この記事では「酸化還元酵素」というキーワードについて学習していこう。

酵素は体内でおきる化学反応を促進する、”触媒”となる物質です。酵素の種類や機能について学ぶことは、さまざまな生命活動について理解を深めることにつながる。少し専門的になるが、ぜひチャレンジしてほしい学習内容です。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

酸化還元酵素

説明図 酵素反応速度曲線.PNG
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酸化還元酵素(oxidoreductase:オキシドレダクターゼ)は、名前の通り、酸化還元反応を促進する酵素の総称です。体内でおきている様々な酸化還元反応は、この酵素が作用することがきっかけですすみます。

この酵素についてより理解を深めるために、酸化還元反応について知っておきましょう。

酸化還元反応

酸化還元反応は、高校の化学で詳しく学びます。普段の生活で最もイメージしやすい酸化還元反応といえば、「ものの燃焼」や金属の「さび」でしょう。いずれも、物質が酸素原子と化合する化学変化です。酸化とは「酸素原子と結びつくこと」であり、還元はその反対「酸素原子が奪われること」と説明されます。

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もう一段階、酸化還元反応の考え方を拡張したのが、水素原子の授受による定義です。酸化は「水素が奪われること」、還元は「水素と結びつくこと」と説明されます。酸素が含まれていない物質の化学反応でも、水素原子のやりとりがあれば、酸化還元反応が起きていると考えるのです。

さらに、電子の授受による酸化還元の定義が使われるようになりました。酸化は「電子が奪われること」、還元は「電子を受け取ること」です。酸素原子や水素原子がなくても、物質間で電子のやりとりが生じていれば、それは酸化還元反応だといえます。

image by Study-Z編集部

生体内でおきる酸化還元反応も、この3種類の定義によるものがそれぞれ存在します。とはいえ、酸素や水素の移動があるということは、それに伴って電子の授受が生じているはずなので、結局はどれも「電子の授受がある酸化還元反応」であると考えることもできますね。

酸化還元酵素は、そのはたらき方によって大別され、それぞれに名前がついています。代表的なものをピックアップしてご紹介しましょう。

酸化酵素

オキシダーゼともよばれます。酸化酵素は、酸素分子と他の物質の間でおきる酸化還元反応で、とくに「酸素分子が水素を受け取る反応」を促進する酵素です。これは、反対に考えると「水素を失った物質=酸化された物質が存在する」ということになります。

反応の結果、酸素原子と水素原子が結合して、過酸化水素もしくは水が生成するのも特徴です。

シトクロムcオキシダーゼ

酸化酵素に分類されるシトクロムcオキシダーゼは、ミトコンドリアの膜に存在している酵素です。シトクロムcという分子と、水素イオン(プロトン)、酸素分子が反応し、水分子などが生成します。

これは、ミトコンドリアが行う呼吸(細胞呼吸または内呼吸)でも、とくに重要な反応。なぜならば、この時生じる電気的なエネルギーがATP合成に使われるためです。

\次のページで「脱水素酵素」を解説!/

脱水素酵素

生体内の有機物から水素を奪う反応を促進する酵素です。デヒドロゲナーゼともよばれます。

繰り返しになりますが、「水素を失った=その物質は酸化された」ということ。反対に水素を受け取った物質も必ず存在します。ただし、水素を受け取る物質は、酸素ではない他の物質(色素など)であることが基本です。

アルコールデヒドロゲナーゼ

アルコール、とくにエタノールから水素を奪い、酸化させる反応を進めるのがアルコールデヒドロゲナーゼ(またはアルコール脱水素酵素)です。酸化されたエタノールはアセトアルデヒドという物質になります。

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お気づきでしょうか?エタノール(アルコール)をアセトアルデヒドにする反応…これは、お酒を飲んだときにアルコールを分解するために起きる反応です。アセトアルデヒドはヒトの体によって有害な物質であり、二日酔いの原因ともなりますね。この後さらに酸化され、無害な酢酸になります。

ということで、アルコールデヒドロゲナーゼは、肝臓に多く存在する酵素なんです。

アセトアルデヒド脱水素酵素

前述の、アセトアルデヒドを酢酸にする代謝反応を促すのが、アセトアルデヒド脱水素酵素です。アセトアルデヒドの分解とは、アセトアルデヒドから水素を奪うことであり、アセトアルデヒドを酸化することなんですね。

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酸素添加酵素

酸素分子を他の物質(基質)が取り込む反応を促進するのが、酸素添加酵素です。オキシゲナーゼという名前でも呼ばれます。

シトクロムP450

酸素添加酵素のなかでもよく名前を聞くのが、シトクロムP450(もしくはチトクロムP450)という酵素群。肝臓で行われる解毒作用に関係するだけでなく、ホルモンの合成や代謝反応など、さまざまな反応に関連していることが分かっています。

\次のページで「酵素の分類と酵素番号」を解説!/

酵素の分類と酵素番号

最後に、生体内ではたらく酵素全体を概観しましょう。

2020年現在、酵素は大きく7つのグループに分類されています。酵素にはECから始まる番号(酵素番号)が付けられており、7つのグループに分類された酵素はEC1、EC2、EC3…EC7というように、番号を見ればどのグループのものかわかるようになっているんです。

EC 1.X.X.X 酸化還元酵素(オキシドレダクターゼ)
EC 2.X.X.X 転移酵素(トランスフェラーゼ)
EC 3.X.X.X 加水分解酵素(ヒドロラーゼ)
EC 4.X.X.X 脱離酵素(リアーゼ)
EC 5.X.X.X 異性化酵素(イソメラーゼ)
EC 6.X.X.X 合成酵素(リガーゼ)
EC 7.X.X.X 輸送酵素(トランスロカーゼ)

※Xには各酵素に割り当てられた数字が入る

今回学んできた酸化還元酵素は、EC1から始まる酵素番号をもちます。他のグループの酵素についても学ぶと、酵素と代謝反応の深い関係をよりよく理解できるようになっていくはずです。

酵素と私たちのからだの深い関係

今回は代表的な酸化還元酵素をご紹介しましたが、これらはごく一部。ヒトの体内ではなんと500種類以上もの酸化還元酵素が確認されています。研究が進めば、また新たな酸化還元酵素が見つかるかもしれません。

いずれにせよ、からだの大部分が水であり、酸素を利用してエネルギーを得ている私たちにとって、酸化還元という化学反応は生きていくのに切り離すことができない現象です。酸化還元酵素の存在は、細胞が活動するために不可欠だといってよいでしょう。

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タンパク質と生物体の機能理科生物

「酸化還元酵素」とはどんな酵素?化学変化を促進?現役講師が5分でわかりやすく解説します!

この記事では「酸化還元酵素」というキーワードについて学習していこう。

酵素は体内でおきる化学反応を促進する、”触媒”となる物質です。酵素の種類や機能について学ぶことは、さまざまな生命活動について理解を深めることにつながる。少し専門的になるが、ぜひチャレンジしてほしい学習内容です。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

酸化還元酵素

酸化還元酵素(oxidoreductase:オキシドレダクターゼ)は、名前の通り、酸化還元反応を促進する酵素の総称です。体内でおきている様々な酸化還元反応は、この酵素が作用することがきっかけですすみます。

この酵素についてより理解を深めるために、酸化還元反応について知っておきましょう。

酸化還元反応

酸化還元反応は、高校の化学で詳しく学びます。普段の生活で最もイメージしやすい酸化還元反応といえば、「ものの燃焼」や金属の「さび」でしょう。いずれも、物質が酸素原子と化合する化学変化です。酸化とは「酸素原子と結びつくこと」であり、還元はその反対「酸素原子が奪われること」と説明されます。

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もう一段階、酸化還元反応の考え方を拡張したのが、水素原子の授受による定義です。酸化は「水素が奪われること」、還元は「水素と結びつくこと」と説明されます。酸素が含まれていない物質の化学反応でも、水素原子のやりとりがあれば、酸化還元反応が起きていると考えるのです。

さらに、電子の授受による酸化還元の定義が使われるようになりました。酸化は「電子が奪われること」、還元は「電子を受け取ること」です。酸素原子や水素原子がなくても、物質間で電子のやりとりが生じていれば、それは酸化還元反応だといえます。

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生体内でおきる酸化還元反応も、この3種類の定義によるものがそれぞれ存在します。とはいえ、酸素や水素の移動があるということは、それに伴って電子の授受が生じているはずなので、結局はどれも「電子の授受がある酸化還元反応」であると考えることもできますね。

酸化還元酵素は、そのはたらき方によって大別され、それぞれに名前がついています。代表的なものをピックアップしてご紹介しましょう。

酸化酵素

オキシダーゼともよばれます。酸化酵素は、酸素分子と他の物質の間でおきる酸化還元反応で、とくに「酸素分子が水素を受け取る反応」を促進する酵素です。これは、反対に考えると「水素を失った物質=酸化された物質が存在する」ということになります。

反応の結果、酸素原子と水素原子が結合して、過酸化水素もしくは水が生成するのも特徴です。

シトクロムcオキシダーゼ

酸化酵素に分類されるシトクロムcオキシダーゼは、ミトコンドリアの膜に存在している酵素です。シトクロムcという分子と、水素イオン(プロトン)、酸素分子が反応し、水分子などが生成します。

これは、ミトコンドリアが行う呼吸(細胞呼吸または内呼吸)でも、とくに重要な反応。なぜならば、この時生じる電気的なエネルギーがATP合成に使われるためです。

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