今回のテーマはデンプンの糊化(こか)と老化です。

デンプンは米や芋などの炭水化物に多く含まれており、理科の授業でも登場するので馴染みが深いともう。ですが、デンプンの糊化と老化という言葉を聞いたことがある人は少ないんじゃないか?米は炊くし、パスタは茹でてだべるでしょう?これは米やパスタに含まれるデンプンを糊化させるためです。

実はとても身近な現象であるデンプンの糊化と老化について、管理栄養士の免許を持ち、生物に詳しいライターcaoriと一緒に解説していきます。

ライター/Caori

国立大学院の博士課程に在籍している現役の理系大学院生。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。

デンプンとは

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お米やパスタ、小麦粉に豊富に含まれるデンプン(澱粉・でん粉)は炭水化物の代表格。主食として毎日のように食べているのではないでしょうか?他にも、芋やとうもろこし等から精製したデンプンは「片栗粉」や「コーンスターチ」として幅広く利用されています。

デンプンは植物が作る「グルコース」がたくさん結合してできた多糖類です。グルコースの結合の仕方で2種類に分けられ、1つめは「アミロース」、2つめは「アミロペクチン」と呼ばれます。

それぞれの構造は、「アミロース」はグルコースがα-1・4結合で結合した直鎖状「アミロペクチン」は「アミロース」の直鎖に、さらにα-1・6結合でグルコースが結合し分岐した構造です。この「アミロース」と「アミロペクチン」は、水素結合により隙間なく規則正しくならんだ「ミセル」と呼ばれる構造をとっています。

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デンプンの糊化

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皆さん、白米を食べるときには、お米を水と一緒に炊いて「ご飯」状にしてから食べますよね。このお米に含まれるデンプンが水を吸収して、柔らかく消化の良い状態になることを、デンプンの糊化またはα(アルファ)化と呼びます。

糊化を化学的に見ていきましょう。前述したように、デンプンは「アミロース」と「アミロペクチン」が隙間なく規則正しく並んだ「ミセル構造」をしています。この状態では硬く、水分子が入りこむ隙間がなく、消化酵素が作用しにくい状態です。ご飯(白米)で例えると、まだ炊飯していない米の状態。この状態に加水・加熱すると、水素結合が切れてミセル構造が壊れ、構造のなかに水分子が入り込み、さらに加熱を続けると最終的にはデンプン粒が崩壊し、ゲル状に変化します。ふっくらと柔らかく、消化酵素が働きやすい状態。つまり消化吸収されやすい状態になります。お米を炊く、パスタを茹でて食べるのはこのためです。

糊化を始める温度はデンプンの種類によって異なりますが、一般的に60℃前後から始まると言われています。

デンプンの老化

デンプンの老化

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炊きたてのご飯は柔らかく、ふっくらとしていますが、そのまま置いておくと徐々に水分が失われ、硬くぱさぱさした食感になり、おいしさも消化性も低下した状態になりますよね。この現象をデンプンの老化またはβ(ベータ)化と呼びます。

この老化現象は糊化(α化)したデンプンが、よりエネルギー的に安定な状態に戻るためにお互い水素結合を作り再びミセル構造を形成するためです。一般に水分量が30~60%、温度が2~10℃以下で最も老化速度が速くなると言わています。

アミロースはアミロペクチンと比べ粘性や保水性が低いため、アミロースの方が老化が進みやすく、アミロペクチンの老化は比較的遅いです。ただし、老化が進んでも完全にもとの状態に戻るわけでありません。さらに加水・再加熱でもとの糊化状態に戻るものが多いです。

老化を防ぐ方法と食品加工

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糊化したデンプンはそのまま置いておくと、やがて老化し、パサパサと食感が悪くなり、おいしさが失われていきます。これは食品産業では大きな問題です。そのため、食品加工の分野では様々なデンプンの老化を抑制・防止する対策が取られているので、代表的な方法をいくつか紹介します。

1.急速冷凍

一般に0℃以下では老化しないため、糊化したデンプンを冷凍します。前述したように、2~10℃以下で最も老化速度が速くなると言わているため、老化が進行する前に急速冷却し2~10℃の温度の間を素早く通過させてあげることが重要です。

2.水分

最も老化しやすい水分量が30~60%です。このため、水分量を維持するようなパッケージが使用されています。さらに水分を極力減らした食品では老化が起きません。これを応用した食品については後述します。

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3.アミロース含量

デンプンの成分としては、アミロペクチンよりアミロースのほうが老化しやすいです。デンプンによってそれぞれの含有量が異なるため、アミロペクチンの含有量の多い老化しにくい性質のデンプンを用いる場合があります。

たとえば、コーンスターチや小麦などの穀物系のデンプンのほうが、タピオカなどの芋系のデンプンに比べ老化しにくいです。さらに、β-アミラーゼなどのデンプン分解酵素とデンプンを併用して老化を遅延させる工夫が取られています。

4.共存物質

糖質や一部の乳化剤は老化を抑える効果があるため食品添加物として用いられます。よく用いられるのはトレハロースやマルトースなどです。これは、デンプン分子と構造が似ている糖類を使うことで、規則的結晶構造をとりにくくして老化を防いでいます。

デンプンの糊化と老化を応用した食品

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水分を極力減らした食品である「即席麺」「アルファ化米」などはデンプンの糊化と老化を利用した食品です。

お湯を注ぐだけで食べることが出来る「即席麺」は皆さん食べたことがあると思います。これは麺から急速に水分を取り除いて乾燥させ、デンプンの糊化を固定した商品です。即席麺の元祖、日清食品(株)の創業者・安藤百福氏は麺を油で揚げて乾燥させて「チキンラーメン」を作りました。現在も油で揚げる方法が主流ですが、熱風乾燥、フリーズドライのなどの方法も利用されています。

アルファ化米(アルファかまい)は、炊飯などの加水加熱によって米のデンプンを糊化(アルファ化)させたのち、乾燥処理によってその糊化の状態を固定させた乾燥米飯のことです。アルファ化米は熱湯や冷水を注入することで「ご飯」の状態へと戻るため、「火力を利用せず、炊飯を行わずに食べられるご飯」として保存食・非常食として日本式備蓄食の代名詞とされています。

どちらの商品も長期間保存でき、お湯や水をそそぐだけで食べられて利便性が高く、日常生活でもとても便利です。このように、デンプンの糊化と老化は食品加工にも幅広く応用され、私たちの食生活に根付いています。

とても身近な現象「デンプンの糊化と老化」

今回はデンプンの糊化と老化をテーマに、デンプンの基本的な構造や糊化と老化を具体的な例を挙げながら解説しました。「糊化」と「老化」は初めて聞く言葉だった人も多いと思いますが、とても身近な現象だったのではないでしょうか?食品加工の現場で利用されている老化を防ぐ方法は、自宅でも試すことが出来ると思います。ぜひ試してみてくださいね。

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化学理科生物

3分で簡単にわかるデンプンの糊化と老化!老化を防ぐ方法も現役理系大学院生がわかりやすく解説!

今回のテーマはデンプンの糊化(こか)と老化です。

デンプンは米や芋などの炭水化物に多く含まれており、理科の授業でも登場するので馴染みが深いともう。ですが、デンプンの糊化と老化という言葉を聞いたことがある人は少ないんじゃないか?米は炊くし、パスタは茹でてだべるでしょう?これは米やパスタに含まれるデンプンを糊化させるためです。

実はとても身近な現象であるデンプンの糊化と老化について、管理栄養士の免許を持ち、生物に詳しいライターcaoriと一緒に解説していきます。

ライター/Caori

国立大学院の博士課程に在籍している現役の理系大学院生。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。

デンプンとは

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お米やパスタ、小麦粉に豊富に含まれるデンプン(澱粉・でん粉)は炭水化物の代表格。主食として毎日のように食べているのではないでしょうか?他にも、芋やとうもろこし等から精製したデンプンは「片栗粉」や「コーンスターチ」として幅広く利用されています。

デンプンは植物が作る「グルコース」がたくさん結合してできた多糖類です。グルコースの結合の仕方で2種類に分けられ、1つめは「アミロース」、2つめは「アミロペクチン」と呼ばれます。

それぞれの構造は、「アミロース」はグルコースがα-1・4結合で結合した直鎖状「アミロペクチン」は「アミロース」の直鎖に、さらにα-1・6結合でグルコースが結合し分岐した構造です。この「アミロース」と「アミロペクチン」は、水素結合により隙間なく規則正しくならんだ「ミセル」と呼ばれる構造をとっています。

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