今回の記事では、「初回通過効果」をテーマに取り扱っていこう。

この言葉を初めて聞くというやつも少なくないと思うが、「初回通過効果」は我々が普段、もしくは病気にかかったときにつかう”薬”の効果やはたらきを考えるのに重要なキーワードです。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

初回通過効果

初回通過効果(しょかいつうかこうか)…これは、薬学の世界で使われるのことの多い用語です。

私たちは病気や体の不調を感じるときに、薬のお世話になります。ところが薬は、からだのためになる成分が含まれているとはいえ、食べ物や病原体のように、体外から取り入れられた物質にほかなりません。食べ物などが消化・分解されて体内をめぐる(代謝する)ように、薬もからだから分解や代謝を受け、その後血液に乗って全身をめぐっていきます

image by iStockphoto

このように、からだに取り入れた薬物がからだ全体をめぐる前に受ける分解や代謝のことを「初回通過効果」というのです。ちなみに英語では、”first pass effect”といいます。

初回通過効果は基本的に、摂取した薬物が肝臓を通過するときに受けます。ここで復習・確認をしておきたいのが、肝臓のはたらきです。簡単にご紹介しましょう。

肝臓のはたらきを復習しよう

肝臓は、私たちの体内にある臓器の中でも特に大きなものです。重さは成人で1~1.5kgほど、体重の1/50ほどもあります。大きく存在感もある肝臓ですが、その機能も膨大です。

肝臓には、動脈と静脈に加え、肝門脈(かんもんみゃく)という特別な血管がつながっています。これは、消化管から続く血管で、吸収された栄養などがたっぷり含まれた血液を肝臓に送っているのです。

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食べ物から吸収した栄養、時には毒物も含んだ血液が肝臓に到着すると、さまざまな処理が行われます。過剰なグルコース(糖)はグリコーゲンとなって肝臓に蓄えられ、アミノ酸からはフィブリノーゲンやアルブミンなどのタンパク質を生成。一方で、有害な物質の分解も行い、体に害の少ない物質に代謝してしまいます。

ほかにも様々な化学反応が起きており、肝臓は「体内の化学工場」といわれることもあるんです。

\次のページで「薬が肝臓を通過すると…?」を解説!/

薬が肝臓を通過すると…?

糖やアミノ酸、エタノールなどの体にとって有害な物質が代謝を受けるのと同様に、摂取した薬の成分も、肝臓で大部分が代謝されてしまいます

前述の通り、肝臓へ摂取した糖などをおくるのは肝門脈から送られる血液であり、その血液は消化管からやってきたものです。つまり、胃や小腸、大腸で吸収された薬の成分が、肝臓で代謝される=初回通過効果を受けるということになります。

初回通過効果の影響

じつは薬の成分の多くは、初回通過効果によってその効果を失ってしまったり、効果が弱くなってしまうんです。これを、薬物の不活性化といいます。

肝臓にとって、とり入れられた物質が薬なのか、有害な物質なのかを判断することはできませんから、正常にはたらいている肝臓にとっては当然のことといえるでしょう。酵素がはたらき、有効な成分も分解してしまいます

image by Study-Z編集部

さらに、最近は小腸にある酵素も初回通過効果に関係しているということがわかってきています。いずれにせよ、ほとんどの内服薬は、多かれ少なかれ初回通過効果を受ける、と考えて差し支えないでしょう。

どうやって「効く薬」をデザインするか?

薬をつくる際には「内服薬の場合初回通過効果を受ける可能性がある」という前提の上、「効果のある薬」を作り出さなくてはいけません。

\次のページで「薬と肝臓」を解説!/

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まずは、初回通過効果を受けて効果が失われてしまう以上の量を投薬量として設定するという方法があります。医師はその人の症状や体調によって薬の量を加減しますし、市販薬でも「一日〇回、一回〇錠」と定められていますよね。これらは、初回通過効果をうけてもきちんと効く量となっています。自己判断で服薬量を減らしてしまうのはおすすめできません。

では、大目に飲めばいいかというと、それもNG!後述しますが、過剰な薬の代謝は肝臓に大きな負担となります。薬は、多すぎても体に悪影響なのです。

また、代謝されにくい成分を使ったり、肝臓で分解してしまう酵素のはたらきを抑えてしまうという方法も考えられます。そもそも「経口投与しない」という手段も忘れてはいけません。注射や座薬、張り薬、吸入薬など、初回通過効果を受けない投薬方法もたくさんあるのです。ただ、注射などは普段一人で行うことが難しいのも現状でしょう。

それぞれの製薬会社は、効率よくはたらくよりよい薬をつくる工夫をしているのです。

薬と肝臓

最後に、皆さんに知っておいてほしい「薬と肝臓」の話をしておきましょう。

ここまでお読みいただいた方であれば、薬の過剰な服用が肝臓にとって大きな負担になることが想像できると思います。大量の服薬や、何年にもわたるような長期間の薬の使用は、肝機能障害に結びついてしまうことがあるんです。肝機能障害が起きると、薬の代謝はもとより、本来の機能であるその他たくさんの肝臓の機能が低下していしまいます。

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また、多くの人にとって良い効果のある薬でも、人によっては肝臓で分解された結果生じる成分が、悪さをする場合もあります。肝臓が弱っていたり、すでに肝機能に障害がある人では、通常の服用量が多すぎる場合も。やはり、薬の服用は慎重に行わなくてはならないのです。

薬の説明書には『副作用』についての記述や、『以下の症状が現れた場合は服用を中止し…』というような文言が必ずありますよね。薬を飲んでからの体調の変化を、しっかりと観察するようにしましょう。

身近な”薬”は計算されつくしている

からだに取り入れた薬が肝臓で代謝され、多くの有効成分が無効になってしまうなんて…皆さんご存じでしたか?私たちが使う薬は、毒性や効き目だけでなく、初回通過効果などの体内で受けるさまざまな作用を前提として設計されているのです。

安心して服用できる薬を作ってくれている製薬会社の人たちに、感謝しなくてはなりませんね。皆さんもくれぐれも、『薬は用法容量を守って適切に服用する』ことを忘れずに!

イラスト提供元:いらすとや

" /> 3分で簡単「初回通過効果」薬が効かなくなる!?現役講師がわかりやすく解説します! – Study-Z
タンパク質と生物体の機能理科環境と生物の反応生物

3分で簡単「初回通過効果」薬が効かなくなる!?現役講師がわかりやすく解説します!

今回の記事では、「初回通過効果」をテーマに取り扱っていこう。

この言葉を初めて聞くというやつも少なくないと思うが、「初回通過効果」は我々が普段、もしくは病気にかかったときにつかう”薬”の効果やはたらきを考えるのに重要なキーワードです。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

初回通過効果

初回通過効果(しょかいつうかこうか)…これは、薬学の世界で使われるのことの多い用語です。

私たちは病気や体の不調を感じるときに、薬のお世話になります。ところが薬は、からだのためになる成分が含まれているとはいえ、食べ物や病原体のように、体外から取り入れられた物質にほかなりません。食べ物などが消化・分解されて体内をめぐる(代謝する)ように、薬もからだから分解や代謝を受け、その後血液に乗って全身をめぐっていきます

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このように、からだに取り入れた薬物がからだ全体をめぐる前に受ける分解や代謝のことを「初回通過効果」というのです。ちなみに英語では、”first pass effect”といいます。

初回通過効果は基本的に、摂取した薬物が肝臓を通過するときに受けます。ここで復習・確認をしておきたいのが、肝臓のはたらきです。簡単にご紹介しましょう。

肝臓のはたらきを復習しよう

肝臓は、私たちの体内にある臓器の中でも特に大きなものです。重さは成人で1~1.5kgほど、体重の1/50ほどもあります。大きく存在感もある肝臓ですが、その機能も膨大です。

肝臓には、動脈と静脈に加え、肝門脈(かんもんみゃく)という特別な血管がつながっています。これは、消化管から続く血管で、吸収された栄養などがたっぷり含まれた血液を肝臓に送っているのです。

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食べ物から吸収した栄養、時には毒物も含んだ血液が肝臓に到着すると、さまざまな処理が行われます。過剰なグルコース(糖)はグリコーゲンとなって肝臓に蓄えられ、アミノ酸からはフィブリノーゲンやアルブミンなどのタンパク質を生成。一方で、有害な物質の分解も行い、体に害の少ない物質に代謝してしまいます。

ほかにも様々な化学反応が起きており、肝臓は「体内の化学工場」といわれることもあるんです。

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