今日のテーマは「分化」です。
生物はたった一つの受精卵と呼ばれる単細胞から始まる。受精卵は分裂を繰り返して複数の細胞群となり、各々の細胞が生存に必須な組織に変化して多様な組織が形成され、最終的に個体となるんです。この細胞が変化することを細胞の「分化」と呼ぶ。
受精卵から生物の誕生まで、さらに誕生後も身体を維持するために非常に重要な現象である「分化」を現役理系大学院生で生物に詳しいライターcaoriと一緒に解説していきます。

ライター/Caori

国立理系大学院の博士課程に在籍している現役の大学院生。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。

細胞の分化とは

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発生物学では特殊化していない細胞がより特殊化したタイプの細胞に変化するプロセスのことを「分化」と呼びます。簡単に言えば、それぞれの細胞が何らかの役割を持つことです。

私達は最初はたった一つの受精卵から始まります。受精卵から個体になるには、それぞれの組織でそれぞれの役割を果たすために、その組織に見合った場所で見合った機能を持たなくてはなりません。そのために受精卵が卵割、分裂してできた胚細胞は、ある細胞は筋肉へ、ある細胞は神経へ、ある細胞は皮膚へ…と異なる細胞へと変わっていくことが必要です。このように異なった機能を持つ細胞に変化する現象を「細胞分化」と言います。

分化する能力を持つ細胞

分化する能力を持つ細胞

image by Study-Z編集部

今回は哺乳類細胞の分化に焦点を当てて解説をします。哺乳類の体を構成している細胞は、「生殖細胞」「幹細胞」「体細胞」の3種類です。この3種類のうち「分化」する能力を持っているのは「生殖細胞」と「幹細胞」で、「幹細胞」は「全能性幹細胞」「多能性幹細胞」「成体幹細胞」に大別されています。

ヒトの発生の始まりは、生殖細胞である精子と卵子が受精して出来た受精卵と呼ばれる1つの細胞です。受精卵は胎盤などの胚体外組織を含む、どの細胞にもなれる万能な細胞なので「全能性幹細胞」。その後、細胞分裂を続け、「全能性幹細胞」は特殊化して「多能性(万能性)幹細胞」と呼ばれる細胞に分化します。多様性幹細胞はあらゆる細胞になる能力を持ちますが、それだけでは胎盤や胎児(立体構造)を作ることはできません。「多能性幹細胞」はさらに分化を重ね、生体内のそれぞれの組織を作るための「成体幹細胞」と呼ばれる種々の幹細胞になります。

多能性幹細胞と成体幹細胞

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多能性幹細胞とは具体的に言うと内胚葉、中胚葉、外胚葉の全てに分化可能である細胞のことです。この頃から細胞が将来どの臓器を構成することになるのか、少しずつ決められていきます。たとえば、外胚葉が分化するのは皮膚や感覚器、神経系です。さらに中胚葉は骨格や筋、循環器系、泌尿器生殖系へ。内胚葉は消化器系、呼吸器系、尿路系へと分化していきます。

三胚葉から分化して出来たそれぞれの組織には「成体幹細胞」と呼ばれる特定の複数の細胞にだけ分化する細胞が存在し、その役割は新しい細胞を補充したり、損傷した場合に組織を再生することです。それぞれの細胞には寿命があるため、成体幹細胞は必要に応じて新しい細胞を作りだして必要な細胞を維持しています。「成体幹細胞」は細胞分裂の周期を多数経ても、細胞の性質を維持する能力(未分化能)を持つことが特徴です。成体幹細胞は絶える事なく生体内の状況に応じて分化、自己複製を調整し、その組織に必要な細胞を供給しています。

\次のページで「ES細胞とは」を解説!/

ES細胞とは

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受精卵が細胞分裂を繰り返す過程で、多能性幹細胞の「内部細胞塊」と呼ばれる細胞の塊ができます。この内部細胞塊を取り出して、人工的に培養したものが胚性幹細胞(Embryonic Stem cells )です。頭文字をとってES細胞と呼びますES細胞は人体を構成する臓器、組織の細胞になる可能性を持っていて、さらに無限に増殖できる細胞です。そのため、再生医療や細胞移植治療、創薬のなどの幅広い医学研究に応用が期待されていて、研究が進められています。

しかし、一見有用そうに見えるES細胞の研究は、受精卵を使用することで生命を滅失してしまうため倫理的に大きな問題を抱えているのです。現段階ではヒトES細胞の作製を認めない国もあります。また、患者さん自身のES細胞を作ることはできないので、拒絶反応が起こることも問題です。

ES細胞とiPS細胞の違い

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最後にES細胞とiPS細胞の違いについて解説します。iPS細胞とは京都大学再生医科学研究所の山中伸弥教授が2006年に科学雑誌セルで発表した、マウスの胚性線維芽細胞に4つの因子 (Oct3/4 ,Sox2, c-Myc, Klf4) を導入することで分化多能性を持たせた、人工多能性幹細胞(induced Pluripotent Stem cells)のことです。iPS細胞はES細胞と同じく多能性を持っています。

ES細胞との最も大きな違いは、ES細胞は受精卵から作るのに対して、iPS細胞は普通の細胞から作れることです。本来なら一度、皮膚などに分化した細胞は多能性を失っていますが、iPS細胞ではこの一度失われた多能性を遺伝子導入によって無理やり引き出しています。受精卵を使わず、患者さん自身の細胞からiPS細胞を作ることが特徴です。

ES細胞の倫理的問題や拒絶反応の問題を一挙に解決できるため、ES細胞に代わる細胞として大きな注目と期待を集めていますが、ガンや奇形種を発生しやすいなどの問題点が挙げられています。

細胞分化研究の可能性

今回は細胞の「分化」について解説をしました。受精卵から個体になるまでの発生の過程や、組織を維持するために「分化」はとても重要な生命現象です。これまで成体幹細胞から最終分化した細胞は、その特化された細胞機能以外を担うことはできないと考えられてきました。しかし、近年ではその考えに疑問を呈するような研究結果が多数報告されており、今後は新たな「分化」のメカニズムが明らかになるかもしれません。

さらに、この「分化」を応用した技術で作り出された細胞が「ES細胞」や「iPS細胞」でした。「ES細胞」や「iPS細胞」には現段階ではまだまだ課題がありますが、解決できるように研究や実験が日々行われており、今後の再生医療や創薬、医学基礎研究への貢献が強く期待できる分野です。細胞の「分化」、さらには「ES細胞」や「iPS細胞」の研究が進めば、現在では難治の病が治る日も来るがもしれませんね。

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理科生物細胞・生殖・遺伝

3分で簡単「分化」ひとつの受精卵からヒトが出来る理由を現役理系大学院生がわかりやすく解説!

ES細胞とは

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受精卵が細胞分裂を繰り返す過程で、多能性幹細胞の「内部細胞塊」と呼ばれる細胞の塊ができます。この内部細胞塊を取り出して、人工的に培養したものが胚性幹細胞(Embryonic Stem cells )です。頭文字をとってES細胞と呼びますES細胞は人体を構成する臓器、組織の細胞になる可能性を持っていて、さらに無限に増殖できる細胞です。そのため、再生医療や細胞移植治療、創薬のなどの幅広い医学研究に応用が期待されていて、研究が進められています。

しかし、一見有用そうに見えるES細胞の研究は、受精卵を使用することで生命を滅失してしまうため倫理的に大きな問題を抱えているのです。現段階ではヒトES細胞の作製を認めない国もあります。また、患者さん自身のES細胞を作ることはできないので、拒絶反応が起こることも問題です。

ES細胞とiPS細胞の違い

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最後にES細胞とiPS細胞の違いについて解説します。iPS細胞とは京都大学再生医科学研究所の山中伸弥教授が2006年に科学雑誌セルで発表した、マウスの胚性線維芽細胞に4つの因子 (Oct3/4 ,Sox2, c-Myc, Klf4) を導入することで分化多能性を持たせた、人工多能性幹細胞(induced Pluripotent Stem cells)のことです。iPS細胞はES細胞と同じく多能性を持っています。

ES細胞との最も大きな違いは、ES細胞は受精卵から作るのに対して、iPS細胞は普通の細胞から作れることです。本来なら一度、皮膚などに分化した細胞は多能性を失っていますが、iPS細胞ではこの一度失われた多能性を遺伝子導入によって無理やり引き出しています。受精卵を使わず、患者さん自身の細胞からiPS細胞を作ることが特徴です。

ES細胞の倫理的問題や拒絶反応の問題を一挙に解決できるため、ES細胞に代わる細胞として大きな注目と期待を集めていますが、ガンや奇形種を発生しやすいなどの問題点が挙げられています。

細胞分化研究の可能性

今回は細胞の「分化」について解説をしました。受精卵から個体になるまでの発生の過程や、組織を維持するために「分化」はとても重要な生命現象です。これまで成体幹細胞から最終分化した細胞は、その特化された細胞機能以外を担うことはできないと考えられてきました。しかし、近年ではその考えに疑問を呈するような研究結果が多数報告されており、今後は新たな「分化」のメカニズムが明らかになるかもしれません。

さらに、この「分化」を応用した技術で作り出された細胞が「ES細胞」や「iPS細胞」でした。「ES細胞」や「iPS細胞」には現段階ではまだまだ課題がありますが、解決できるように研究や実験が日々行われており、今後の再生医療や創薬、医学基礎研究への貢献が強く期待できる分野です。細胞の「分化」、さらには「ES細胞」や「iPS細胞」の研究が進めば、現在では難治の病が治る日も来るがもしれませんね。

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