこん)を込める」:たましいを込める

「精魂」とは「たましい」のこと。「精魂を込める」「自分の魂を込めるように心を込めて物事に打ち込む」ことです。「精魂を傾ける」ともいいます。「精根尽き果てた」という場合は「精魂」ではなく「精根」、つまり精力と根気です。混同しないように注意しましょう。

「手間暇(てまひま)をかける」:労力と時間をかける

「手間」は労力、「暇」は時間のことです。「手間暇をかける」「時間と労力を費やして何かを作る」こと。「手間暇を惜しまず」ともいいます。

「丹精する」:真心を込めて行う

「丹精」とは「真心を込めて行う」こと。「父が丹精した庭」「母が丹精して育てた野菜」といった使い方をしますよ。

「手にかける」の反対語

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「手にかける」の反対語も見てみましょう。

「手を抜く」

「手」という言葉には「仕事」「作業」や「手数」「手間」という意味があります。「手間」を「抜く」ので、「手を抜く」「いいかげんな仕事をする」「必要な手間を省く」という意味です。「自分で世話をする」という意味の反対語ですね。「手」も辞書で調べてみると非常に多くの意味がある言葉ですよ。

「手にかける」の英訳

英語では「手にかける」はどのように表現するのでしょうか。

「take care of」:~の世話をする

「take care of」には「~の世話をする」「~を処理する」などの意味があります。

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