今回の記事では「開放血管系」について学んでいこう。

動物の体液循環に重要な開放血管系を知るためには、対照的な用語である「閉鎖血管系」についても知らなくてはいけない。せっかくなので、「血管系」全体を大まかに学んでいこうじゃないか。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

血管系とは

まず、血管系とは血液の通過する器官である「心臓と血管」をまとめた呼び名です。からだの隅々まで体液を循環させる仕組みの一つですね。

脊椎動物の場合はリンパ液のながれるリンパ系と合わせて循環系とよばれたりもします。無脊椎動物は血液とリンパ液の区別がないので、血管系は循環系とほぼ同じ意味です。

Circulatory System en.svg
LadyofHats, Mariana Ruiz Villarreal - Did myself based in the information and diagrams found in: "gray's anatomy" thirty sixth edition by Williams & Warwick. "Sobotta Atlas der Anatomie des menschen" volume 1 and 2 18.Auflage by Urban & Schwarzenberg "Atlas fotografico de anatomia del cuerpo humano" 3a edicion by Yokochi, Rohen & Weinreb multiple websites included:[1], [2], [3], [4], [5], [6], and others., パブリック・ドメイン, リンクによる

血管系は生物によって大きく2種類に分けることができます。それが、閉鎖血管系開放血管系です。今回のテーマである開放血管系を理解するには、閉鎖血管系との違いをおさえることが重要なので、閉鎖血管系についても先に少しご紹介しましょう。

閉鎖血管系

閉鎖血管系(へいさけっかんけい)は、脊椎動物や無脊椎動物の一部にみられるタイプの血管系です。心臓とそれにつながる血管には切れ目がなく、血液は完全に閉じた回路の中を流れます

私たち人間の血管系も、もちろんこの閉鎖血管系です。心臓というポンプの力で押し出された血液は動脈を流れ、からだの末端で毛細血管の中を通過し、静脈に回収されてまた心臓に戻ります。

image by iStockphoto

この血管系では、血しょうの一部が血管から染み出て、からだの一つ一つの細胞に栄養や酸素を運搬します。血管から組織中へ移動した血しょうの呼び名が組織液です。

組織液は老廃物などを回収し、毛細血管へ、そして静脈へ回収されていきますが、一部はリンパ管を流れる体液、リンパ液になります。リンパ液には生体防御(免疫)で重要な役割を果たす白血球のなかま、リンパ球が多く存在しているのです。リンパ管はヒトの場合、鎖骨のあたりで静脈に合流し、血液に戻ります。

無脊椎動物で閉鎖血管系をもっているのは、環形動物紐型動物、軟体動物の頭足類などです。

環形動物にはミミズやヒル、ゴカイなどがふくまれます。頭足類で代表的なのはタコやイカですね。紐型動物というのは少し聞きなれない名前かと思いますが、ヒモムシとよばれる平べったいミミズのような動物を含むグループです。

\次のページで「開放血管系」を解説!/

開放血管系

開放血管系(かいほうけっかんけい)は、動脈と静脈をつなぐ毛細血管が存在しない血管系です。動脈を流れた血液は組織中に流出し、組織の間を流れます。その後、静脈にあたる血管に集まるか、または直接心臓に戻り、再度体内を循環するのです。

「体内で血管が切れている」なんて、私たちの感覚からすれば驚くべきことですが、一部の無脊椎動物はこの開放血管系でうまく体液を循環させています。

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開放血管系をもつのは軟体動物の頭足類以外の仲間や、節足動物などです。

具体的な例をあげましょう。軟体動物に分類される動物の中でも貝やウミウシ、カタツムリなどがこれにあたります。また、節足動物というのは一般的な昆虫類やクモ、エビ、カニなどがふくまれますね。

image by Study-Z編集部

血液と血リンパ

前述の通り、脊椎動物は血管系のほかにリンパ系をもち、リンパ液がその中を流れています。ところが、無脊椎動物の身体にはリンパ管などのリンパ系がなく、血液・組織液・リンパ液の違いが明確ではありません

このため、無脊椎動物の血液は「血リンパ」とよばれることがあります。脊椎動物でいうところの血液の役割だけでなく、組織液やリンパ液の役割も果たす体液だからです。

image by iStockphoto

さて、ここで思い出してください。開放血管系の動物には脊椎動物がいませんでした。このため、「開放血管系の動物の体内には血リンパが流れている」などといわれることがあります。

\次のページで「開放血管系と閉鎖血管系、どちらが良いのか?」を解説!/

開放血管系と閉鎖血管系、どちらが良いのか?

開放血管系と閉鎖血管系の話をするとき、必ずといっていいほど「それぞれのメリット・デメリット」や「どちらの方がよい仕組みなのか」といった質問を受けます。筆者個人としては「いずれの血管系も進化の中で洗練されてきたものであり、どちらが良いも悪いもない」とお伝えしたいところなのですが…一般的によく言われる開放血管系と閉鎖血管系の特徴をご紹介しておきましょう。

閉鎖血管系の方が効率が良い?

一般的に、閉鎖血管系の方が開放血管系よりも栄養や老廃物、酸素、二酸化炭素の交換効率が良いといわれています。閉鎖血管系では血液が基本的に一方通行であるのに対し、開放血管系では組織中で古い血液と新しい血液が混ざったり、古い血液が逆流してしまう可能性があるからです。

せっかく栄養や酸素をたくさん含んだ血液が動脈から送られても、それがうまく組織中を流れなければもったいないですよね。

開放血管系では強い心臓をつくらなくてよい?

開放血管系のメリットとしてあげられるのが、強い心臓をつくる必要がないという点です。閉鎖血管系の場合、血液は毛細血管を通過しますが、この毛細血管は非常に細いだけでなく、細かく枝分かれしているため、血液を流すには相当の圧力(血圧)を必要とします。そのため、心臓で力強く血液を送り出す必要があるのです。

その一方、開放血管系では血液が毛細血管のような細い管を通らず組織全体に広がっていくため、弱い力の心臓でも大丈夫なのだといいます。また、大量の毛細血管をつくらなくてもよいという点も低コストといえるでしょう。

生物の身体の仕組みを比較する”比較解剖学”

今回は血管系という構造に注目して、様々な生物やその違いをご紹介してきました。今回のように、からだの構造や機能を生物種間で比較する学問を”比較解剖学”といいます。「生き物によって体のつくりが違うのは当たり前…」とおもいきや、かけ離れたように見える生き物同士でも、似ているところがたくさんあるのです。

異なる生物の間にある共通点と相違点を洗い出し、「どうしてそうなったのか?」「この違いに何の意味があるのか?」を考えることは、生物の進化を探る研究にもつながります。興味のある方はぜひ、色々な点に着目して生物同士を比べてみてください。新たな発見があるかもしれませんよ。

イラスト提供元:いらすとや

" /> 「開放血管系」とは?閉鎖血管系との違いは?どんな動物が持つ?現役講師がわかりやすく解説 – Study-Z
理科生物細胞・生殖・遺伝

「開放血管系」とは?閉鎖血管系との違いは?どんな動物が持つ?現役講師がわかりやすく解説

今回の記事では「開放血管系」について学んでいこう。

動物の体液循環に重要な開放血管系を知るためには、対照的な用語である「閉鎖血管系」についても知らなくてはいけない。せっかくなので、「血管系」全体を大まかに学んでいこうじゃないか。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらうぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

血管系とは

まず、血管系とは血液の通過する器官である「心臓と血管」をまとめた呼び名です。からだの隅々まで体液を循環させる仕組みの一つですね。

脊椎動物の場合はリンパ液のながれるリンパ系と合わせて循環系とよばれたりもします。無脊椎動物は血液とリンパ液の区別がないので、血管系は循環系とほぼ同じ意味です。

Circulatory System en.svg
LadyofHats, Mariana Ruiz Villarreal – Did myself based in the information and diagrams found in: “gray’s anatomy” thirty sixth edition by Williams & Warwick. “Sobotta Atlas der Anatomie des menschen” volume 1 and 2 18.Auflage by Urban & Schwarzenberg “Atlas fotografico de anatomia del cuerpo humano” 3a edicion by Yokochi, Rohen & Weinreb multiple websites included:[1], [2], [3], [4], [5], [6], and others., パブリック・ドメイン, リンクによる

血管系は生物によって大きく2種類に分けることができます。それが、閉鎖血管系開放血管系です。今回のテーマである開放血管系を理解するには、閉鎖血管系との違いをおさえることが重要なので、閉鎖血管系についても先に少しご紹介しましょう。

閉鎖血管系

閉鎖血管系(へいさけっかんけい)は、脊椎動物や無脊椎動物の一部にみられるタイプの血管系です。心臓とそれにつながる血管には切れ目がなく、血液は完全に閉じた回路の中を流れます

私たち人間の血管系も、もちろんこの閉鎖血管系です。心臓というポンプの力で押し出された血液は動脈を流れ、からだの末端で毛細血管の中を通過し、静脈に回収されてまた心臓に戻ります。

image by iStockphoto

この血管系では、血しょうの一部が血管から染み出て、からだの一つ一つの細胞に栄養や酸素を運搬します。血管から組織中へ移動した血しょうの呼び名が組織液です。

組織液は老廃物などを回収し、毛細血管へ、そして静脈へ回収されていきますが、一部はリンパ管を流れる体液、リンパ液になります。リンパ液には生体防御(免疫)で重要な役割を果たす白血球のなかま、リンパ球が多く存在しているのです。リンパ管はヒトの場合、鎖骨のあたりで静脈に合流し、血液に戻ります。

無脊椎動物で閉鎖血管系をもっているのは、環形動物紐型動物、軟体動物の頭足類などです。

環形動物にはミミズやヒル、ゴカイなどがふくまれます。頭足類で代表的なのはタコやイカですね。紐型動物というのは少し聞きなれない名前かと思いますが、ヒモムシとよばれる平べったいミミズのような動物を含むグループです。

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