圧力を水銀の高さで表すことがあるな。1気圧が約760mmHg(760ミリメートルスイギン)。水銀で満たした長い筒を逆さに向けて水銀の柱を作ろうとした時、水銀柱の高さは約76cmとなる。大気圧で押せる水銀高さが76cmであり、それより高い部分は真空となる。これがトリチェリの真空。この記事では、トリチェリの真空に関連した物理の例題を通して理解を深めていこう。理系ライターのR175と解説していく。

ライター/R175

とある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許持ち。教科書には出てこない日常の身近な現象に結びつけて分かりやすい解説を強みとする。

1.トリチェリの真空とは

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シリンダ上の試験管に液体を満たして底面を上に向け、口側は液体が入っている容器に漬けましょう(イラスト)。水上置換法の時と同じ配置です。この時、シリンダ内の液面は容器の液面より高くすることができますね。しかしシリンダ液面高さには上限があり、ある一定高さ以上の管内は液が存在することができず真空となるのです。この現象は発見した人の名前を取ってトリチェリの真空と呼ばれています。

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なぜシリンダ内だけ液面を高くできるのか

なぜシリンダ内だけ液面を高くできるのか

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上記のように、シリンダを液体で満たして他容器に漬けた場合、なぜシリンダ内だけ液面を高くできるのでしょうか。液体を何かしらの力で持ち上げる必要があるのですが、その力を与えているものが空気です。空気は大気圧分の圧力で周囲を圧していますね。空気が液体を圧している力のお陰でシリンダ内の液面は高い位置に存在できるわけです。

シリンダ内外の圧力差と液面高さ

シリンダ内外の圧力差と液面高さ

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大気圧の大きさは決まっていますので、液面を持ち上げようとする力にも上限があります。シリンダ内の液面が高ければ高いほど持ち上げるのに必要な力は大きくなりますね。液面をどんどん高くしていくと、やがて大気圧による力では持ち上げきれなくなります。液面はそれ以上上昇することはありまあせん。

大気圧で圧せる液面高さよりも長いシリンダに液体を充填し、逆さにして他容器に漬けるとどうなるか。液面高さは上限より高くなることはなく、シリンダ上面側は何もない部分(真空)ができます。シリンダ底面側の圧力が0(完全真空)で入口側が1気圧。その圧力差により液体が持ち上げられているわけです。

2.圧力差による液柱高さの計算

ここでは実際に液面高さの上限を計算しましょう。シリンダの断面積をS、シリンダ内の液面高さをh、液体の密度をρ、大気圧をPとします。

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液体に働く力

ある液体をシリンダに入れた時、液面高さの上限がHだったとします。容器の液位より上の部分(以下B部分)だけ別物体とみなして、そこに働く力の釣つり合式を考えましょう。

まず、液体B部分に働く重力はρSHg。一方、空気がB部分を圧す力はいくらか?空気は液体全体に一様に圧力を与えているとみなせ、この圧力がPです。液柱Bの底面にも圧力Pがかかっています。よって空気が液柱を持ち上げる力はこれに液柱断面積SをかけてPS。これが重力に等しいのでρSHg=PSが成り立ちますね。

水銀の密度を求める

常温で液体となる唯一の金属である「水銀」はこの分野の問題でよく出てきます。水源柱の高さから水銀の密度を計算してみましょう。水銀柱の高さを76cm、大気圧を1.013×10^5[Pa]、重力加速度を9.8[m/s^2]として水銀の密度を求めます。

上述のつりあい式を密度ρについて解くと、ρ=P/Hgであり、これに数値を代入してρ=1.013×10^5÷0.76÷9.8=1.36×10^4[kg/m3]=13.6[g/cm3]です。

逆に言うと、大気圧が圧せる水銀の高さの限界が大気圧下で76cmということ。このことから圧力を表すのにcmHg(76センチスイギン)という用語を用いる場合もあります。

水柱の高さは?

上記と同じことを水で行うと液柱高さはいくらになるでしょうか。液柱高さH=P/ρgで、液体の密度に反比例することが分かりますね。上記の例題から、水の密度は水銀の1/13.6であることから液面高さは13.6倍=0.76×13.6=10.3mとなります。

実際に上記のような水柱を作る場合はその長さのガラス管を準備するのは現実的ではないため、ホース等を用いることとなるでしょう。また、実際に水柱の高さを測定すると、一般に上記の高さ10.3mよりは低くなるようです。なぜなら水に溶けている空気が上部の真空部分に現れるため。水柱より高い部分は完全真空とはならないようです。

「井戸」にて地上で完全真空を作っても10m以上持ち上げられないことは古くから知られていたが、1643年に物理学者の「トリチェリ」が解明、発表するまでそうなる理由が不明だったようだ。

また、間欠泉(熱水が周期的に噴き出す温泉)は30m以上もの高さに噴出するものがあるが、これは地上と地下で3気圧以上もの圧力差が生じていることを意味する。蒸気が地熱で温められ高い内圧が発生しているわけだ。

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3.トリチェリの真空を使った例題

3.トリチェリの真空を使った例題

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注射器にて、リークさせずにピストンを引っ張るとシリンダ内は真空となりますね。大気圧がピストンを押し戻そうとする力に勝る力で引っ張れば理論上は完全真空を作ることができます。ここでは、ピストンにぶら下がってシリンダ内に真空を作ることを考えてみましょう。

問1

問1

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窒素にてシリンダ内に0.2MPaの内圧を付加した後、十分な時間放置しても内圧は降下しなかったつまり圧力差0.2MPaにおいて窒素がリークしたりシリンダやストンは破損等も起きないことが分かった。

 

このピストンにてシリンダ内体積を0にした状態(空気が入っていない状態)で重りをかけていき、シリンダ内に真空をつくります。重りが30kgを超えるとちょうど完全真空となる空間ができ始めることが分かりました。この時ピストンの断面積はいくらになるでしょうか?ただし、ピストンとシリンダ間の摩擦力は十分に小さくこの計算では無視できるものとします。また、大気圧は0.1MPaとして計算しましょう。

問2

問1のピストンに体重60kgの君がぶら下がった時に起きることして適切なのは次の(a)~(d)のうちどれでしょうか?ただし、シリンダとピストンの引張強さは圧縮強さと同程度であるものとします。

 

(a)60kgの重さでぶら下がることは、シリンダ内を絶対真空以下の圧力にしようとするのと同じことであるためピストンが破損する。

 

(b)60kgの重さでぶら下がることは、シリンダ内を絶対真空以下の圧力にしようとするのと同じことであるためピストンとシリンダ間でリークが発生し、A君が地面につく時には若干空気が入ってしまう。

 

(c)シリンダ内の体積は変わらないためA君が地面に着くことはない。

 

(d)シリンダ内に空気が入ることなくA君は地面に着く。

 

解説

例題の解説に移りましょう。

問1 この状態において、大気圧がシリンダを持ち上げる力と、重りによる重力がつりあっていて、このつり合い式を解けばシリンダ断面積を求められます、シリンダ内外の圧力差は0.1MPaであり、これにシリンダ断面積Sかかけた分の力が上向きに働きますね。これが30kgの重りに働く重力とつり合うので、0.1×10^6×S=30×9.8よりS=2.94×10^(-3)[m2]。ちなみに、もしこれが円筒であれば、半径3cm程度の大きさとなります。

問2 30kgの重りをぶら下げて真空になるのに、60kgのA君がぶら下がったらどうなるのか。大気圧によってピストンを持ち上げようとする力が働きますが、このケースではA君の体重による重力の方が大きいためA君は下向きに30×g[N]の力を受け地面に到達します。よって正解は(d)です。0.2MPaの差圧をかけてもリークしたり破損したりしないため、大気圧と絶対真空の差圧0.1MPaがかかっても破損やリークは起きないため(a),(b)は不適切。A君に働く重力の方が大きいためピストンの体積は変わるため(c)も不適切。ちなみに0.2MPaの差圧をかけた時は圧縮荷重がかけて破損は起きないことを確認しているため、引張方向も同様の強度を有する今回のシリンダは壊れません。

大気圧が圧す力には限界あり

筒上の容器に液体を入れて、「液柱」を作れるのは大気圧が液体に力を加えているため。大気圧が圧せる液体の高さには限界があり、それより高い部分に発生する真空が「トリチェリの真空」です。

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物理物理学・力学理科

「トリチェリの真空」とは?トリチェリの真空を使ったおもしろ例題とともに理科教員の免許を持つライターがわかりやすく解説

圧力を水銀の高さで表すことがあるな。1気圧が約760mmHg(760ミリメートルスイギン)。水銀で満たした長い筒を逆さに向けて水銀の柱を作ろうとした時、水銀柱の高さは約76cmとなる。大気圧で押せる水銀高さが76cmであり、それより高い部分は真空となる。これがトリチェリの真空。この記事では、トリチェリの真空に関連した物理の例題を通して理解を深めていこう。理系ライターのR175と解説していく。

ライター/R175

とある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許持ち。教科書には出てこない日常の身近な現象に結びつけて分かりやすい解説を強みとする。

1.トリチェリの真空とは

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シリンダ上の試験管に液体を満たして底面を上に向け、口側は液体が入っている容器に漬けましょう(イラスト)。水上置換法の時と同じ配置です。この時、シリンダ内の液面は容器の液面より高くすることができますね。しかしシリンダ液面高さには上限があり、ある一定高さ以上の管内は液が存在することができず真空となるのです。この現象は発見した人の名前を取ってトリチェリの真空と呼ばれています。

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なぜシリンダ内だけ液面を高くできるのか

なぜシリンダ内だけ液面を高くできるのか

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上記のように、シリンダを液体で満たして他容器に漬けた場合、なぜシリンダ内だけ液面を高くできるのでしょうか。液体を何かしらの力で持ち上げる必要があるのですが、その力を与えているものが空気です。空気は大気圧分の圧力で周囲を圧していますね。空気が液体を圧している力のお陰でシリンダ内の液面は高い位置に存在できるわけです。

シリンダ内外の圧力差と液面高さ

シリンダ内外の圧力差と液面高さ

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大気圧の大きさは決まっていますので、液面を持ち上げようとする力にも上限があります。シリンダ内の液面が高ければ高いほど持ち上げるのに必要な力は大きくなりますね。液面をどんどん高くしていくと、やがて大気圧による力では持ち上げきれなくなります。液面はそれ以上上昇することはありまあせん。

大気圧で圧せる液面高さよりも長いシリンダに液体を充填し、逆さにして他容器に漬けるとどうなるか。液面高さは上限より高くなることはなく、シリンダ上面側は何もない部分(真空)ができます。シリンダ底面側の圧力が0(完全真空)で入口側が1気圧。その圧力差により液体が持ち上げられているわけです。

2.圧力差による液柱高さの計算

ここでは実際に液面高さの上限を計算しましょう。シリンダの断面積をS、シリンダ内の液面高さをh、液体の密度をρ、大気圧をPとします。

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