この記事では「気孔」をテーマに学習していこう。

中学理科の学習でも登場する「気孔」ですが、その開閉する仕組みは結構複雑です。少し専門的な内容にも触れながら、気孔についての理解を深めていきたい。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

気孔

気孔(きこう)とは、植物の葉に存在する、ガス交換のための小さな穴のことを指します。気孔を形作るのは、孔辺細胞(こうへんさいぼう)とよばれる特別な細胞です。孔辺細胞の形が変形することで、その真ん中にできる穴=気孔が開いたり、塞がったりします。

一般的に気孔は葉の表よりも、裏面に多く存在しますが、例外的な植物も存在するので、後ほどご紹介しましょう。

それではまず、どんな時に気孔の開閉がおきるのかをざっと見ていきましょう。

光合成を盛んにおこなうときに開き、水分不足のときは閉じる

前述の通り、気孔は植物に必要なガス交換で重要な役割を果たします。空気中の二酸化炭素がたくさん必要な時には気孔が大きく開くのです。

ご存じの通り、植物は二酸化炭素を光合成で使用します。つまり、日光が十分に得られる日中は、基本的に気孔が開き、光合成を盛んに行っているのです。

反対に、日光がない夜間には、光合成もできないため気孔を閉じてしまいます。

image by iStockphoto

ただし、気孔を開いているときには、植物内部の水分も飛んでいきやすくなってしまいます。植物が水分を水蒸気として放出することを「蒸散(じょうさん)」といいますが、この水蒸気も気孔から出ていくのです。

そのため、「いつでも昼は気孔を開きっぱなし」というわけにはいきません。日照りや雨不足で水分不足に陥っているときは、蒸散量を抑えるために気孔は閉じられる傾向にあります

気孔をつくる孔辺細胞

孔辺細胞は、表皮の細胞がその形状と機能を変えていった(分化した)細胞です。

細胞の大きさは植物によっても異なりますが、おおむね10~80マイクロメートルほど。幅はそれよりも短かく、豆のような細長い形や、鈴をつぶしたような形(亜鈴型)になります。植物のグループによって孔辺細胞の形には共通性がみられるので、分類の助けにもなるんです。

Stomata open close.jpg
KuriPop - from KuriPop, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

孔辺細胞内にはたくさんのミトコンドリアが存在し、盛んに細胞呼吸をしています。また、液胞も発達しているほか、他の表皮細胞には見られない葉緑体も存在しているのです。

液胞や葉緑体は、気孔の開閉や二酸化炭素の感知に重要な役割を果たしているといわれています。

\次のページで「気孔の開閉の仕組み」を解説!/

image by Study-Z編集部

さらに孔辺細胞の面白いところは、一つの細胞でも細胞壁の厚さが不均一な点です。基本的に、気孔側の細胞壁が厚く、反対の細胞壁は薄くなっています。この厚さの違いが、気孔の開閉に大きな役割を果たしているんです。

気孔の開閉の仕組み

気孔の開閉機構については、まだ完全に解明されたとは言い切れないのが現状です。現在までに分かっている、おおまかな開閉の仕組みを一部ご紹介しましょう。

気孔を開くとき

気孔が開きやすい条件…光が当たったり、湿度が十分高い状態になると、孔辺細胞のプロトンポンプとよばれるタンパク質が活性化します。プロトンポンプはプロトン=水素イオンを排出する機能をもったタンパク質。このタンパク質の活性化により、どんどん孔辺細胞内から水素イオンが輸送され、失われます。

すると、細胞の内外で電気的な差がうまれるため、この差を埋め合わせるようにカリウムイオンが孔辺細胞内に入ってくるのです。この結果、孔辺細胞の浸透圧が上昇。水が流入し、細胞はふくらむことになります。

Opening and Closing of Stoma.svg
Ali Zifan - 投稿者自身による作品; Used information from: Campbell Biology (10th Edition) by: Jane B. Reece & Steven A. Wasserman. and [1]., CC 表示-継承 4.0, リンクによる

体積のふえた孔辺細胞は、空気を入れた風船がふくらむように、やや縦方向に膨張します。このとき細胞壁の薄い外側に細胞が引き延ばされるため、孔辺細胞全体が引っ張られ、孔辺細胞間の気孔が開く…と考えられているのです。

\次のページで「気孔を閉じるとき」を解説!/

気孔を閉じるとき

反対に、気孔が閉鎖されなくてはいけないようなときは、孔辺細胞が伸長せず、しぼんだような形になっています。カリウムイオンを細胞外に排出するのを促進するような仕組みが存在していると考えられているのですが、それを引き起こす物質の一つとして研究されているのがアブシジン酸です。

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アブシジン酸は植物ホルモンの一種。休眠や、生長の抑制を促すほか、気孔の閉鎖にも関わっていることが知られています。アブシジン酸を受け取ることで始まる一連の流れが、カリウムイオンの排出につながっているのです。

気孔が葉の表に多い植物?

「気孔は葉の裏に多い」と習うのは、中学校の理科です。一般的にはその通りなのですが、一部の植物では「葉の裏よりもおもてにたくさん気孔がある」というものもいます。

それが、水面に浮かんでいるような水草の仲間。葉の裏に気孔があっても、水面に接しているためガス交換が難しいのです。大気に接している葉の表側に気孔が多いのは、当たり前といえるかもしれませんね。

気孔のない植物?

じつは、植物であるにもかかわらず気孔をもっていない植物も発見されています。

アンデス山脈で見つかったシダ植物で、ミズニラのなかま(ミズニラ科Stylitesandicola)に分類される植物です。この植物には気孔がみられず、その代わりに根から二酸化炭素を吸収していることが分かりました。とても珍しい、例外的な存在です。

気孔の観察をしてみよう!

気孔や孔辺細胞の観察方法にはいろいろなものが知られています。なかでも手軽でおすすめできるのが、接着剤やマニキュアを使った観察です。接着剤やマニキュアを植物の葉に塗り、乾いてからキレイにはがします。すると、孔辺細胞の跡がはがした接着剤やマニキュアにうつるのです。

顕微鏡での観察では、きれいなプレパラートをつくるのに一苦労ですが、この方法であれば、はがした接着剤やマニキュアをスライドガラスに乗せるだけでOK。水をたらす必要もありません。ぜひ、試してみてください。

イラスト提供元:いらすとや

" /> 植物の「気孔」について詳しく知ろう!現役講師がわかりやすく解説します! – Study-Z
理科環境と生物の反応生態系生物

植物の「気孔」について詳しく知ろう!現役講師がわかりやすく解説します!

この記事では「気孔」をテーマに学習していこう。

中学理科の学習でも登場する「気孔」ですが、その開閉する仕組みは結構複雑です。少し専門的な内容にも触れながら、気孔についての理解を深めていきたい。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

気孔

気孔(きこう)とは、植物の葉に存在する、ガス交換のための小さな穴のことを指します。気孔を形作るのは、孔辺細胞(こうへんさいぼう)とよばれる特別な細胞です。孔辺細胞の形が変形することで、その真ん中にできる穴=気孔が開いたり、塞がったりします。

一般的に気孔は葉の表よりも、裏面に多く存在しますが、例外的な植物も存在するので、後ほどご紹介しましょう。

それではまず、どんな時に気孔の開閉がおきるのかをざっと見ていきましょう。

光合成を盛んにおこなうときに開き、水分不足のときは閉じる

前述の通り、気孔は植物に必要なガス交換で重要な役割を果たします。空気中の二酸化炭素がたくさん必要な時には気孔が大きく開くのです。

ご存じの通り、植物は二酸化炭素を光合成で使用します。つまり、日光が十分に得られる日中は、基本的に気孔が開き、光合成を盛んに行っているのです。

反対に、日光がない夜間には、光合成もできないため気孔を閉じてしまいます。

image by iStockphoto

ただし、気孔を開いているときには、植物内部の水分も飛んでいきやすくなってしまいます。植物が水分を水蒸気として放出することを「蒸散(じょうさん)」といいますが、この水蒸気も気孔から出ていくのです。

そのため、「いつでも昼は気孔を開きっぱなし」というわけにはいきません。日照りや雨不足で水分不足に陥っているときは、蒸散量を抑えるために気孔は閉じられる傾向にあります

気孔をつくる孔辺細胞

孔辺細胞は、表皮の細胞がその形状と機能を変えていった(分化した)細胞です。

細胞の大きさは植物によっても異なりますが、おおむね10~80マイクロメートルほど。幅はそれよりも短かく、豆のような細長い形や、鈴をつぶしたような形(亜鈴型)になります。植物のグループによって孔辺細胞の形には共通性がみられるので、分類の助けにもなるんです。

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KuriPop – from KuriPop, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

孔辺細胞内にはたくさんのミトコンドリアが存在し、盛んに細胞呼吸をしています。また、液胞も発達しているほか、他の表皮細胞には見られない葉緑体も存在しているのです。

液胞や葉緑体は、気孔の開閉や二酸化炭素の感知に重要な役割を果たしているといわれています。

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