今回は「細胞核」について解説していきます。

細胞核は細胞がその機能を維持するうえで欠かせない遺伝子情報を格納している場所です。細胞核はDNAからRNAへの転写や加工、さらにリボソームの組み立てなどタンパク質の生産に欠かすことのできないいくつもの機能を担っている。真核生物が核を獲得したことでいかに効率的に遺伝子発現を行っているか理解できるでしょう。

大学院で遺伝子工学を専攻していたバイオ系ライターこざよしと一緒に解説していきます。

ライター/こざよし

遺伝子工学を中心にマリンバイオテクノロジーを大学院まで専攻したバイオ系ライター。バイオサイエンス、生化学、化学分野のトピックスをわかりやすく解説する。

細胞核とは

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「細胞を絵で書いてみてください」と問われたら、あなたならどんな絵を描きますか。多くの人は長方形の中に丸い円を描き、周囲にそれらしい小器官を描くのではないでしょうか。その丸い円を核であるということぐらいは、生物の授業を受けたことがある人ならだれでも知っていることです。では、その核とは、一体何なのでしょうか。


核には、遺伝情報がつまっています。遺伝情報は多くの生物で4種類のデオキシリボ核酸(DNA)によりコーディングされており、つまり核の中身にはDNAが凝縮され詰まっているのです。細胞は設計図とも言えるこのDNAを利用して目的のタンパク質を作り出し、細胞の機能を維持しています。

細胞核があることの利点

そもそも、細胞核は全ての生物にあるわけではありません。細胞核を持つものを真核生物と呼び、細胞核を持たないものを原核生物と呼びます。高等生物は全て真核生物であり細胞核とは進化の過程で生命が獲得したしくみであると言えるのです。


では、細胞核があることの利点とはいったい何でしょうか。原核生物では、遺伝情報が載ったDNAが細胞質基質内に拡散して存在しています。タンパク質の生産のためにはmRNAに転写する必要がありますし、そのためには遺伝子に対して様々な種類の酵素が働きかける必要があるのです。しかし、遺伝子が基質内に拡散してしまっていては、酵素と目的の遺伝子が接触するのは偶然の働きに期待するしかありません。


一方で真核生物では遺伝子情報は常に核の中に凝縮されて詰まっていますから、ほしい遺伝子はそこに取りに行けばよいのです。核があることの利点とは、限られた狭い空間に遺伝子を集めることで、DNAの発現、転写、RNAのプロセシングなどの作業が効率的に行えることにあります


因みに原核生物ではRNAのスプライシングは行われません。DNAから直接転写されたRNAを使ってタンパク質を生産します。RNAのスプライシングも進化の過程で獲得した真核生物の機能なのですが、同じDNAから転写されたRNAでも、スプライシングの加工を変えるだけで複数の種類のタンパク質が生産できるなどのメリットがあるのです。

細胞核の核膜の穴

細胞核の特徴の一つは、巨大な穴がいくつも開いていることです。核膜に限らず細胞膜や細胞内小器官の膜は小さな分子は通過させることができますし、多少の大きさのタンパク質ならばチャンネルと呼ばれる膜タンパク質によって作られた門のようなトンネルをくぐることで、膜の内側と外側を自由に行き来することができます。


ところが、核膜の穴はそのような穴よりも遥かに大きなものです。この穴のことを核膜孔複合体と呼んでおり、複数のタンパク質の複合体によって巨大な穴が形成されています。この核膜孔を使ってRNAや合成・転写に関わるタンパク質が頻繁に輸送されているのです。

核膜の二重構造

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細胞核の構造のもう一つの特徴が、核膜が二重構造で作られているということです。細胞膜のリン脂質二重膜といった分子量の小さなものではなく、小器官の膜そのものがさらにもう一重余分にあることを理解してください。それぞれ各内部に近い方を内幕、遠い方を外膜と呼びますが、先に説明した核膜孔複合体は外膜も内膜も貫通して核膜内外をつないでいます

\次のページで「外膜」を解説!/

外膜

外膜は核を取り巻くように存在している他に、外側に向かって広がり小胞体とつながっています。外膜周辺からリボソームが存在しており、リボソームは小胞体にある膜タンパク質と結合して合成したばかりのタンパク質を小胞体内部へと送り込んでいますが、このリボソームが無数に結合した小胞体を粗面小胞体と呼び、リボソームがない滑らかな面をもつ小胞体を滑面小胞体と呼んでいるのです。

内膜

内膜は細胞核内部にある膜で、その細胞核内部側には核ラミナと呼ばれるタンパク質が局在しており、繊維状に絡みついて細胞核の骨格となっています。内膜には染色体を保持するための機能があり、細胞核内部において染色体は自由に浮遊しているわけではなく、内膜に保持されてある程度場所が定められているのです。

核ラミナの役割

核ラミナの役割

image by Study-Z編集部

細胞核の骨格を形成する核ラミナは、ラミンと呼ばれる分子量6万から8万の繊維状のタンパク質からできています。ラミンは少なくとも7種類のタンパク質があり、ラミン分子は他のラミン分子と反応してラミンペアを形成し、ラミンペアはさらに他のラミンペアと絡み合うことを繰り返して巨大な網状の骨格を形成しているのです。


核ラミナは、DNAとタンパク質の混合したクロマチンと結合する性質を持っており、その性質により染色体を核膜内側に保持することが可能となっています。染色体が結合する部位は均一ではなく、染色体同士の間には染色体間ドメインと呼ばれる隙間が作られているのです。


染色体間ドメインは、転写されたRNAが運ばれる通路になったり、加工される場になっています。ラミナによって染色体が結合している部分を倉庫だとすれば、染色体間ドメインは倉庫と倉庫の間にある道路や作業場というイメージです。


実際の倉庫でも在庫の把握が重要であることと同様に、細胞核の内部でも遺伝子の場所は常に整理されています。良く使われる遺伝子は使いやすいように染色体間ドメインに近いところに配置され、普段はあまり使わない遺伝子は倉庫の奥に追いやられますがこの配置は流動的で、現在の研究では常に変化していることは分かっていても、その仕組は未だに十分解明されてはいません。

核小体とは何か

image by iStockphoto

冒頭で細胞の絵を描くとしたらどのように描くかという質問をしましたが、核を描くことができてもさらに内部に核小体まで描ける人はあまり多くないかもしれません。核小体とは仁とも言われ、細胞の中央部分に存在していますが、細胞膜で覆われてはいなくて、むき出しの状態で存在しています。


核小体の役割は、完成したリボソームを作り出すことです。リボソームは複数のタンパク質が結合した複合体ですが、その材料は細胞核外から核膜孔複合体を通って核小体まで運ばれます。核小体にはrRNA(リボソームRNA)が存在しており、そのrRNAと材料のタンパク質が次々と結合していくことで完成形のリボソームが作られているのです。


そして完成したリボソームは核膜孔複合体を通じて細胞質基質中に送り出されていきます。リボソームは基質中でmRNAと結合し、アミノ酸を材料にしてタンパク質の合成を行っており、核小体とはいわば工作機械の組立工場といえる役割をしているのです。

無核細胞

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真核生物ではほとんどの細胞が細胞核を持っています。しかし細胞の役割によっては核を持たない無核細胞が存在しており、無核細胞は核をはじめは持っていた点で原核生物とは全く異なる細胞です。哺乳類では無核細胞として有名なのが赤血球で、赤血球は成熟に伴い酸素を運搬するという役割に特化するために全ての細胞小器官を吐き出します。


核が無いということは、新たに細胞機能の維持のためにタンパク質を生産できないことを意味しますから、赤血球は3ヶ月程度の寿命しかもっていません。酸素を効率よく運ぶという一点に適応した結果といえるのです。

真核生物はどのように核を獲得できたのか

真核生物は核を手に入れることで高度に進化することができたとも言えますが、一体どのようにして核を獲得するに至ったのでしょうか。様々な仮説が提唱されていますが実はまだ確実なことは分かっていません。ここでは仮説を簡単にご紹介しておきます。

1つ目は栄養共生モデル。古細菌と細菌の共生関係から進化したと主張する説で、ミトコンドリアと葉緑体の起源として広く受け入れられている説と類似しています。2つ目は細菌から内部共生段階を経ることなく進化したと主張される説です。

3つ目は細胞核ウイルス起源説。ウイルスの感染により真核生物へと進化したと唱える説です。最後4つ目は細胞が2つ目の外膜を発達させ、内側の膜が核膜となったと主張する説で、どの説もある程度の根拠を示していますが明確な証拠はつかめていません。

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タンパク質と生物体の機能理科環境と生物の反応生物生物の分類・進化細胞・生殖・遺伝

謎だらけな「細胞核」の由来は?その機能や構造をバイオ系ライターが詳しくわかりやすく解説

外膜

外膜は核を取り巻くように存在している他に、外側に向かって広がり小胞体とつながっています。外膜周辺からリボソームが存在しており、リボソームは小胞体にある膜タンパク質と結合して合成したばかりのタンパク質を小胞体内部へと送り込んでいますが、このリボソームが無数に結合した小胞体を粗面小胞体と呼び、リボソームがない滑らかな面をもつ小胞体を滑面小胞体と呼んでいるのです。

内膜

内膜は細胞核内部にある膜で、その細胞核内部側には核ラミナと呼ばれるタンパク質が局在しており、繊維状に絡みついて細胞核の骨格となっています。内膜には染色体を保持するための機能があり、細胞核内部において染色体は自由に浮遊しているわけではなく、内膜に保持されてある程度場所が定められているのです。

核ラミナの役割

核ラミナの役割

image by Study-Z編集部

細胞核の骨格を形成する核ラミナは、ラミンと呼ばれる分子量6万から8万の繊維状のタンパク質からできています。ラミンは少なくとも7種類のタンパク質があり、ラミン分子は他のラミン分子と反応してラミンペアを形成し、ラミンペアはさらに他のラミンペアと絡み合うことを繰り返して巨大な網状の骨格を形成しているのです。


核ラミナは、DNAとタンパク質の混合したクロマチンと結合する性質を持っており、その性質により染色体を核膜内側に保持することが可能となっています。染色体が結合する部位は均一ではなく、染色体同士の間には染色体間ドメインと呼ばれる隙間が作られているのです。


染色体間ドメインは、転写されたRNAが運ばれる通路になったり、加工される場になっています。ラミナによって染色体が結合している部分を倉庫だとすれば、染色体間ドメインは倉庫と倉庫の間にある道路や作業場というイメージです。


実際の倉庫でも在庫の把握が重要であることと同様に、細胞核の内部でも遺伝子の場所は常に整理されています。良く使われる遺伝子は使いやすいように染色体間ドメインに近いところに配置され、普段はあまり使わない遺伝子は倉庫の奥に追いやられますがこの配置は流動的で、現在の研究では常に変化していることは分かっていても、その仕組は未だに十分解明されてはいません。

核小体とは何か

image by iStockphoto

冒頭で細胞の絵を描くとしたらどのように描くかという質問をしましたが、核を描くことができてもさらに内部に核小体まで描ける人はあまり多くないかもしれません。核小体とは仁とも言われ、細胞の中央部分に存在していますが、細胞膜で覆われてはいなくて、むき出しの状態で存在しています。


核小体の役割は、完成したリボソームを作り出すことです。リボソームは複数のタンパク質が結合した複合体ですが、その材料は細胞核外から核膜孔複合体を通って核小体まで運ばれます。核小体にはrRNA(リボソームRNA)が存在しており、そのrRNAと材料のタンパク質が次々と結合していくことで完成形のリボソームが作られているのです。


そして完成したリボソームは核膜孔複合体を通じて細胞質基質中に送り出されていきます。リボソームは基質中でmRNAと結合し、アミノ酸を材料にしてタンパク質の合成を行っており、核小体とはいわば工作機械の組立工場といえる役割をしているのです。

無核細胞

image by iStockphoto

真核生物ではほとんどの細胞が細胞核を持っています。しかし細胞の役割によっては核を持たない無核細胞が存在しており、無核細胞は核をはじめは持っていた点で原核生物とは全く異なる細胞です。哺乳類では無核細胞として有名なのが赤血球で、赤血球は成熟に伴い酸素を運搬するという役割に特化するために全ての細胞小器官を吐き出します。


核が無いということは、新たに細胞機能の維持のためにタンパク質を生産できないことを意味しますから、赤血球は3ヶ月程度の寿命しかもっていません。酸素を効率よく運ぶという一点に適応した結果といえるのです。

真核生物はどのように核を獲得できたのか

真核生物は核を手に入れることで高度に進化することができたとも言えますが、一体どのようにして核を獲得するに至ったのでしょうか。様々な仮説が提唱されていますが実はまだ確実なことは分かっていません。ここでは仮説を簡単にご紹介しておきます。

1つ目は栄養共生モデル。古細菌と細菌の共生関係から進化したと主張する説で、ミトコンドリアと葉緑体の起源として広く受け入れられている説と類似しています。2つ目は細菌から内部共生段階を経ることなく進化したと主張される説です。

3つ目は細胞核ウイルス起源説。ウイルスの感染により真核生物へと進化したと唱える説です。最後4つ目は細胞が2つ目の外膜を発達させ、内側の膜が核膜となったと主張する説で、どの説もある程度の根拠を示していますが明確な証拠はつかめていません。

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