今回は「小胞体」について解説していきます。

小胞体は細胞内でのタンパク質合成にとって大変重要な役割をもっている。タンパク質が合成されてから機能を完全に持つまでにどのような加工を受けるのか知っておくことは重要です。ゴルジ体とともに小胞体内部で行われている現象についてもしっかりと学習しておこう。小胞体の種類とその役割の違いについても見落とさず整理しておくことが大切です。

大学院で遺伝子工学を専攻していたバイオ系ライターこざよしと一緒に解説していきます。

ライター/こざよし

遺伝子工学を中心にマリンバイオテクノロジーを大学院まで専攻したバイオ系ライター。バイオサイエンス、生化学、化学分野のトピックスをわかりやすく解説する。

小胞体の働き

image by iStockphoto

小胞体とは、細胞の中でタンパク質合成のメインの場となる細胞小器官です。核で転写されたメッセンジャーRNA(mRNA)の核酸配列にしたがい、リボソームではアミノ酸が次々と連結されて、遺伝子のコドンに対応したアミノ酸配列がつながっていきます。リボソームはある仕組みによって小胞体の膜に付着し、合成されたタンパク質を小胞体内部へと送り出していくのです。小胞体の役割について解説していきます。

タンパク質合成の場

メッセンジャーRNAからタンパク質を合成するのはリボソームの働きがあってこそです。そのリボソームの働く場所が小胞体の膜となります。小胞体には、リボソームが無数に付着している部位があり、その場所ではタンパク質がどんどん合成されているのです。合成されたタンパク質は膜に付着するリボソームから小胞体膜を通過して内部へと送られます

小胞体内部では、合成されたばかりのひも状のタンパク質がそのアミノ酸配列の性質にしたがって丸まったりシート状になったりと、立体構造を形成していくのですが、紐状のままのタンパク質はこわれやすく、立体構造を形成することでより頑丈になるのです。この立体構造をとるにはジスルフィド結合と呼ばれる結びつきがとても重要な働きを持っています。

さらに、小胞体内部ではタンパク質のアミノ酸側鎖に対する糖鎖付加、アセチル化、リン酸化、脂質付加といった化学修飾も行われ、この修飾はタンパク質が正常な働きを行うためには必要な加工なのです。これらのタンパク質加工のプロセスを翻訳後修飾と呼びます。

カルシウム貯蔵

細胞内では、カルシウムイオンが様々な細胞機能を調整しています。カルシウムイオンの濃度変化が神経伝達物質の放出、シナプス可塑性の誘導などの生理機能に関わっている他、細胞死にも関与していますが、そのカルシウムイオンの貯蔵庫となるのが、細胞内では小胞体とミトコンドリアです。小胞体の膜に存在するカルシウムポンプと呼ばれるタンパク質が、カルシウムイオンを取り込むことで小胞体内部にはカルシウムイオンが高濃度で貯蔵されています

小胞体内部に貯蔵されたカルシウムイオンが、小胞体の膜にある放出チャンネルを通じて細胞内へと一気に放出されると、それが信号となり、筋収縮が起こったり神経情報伝達が引き起こされたりしまが、このカルシウムイオン放出も他の刺激によって引き起こされるわけですから、カルシウムイオンはセカンドメッセンジャーとも呼ばれているのです。

3種類の小胞体の形

image by iStockphoto

小胞体の役割について先に解説しましたが、次は小胞体の形そのものに焦点を当ててみましょう。細胞には核がありますが、その核膜も他のオルガネラ同様に二重膜から成り立っています。この二重膜の外膜が、小胞体とつながっているのです。小胞体は核を包むようにして何層にも折れ曲がりながら大きく広がり、細胞内へと伸びています。さらに、小胞体は場所によって形と役割が異なっており、それぞれ粗面小胞体、移行型小胞体、滑面小胞体と呼ばれているのです。

粗面小胞体

粗面小胞体は、その名の通り粗い面が特徴です。顕微鏡写真でその姿をみると、ブツブツとしたものがびっしりと膜の外側についています。このブツブツのひとつひとつが実はリボソームなのです。リボソームはタンパク質を合成する装置ですから、粗面小胞体の主な役割というのはタンパク質の合成の場であるということになります。粗面小胞体の存在部位は核に近い場所です。

\次のページで「移行型小胞体」を解説!/

移行型小胞体

移行型小胞体の役割は、タンパク質を輸送小胞に載せてゴルジ体へと送り出すことです。翻訳後修飾を受けたタンパク質は、さらに完成された姿となるためにゴルジ体へと送られる必要がありますが、その出発ターミナルが移行型小胞体と言えます。移行型小胞体の場所は特定の場所ではなく、修飾後のタンパク質を包み込むための小胞体膜タンパク質が存在する部位であり、その膜タンパク質は小胞体の膜を移動していると言われているのです。

滑面小胞体

滑面小胞体は、滑らかな面を持った小胞体であり、核から遠い場所に存在しています。滑面小胞体の姿はひだ状というよりも、むしろ管状に近い形です。滑面小胞体の役割は、カルシウムを貯蔵することと、ステロイド合成や脂質代謝に関わることで、肝細胞ではグリコーゲンの合成も担っています。

シグナル配列と細胞内輸送

image by iStockphoto

小胞体の役割とその姿について解説しました。次は小胞体が働くための仕組みに焦点を当ててみましょう。特にここでは、リボソームで作られたタンパク質がどのように小胞体内部へと送られるのかについて解説しようと思います。粗面小胞体ではリボソームが無数に付着していると解説しましたが、その仕組みに必要なのがシグナル配列と呼ばれるアミノ酸の連なったペプチドです。

シグナル配列とは

シグナル配列とは

image by Study-Z編集部

リボソームがmRNAからタンパク質合成を始めると、まず20個前後のアミノ酸を先頭にくっつけます。このアミノ酸配列のことをシグナル配列と呼んでいるのですが、このシグナル配列はリボソームが小胞体膜に存在する輸送口となる膜タンパク質に付着するために必要なものなのです。


輸送口となる膜タンパク質のことをトランスコロンと呼びますが、シグナル配列を認識するとリボソームが引き寄せられてトランスコロンに付着します。リボソームはトランスコロンに付着すると、その輸送口を使って、合成するタンパク質を次々と小胞体内部へトコロテン式に送り出していくのです。

小胞体膜内部

トランスコロンを通じて、リボソームが合成したタンパク質が小胞体内部へと送り込まれると、シグナル配列は酵素によって切り離され分解し、再びアミノ酸に戻ります。そしてシグナル配列が失われたタンパク質は、折れ曲がったり丸まったりしながら立体構造を作り上げ安定性を増すのです。さらにアミノ酸側鎖が化学修飾され、合成されたタンパク質の種類によっては同じタンパク質が結合して複合体を形成することもあります。


化学修飾が行われた合成タンパク質は膜に付着し保持され、小胞体膜の一部により包み込まれて小胞体から分離状態となり、これを輸送小胞と呼ぶのです。輸送小胞はゴルジ体へと到達し、癒着することで内部にあるタンパク質をゴルジ体内部へと放出します。ゴルジ体は、さらにタンパク質を修飾して完成された形へと加工する機能を持っているのです。

タンパク質の細胞内輸送を解き明かした手法とは

ところで、合成されたタンパク質がどのように小胞体内部を移動し、ゴルジ体へと到達するのか一体どうやって調べたのか想像はつきますか?この一連のタンパク質の動きを解き明かしたのは、ある実験手法が開発されたからなのです。1960年代に、放射性アミノ酸を用いた研究手法が開発されたことがこの謎の解明に大いに役立ちました。アミノ酸のリン(P)を放射性物質に置き換えた放射性アミノ酸を標識とし、遺伝子が発現する際のタンパク質合成の材料として与えると、合成されたタンパク質には放射性アミノ酸が取り込まれます。

放射性物質は微弱な蛍光を発しますから、特殊な撮影をすることでその放射性アミノ酸が細胞内のどこに局在しているかをイメージングすることが可能となるのです。時系列でその挙動を追っていくと、合成された放射性タンパク質がどのように動いていくのかを把握することができ、現在ではタンパク質を標識する手法は様々なものが開発されています。

\次のページで「小胞体ストレス」を解説!/

小胞体ストレス

image by iStockphoto

リボソームで合成されたタンパク質は、小胞体内部へと送り込まれた後に、立体構造を形成するというのはこれまでも解説したとおりです。ところがこの立体構造の形成は失敗することが多く、失敗したタンパク質(不良タンパク質)が蓄積することで引き起こされる現象を小胞体ストレスと呼びます。


小胞体ストレスは細胞の機能障害をもたらし、細胞死に至ることもありますから、立体構造化を失敗しないように、若しくは失敗したタンパク質を正常に戻すか消し去るという仕組みが小胞体にはあるのですが、特に正常に戻したり消し去る応答を小胞体ストレス応答と呼んでいるのです。まずは失敗を防ぐ仕組みから見ていきましょう。


立体構造に重要な役割を持っているのがジスルフィド結合です。タンパク質の構造中にあるシステインというアミノ酸のS(硫黄)分子が、他のシステインのSとS-S結合をすることで立体構造の安定化に寄与しています。しかし、正しい位置のシステインとジスルフィド結合をすれば問題ない所ですが、誤ってずれた位置のシステインと結合することがあり、そうなるとタンパク質は正常な形を保てません。


その誤りを防ぐタンパク質がシャペロンと呼ばれるタンパク質で、このタンパク質は鋳型のような性質をもっています。小胞体内部に送られた合成されたばかりのタンパク質は、シャペロンの型に従って正確に折りたたまれ、正確な位置のシステインとジスルフィド結合を行うことが出来るのです。シャペロンには間違った構造を正確に戻す働きを持つものもあり、ジスルフィド結合を切断する酵素、ジスルフィドイソメラーゼの働きとともに間違った構造のタンパク質を正常に戻しています


シャペロンによっても正常に戻せなかったタンパク質は、最終的にはプロテアソームと呼ばれる分解酵素の複合体によって分解され、小胞体内部ではこのように不良品の蓄積を防ぐ仕組みがあるのです。

小胞体ストレスが病気を引き起こす

遺伝子からアミノ酸がつながってタンパク質を作るということはよく知られていることですが、合成されたタンパク質はただそれだけではなんの働きもできません。小胞体はその生まれたてのタンパク質をうまく育てていく学校のような場所と言えるかもしれません。

タンパク質の育成に失敗すると、小胞体ストレスが引き起こされますが、この小胞体ストレスは細胞シグナル伝達機構にも影響を与えるため、アルツハイマー病やパーキンソン病などの様々な神経変性疾患に関与していることが報告されています。まだまだ、そのメカニズムは十分に解明されておらず、今後の研究の成果が期待されているのです。

" /> 小胞体には3種類が存在する!バイオ系ライターがそれぞれの役割をわかりやすく解説! – Study-Z
タンパク質と生物体の機能理科生物細胞・生殖・遺伝

小胞体には3種類が存在する!バイオ系ライターがそれぞれの役割をわかりやすく解説!

今回は「小胞体」について解説していきます。

小胞体は細胞内でのタンパク質合成にとって大変重要な役割をもっている。タンパク質が合成されてから機能を完全に持つまでにどのような加工を受けるのか知っておくことは重要です。ゴルジ体とともに小胞体内部で行われている現象についてもしっかりと学習しておこう。小胞体の種類とその役割の違いについても見落とさず整理しておくことが大切です。

大学院で遺伝子工学を専攻していたバイオ系ライターこざよしと一緒に解説していきます。

ライター/こざよし

遺伝子工学を中心にマリンバイオテクノロジーを大学院まで専攻したバイオ系ライター。バイオサイエンス、生化学、化学分野のトピックスをわかりやすく解説する。

小胞体の働き

image by iStockphoto

小胞体とは、細胞の中でタンパク質合成のメインの場となる細胞小器官です。核で転写されたメッセンジャーRNA(mRNA)の核酸配列にしたがい、リボソームではアミノ酸が次々と連結されて、遺伝子のコドンに対応したアミノ酸配列がつながっていきます。リボソームはある仕組みによって小胞体の膜に付着し、合成されたタンパク質を小胞体内部へと送り出していくのです。小胞体の役割について解説していきます。

タンパク質合成の場

メッセンジャーRNAからタンパク質を合成するのはリボソームの働きがあってこそです。そのリボソームの働く場所が小胞体の膜となります。小胞体には、リボソームが無数に付着している部位があり、その場所ではタンパク質がどんどん合成されているのです。合成されたタンパク質は膜に付着するリボソームから小胞体膜を通過して内部へと送られます

小胞体内部では、合成されたばかりのひも状のタンパク質がそのアミノ酸配列の性質にしたがって丸まったりシート状になったりと、立体構造を形成していくのですが、紐状のままのタンパク質はこわれやすく、立体構造を形成することでより頑丈になるのです。この立体構造をとるにはジスルフィド結合と呼ばれる結びつきがとても重要な働きを持っています。

さらに、小胞体内部ではタンパク質のアミノ酸側鎖に対する糖鎖付加、アセチル化、リン酸化、脂質付加といった化学修飾も行われ、この修飾はタンパク質が正常な働きを行うためには必要な加工なのです。これらのタンパク質加工のプロセスを翻訳後修飾と呼びます。

カルシウム貯蔵

細胞内では、カルシウムイオンが様々な細胞機能を調整しています。カルシウムイオンの濃度変化が神経伝達物質の放出、シナプス可塑性の誘導などの生理機能に関わっている他、細胞死にも関与していますが、そのカルシウムイオンの貯蔵庫となるのが、細胞内では小胞体とミトコンドリアです。小胞体の膜に存在するカルシウムポンプと呼ばれるタンパク質が、カルシウムイオンを取り込むことで小胞体内部にはカルシウムイオンが高濃度で貯蔵されています

小胞体内部に貯蔵されたカルシウムイオンが、小胞体の膜にある放出チャンネルを通じて細胞内へと一気に放出されると、それが信号となり、筋収縮が起こったり神経情報伝達が引き起こされたりしまが、このカルシウムイオン放出も他の刺激によって引き起こされるわけですから、カルシウムイオンはセカンドメッセンジャーとも呼ばれているのです。

3種類の小胞体の形

image by iStockphoto

小胞体の役割について先に解説しましたが、次は小胞体の形そのものに焦点を当ててみましょう。細胞には核がありますが、その核膜も他のオルガネラ同様に二重膜から成り立っています。この二重膜の外膜が、小胞体とつながっているのです。小胞体は核を包むようにして何層にも折れ曲がりながら大きく広がり、細胞内へと伸びています。さらに、小胞体は場所によって形と役割が異なっており、それぞれ粗面小胞体、移行型小胞体、滑面小胞体と呼ばれているのです。

粗面小胞体

粗面小胞体は、その名の通り粗い面が特徴です。顕微鏡写真でその姿をみると、ブツブツとしたものがびっしりと膜の外側についています。このブツブツのひとつひとつが実はリボソームなのです。リボソームはタンパク質を合成する装置ですから、粗面小胞体の主な役割というのはタンパク質の合成の場であるということになります。粗面小胞体の存在部位は核に近い場所です。

\次のページで「移行型小胞体」を解説!/

次のページを読む
1 2 3
Share: