今日のテーマは「細胞の構造」です。突然ですが生物は何からできているか考えたことがあるでしょうか?この問いには様々な考えや答えが存在すると思うが、細胞生物学的にいえば「細胞説」にのっとり、生物は「細胞」と「細胞の作る物質」で出来ていると定義されている。すなわち「細胞」とは生物の最小基本単位です。
生物の最小基本単位である「細胞の構造」や「分類」さらには「細胞共生説」まで、生物に詳しいライターCaoriと一緒に解説していきます。

ライター/Caori

国立大学院の博士課程に在籍している現役の理系大学院生。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。

細胞とはなにか

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Robert Hooke (1635–1707) - Robert Hooke, Micrographia, 1665., パブリック・ドメイン, リンクによる

細胞生物学では「細胞(cell)」とは生物を構成する最も基本的な構造単位で、すべての生物は「細胞」と「細胞が作ったもの」で構成されていると定義されてます。細胞研究の歴史は古く、1665年イギリスのロバート・フックがコルクの観察中に規則正しく並んだ四角い空洞を発見し、小部屋という意味の"cell"と名付けたことが始まりです。その後、1838年に、ドイツのシュライデン博士が植物細胞を、翌年には同じくドイツのシュワン博士が動物細胞を観察し、「生物の構造と機能の基本単位は細胞である」とする「細胞説」を唱えました。

この後も細胞の研究が進められ、1850年代にはフィルヒョー博士によって「すべての細胞は細胞から生じる(Omnis cellula ecellula)」という説が発表され、1870年代にはパスツール博士により「自然発生説」が否定されたことから、現在の細胞説の概念がほぼ成立したと言われています。細胞説では細胞を持つことが生物の定義のひとつとされるため、ウイルスなどは生物とみなされません。

細胞に共通する基本構造

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一言に細胞といってもその構造や機能は生物種によって大きく異なりますが、すべての細胞は共通する3つの構造を持っています。1つめは細胞の外部と内部を隔てる膜構造(細胞膜)。2つめは、細胞の内部を満たす細胞質基質。3つめは、遺伝情報であるDNAです。最後、4つめはタンパク質の翻訳を行うリボソーム。どんな細胞でもこの3つは必ず備えています。

1つめの細胞膜は、リン脂質が二層になった膜です。リン脂質は親水性のリン酸部分に疎水性である脂肪酸が2本ついた形をしており、親水性部分を外側に、疎水性部分を内側にして2層を形成し、細胞の内外を分け、物質の出入りも調節しています。

2つめの細胞質基質は細胞膜の内側、細胞質から細胞内小器官を除いた部分のことです。基本的には水を溶媒として、糖代謝などの細胞の生命活動の維持のために必要な代謝が行われています。

3つめはDNA。このDNAの持つ情報はmRNAへと翻訳され、4つめのリボソームでタンパク質が作られています。このDNAからタンパク質をつくる一連の反応は、すべての細胞に共通する基本的な原理です。このため「セントラルドグマ」と呼ばれています。

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原核細胞と真核細胞

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細胞はDNAに関わる内部構造の違いから、原核細胞と真核細胞に分けられます。DNAを保持するはっきりした構造を持たないものが原核細胞、DNAを包むはっきりした構造(核)を持つ細胞が真核細胞です。

原核細胞から構成された生物を原核生物と呼びます。代表的な原核生物は乳酸菌、大腸菌などの細菌や古細菌、藍藻植物です。多くの原核生物は細胞内小器官も持たないため、最も原始的な生物と考えられています。

原核生物はすべて一つの細胞だけで成り立っている単細胞生物です。対して、植物や動物のように多くの細胞からできている生物は多細胞生物と呼びます。

真核生物と共通する細胞小器官

真核生物と共通する細胞小器官

image by Study-Z編集部

真菌、原生生物、動物、植物は細胞核を持った真核生物です。一般に真核細胞は原核細胞に比べて大きく、核以外にも複雑で高度な機能を分業分担するための細胞小器官(オルガネラ)をもち、より複雑な構造をしています。核、ゴルジ体、リソソーム、ミトコンドリア、ペルオキシソーム、小胞体などは多くの細胞に共通した構造です。順番に見ていきましょう。

は真核生物に共通した構造です。細胞核は核膜によって覆われ、内部にはDNA が含まれ遺伝情報の保存や転写などを行っています。

ゴルジ体の働きはタンパク質の糖鎖修飾や脂質の付加、リン酸化です。さらにはリボソームを構成するタンパク質のプロセシングをしています。

リソソームは、内部に加水分解酵素をもつ細胞内の消化の場です。ミトコンドリアは呼吸により多量のATPを産生しています。独自のDNA(ミトコンドリアDNA)を持ち、分裂、増殖することが特徴です。ペルオキシソームは、多様な物質の酸化反応を行っています。

小胞体「粗面小胞体」「滑面小胞体」の2種類です。タンパク質の合成や輸送、プロセシングの他、カルシウムの貯蔵も行っています。

代表的な細胞小器官とその機能を紹介しました。細胞内小器官は他にも存在し、さまざまな機能を持っています。興味のある方はぜひ調べてみてください。

植物細胞と動物細胞の違い

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「植物細胞」と「動物細胞」の違いはテストなどでも頻繁に聞かれる問題です。基本的な事項をおさらいしていきましょう。植物細胞にのみ存在するのは、「葉緑体」「液胞」「細胞壁」、細胞分裂の際には形成される「細胞板」の4つ。動物細胞にのみあるのは「中心体」です。「動物細胞」と「植物細胞」では何が共通していて、何がそれぞれに特有なものか注意しましょう。

教科書的には上記のように記されていますが、実は「中心体」はシダ植物・コケ植物・裸子植物の一部に存在することが確認されています。さらに、「動物細胞」の「リソソーム」が「植物細胞」の「液胞」に相当し、「動物細胞」には「液胞」は存在しないとされていました。しかし、動物細胞にも小さな「液胞」が存在することを論じる論文も存在します。今後、科学技術の進歩によっては動物と植物の分類方法も変わる可能性もあるかもしれませんね。

細胞内共生説

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最後に「細胞内共生説」について解説します。「細胞内共生説」とは、1970年アメリカの生物学者マーギュリスが提唱した、真核生物細胞の起源を説明する仮説です。あくまで“仮説”とつきますが、この細胞内共生説を支持する研究者は多くなっています。

ミトコンドリアや葉緑体などの細胞小器官は、かつて独立して生活していた原核生物でしたが、進化の過程で他の原始生物の細胞内に入りこみ、その細胞の細胞小器官として共存するようになったという説です。この根拠として、これらは他の細胞器官と異なり、二重膜構造と独自のDNAを持ち、半自律的に分裂・増殖していることが挙げられています。原核生物と同じような構造と機能なので、単独でも生きていけそうな印象を受けますね。

これまで生物の進化には多くの仮説が提唱されてきました。その中でも、細胞共生説は「競争ではなく共生こそ進化の原動力であり、重要なプロセスである」と主張した画期的で新しい「進化」の仮説だと思います。

奥深い最小基本単位「細胞」

今回は「細胞の構造」をテーマに、「細胞説」やすべての細胞に共通する「細胞の基本構造」、「原核生物と真核生物の違い」や「植物細胞と動物細胞の違い」。さらには「細胞共生説」まで幅広く解説をしました。私たちの細胞にあたり前のように存在するミトコンドリアが、もともと別の生き物だっただなんて、なんだか不思議な感じがしませんか?

細胞は私達を構成する最も基本的な構造ですが、実はまだまだ解明されていない現象がたくさんあります。これからどのように研究が進展するのか楽しみですね。

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理科生物生物の分類・進化細胞・生殖・遺伝

3分で簡単「細胞の構造」生物の最小基本単位を現役理系大学院生がわかりやすく解説!

今日のテーマは「細胞の構造」です。突然ですが生物は何からできているか考えたことがあるでしょうか?この問いには様々な考えや答えが存在すると思うが、細胞生物学的にいえば「細胞説」にのっとり、生物は「細胞」と「細胞の作る物質」で出来ていると定義されている。すなわち「細胞」とは生物の最小基本単位です。
生物の最小基本単位である「細胞の構造」や「分類」さらには「細胞共生説」まで、生物に詳しいライターCaoriと一緒に解説していきます。

ライター/Caori

国立大学院の博士課程に在籍している現役の理系大学院生。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。

細胞とはなにか

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Robert Hooke (1635–1707) – Robert Hooke, Micrographia, 1665., パブリック・ドメイン, リンクによる

細胞生物学では「細胞(cell)」とは生物を構成する最も基本的な構造単位で、すべての生物は「細胞」と「細胞が作ったもの」で構成されていると定義されてます。細胞研究の歴史は古く、1665年イギリスのロバート・フックがコルクの観察中に規則正しく並んだ四角い空洞を発見し、小部屋という意味の”cell”と名付けたことが始まりです。その後、1838年に、ドイツのシュライデン博士が植物細胞を、翌年には同じくドイツのシュワン博士が動物細胞を観察し、「生物の構造と機能の基本単位は細胞である」とする「細胞説」を唱えました。

この後も細胞の研究が進められ、1850年代にはフィルヒョー博士によって「すべての細胞は細胞から生じる(Omnis cellula ecellula)」という説が発表され、1870年代にはパスツール博士により「自然発生説」が否定されたことから、現在の細胞説の概念がほぼ成立したと言われています。細胞説では細胞を持つことが生物の定義のひとつとされるため、ウイルスなどは生物とみなされません。

細胞に共通する基本構造

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一言に細胞といってもその構造や機能は生物種によって大きく異なりますが、すべての細胞は共通する3つの構造を持っています。1つめは細胞の外部と内部を隔てる膜構造(細胞膜)。2つめは、細胞の内部を満たす細胞質基質。3つめは、遺伝情報であるDNAです。最後、4つめはタンパク質の翻訳を行うリボソーム。どんな細胞でもこの3つは必ず備えています。

1つめの細胞膜は、リン脂質が二層になった膜です。リン脂質は親水性のリン酸部分に疎水性である脂肪酸が2本ついた形をしており、親水性部分を外側に、疎水性部分を内側にして2層を形成し、細胞の内外を分け、物質の出入りも調節しています。

2つめの細胞質基質は細胞膜の内側、細胞質から細胞内小器官を除いた部分のことです。基本的には水を溶媒として、糖代謝などの細胞の生命活動の維持のために必要な代謝が行われています。

3つめはDNA。このDNAの持つ情報はmRNAへと翻訳され、4つめのリボソームでタンパク質が作られています。このDNAからタンパク質をつくる一連の反応は、すべての細胞に共通する基本的な原理です。このため「セントラルドグマ」と呼ばれています。

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