この記事では「当たり年」について解説する。
端的に言えば、当たり年の意味は「収穫の特に多い年」のことです。そこから転じて別の意味もあるぞ。近ごろ「台風の当たり年」という表現もありますが、その是非についても考えてみよう。
日本放送作家協会会員でWebライターのユーリを呼んです。一緒に「当たり年」の意味を確認し、例文や類義語などを見ていきます。

ライター/ユーリ

日本放送作家協会会員。シナリオ、エッセイをたしなむWebライター。時代によって変化する言葉の面白さ、奥深さをやさしく解説する。

「当たり年」の意味・使い方・例文

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ではさっそく「当たり年」の意味を辞書で確認し、使い方や例文を見てみましょう。

「当たり年」の意味

最初に「当たり年」の意味を辞書で確認しましょう。

1.農作物の収穫量の特に多い年。
2.特によいことが多く、思いどおりになる年。
[補説]2は、よいことの多くある年について言うのが本来の使い方だが、近年では「台風の当たり年」などと言うこともある。

出典:デジタル大辞泉(小学館)「当たり年」

農作物は、収穫量の多い年と少ない年があります。「当たり年」とは、「特に収穫量が多い年のこと」です。「桃の当たり年」は「桃の収穫量が多い年」という意味ですね。転じて、「よいことが多く、思いどおりになる年」という意味でも使われるようになりました。

補説2をみると、本来は「よいことが多くある年」を意味する言葉ですが、最近は「台風の当たり年」という言い方があると書いてあります。この使い方は正しいのでしょうか。

「台風の当たり年」はNG?

NHK放送文化研究所のサイトに、一般視聴者の質問に答える形でこんなことが書いてありました。

Q.台風情報を伝える際に、「ことしは台風の当たり年だ」という言い方を聞いたことがあります。適切な表現ではないと思うのですが…。
A.「当たり年」は「縁起の良い年」「幸運に恵まれた年」のことです。「台風の当たり年」などという言い方は、配慮に欠ける不適切な表現です。

出典:NHK放送文化研究所「台風の当たり年という言い方は?」

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本来「当たり年」というのは「良い年」「幸運な年」というプラスイメージの言葉なので、「台風の当たり年」という表現は、被災地や被災者の方への配慮に欠けていると言わざるを得ません。

「当たり年」という用語を使わなくても台風が多いことは表現できます。メディアだけでなく、私たちが日常生活やビジネスシーンで使うときにも、どのように受け取られるか検討したうえで、言葉選びをしたほうがいいですね。

「当たり年」の例文

「当たり年」の使い方を例文で見ていきましょう。

1.昨年は当たり年でリンゴの実がたくさんなっていたのに、思いがけず台風の直撃を受けてほとんど収穫できなかった。
2.先月は待望の第一子が生まれ、今月は課長に昇進した。今年は毎月のように幸運なことが続いている。まちがいなく、これまでの自分の人生で一番の当たり年だと言える。
3.「去年は不作だったが今年はどうやら当たり年のようだ」と、新入社員の研修を担当している先輩が、入社2年目の私に言った。

最初の例文は、リンゴの「当たり年」だったのに、台風のせいでほとんど収穫できなかったということです。「当たり年」を「農作物の収穫が特に多い年」という意味で使っています。2番目の例文は、公私ともに幸運なことが多かったという意味ですね。

3番目の例文は、去年と比べて今年の新入社員は優秀な人材が多いという意味です。2番目、3番目の例文は「当たり年」を「よいことが多く、思いどおりになる年」という意味で使っていますね。

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「当たり年」の類義語

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「当たり年」の類義語には、どのような言葉があるのでしょうか。

「表年(おもてどし)」「生り年(なりどし)」:当たり年

ミカン・リンゴ・カキなどは、実がたくさんなる「当たり年」と、少ししかならない年を交互に繰り返します。これは「隔年結実(かくねんけつじつ)」といわれる現象です。果実がたくさんなる年のことを「表年」「生り年」といいます。

「豊年(ほうねん)」:豊作の年

「豊年」「豊作の年」という意味です。穀物、特に稲がたくさん実る年のことをいいます。「豊年満作(ほうねんまんさく)」は、「作物が豊かに実って、収穫がとても多い」ということです。

「当たり年」の反対語

「当たり年」の反対語は、作物が少ししかならない年を表現する言葉ですね。

「裏年(うらどし)」「不なり年」:実りが少ない年

果実がたくさんなる「表年」に対して、少ししかならない年を表現する言葉「裏年」です。また「生り年」に対する言葉は「不なり年」ですね。

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「凶年(きょうねん)」:不作の年

「凶年」「農作物のできが悪い年」「不作の年」という意味です。また「災難が多い年」という意味もあります。英語では「a lean year」で「凶年」です。「lean」は「乏しい」「不作の」という意味で「a lean harvest」は「不作」という意味になりますよ。

「当たり年」の英訳

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英語では「当たり年」はどのように表現するのでしょうか。

「a fruitful year」:当たり年

「fruitful」は「よく身を結ぶ」「よく実る」「よく作物ができる」という意味と、「りっぱな効果を生む」「有益な」などの意味があります。a fruitful year」は「当たり年」、「a fruitful tree」は「よく実のなる木」、「fruitful day」は「充実した一日」という意味です。

「fruitful」は形容詞ですが、名詞の「fruit」には、「果物」「果実」「(農作物の)収穫」のほかに「結果」「成果」などの意味もありますよ。

「vintage year」:ぶどうの当たり年

「vintage」は名詞としては「ブドウの収穫」「優良なブドウ酒」などの意味があります。また、形容詞としては「(ぶどう酒)が優良な」「上等の」などの意味がありますよ。

「vintage year」「(ぶどう酒用の)優良なぶどうの当たり年」「ぶどう酒の当たり年」という意味。転じて「実りが多い年」「当たり年」という意味でも使われています。豊作の年を果実以外の物事についても「実りが多い年」と表現するのは、日本語と共通していますね。

「a bonanza year」:当たり年

「bonanza」には「大当たり」「大もうけ」などの意味があります。a bonanza year「当たり年」、「a bonanza crop」は「大豊作」という意味ですよ。

「当たり年」を適切に使いこなそう!

この記事では、「当たり年」の意味を調べ、例文や類義語などを解説しました。

「当たり年」とは、「特に収穫量が多い年のこと」です。そこから転じて、「よいことが多く、思いどおりになる年」という意味でも使われています。最近では「台風の当たり年」などという使い方もあるようですが、本来「当たり年」はプラスイメージの言葉。被災地や被災者の方への配慮に欠けた表現ですので、「台風が多い年」などに言い換えるように心掛けたいものです。

「当たり年」の正しい意味とニュアンスを理解して、適切に使いこなしてくださいね。

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国語言葉の意味

「台風の当たり年」はNG?「当たり年」の意味・例文・類義語などを日本放送作家協会会員がわかりやすく解説

「当たり年」の類義語

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「当たり年」の類義語には、どのような言葉があるのでしょうか。

「表年(おもてどし)」「生り年(なりどし)」:当たり年

ミカン・リンゴ・カキなどは、実がたくさんなる「当たり年」と、少ししかならない年を交互に繰り返します。これは「隔年結実(かくねんけつじつ)」といわれる現象です。果実がたくさんなる年のことを「表年」「生り年」といいます。

「豊年(ほうねん)」:豊作の年

「豊年」「豊作の年」という意味です。穀物、特に稲がたくさん実る年のことをいいます。「豊年満作(ほうねんまんさく)」は、「作物が豊かに実って、収穫がとても多い」ということです。

「当たり年」の反対語

「当たり年」の反対語は、作物が少ししかならない年を表現する言葉ですね。

「裏年(うらどし)」「不なり年」:実りが少ない年

果実がたくさんなる「表年」に対して、少ししかならない年を表現する言葉「裏年」です。また「生り年」に対する言葉は「不なり年」ですね。

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