細胞核は細胞がその機能を維持するうえで欠かせない遺伝子情報を格納している場所です。細胞核はDNAからRNAへの転写や加工、さらにリボソームの組み立てなどタンパク質の生産に欠かすことのできないいくつもの機能を担っている。真核生物が核を獲得したことでいかに効率的に遺伝子発現を行っているか理解できるでしょう。
大学院で遺伝子工学を専攻していたバイオ系ライターこざよしと一緒に解説していきます。
ライター/こざよし
遺伝子工学を中心にマリンバイオテクノロジーを大学院まで専攻したバイオ系ライター。バイオサイエンス、生化学、化学分野のトピックスをわかりやすく解説する。
細胞核とは
image by iStockphoto
「細胞を絵で書いてみてください」と問われたら、あなたならどんな絵を描きますか。多くの人は長方形の中に丸い円を描き、周囲にそれらしい小器官を描くのではないでしょうか。その丸い円を核であるということぐらいは、生物の授業を受けたことがある人ならだれでも知っていることです。では、その核とは、一体何なのでしょうか。
核には、遺伝情報がつまっています。遺伝情報は多くの生物で4種類のデオキシリボ核酸(DNA)によりコーディングされており、つまり核の中身にはDNAが凝縮され詰まっているのです。細胞は設計図とも言えるこのDNAを利用して目的のタンパク質を作り出し、細胞の機能を維持しています。
こちらの記事もおすすめ
3分で簡単「細胞の構造」生物の最小基本単位を現役理系大学院生がわかりやすく解説!
細胞核があることの利点
そもそも、細胞核は全ての生物にあるわけではありません。細胞核を持つものを真核生物と呼び、細胞核を持たないものを原核生物と呼びます。高等生物は全て真核生物であり細胞核とは進化の過程で生命が獲得したしくみであると言えるのです。
では、細胞核があることの利点とはいったい何でしょうか。原核生物では、遺伝情報が載ったDNAが細胞質基質内に拡散して存在しています。タンパク質の生産のためにはmRNAに転写する必要がありますし、そのためには遺伝子に対して様々な種類の酵素が働きかける必要があるのです。しかし、遺伝子が基質内に拡散してしまっていては、酵素と目的の遺伝子が接触するのは偶然の働きに期待するしかありません。
一方で真核生物では遺伝子情報は常に核の中に凝縮されて詰まっていますから、ほしい遺伝子はそこに取りに行けばよいのです。核があることの利点とは、限られた狭い空間に遺伝子を集めることで、DNAの発現、転写、RNAのプロセシングなどの作業が効率的に行えることにあります。
因みに原核生物ではRNAのスプライシングは行われません。DNAから直接転写されたRNAを使ってタンパク質を生産します。RNAのスプライシングも進化の過程で獲得した真核生物の機能なのですが、同じDNAから転写されたRNAでも、スプライシングの加工を変えるだけで複数の種類のタンパク質が生産できるなどのメリットがあるのです。
細胞核の核膜の穴
細胞核の特徴の一つは、巨大な穴がいくつも開いていることです。核膜に限らず細胞膜や細胞内小器官の膜は小さな分子は通過させることができますし、多少の大きさのタンパク質ならばチャンネルと呼ばれる膜タンパク質によって作られた門のようなトンネルをくぐることで、膜の内側と外側を自由に行き来することができます。
ところが、核膜の穴はそのような穴よりも遥かに大きなものです。この穴のことを核膜孔複合体と呼んでおり、複数のタンパク質の複合体によって巨大な穴が形成されています。この核膜孔を使ってRNAや合成・転写に関わるタンパク質が頻繁に輸送されているのです。
核膜の二重構造
image by iStockphoto
細胞核の構造のもう一つの特徴が、核膜が二重構造で作られているということです。細胞膜のリン脂質二重膜といった分子量の小さなものではなく、小器官の膜そのものがさらにもう一重余分にあることを理解してください。それぞれ各内部に近い方を内幕、遠い方を外膜と呼びますが、先に説明した核膜孔複合体は外膜も内膜も貫通して核膜内外をつないでいます。
\次のページで「外膜」を解説!/