この記事では「神経分泌細胞」という用語について学んでいこう。

この言葉は、内分泌系について学習するときに出会うことが多い。ですが、高校の生物学ではたくさんのホルモンを覚えなくてはいけない単元のため、神経分泌細胞について詳しく学ぶことは少ないでしょう。脳下垂体から分泌されるホルモンに関連するので、しっかり確認しておきたい。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

神経分泌細胞とは

神経分泌細胞(しんけいぶんぴさいぼう)とは、神経細胞でありながら、ホルモン(もしくはホルモン様物質)の分泌も行う、少し変わった細胞です。

神経細胞はニューロンともいうため、神経分泌ニューロンという名称でよばれることもあります。英語ではneurosecretory cellです。

ホルモンの分泌という点は特別ですが、基本的には他の神経細胞と同じような基本構造をしており、情報を伝達する機能もあります。まずは神経細胞のつくりを簡単におさらいしましょう。

神経細胞(ニューロン)

生物の体内の神経系を構成するのが神経細胞です。私たちが暑さや寒さ、痛みなどを感じたり、思い通りに手足を動かせるのは神経のおかげ。また、何かを考えたり、覚えたりするときに動かす脳も、それ自体が神経細胞のかたまりです。

一つ一つの神経細胞の基本構造を簡単に表したのが以下の図です。

\次のページで「視床下部の神経分泌細胞」を解説!/

image by Study-Z編集部

神経細胞の大部分を占め、細胞核や多くの細胞小器官が存在する部分を細胞体といいます。細胞体からは細い枝分かれのような突起が伸びていますね。これは樹状突起とよばれ、他の神経細胞からの情報を受けとる場所になっています。

細胞体から長く伸びるのが軸索(じくさく)です。神経細胞の種類によっては、この軸索の周りに髄鞘(ずいしょう)もしくはミエリン鞘とよばれる構造物が巻き付いていることもあります。

Complete neuron cell diagram en.svg
LadyofHats - Own work. Image renamed from Image:Complete neuron cell diagram.svg, パブリック・ドメイン, リンクによる

軸索の末端(軸索末端)は、他の神経細胞の樹状突起に接続し、情報伝達を行う場です。ここで神経伝達物質とよばれる化学物質を放出し、接続している神経細胞を刺激します。

ちなみに、神経細胞同士の接続部分をシナプスというので、これも覚えておきましょう。

いえいえ!神経伝達物質とホルモンの分泌は、しっかりと区別されます。なぜならば、神経伝達物質は接続するほかの神経細胞に向かって放出されるのに対し、ホルモンは血管に分泌し、血液の流れに乗って他の器官へ運ばれるものだからです。

視床下部の神経分泌細胞

image by iStockphoto

私たち人間を含めた哺乳類の体内において、神経分泌細胞がみられる代表的なところといえば視床下部(ししょうかぶ)です。脳のなかでも、間脳とよばれる部分に存在する視床下部は、自律神経系や内分泌系の中枢として知られています。

\次のページで「脳下垂体後葉に続く神経分泌細胞」を解説!/

おっしゃるとおり、視床下部は恒常性の維持で最重要といってもいいくらいの存在です。

この視床下部で産生、分泌されるホルモンはいくつもあります。

例えば、高校の生物学で”放出ホルモン”として紹介されるホルモンたち。副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)は、副腎皮質刺激ホルモンの分泌を促進する作用のあるホルモンです。同様に、成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)は、成長ホルモンの分泌を促進するホルモン。甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)は甲状腺刺激ホルモンの分泌を促進するホルモンとして知られています。

以上の3種類の放出ホルモンは、視床下部の神経分泌細胞でつくられ、視床下部の一番”底”の部分である正中隆起(せいちゅうりゅうき)の血管に放出されます。その血管は、間脳の下にぶら下がるようにくっついている脳下垂体の前葉につながっているのです。

Gray1180.png
Henry Vandyke Carter - Henry Gray (1918年) Anatomy of the Human Body (See "ブック" section below) Bartleby.com: Gray's Anatomy, Plate 1180, パブリック・ドメイン, リンクによる

脳下垂体前葉では、これらの放出ホルモンを受け取り、それぞれが促進するホルモンの分泌が高まります。この流れは、ホルモンの分泌調節が他のホルモンの分泌によって行われている、典型的な例です。

脳下垂体後葉に続く神経分泌細胞

前述の”放出ホルモン”だけでなく、視床下部にはバソプレシンオキシトシンというホルモンをつくる神経分泌細胞も存在します。注意しなくてはならないのが、バソプレシンやオキシトシンは「視床下部でつくられるが、視床下部では放出されない」という点です。

\次のページで「哺乳類以外の神経分泌細胞」を解説!/

先ほどの例は、視床下部で分泌され、脳下垂体前葉で作用するホルモンでしたよね。人間の脳下垂体は前葉と後葉に大きく分けられているのですが、バソプレシンやオキシトシンを産生する神経分泌細胞はその軸索を長く伸ばし、脳下垂体後葉にある血管でそれを放出するのです。

高校の生物学では、バソプレシンvはテストなどにもよく出される、重要なホルモンです。「バソプレシンが分泌されるのは脳下垂体後葉」だということは確実に覚えておかなくてはなりませんが、「バソプレシンは視床下部に本体(細胞体)のある神経分泌細胞でつくられている」ということも抑えておくとよいでしょう。

ちなみに、バソプレシンは腎臓での水の再吸収を促進するホルモンであり、分泌が増えると尿量が減ります。

オキシトシンは、出産時の子宮収縮や、母乳の分泌を促進するホルモンです。近年は「愛情ホルモン」や「幸せホルモン」という愛称で、メディアでも紹介されることが増えました。

哺乳類以外の神経分泌細胞

神経分泌細胞が存在しているのは、もちろん哺乳類だけではありません。ほかにもいろいろな生物で神経分泌細胞がみられ、それぞれに重要なはたらきをしています。

image by iStockphoto

たとえば、昆虫や甲殻類の脱皮を促すホルモンは、それぞれ異なる器官にある神経分泌細胞から分泌されるといいます。また、変態体色変化に関係するホルモンもあるのだそうです。

無脊椎動物や小さな生物の内分泌系や神経系については、まだまだ未解明の点が多くあります。神経分泌細胞や内分泌系についてより研究が進めば、神経系がどのように進化してきたのかを探る、大きな手掛かりが得られるでしょう。

”神経内分泌学”という分野

神経内分泌細胞や、内分泌系としての視床下部のはたらきに関する研究は、”神経内分泌学”という分野でくくられることがあります。

この分野の先駆けとなったのは、ドイツの科学者エルンスト・シャラーと、その妻であるベルタ・シャラー。彼らが魚類や無脊椎動物の神経内分泌細胞を発見・報告し、その後、別の人物によって哺乳類の神経内分泌細胞についても研究が進みました。本格的な研究が始まってからまだ100年もたっていないくらいですから、これからも新たな発見が期待される分野でしょう。

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理科生物

「神経分泌細胞」っていったい何?普通の神経細胞じゃないの?現役講師がわかりやすく解説します!

この記事では「神経分泌細胞」という用語について学んでいこう。

この言葉は、内分泌系について学習するときに出会うことが多い。ですが、高校の生物学ではたくさんのホルモンを覚えなくてはいけない単元のため、神経分泌細胞について詳しく学ぶことは少ないでしょう。脳下垂体から分泌されるホルモンに関連するので、しっかり確認しておきたい。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

神経分泌細胞とは

神経分泌細胞(しんけいぶんぴさいぼう)とは、神経細胞でありながら、ホルモン(もしくはホルモン様物質)の分泌も行う、少し変わった細胞です。

神経細胞はニューロンともいうため、神経分泌ニューロンという名称でよばれることもあります。英語ではneurosecretory cellです。

ホルモンの分泌という点は特別ですが、基本的には他の神経細胞と同じような基本構造をしており、情報を伝達する機能もあります。まずは神経細胞のつくりを簡単におさらいしましょう。

神経細胞(ニューロン)

生物の体内の神経系を構成するのが神経細胞です。私たちが暑さや寒さ、痛みなどを感じたり、思い通りに手足を動かせるのは神経のおかげ。また、何かを考えたり、覚えたりするときに動かす脳も、それ自体が神経細胞のかたまりです。

一つ一つの神経細胞の基本構造を簡単に表したのが以下の図です。

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