今回のテーマは膵臓が生成・分泌する最強消化液「膵液とトリプシン」です。「膵臓」という臓器の名前は聞いたことがあっても、身体のどこにあるのか、どんな働きをしているのかを知っている人は少ないんじゃないか?「膵液」は食べ物の消化やホルモンの分泌をしている生命を維持するために重要な臓器のひとつです。

三大栄養素をすべて消化することができる最強消化液を含む「膵液」について、生物に詳しいライターCaoriと一緒に解説していきます。

ライター/Caori

国立大学大学院の博士課程に在籍している現役の理系大学院生。大学では医学の基礎研究をしている。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。

膵臓とは

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食べ物を消化するための臓器というと、多くの人は「胃」や「腸」を想像するのではないでしょうか?もちろん、「胃」や「腸」もとても重要な臓器ですが、食物を消化するには「膵臓」が分泌する「膵液」が欠かせない重要な役割を担っています。

膵臓は胃の背部分、十二指腸がコの字型に曲がった部分の間にはまり込んだような長さ20センチメートルほどの左右に細長い臓器です。右端のふくらんだ部分は膵頭部といい、膵臓から伸びた主膵管は十二指腸につながっています。左端は膵尾部といい「脾臓」と隣り合っていて、その中間部分は膵体部です。膵臓の機能は主に2つ。これから順番に説明していきます。

膵臓の2大機能

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膵臓の機能は大きく分けて2つ。1つ目はインスリンなどのホルモンを分泌する内分泌機能、2つめは消化酵素を分泌する外分泌機能です。膵臓の体積の95%以上は消化酵素を生成・分泌する外分泌機能を担う細胞が占め、残りがホルモンを分泌している再分泌機能をもつ細胞で構成されています。まずは1つ目のホルモンを分泌する内分泌機能から見ていきましょう。

膵臓のホルモンを分泌する細胞は全部で5種類。この5種類の細胞は塊となって分泌液に浮かぶように存在しているため島のように見えます。このため、この細胞の塊を発見したランゲルハンス博士の名前をとって、ランゲルハンス島と命名されました。このランゲルハンス島細胞からは、主に糖の代謝や血液中の糖(血糖値)の維持に必要なグルカゴン、インスリン、ソマトスタチンなどのホルモンを合成・分泌しています。これらのホルモンは、島をとりまく毛細血管に分泌され、血液にのって全身へと運ばれていく仕組みです。

膵臓の外分泌機能

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膵液とは腺房細胞から分泌された多種類の消化酵素を含む分泌液と、導管部より分泌されたアルカリ性の分泌液の混合物。食後数分で分泌は増大して数時間持続し、成人の一日あたりの分泌量は約1500mlです。

消化酵素を分泌する細胞を腺房細胞と呼び、十数個でひとつの腺房と呼ばれる丸い塊を構成ています。腺房細胞はその塊の内側の腺房腔と呼ばれる空間に消化酵素を分泌していますが、ここで分泌される消化酵素は活性を持たない前駆体です。分泌された消化酵素の前駆体は、導管系細胞が作るアルカリ性の分泌液と混ざりながら、細い膵管を通り太い主膵管に集まっていきます。

主膵管が十二指腸へとつながる部位は大十二指腸乳頭(ファーター乳頭)と呼ばれ、その手前で主膵管は胆管と合流しており、膵液と胆汁が必要に応じて十二指腸へと送り出される仕組みです。

膵液の成分と活性調整

膵液の成分と活性調整

image by Study-Z編集部

膵液には複数の消化酵素が含まれており、三大栄養素をすべて消化することが出来ます。たんぱく質を分解する酵素はトリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、カルボキシペプチダーゼ、脂肪を分解する酵素はリパーゼ、炭水化物を分解する酵素はアミラーゼです。膵液は重炭酸塩を含むアルカリ性の液体で、強い酸性である胃液を中和しています。

膵液に含まれる消化酵素の特徴は活性を持たない前駆体として分泌されることです。たとえば、トリプシンは活性をもたないトリプシノーゲンとして分泌され、小腸にあるエンテロキナーゼの作用で活性化されて初めてトリプシンになりたんぱく質を分解することができます。このメカニズムは、膵液に含まれる強力な分解酵素で自分自身を分解しないようにするためです。

\次のページで「膵臓の疾病」を解説!/

膵臓の疾病

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近年、膵臓の病気が増加傾向にあると言われているため、最後に代表的な膵臓の疾病について説明します。膵臓の代表的な病気は糖尿病、膵炎、膵臓癌です。これは生活習慣病の増加と同様で、食生活の欧米化によって肉類や脂肪分の摂取が多くなったことや、アルコールの摂取が大きな原因となっていると言われています。

糖尿病はみなさん聞いたことがあるのではないでしょうか。2015年に行われた成人の糖尿病有病率の調査では、日本人の11人に1人が糖尿病の有病者と推定されています。糖尿病を発症する原因の一つは、膵臓の内分泌機能が低下しインスリンという血糖値を下げるホルモンの分泌が低下したり、分泌されなくなることです。インスリンが分泌されないことで、細胞に糖を取り込むことができなくなりエネルギー不足になったり、血液中の糖の濃度が高い事で様々な合併症を生じます。

膵炎と膵臓癌

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膵臓が炎症を起こす病気が膵炎です。膵炎は急性膵炎と慢性膵炎に分けられ、急性膵臓では膵臓が急激に炎症を起こして消化酵素が自分自身を消化してしまい、激痛や下痢、嘔吐を起こします。そして最悪の場合多臓器不全となり死に至る場合もあるそうです。慢性膵炎は、炎症が長期にわたることで膵臓が線維化して、膵臓全体の機能が衰えていきます。

最後は膵臓癌です。膵臓癌は増加傾向にあり、2018年の臓器別がん死亡率では膵臓癌が第4位で日本全国で1年間に約41,000人が膵臓癌と診断されています。膵臓癌は発見が難しいため早期治療が難しく、さらに癌の進行や再発率も高いため、膵臓癌は死亡率の高さが問題とされているのです。

最強消化酵素「膵液」と膵臓の病気

今回は「膵臓とトリプシン」をテーマに、膵臓の構造や機能、膵臓が分泌する膵液の成分や消化酵素の活性調整、さらには近年増加傾向にある膵臓の病気について説明しました。膵液はトリプシンなどの強い消化酵素を含む消化液でした。自分自身を消化しないようにするための仕組みにはヒトの身体の仕組みの緻密さ、奥深さを感じますね。

膵臓は肝臓とともに「沈黙の臓器」とも呼ばれています。ある程度病気が進行しないと自覚症状がないことが多く、お腹の奥まった部分にあるため異常があっても検査で発見しにくいのです。膵臓の病気の主な原因は生活習慣と言われています。脂肪分の多い食事や暴飲暴食、飲酒、喫煙、過労やストレスは、膵臓病の危険因子です。ぜひこの機会にご自身の膵臓の健康にも目を向けてみてくださいね。

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理科生物細胞・生殖・遺伝

3分で簡単「膵液とトリプシン」最強消化酵素を現役理系大学院生がわかりやすく解説!

今回のテーマは膵臓が生成・分泌する最強消化液「膵液とトリプシン」です。「膵臓」という臓器の名前は聞いたことがあっても、身体のどこにあるのか、どんな働きをしているのかを知っている人は少ないんじゃないか?「膵液」は食べ物の消化やホルモンの分泌をしている生命を維持するために重要な臓器のひとつです。

三大栄養素をすべて消化することができる最強消化液を含む「膵液」について、生物に詳しいライターCaoriと一緒に解説していきます。

ライター/Caori

国立大学大学院の博士課程に在籍している現役の理系大学院生。大学では医学の基礎研究をしている。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。

膵臓とは

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食べ物を消化するための臓器というと、多くの人は「胃」や「腸」を想像するのではないでしょうか?もちろん、「胃」や「腸」もとても重要な臓器ですが、食物を消化するには「膵臓」が分泌する「膵液」が欠かせない重要な役割を担っています。

膵臓は胃の背部分、十二指腸がコの字型に曲がった部分の間にはまり込んだような長さ20センチメートルほどの左右に細長い臓器です。右端のふくらんだ部分は膵頭部といい、膵臓から伸びた主膵管は十二指腸につながっています。左端は膵尾部といい「脾臓」と隣り合っていて、その中間部分は膵体部です。膵臓の機能は主に2つ。これから順番に説明していきます。

膵臓の2大機能

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膵臓の機能は大きく分けて2つ。1つ目はインスリンなどのホルモンを分泌する内分泌機能、2つめは消化酵素を分泌する外分泌機能です。膵臓の体積の95%以上は消化酵素を生成・分泌する外分泌機能を担う細胞が占め、残りがホルモンを分泌している再分泌機能をもつ細胞で構成されています。まずは1つ目のホルモンを分泌する内分泌機能から見ていきましょう。

膵臓のホルモンを分泌する細胞は全部で5種類。この5種類の細胞は塊となって分泌液に浮かぶように存在しているため島のように見えます。このため、この細胞の塊を発見したランゲルハンス博士の名前をとって、ランゲルハンス島と命名されました。このランゲルハンス島細胞からは、主に糖の代謝や血液中の糖(血糖値)の維持に必要なグルカゴン、インスリン、ソマトスタチンなどのホルモンを合成・分泌しています。これらのホルモンは、島をとりまく毛細血管に分泌され、血液にのって全身へと運ばれていく仕組みです。

膵臓の外分泌機能

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膵液とは腺房細胞から分泌された多種類の消化酵素を含む分泌液と、導管部より分泌されたアルカリ性の分泌液の混合物。食後数分で分泌は増大して数時間持続し、成人の一日あたりの分泌量は約1500mlです。

消化酵素を分泌する細胞を腺房細胞と呼び、十数個でひとつの腺房と呼ばれる丸い塊を構成ています。腺房細胞はその塊の内側の腺房腔と呼ばれる空間に消化酵素を分泌していますが、ここで分泌される消化酵素は活性を持たない前駆体です。分泌された消化酵素の前駆体は、導管系細胞が作るアルカリ性の分泌液と混ざりながら、細い膵管を通り太い主膵管に集まっていきます。

主膵管が十二指腸へとつながる部位は大十二指腸乳頭(ファーター乳頭)と呼ばれ、その手前で主膵管は胆管と合流しており、膵液と胆汁が必要に応じて十二指腸へと送り出される仕組みです。

膵液の成分と活性調整

膵液の成分と活性調整

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膵液には複数の消化酵素が含まれており、三大栄養素をすべて消化することが出来ます。たんぱく質を分解する酵素はトリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、カルボキシペプチダーゼ、脂肪を分解する酵素はリパーゼ、炭水化物を分解する酵素はアミラーゼです。膵液は重炭酸塩を含むアルカリ性の液体で、強い酸性である胃液を中和しています。

膵液に含まれる消化酵素の特徴は活性を持たない前駆体として分泌されることです。たとえば、トリプシンは活性をもたないトリプシノーゲンとして分泌され、小腸にあるエンテロキナーゼの作用で活性化されて初めてトリプシンになりたんぱく質を分解することができます。このメカニズムは、膵液に含まれる強力な分解酵素で自分自身を分解しないようにするためです。

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