この記事では、「加水分解反応」という用語について学習していこう。

生物の体内では、さまざまな酵素が使われている。中でも加水分解酵素は、食事の消化などにかかわるものが多く、身近な酵素だといえる。具体例とともに学んでいこうじゃないか。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

加水分解酵素

加水分解酵素(かすいぶんかいこうそ)とは、名前の通り加水分解反応を促進するタイプの酵素です。加水分解とは、ある分子に水を反応させることで、それまであった分子をばらばらに分解してしまう化学反応のことをさします。

image by Study-Z編集部

分子の結合が切れるところに、水分子由来のHとOHがそれぞれ入り込むのです。

酵素は、化学反応を引き起こしやすくする”触媒”の機能をもったタンパク質。基本的に、加水分解反応が起きても、酵素自身は変化しません。

私たちの体内ではたくさんの酵素がつくられ、機能していますが、その中でも加水分解酵素は少なくありません。とくに、食べ物の消化に役立つ酵素として、名前がよく知られているものもあるんです。

人間のからだではたらく代表的な加水分解酵素は、おおきく4つのグループにわけて紹介されることがあります。以下をご覧ください。

・炭水化物加水分解酵素

・タンパク質加水分解酵素

・脂肪加水分解酵素

・ATP分解酵素

それぞれの酵素のグループについて、詳しく見ていきましょう。

炭水化物加水分解酵素

糖分などの炭水化物を加水分解する酵素の総称が、炭水化物加水分解酵素です。デンプンの分解を助けるアミラーゼなどは、中学校の理科でも名前がでてきます。

アミラーゼ(amylase)…デンプンをデキストリンとマルトースに分解する。ジアスターゼとも。

マルターゼ(maltase)…マルトースをグルコースに分解する。

スクラーゼ(sucrase)…スクロースをグルコースとフルクトースに分解する。

ラクターゼ(lactase)…ラクトースをグルコースとガラクトースに分解する。

\次のページで「タンパク質加水分解酵素」を解説!/

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聞いたことのある酵素の名前、ありませんか?それぞれ、「分解する物質の名前の初め+ase」という命名のルールがみえてきますね。

タンパク質加水分解酵素

タンパク質を加水分解する酵素は、まとめてプロテアーゼ、もしくはプロテイナーゼともよばれます。

タンパク質は、たくさんのアミノ酸が結合してできている高分子=ペプチド(とくに分子の大きなものはポリペプチドとよぶ)です。アミノ酸同士はペプチド結合でつながっているため、タンパク質加水分解酵素は、このペプチド結合を切る酵素だと言い換えることができます。

よく名前の知られているものをあげましょう。

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ペプシン(pepsin)…タンパク質をペプチドに分解する。胃ではたらき、タンパク質(肉や魚)を消化するのに役立つ。

トリプシン(trypsin)…タンパク質をペプチドにに分解する。膵液に含まれる。消化を助ける。

ナットウキナーゼ(nattokinase)…納豆に含まれる。フィブリンを分解する作用が知られている。

ペプシンやトリプシンは、多くの加水分解酵素とちがい、名前に「-ase」がついていません。これは、酵素の命名を統一しようとする以前に発見され、すでに広く知られた名称だったため、その変更されずに名前が使われているのです。歴史のある酵素、ということになりますね。

脂肪加水分解酵素

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脂肪を加水分解する酵素です。リパーゼとよばれる酵素がこれにあたります。

リパーゼ(lipase)…脂質を脂肪酸とグリセリンに分解する。脂質の消化を助ける。

ATP分解酵素

ATP分解酵素(ATPアーゼ)は、ATPを分解し、ADPとリン酸にする反応を促進します。この反応で放出されるエネルギーを、私たちの細胞は利用しているのです。

ATP分解酵素がなければ、ご飯を食べても細胞がエネルギーをつかえない、ということになってしまいます。とても大切な酵素ですね。

ATP分解酵素(ATPase)…ATP(アデノシン三リン酸)を、ADP(アデノシン二リン酸)とリン酸に分解する。

\次のページで「酵素の分類と”EC番号”」を解説!/

酵素の分類と”EC番号”

せっかくですので、加水分解酵素だけでなく、酵素全体の分類についてもご紹介しましょう。

体内ではたらくさまざまな酵素は、その性質から大きく7つのグループに大別されています。各酵素には「EC」から始まる番号(酵素番号:Enzyme Commission number)が決められており、その酵素が7つのグループのどれに当てはまるかは、「EC」に続く文字で判別が可能です。

EC 1.X.X.X 酸化還元酵素(オキシドレダクターゼ)
EC 2.X.X.X 転移酵素(トランスフェラーゼ)
EC 3.X.X.X 加水分解酵素(ヒドロラーゼ)
EC 4.X.X.X 脱離酵素(リアーゼ)
EC 5.X.X.X 異性化酵素(イソメラーゼ)
EC 6.X.X.X 合成酵素(リガーゼ)
EC 7.X.X.X 輸送酵素(トランスロカーゼ)

※Xには各酵素に割り当てられた数字が入る

今回ご紹介した加水分解酵素は、EC3のグループです。いずれの酵素にも、EC3から始まる番号が定められています。

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EC番号や酵素のグループを覚えておくと、学習の際に役立つことがあります。たとえば、インターネットなどで記事を検索すると、加水分解酵素は「EC3群」などという名称で紹介されていることがあるんです。似たような作用をもつ酵素が同じグループになっているので、色々な酵素を系統的に勉強するヒントにもなります。

加水分解酵素以外にはどんな酵素が存在し、体内で利用されているのか、探索してみるのも面白いですよ。

生物学以外でも重要な”加水分解酵素”

今回ご覧いただいた通り、多くの消化酵素の正体は、加水分解酵素です。加水分解酵素について理解を深めることは、生物学だけにとどまらず、栄養学や薬学などの学習でも必要になります。

酵素の名前・具体例を覚えるだけでなく、体内で行われている「加水分解」という化学反応をしっかりとおさえておきましょう。

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タンパク質と生物体の機能理科生物

「加水分解酵素」にはどんなものがある?現役講師が5分でザックリわかりやすく解説します!

この記事では、「加水分解反応」という用語について学習していこう。

生物の体内では、さまざまな酵素が使われている。中でも加水分解酵素は、食事の消化などにかかわるものが多く、身近な酵素だといえる。具体例とともに学んでいこうじゃないか。

大学で生物学を学び、現在は講師としても活動しているオノヅカユウに解説してもらおう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

加水分解酵素

加水分解酵素(かすいぶんかいこうそ)とは、名前の通り加水分解反応を促進するタイプの酵素です。加水分解とは、ある分子に水を反応させることで、それまであった分子をばらばらに分解してしまう化学反応のことをさします。

image by Study-Z編集部

分子の結合が切れるところに、水分子由来のHとOHがそれぞれ入り込むのです。

酵素は、化学反応を引き起こしやすくする”触媒”の機能をもったタンパク質。基本的に、加水分解反応が起きても、酵素自身は変化しません。

私たちの体内ではたくさんの酵素がつくられ、機能していますが、その中でも加水分解酵素は少なくありません。とくに、食べ物の消化に役立つ酵素として、名前がよく知られているものもあるんです。

人間のからだではたらく代表的な加水分解酵素は、おおきく4つのグループにわけて紹介されることがあります。以下をご覧ください。

・炭水化物加水分解酵素

・タンパク質加水分解酵素

・脂肪加水分解酵素

・ATP分解酵素

それぞれの酵素のグループについて、詳しく見ていきましょう。

炭水化物加水分解酵素

糖分などの炭水化物を加水分解する酵素の総称が、炭水化物加水分解酵素です。デンプンの分解を助けるアミラーゼなどは、中学校の理科でも名前がでてきます。

アミラーゼ(amylase)…デンプンをデキストリンとマルトースに分解する。ジアスターゼとも。

マルターゼ(maltase)…マルトースをグルコースに分解する。

スクラーゼ(sucrase)…スクロースをグルコースとフルクトースに分解する。

ラクターゼ(lactase)…ラクトースをグルコースとガラクトースに分解する。

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