今回のテーマは「抗原」と「抗体」です。

免疫を学ぶ上で欠かすことのできない用語ですが、病気などの流行があるとテレビなどでも盛んに聞くようになるキーワードです。病原体が侵入したとき、我々の体内で何が起こっているのか…基本だけでも確実に理解しておきたい。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

抗原と抗体

抗原(こうげん)」と「抗体(こうたい)」は、生物の体を守る生体防御機構の一つである”免疫”に関連する用語です。一言でご説明すると、抗原は体内に侵入してきた病原体などを、抗体はその抗原に結合するタンパク質のことを指します。

抗原

私たちの体には、日々いろいろな細菌やウイルスなどの病原体が侵入してきます。からだに害をなさないものであればいいのですが、病気や体調不良の原因となるものも少なくありません。生物の体には、そういった病原体を退けるための防御システム=免疫が備わっており、免疫反応を引き起こす病原体などが抗原とよばれます

そうですね。アレルギー反応のように、本来であれば体にとって無害な物質を抗原として認識してしまうと、困ったことになります。特定の食べ物が食べられなくなる食物アレルギーも同様です。自己免疫疾患とよばれるような病気では、「自分自身の細胞を抗原と認識してしまう」ことが要因となって引き起こされると考えられています。

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抗原が侵入してくると、それを認識した白血球が免疫反応を開始します。白血球は免疫反応を担う中心的な存在。その構造やはたらきなどが異なる、複数種類の血球がまとめて白血球とよばれています。

病原体を食べてしまうことで排除する(食作用をする)好中球マクロファージ、ひとまとめにして「リンパ球」ともよばれるT細胞B細胞NK細胞(ナチュラルキラー細胞)などがありますが、このうち、次の「抗体」に深く関係しているのはB細胞です。

抗体

抗体はリンパ球の一種であるB細胞が活性化した、形質細胞によって産生されるタンパク質です。「免疫グロブリン(immunoglobulin)」や、その頭文字をとった「Ig」、ときには「ガンマグロブリン」とよばれることもあります。

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Martin Brändli (brandlee86) - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 2.5, リンクによる

その構造によっていくつかの種類に分けられていますが、哺乳類ではIgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5種類に分類されることが多いです。それぞれの抗体が抗原…つまり病原体などに結合すると、いろいろな変化が起こります。少し詳しく見てみましょう。

凝集反応
抗体の結合した抗原が、ぎゅっと集まる反応です。凝集した抗体と抗原のかたまり(抗体抗原複合体)は、マクロファージなどの食作用をおこなう白血球によって排除されます。

【オプソニン効果】
抗体の結合した抗原は、食作用をおこなう細胞を活性化し、食作用を促進します。マクロファージや好中球が、それまで以上にどんどんと食べて排除してくれるようになるんです。これをオプソニン効果(またはオプソニン作用)といいます。

【中和作用】
抗体が抗原に結合することで、抗原の毒性を弱める効果が生じるのが、中和作用です。細菌やウイルスだけでなく、蛇などの毒素にも効果があります。

【補体の活性化】
補体(ほたい)とは、細菌などの細胞膜を破壊する機能をもったタンパク質です。普段ははたらいていませんが、抗体の結合した抗原があると、それに反応して活性化、抗体の結合している抗原を破壊します。

上記のような、抗体と抗原の結合によって引き起こされる反応や、結合自体のことを抗原抗体反応といったりします。

病原体に対して大きな効果を発揮する抗体ですが、残念ながら1つのB細胞がつくる抗体は1種類のみ、かつ、その抗体は1種類の病原体にしか結合できません。つまり、1つのB細胞は1つの病原体(抗原)にのみ対応しているのです。この関係を「特異的に反応する」と表現します。

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特異的に反応できる抗原を認識すると、その担当となるB細胞は細胞分裂して数を増やし、形質細胞に分化。たくさんの抗体がつくられます。できた抗体がどんな役割を果たすかは、前述の通りです。

やがて病原体が排除されると、それに抵抗するための抗体をつくっていたB細胞は多くが死滅してしまいますが、一部が「記憶細胞」として残ります。再度同じ病原体が侵入してきたときに記憶細胞が活性化し、すぐさま抗体をつくるため、2回目の感染では症状が軽く済むようになるのです。以上のような、抗体を利用した免疫反応は体液性免疫(たいえきせいめんえき)とよばれます。

抗体の関わる免疫反応の利用

私たちの生活には、抗体を作り出す仕組みや抗原抗体反応を利用した技術が利用されていることがあります。いくつか具体例を挙げてみましょう。

\次のページで「予防接種とワクチン」を解説!/

予防接種とワクチン

予防接種は、免疫の反応を利用した技術の代表的な存在といえるでしょう。あらかじめ抗原をからだに取り入れておくことで、B細胞の記憶細胞をつくり、実際に病原体が侵入してきたときにすぐ抗体がつくれるようにします。

さらにリンパ球の仲間であり、やはり免疫ではたらくT細胞にも記憶細胞ができるため、同様に活性化され、病原体の排除にはたらくのです。

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予防接種で体に取り入れる抗原がワクチンです。注射で接種することが多いですね。”元気な病原体”そのものを摂取してしまうと、普通に感染症にかかってしまうので、一般的にワクチンは「病原体を弱らせたもの」や「病原体のからだの一部」、「病原体のもっている成分(タンパク質)」などが使われます。

image by Study-Z編集部

日本では子供が生まれてから生長するまでの過程で、いくつかの感染症に対する予防接種が推奨されています。上の表は、その一部をまとめたものです。生後間もなく摂取する「B型肝炎ワクチン」や、ジフテリア、百日せき、破傷風の3種類のワクチンが混ざった「三種混合ワクチン」、結核予防の「BCGワクチン」などがあります。

接種が推奨されるワクチンで防げる感染症は、過去に大流行したり、感染すると命にかかわるような重い症状が現れるような病気が多いです。大人の方は、自分がどのワクチンをうったことがあるか、確認してみるのをおすすめします。病気の種類によって免疫の持続時間が異なるため、子どものころにかからなかった病気に、大人になってからかかることもあるんです。

抗体検査

特定の病原体に対する抗体が血液中に存在しているかを調べることで、その病気にかかったことがあるかを調べることができます。しかしながら、抗体は感染時はもちろんのこと、病原体が排除された後もしばらくの間は血液中に残り続けるため、「今現在感染しているのか」「以前感染したが今は治っているのか」はわからないんです。

代表的な感染症では、風疹の免疫があるかの検査に抗体検査が用いられるほか、2020年には新型コロナウイルス感染症の検査としても話題になりました。

免疫の学習は生きていくうえで必須!

免疫は、私たちが健康に人生を送るためには欠かすことのできないシステムです。しかしながら、抗原や抗体、白血球などについての知識がないと、その仕組みを理解することができません。免疫の仕組みを知らずに、感染症対策や病気の治療で誤った方向に進んでしまうのは、避けたいところです。

今回ご紹介した、抗体をつかう「体液性免疫」のほかにも、「細胞性免疫」や「自然免疫」といった免疫システムが存在します。どれも一度はしっかり学習してほしい内容です。

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タンパク質と生物体の機能理科環境と生物の反応生物

3分で簡単「抗原」と「抗体」!現役講師が簡単にわかりやすく解説します!

今回のテーマは「抗原」と「抗体」です。

免疫を学ぶ上で欠かすことのできない用語ですが、病気などの流行があるとテレビなどでも盛んに聞くようになるキーワードです。病原体が侵入したとき、我々の体内で何が起こっているのか…基本だけでも確実に理解しておきたい。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

抗原と抗体

抗原(こうげん)」と「抗体(こうたい)」は、生物の体を守る生体防御機構の一つである”免疫”に関連する用語です。一言でご説明すると、抗原は体内に侵入してきた病原体などを、抗体はその抗原に結合するタンパク質のことを指します。

抗原

私たちの体には、日々いろいろな細菌やウイルスなどの病原体が侵入してきます。からだに害をなさないものであればいいのですが、病気や体調不良の原因となるものも少なくありません。生物の体には、そういった病原体を退けるための防御システム=免疫が備わっており、免疫反応を引き起こす病原体などが抗原とよばれます

そうですね。アレルギー反応のように、本来であれば体にとって無害な物質を抗原として認識してしまうと、困ったことになります。特定の食べ物が食べられなくなる食物アレルギーも同様です。自己免疫疾患とよばれるような病気では、「自分自身の細胞を抗原と認識してしまう」ことが要因となって引き起こされると考えられています。

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抗原が侵入してくると、それを認識した白血球が免疫反応を開始します。白血球は免疫反応を担う中心的な存在。その構造やはたらきなどが異なる、複数種類の血球がまとめて白血球とよばれています。

病原体を食べてしまうことで排除する(食作用をする)好中球マクロファージ、ひとまとめにして「リンパ球」ともよばれるT細胞B細胞NK細胞(ナチュラルキラー細胞)などがありますが、このうち、次の「抗体」に深く関係しているのはB細胞です。

抗体

抗体はリンパ球の一種であるB細胞が活性化した、形質細胞によって産生されるタンパク質です。「免疫グロブリン(immunoglobulin)」や、その頭文字をとった「Ig」、ときには「ガンマグロブリン」とよばれることもあります。

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