3分で簡単「オートファジー 自食」細胞が自分を食べる理由を現役理系大学院生がわかりやすく解説!
2016年に東京工業大学の大隅良典教授が「細胞自食作用(オートファジー)のメカニズム発見に対して」ノーベル生理学・医学賞を受賞したことを覚えている人も多いでしょう。ですが、「オートファジー」を理解している人は少ないんじゃないでしょうか。「オートファジー」は細胞自身が不要なタンパク質を分解したり、リサイクルして新しいタンパク質を作る材料にする働きをしている。細胞の恒常性を保つ役割をしている重要な現象「オートファジー」を生物に詳しいライターCaoriと一緒に解説していきます。
ライター/Caori
国立大学大学院の博士課程に在籍している現役の理系大学院生。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。
オートファジー自食とは
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オートファジー (Autophagy) は、細胞内のタンパク質を細胞自身が分解するための仕組みの一つです。auto-は「自己」、phagyは「食べること」を意味するため、日本語では「自食(じしょく)」や「自己貪食」と訳されています。
「オートファジー」の主な役割は細胞内のタンパク質が不足したときに、自分自身を分解することで必要なタンパク質を確保することです。その他にも、細胞内の老化したタンパク質や有害なタンパク質の分解して細胞内の環境を維持したり、病原菌を分解する免疫、細胞の分化・発生にも関わっていることが解明されています。この仕組みは酵母からヒトにいたるまでの真核生物に見られる共通した仕組みです。
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オートファジーの歴史
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オートファジー研究の歴史は古く、最初に「オートファジー」を発見したのはイギリスの細胞生物学者クリスチャン・ルネ・ド・デューブ博士です。デューブ博士は哺乳動物細胞の中に膜構造体を持つ細胞小器官を見つけました。なんと、この膜構造体はその中に細胞内物質を取り込んでいたのです。デューブ博士はこの現象に「オートファジー」と名前をつけ、1963年に論文を発表します。
実は生命科学において「オートファジー」は長い間注目されていませんでしたが、近年研究が進みその重要性が認識されるようになってきました。この「オートファジー」に脚光を当てたのが、1993年に出芽酵母のオートファジー不能変異株群atgの同定に成功した大隅良典博士の研究です。酵母Atgの解析から、さらに哺乳動物オートファジーの分子機構の解明も進み、「オートファジー」が細胞にとって欠かせない現象であることが明らかになりました。
オートファジーのメカニズムと働き
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オートファジーは、そのメカニズムの違いから数種類に分類されていますが、 単に“オートファジー”と表記した場合にはマクロオートファジーを指すことが多いため、ここでもマクロオートファジーの機能を説明します。
オートファジーのメカニズムは大きく分けて2段階です。1段階目では細胞が栄養飢餓や異常タンパク質の蓄積を感知すると、細胞質に隔離膜が出現し、過剰に作られたタンパク質や異常タンパク質を取り囲み小胞を形成します。この小胞がオートファゴソームです。2段階目でオートファゴソームがリソソームと融合し、オートリソソームを形成し、リソソーム由来のタンパク質分解酵素が中のタンパク質を分解します。
この一連のメカニズムはオートファジー関連遺伝子(autophagy-related gene:ATG)にコードされるAtgタンパク質により厳密に制御されていることが多数報告され、オートファゴソーム形成の分子機構の一端や他のオルガネラの関与などが明らかになってきました。
オートファジーと栄養飢餓時の働き
最も有名なオートファジーの役割は、栄養飢餓に陥ったときの栄養源確保です。特にタンパク質(アミノ酸)の枯渇時には酵母でも動物細胞でもオートファジーが顕著に亢進します。細胞が生命活動を行うためにはタンパク質の材料となる必須アミノ酸が必要です。その重要なアミノ酸の供給が断たれるということは、細胞にとっては生死に関わる重大なダメージを意味します。これを回避するために起こるのが「オートファジー」です。
オートファジーによって細胞内のタンパク質の一部を分解して、細胞の生命活動にとってより重要性の高いタンパク質を合成する材料にリサイクルしたり、エネルギー源として使われています。ただし、オートファジーによる栄養飢餓の回避はあくまで一時的なものです。飢餓状態が長く続いた場合には対処することができずに、細胞が自分自身を食べ尽くし、細胞が死に至ると考えられています。
オートファジーと細胞内恒常性の維持に関する働き
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オートファジーには飢餓時の栄養源の確保の他にも重要な働きがあります。それは細胞の新陳代謝や細胞内の恒常性の維持する働きです。たとえば、細胞内小器官が過剰になったときや、タンパク質が古くなったり、有害なタンパク質が生じた際にはオートファジーが誘導されて分解除去されます。さらに、細胞内に入った細菌を分解する自然免疫に関連する働きも報告されました。
細胞の恒常性を維持する「オートファジー」の働きは様々な疾病にも関連しており、オートファジーの異常は、異常タンパク質の蓄積、自然免疫の障害、異常なミトコンドリアの蓄積をひき起こします。
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