
食事で摂り入れたものがそのままエネルギー源になるわけではなのです。実際には食物から得た糖や脂肪などのエネルギーは、最終的に「アデノシン三リン酸(ATP)」とよばれる分子のエネルギーに変換されて使われている。ほとんどすべての生物は、この「アデノシン三リン酸(ATP)」と呼ばれる化合物によって生命活動を維持しているといっても過言ではない。ATPは生体におけるエネルギーの通貨であり、このエネルギーが我々の生命としての活動に不可欠です。
今回は、生体のエネルギー通貨「アデノシン三リン酸(ATP)」について現役理系大学院生で生物に詳しいライターcaoriと一緒に解説していきます。

ライター/Caori
国立理系大学院の博士課程に在籍している現役の大学院生。とっても身近な現象である生命現象をわかりやすく解説する「楽しくわかりやすい生物の授業」が目標。
アデノシン三リン酸(ATP)とは?

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筋肉を動かす、様々な物質を代謝する、DNAを複製する…私達が生きていくために体内で生じるすべての現象にはエネルギーを必要としますが、食事から摂取した栄養素が直接エネルギーとして使われるわけではありません。食事から摂取した糖や脂肪は細胞内で「生体のエネルギー通貨」と呼ばれる「アデノシン三リン酸(ATP)」に変換され、細胞内でエネルギーとして幅広く利用されています。動物も植物もバクテリアも、全ての生物がATPを利用しているため、地球上のほぼすべての生物に共通する基本的な生命現象のひとつです。
では、アデノシン三リン酸(ATP)とはどんな物質でしょうか。一言で言うと、アデノシン(adenosine)とリン酸(phosphoric acid)からなる化合物の名称です。リン酸分子が3つ結合しているため「3」を意味する接頭辞 tri- が加えられ、Adenosine TriPhosphate、頭文字をとってATP(エー・ティー・ピー)と呼ぶのが一般的です。
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ATPの構造とエネルギー

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まずはATPの構造から見ていきましょう。ATPはリボース、アデニン、リン酸の3つの構成要素からできています。リボースは糖の一種で炭素を5個もっている五単糖。アデニンはプリン骨格を持った核酸塩基のひとつです。このリボースとアデニンがN-グリコシド結合により結合したものが「アデノシン」。このアデノシンにリン酸エステル結合によりリン酸基が3つ結合したものが「アデノシン三リン酸(ATP)」です。
では、この構造のどこにエネルギーがあるのでしょうか?実は、この3つのリン酸基同士の結合(高エネルギーリン酸結合)部分にエネルギーが蓄えられています。リン酸無水結合はエネルギー的に不安定であり、加水分解反応や他の分子にリン酸基が転移する反応によって3つあるリン酸分子のうち1つが切り離される反応に伴い、蓄えられていたエネルギーが放出され、活動に必要なエネルギーが供給されるというわけです。
ATPの生合成
生命現象に非常に重要なエネルギー源であるATP。では、ATPは生体内のどこで何から作られているのでしょうか?
まず、ATPは細胞の中の細胞質にある「解糖系」とミトコンドリア内にある「クエン酸回路」「電子伝達系」この3つの経路でつくられています。そして、ATPの主な材料は、三大栄養素の「糖質」「脂質」「タンパク質」です。「解糖系」と「クエン酸回路」「電子伝達系」ではATPの代謝に違いがあるため、それぞれの場合のATPの代謝についての違いを確認していきましょう。
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解糖系とATP産生

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解糖系は「解」「糖」と書くように、糖質を分解してATPを作り出すための回路のこと。食事から摂取した糖質は、主にグルコースに分解されて細胞内に取り込まれますが、グルコースのままではエネルギーとして利用できないため、ATPへの変換が必要です。
細胞質に取り込まれたグルコースは、解糖系によって2つのATPとNADH、ピルビン酸に代謝されます。解糖系そのものには酸素は不要のため無酸素系とも呼ばれますが、酸素の有無によって最終生成物に違いがあるので要注意。酸素があればピルビン酸はミトコンドリアに取り込まれ、さらに大量のATPを産生しますが、酸素が不足していればピルビン酸は「乳酸」に変化します。
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