今回のテーマは「化学平衡」。化学反応は化学式と右向き矢印→で表されるが、→より左側に書く物質を材料、右側を生成物と呼ぶことにしよう。化学平衡とは、反応物と生成物の質量が一定(増えたり減ったりしない)の状態です。では、化学反応が停止状態かと言うとそんなことはない。どういう状態になっているのか。分子軌道の基礎的な概念を交えて教員免許持ちの理系ライターR175と解説していきます。

ライター/R175

1.化学平衡とは

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化学平衡(英語:Chemical Equilibrium)とは、可逆反応において、順方向の反応(正反応)と逆方向の反応(逆反応)の速度が釣り合っていて、時間に依存せず反応物(→の左側の物質)と生成物(→の右側の物質)組成比が見かけ上変わらない状態です。

可逆反応とは?

原料から生成物が出来る反応(正反応と呼ばれる。一般的に右向き矢印→で表記)と、生成物から原料に戻る反応(逆反応、左向き矢印←で表記)がどちらも起きる反応のこと。

反応が続くためには

材料から反応物が生成される「正反応」は、そもそも「材料」がないと起こりませんね。しかし、正反応が進むにつれて「材料」が減っていくのでどこかで正反応は止まってしまいます。反応が起きるためには「材料」が必要で、材料の多さに比例して反応が起きやすい(反応速度が上昇する)です。また、逆反応生成物の増加に比例して起こりやすくなります。

反応速度

反応速度

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以上のことはイラスト内のような式でまとめられます。材料の初期の量を1として、生成物の量をxとしましょう。反応がある程度進んだ後の材料の残量は1-xとなりますね。ここでは反応の次数を1として(材料の量の1乗に比例するものとして)正反応の速度は、反応速度定数と呼ばれる定数k1を使ってk1・(1-x)と表せます。また、逆反応の速度も同様に反応速度定数k2を使ってk2・xと表すことができ、両者が等しい時、つまりk1(1-x)=k2・xという条件を満たす時が化学平衡の状態です。k1、k2は既知の値なのでこれを代入すれば、生成物がどれくらいのできた時点で反応が止まるのか計算することができます。

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2.活性化エネルギー

2.活性化エネルギー

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化学反応の概念を表す図として、イラストのようなものがあります。横軸は反応の段階、縦軸はエネルギーレベルです。反応前はエネルギーが低い状態(基底状態)ですが、一定以上のエネルギーを与え、遷移状態にすればその後生成物に変わっていくというもの。厳密にはそうとも限りませんが、エネルギーが高い≒温度が高い、低い≒温度が低いというイのがざっくりしたメージです。エネルギーが低い基底状態から、遷移状態にするために必要なエネルギー(例えば温めるエネルギー)は活性化エネルギーと呼ばれます。

 

ちなみに、「触媒」とはこの活性化エネルギーを下げる働きをする物質のこと。触媒により低いエネルギーで反応できるようになることから反応速度が上がるわけです。ただし、触媒自体が反応するわけではない点、注意しましょう。

3.反応前および反応中の状態

化学反応が起きる前、材料を構成する原子はエネルギーが低い「基底状態」で、反応を起こすためにはエネルギーを与えて「遷移状態」にする必要があります。反応前が基底状態、反応が始まる時がが遷移状態というわけです。基底状態と遷移状態の解説をする前に「電子軌道」についておさえておきたいとおもいます。

電子軌道

原子を構成する原子核(+電荷)と電子(-電荷)はどこにでもランダムに存在できるわけではありません。電荷に働く引力・斥力の関係から「電子が存在しやすい場所」が決まっていて、それが「電子軌道」です。

原子にそれぞれ電子軌道があり、それが持ち寄られる形で分子の電子軌道「分子軌道」ができ、その分子軌道には「結合性軌道」と「反結合性軌道」があります。前者に電子が入っていると原子と原子を結合させるような力が作用し、後者に電子が入っていると原子と原子が離れ結合が切られようとするイメージです。後者は不安定ではありますが、電子が存在する空間としての候補であることは念頭に置いておきましょう。

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結語性軌道

簡単に言うと原子と原子を結合させるような位置に電子が配置される軌道のこと。原子核は+の電荷で電子は-の電荷、原子核と原子核の間に電子があればちょうど安定しそうですね。イメージとしてはそのような軌道です。実際の現象には近いものの飽くまで近似的なモデルである点はお含みおきください。

まずは原子と原子が近づいて電子になる過程をイメージしましょう。原子核の中心の座標を0で右側を正、左側を負にして座標を取った時、それぞれの座標での電子の波動関数はイラストのような形です。波動関数は2乗すれば電子の存在確率を表します。各座標での電子の分布とイメージしましょう。最初から存在確率の関数で書きたいところ。しかしあえて波動関数に触れているのは、原子の電子軌道が重なりあった分子軌道での存在確率を考えるため、いったん波動関数を足し合わせてから2乗する必要があるためです。座標0の時が最も原子核(+電荷)に近いので電子(-電荷)の存在確率が高く両端で低くなります。結合性軌道」とは左右どちらの原子も+側(またはどちらも-側)に分布を持った波動関数を重ね合わせた分布にしたがい電子が配置しているとする軌道のこと。

両者を接近させていくと、波動関数が重なりますね。重なった関数を2乗すれば電子の存在確率となりますが、原子と原子の間の地点(領域Aとする)においては、原子と原子が近づくことで電子の存在確率が上がりますね。単体でいるときよりも、領域Aに電子がある確率が高くなり、その結果「結合」に至ります。

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反結合性軌道

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簡単に言うと、結合を切り離そうとする位置に電子が配置されるような軌道のこと。+電荷の原子核が真ん中にあり、電子が両端に来るようなイメージで、その場合斥力が働くため結合させないことが想像されますね。以下、結合性軌道同様、波動関数から解説しています。

+側に分布を持つ波動関数と-側に分布を持つ波動関数を重ねてみましょう。2つの原子間の中間地点あたりで、波動関数が0となりますね。電子の存在確率はこれを2乗したものなのでイラストのようなグラフに。電子は両端で存在確率が低く、真ん中では0ということが示されいます。これに従うと、中央よりも両端に電子が存在しやすいことになり、斥力が作用する結合が離されていくことが分かりますね。

エネルギーを与えると遷移状態に

分子にエネルギーを与えると、電子はどこかに逃げようとしますが、自由気ままにどこにでも存在するわけはありません。存在できる空間の候補がありますね。通常結合性軌道にある電子にエネルギーが与えらると、そこから逃げ出そうとして、不安定な「反結合性軌道」に移り、その結果結合が切れて結合の組み合わせが変わり生成物ができます。反結合性軌道に電子が移りエネルギーが高く泣ている状態が「遷移状態」です。

逆反応と化学平衡

生成物も同様、エネルギーが与えられると電子が「反結合性軌道」に移り結合が切れるわけです。すると、結合の組み合わせが変わり反応前の「材料」に戻ってしまいます。これが逆反応の原因ですね。

エネルギーが与えられている限り、「材料」も「生成物」も結合を切られて結合の組み合わせが変わります。つまり正反応、逆反応どちらも起こるということ。両者の反応速度が釣り合っていると化学平衡となります。

化学平衡で起きていること

化学平衡とは、材料から生成物ができる「正反応」と生成物が材料に戻る「逆反応」の速度が釣り合っていて、見かけ上「材料」と「生成物」の量が変わらない状態です。

「材料」にエネルギーが与えられると、電子が「反結合性軌道」に移ることで結合が切れ、結合の組み合わせが変わることで「生成物」ができますが、逆に「生成物」の結合も切られて組み合わせが変わり「材料」に戻る反応も起きるもの。両者の速さが釣り合った場合に「化学平衡」となります。

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化学理科

化学平衡とはどんな状態?生成物の増加に比例?教員免許持ちの理系ライターがわかりやすく解説!

今回のテーマは「化学平衡」。化学反応は化学式と右向き矢印→で表されるが、→より左側に書く物質を材料、右側を生成物と呼ぶことにしよう。化学平衡とは、反応物と生成物の質量が一定(増えたり減ったりしない)の状態です。では、化学反応が停止状態かと言うとそんなことはない。どういう状態になっているのか。分子軌道の基礎的な概念を交えて教員免許持ちの理系ライターR175と解説していきます。

ライター/R175

1.化学平衡とは

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化学平衡(英語:Chemical Equilibrium)とは、可逆反応において、順方向の反応(正反応)と逆方向の反応(逆反応)の速度が釣り合っていて、時間に依存せず反応物(→の左側の物質)と生成物(→の右側の物質)組成比が見かけ上変わらない状態です。

可逆反応とは?

原料から生成物が出来る反応(正反応と呼ばれる。一般的に右向き矢印→で表記)と、生成物から原料に戻る反応(逆反応、左向き矢印←で表記)がどちらも起きる反応のこと。

反応が続くためには

材料から反応物が生成される「正反応」は、そもそも「材料」がないと起こりませんね。しかし、正反応が進むにつれて「材料」が減っていくのでどこかで正反応は止まってしまいます。反応が起きるためには「材料」が必要で、材料の多さに比例して反応が起きやすい(反応速度が上昇する)です。また、逆反応生成物の増加に比例して起こりやすくなります。

反応速度

反応速度

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以上のことはイラスト内のような式でまとめられます。材料の初期の量を1として、生成物の量をxとしましょう。反応がある程度進んだ後の材料の残量は1-xとなりますね。ここでは反応の次数を1として(材料の量の1乗に比例するものとして)正反応の速度は、反応速度定数と呼ばれる定数k1を使ってk1・(1-x)と表せます。また、逆反応の速度も同様に反応速度定数k2を使ってk2・xと表すことができ、両者が等しい時、つまりk1(1-x)=k2・xという条件を満たす時が化学平衡の状態です。k1、k2は既知の値なのでこれを代入すれば、生成物がどれくらいのできた時点で反応が止まるのか計算することができます。

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