物理のうち「熱分野」でしばしば出てくる比熱の問題で出てくる。比熱とは質量1gの物質を温度1℃あたり加熱するのに必要なエネルギーですが、ここで出てくる「比熱」の値は物質によって様々です。例えばアルミなら0.91[J/K・g]、鉄なら0.44[J/K・g]、水なら約4.2[J/K・g]。しかしこれらの値、(体積一定なら)原子の物質量辺りで見るとどの元素でも理論上同じ値を取る(もちろんすべてに当てはまるのではなく例外もある)。この理由について理科の教員免許を持ったR175と一緒に物理の種々の法則・定理をおさらいしながら解説していこう。

ライター/R175

とある国立大の理系出身。理科の教員免許持ち。共通テストでも重視される「日常の身近な現象との関連性」を重視した解説を強みとする。

1.物質と比熱

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冒頭で述べた通り、物理の問題で通常出てくるのは質量あたりの比熱で、これは物質ごとに異なるため、「物質ごとに比熱は異なる値」というイメージを持ちがちです。しかし実は、比熱は体積一定化の変化でかつ原子の物質量(モル)あたりで見ると理論上、原子の種類によらずどの物質も一定ということが導かれます。この比熱は定積モル比熱と呼ばれ、定積モル比熱が一定という法則が本記事のテーマである「デュロン=プティの法則」です。

これを解説するにあたり、登場する種々の物理法則についても説明していきましょう。

定積変化とは?どんな性質があるか?

定積、体積が一定ということで外部にエネルギーを与えない状態と言えます。外部にエネルギーをあたえることなく加熱する時の比熱が定積モル比熱です。体積が一定ということは主に固体をイメージすればよいですね。

ちなみに、一字違いで「定圧」変化がありますが、こちらは文字通り圧力が一定という意味です。外部にする仕事量は圧力と体積の掛け算PVの各タイミングでの値を足し合わせたもの(積分値)ですが、定圧変化なら圧力一定なのでP(一定) ・ ΔV(体積変化)というシンプルな形で表せます。

比熱とは?

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比熱の定義もおさらいしておきましょう。温度1℃上げるのに必要なエネルギーのことで、エネルギー =比熱 × 温度をイメージしておけばOKです。単位分量あたりの熱容量とも言えますね。比熱が高いほど温度を上げるのに多くのエネルギーを必要とします。物理の問題でまず出てくるのは重量当たりの比熱が多いですね。アルミなら0.91[J/K・g]、鉄なら0.44[J/K・g]、水なら約4.2[J/K・g]という風に、重量当たりでみると物質ごとに異なる値をとりますね。

しかしこれを1モルあたりに換算すると、どの物質もだいたい同じくらいの値になります。実際に計算してみましょう。水は18gとすると1molあたりの比熱は18 × 4.2 =75.6[J /K・mol]で、水はH2つとO1つの合計3個の原子で構成されているので、原子1個当たりでみると25.2[J/K・mol]、アルミは分子量が27とすると、アルミは0.91[J/K・g]で1molあたりに換算すると24.6[J /K・mol]、鉄は分子量55.8とすると、0.44[J/K・g]は24.6[J /K・mol]、ということでほど近い値をとることが分かります。一体なぜでしょうか?

モル比熱

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後出しになってしまいましたが、モル比熱に関して用語の整理をしておきましょう。上記のようにgあたりの比熱に分子量をかけて1molあたりに換算したものがモル比熱ですが、補足すると分子or原子の個数あたりの比熱とも言えます。1molの定義は原子or分子約6×10の23個という意味であり、モル比熱とは6×10の23個の分子or原子を1℃加熱するのに必要なエネルギーということになります。


体積を変化させない(外部にエネルギーを与えない)時の1mol辺りの比熱は原理上はどの物質でも一定です。同じ個数の分子や原子を加熱するのであれば、種類によらず1℃加熱するのな必要なエネルギーは同じということ。もちろん種々の理由から、実際は一致しない例もあります。

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2.温度と内部エネルギー

2.温度と内部エネルギー

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物質に熱を加えると比熱に応じた分だけ温度が高くなりなりますが温度が高いのはどういう状態か?内部エネルギーが高い状態です。内部エネルギーという概念はその物質が持っている力学的エネルギ(運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの合計)と捉えることが出来、それは温度に比例するものとして表せます。その比例定数をボルツマン定数kb、絶対温度をTとして、分子or原子1個当たりの内部エネルギーはU = 3・kb  Tです。

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なぜU = 3・kb  Tとなるのでしょうか?

これは上下左右前後の3方向の3。後述の理由から方向あたりの内部エネルギーがkb ・Tなのですが、3方向ランダムに且つ等方的に分子が運動するものと考えて3倍の3がつくわけです。

等方的

等方性とは、どの方向で見ても性質が等しい様のこと。今回は分子の運動の挙動がどの方向でも等しい、つまり左右方向、上下方向、前後方向とも均等に動くものと仮定しています。

3.熱力学第一法則と内部エネルギー

内部エネルギーの増減が何で決まるかと言うと、外から与えられた熱量と外にする仕事ですね。これを表したのが熱力学第一法則です。内部エネルギーの変化ΔUは

 

ΔU= Q - Wと表せます。外部からされる仕事をWとして、ΔU=Q + Wという表し方も出来ますが同じ意味ですね。外から与えられる熱量が多いほど内部エネルギーも増え、外にする仕事が多いとその分内部エネルギーは減ります。

定積変化と内部エネルギー

Increasing disorder.svg
Maxwell's_demon.svg: User:Htkym

ところで今回は、定積モル比熱の話をしているので、考えるのは「定積変化」、つまり体積が変わらないので外にする仕事W=0です。仕事の定義は力×距離ですが、体積変化なしだと距離に当たる部分が0になるので力の大きさに関係なく仕事は0です。よって内部エネルギーの変化ΔU= Qとなります。

 

定積モル比熱と内部エネルギー

定積変化において、外部からのエネルギーQは定積モル比熱Cvを使ってQ=Cv・ΔTですね。これは1molをΔTだけ加熱するのに必要なエネルギーです。一方この時の内部エネルギーの増分は分子or原子1個当たり3・kb・ΔT1molあたりの分子or原子個数はアボガドロ定数(約6.0×10の23乗)と呼ばれますがここではこれをNとしましょう。すると、1mol当たりの内部エネルギー変化は3・N・kb・ΔTになりますね。外に仕事をすることのない定積変化では外部からの熱量Qがそのまま内部内部エネルギーの増加ΔUになるので

 

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Cv・ΔT = 3・N・kb・ΔT

の関係が成り立ち、定積モル比熱Cv = 3・N・kbという定数で一定になることが導けます。

アボガドロ定数Nも、ボルツマン定数kbも分子や原子の種類によらず一定の値を取るので定積モル比熱も一方の値3・N・kbになるわけです。ちなみに、N・kbは気体定数Rの定義でもあるため、Cv = 3R となります。

熱力学第一法則と比熱、内部エネルギーの定義からデュロン=プティの法則は導ける

重量当たりで見ると比熱は物質ごとに異なる値をとるように見えますが、体積一定下で物質量当たりに換算するとどの物質も比熱は(理論上)同じです。

これは、熱力学第一法則、内部エネルギーの温度による表示および比熱の定義式をおさえておけば導け出せます。

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熱力学物理理科

デュロン=プティの法則とは?定積変化や比熱との関係は?理科教​員免許を持ったライターがわかりやすく解説

物理のうち「熱分野」でしばしば出てくる比熱の問題で出てくる。比熱とは質量1gの物質を温度1℃あたり加熱するのに必要なエネルギーですが、ここで出てくる「比熱」の値は物質によって様々です。例えばアルミなら0.91[J/K・g]、鉄なら0.44[J/K・g]、水なら約4.2[J/K・g]。しかしこれらの値、(体積一定なら)原子の物質量辺りで見るとどの元素でも理論上同じ値を取る(もちろんすべてに当てはまるのではなく例外もある)。この理由について理科の教員免許を持ったR175と一緒に物理の種々の法則・定理をおさらいしながら解説していこう。

ライター/R175

とある国立大の理系出身。理科の教員免許持ち。共通テストでも重視される「日常の身近な現象との関連性」を重視した解説を強みとする。

1.物質と比熱

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冒頭で述べた通り、物理の問題で通常出てくるのは質量あたりの比熱で、これは物質ごとに異なるため、「物質ごとに比熱は異なる値」というイメージを持ちがちです。しかし実は、比熱は体積一定化の変化でかつ原子の物質量(モル)あたりで見ると理論上、原子の種類によらずどの物質も一定ということが導かれます。この比熱は定積モル比熱と呼ばれ、定積モル比熱が一定という法則が本記事のテーマである「デュロン=プティの法則」です。

これを解説するにあたり、登場する種々の物理法則についても説明していきましょう。

定積変化とは?どんな性質があるか?

定積、体積が一定ということで外部にエネルギーを与えない状態と言えます。外部にエネルギーをあたえることなく加熱する時の比熱が定積モル比熱です。体積が一定ということは主に固体をイメージすればよいですね。

ちなみに、一字違いで「定圧」変化がありますが、こちらは文字通り圧力が一定という意味です。外部にする仕事量は圧力と体積の掛け算PVの各タイミングでの値を足し合わせたもの(積分値)ですが、定圧変化なら圧力一定なのでP(一定) ・ ΔV(体積変化)というシンプルな形で表せます。

比熱とは?

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比熱の定義もおさらいしておきましょう。温度1℃上げるのに必要なエネルギーのことで、エネルギー =比熱 × 温度をイメージしておけばOKです。単位分量あたりの熱容量とも言えますね。比熱が高いほど温度を上げるのに多くのエネルギーを必要とします。物理の問題でまず出てくるのは重量当たりの比熱が多いですね。アルミなら0.91[J/K・g]、鉄なら0.44[J/K・g]、水なら約4.2[J/K・g]という風に、重量当たりでみると物質ごとに異なる値をとりますね。

しかしこれを1モルあたりに換算すると、どの物質もだいたい同じくらいの値になります。実際に計算してみましょう。水は18gとすると1molあたりの比熱は18 × 4.2 =75.6[J /K・mol]で、水はH2つとO1つの合計3個の原子で構成されているので、原子1個当たりでみると25.2[J/K・mol]、アルミは分子量が27とすると、アルミは0.91[J/K・g]で1molあたりに換算すると24.6[J /K・mol]、鉄は分子量55.8とすると、0.44[J/K・g]は24.6[J /K・mol]、ということでほど近い値をとることが分かります。一体なぜでしょうか?

モル比熱

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後出しになってしまいましたが、モル比熱に関して用語の整理をしておきましょう。上記のようにgあたりの比熱に分子量をかけて1molあたりに換算したものがモル比熱ですが、補足すると分子or原子の個数あたりの比熱とも言えます。1molの定義は原子or分子約6×10の23個という意味であり、モル比熱とは6×10の23個の分子or原子を1℃加熱するのに必要なエネルギーということになります。


体積を変化させない(外部にエネルギーを与えない)時の1mol辺りの比熱は原理上はどの物質でも一定です。同じ個数の分子や原子を加熱するのであれば、種類によらず1℃加熱するのな必要なエネルギーは同じということ。もちろん種々の理由から、実際は一致しない例もあります。

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