この記事では「獅子身中の虫(しししんちゅうのむし)」について解説する。

端的に言えば獅子身中の虫の意味は「内部にいながら害をなす者」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

国語力だけでこれまでの社会人生活を乗り切ってきたライター、ヤザワナオコに、「獅子身中の虫」の意味や例文、類語などを説明してもらおう。

ライター/ヤザワナオコ

コールセンターの電話応対指導やマナー講師、テレビ番組の字幕製作経験もあるライター、ヤザワナオコ。

「獅子身中の虫」は会社内の裏切り者を指してよく使われるが、終身雇用など会社への帰属意識が強い時代はいざ知らず、ドライな働き方も増えるとともにピンとこない人も増えるのではないかと感じているそうだ。「獅子身中の虫」とはどんなときに使う言葉なのか、似た言葉はあるのか、解説してもらう。

「獅子身中の虫」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「獅子身中の虫」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「獅子身中の虫」の意味は?

「獅子身中の虫」には、次のような意味があります。

1.仏徒でありながら、仏法に害をなす者。

2.組織などの内部にいながら害をなす者や、恩をあだで返す者。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

「獅子」とはライオンのこと。

百獣の王といわれるライオンは、外敵に襲われて死ぬことはなくとも、体内に巣くう害虫に食い荒らされて死ぬことがある、という意味です。ですから「身中の虫」を「心中の虫」と書くのは誤り。心情の問題ではなく、実際に体の中に虫が巣くうのですから「身」を使うべきとわかりますね。

次の語源で説明するように、元は仏教の世界で使われた言葉でした。それが後に、広く組織や会社における裏切り者を指すようになったのです。

「獅子身中の虫」の語源は?

次に「獅子身中の虫」の語源を確認しておきましょう。

仏教で出家した人が守るべき戒律を示したお経である「梵網経(ぼんもうきょう)」。この中に、「仏教は外から壊されるのではなく、仏徒を名乗りながら害をなす仏弟子によって壊される」という意味のことが書かれています。

外敵ばかり気にしていて内部統制をおろそかにしていると、思わぬところで足をすくわれるといった意味でしょうか。

ちなみに、鎌倉新仏教の一つである浄土真宗を開いた親鸞(しんらん)も、息子への手紙の中で「獅子身中の虫に気をつけろ」と書いたそうです。ところが実はその手紙の相手である息子自身が「獅子身中の虫」で、親鸞を裏切って自分の利益ばかり考えていたとのこと。親鸞ほどの人でも息子にはだまされることがあるのですね。

\次のページで「「獅子身中の虫」の使い方・例文」を解説!/

「獅子身中の虫」の使い方・例文

「獅子身中の虫」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

1.親鸞は獅子身中の虫だった我が息子を勘当したそうだ。親として断腸の思いだっただろうな。

2.せっかく彼を客員教授に登用したのに情報を外部に流出させるとは、獅子身中の虫になってしまった。

辞書の意味に従い、「仏教徒」に関する例文と「組織内の裏切り者」を指す例文を紹介しました。

普通の人は、日常生活では仏門の話をする機会はあまりないことでしょうから、「獅子身中の虫」を耳にするとしたらもっぱら「組織内」のことを話していると考えて問題ありません。

なお、この「獅子身中の虫」は、非難するニュアンスが強い言葉です。恩義があるのに裏切ってしまうことを指すため「礼儀知らず」「恩知らず」というイメージも。ですから面と向かって相手のことを「獅子身中の虫ですね」などとは言わないほうがいいでしょう。他社のうわさ話などで「こんなひどい辞め方をするとは獅子身中の虫だったな」と使う程度にとどめるのが得策です。

「獅子身中の虫」の類義語は?違いは?

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では、「獅子身中の虫」と同じような意味の言葉を見ていきましょう。

「恩を仇(あだ)で返す」

恩人に対し、恩返しもせずかえって害を与えるような行為をすることをいいます。「仇」にはいろいろな意味がありますが、ここでは恨みや、恨みに思ってする仕返しのこと。

「獅子身中の虫」と異なり同じ組織内の人物といったニュアンスはありませんが、味方と思っていた相手に裏切られる悔しさがにじむ点は共通しています。

ちなみに、同じく「恩」と「仇」を使う慣用句として「仇を恩で報いる」という言葉も。こちらは恨みを持つ相手にかえって情けをかけることで、なかなか普通の人間にはできない境地のように感じます。

\次のページで「「飼い犬に手を噛まれる」」を解説!/

「飼い犬に手を噛まれる」

いつも面倒を見てかわいがっている飼い犬に本気で噛みつかれたら、驚きや悲しみなど複雑な感情に襲われそうです。

オオカミに代表されるイヌ科の動物は集団行動をすることも多く、上下関係や指揮命令系統がはっきりしています。そんな中では、地位の低い者がリーダーに逆らうなど言語道断。そうした性質を持つ犬に噛まれるのですから、噛まれたほうの驚きやショックは、飼い猫に引っかかれるのよりもだいぶ大きいことでしょう。

このように「飼い犬に手を噛まれる」は、かわいがっていた部下など目下の人に裏切られたケースに使う言葉。間違っても上司を指して「社長があんな決断をするとは。飼い犬に手を噛まれた気分だ」などと言わないようにしましょう。

「庇を貸して母屋を取られる(ひさしをかしておもやをとられる)」

雨宿りのためにひさし(軒先)を貸してあげたら、その相手がいつの間にか家の主要部分に入り込み、大きな顔で暮らし始めた…そんな情景を想像する人も多いのではないでしょうか。

少し恩義をかけた相手が、感謝するどころかさらに大きな利益を得てしまう図々しさを表す言葉です。なまじ優しく接したためにずるい相手に付け込まれるとは、親切な人が損をするひどい状況ですね。

実はこの「ひさし」、解釈が2通りあると知っていましたか。多くは現代の軒先のこと、建物の出入り口に張り出した小屋根を指すと考えています。ただ、古典的な意味では、母屋より低く作られた天井のない小部屋を「ひさし」とか「ひさしの間」といったそうです。どちらが本当の語源かは筆者にはわかりませんでした。

ただ、軒先を数分間貸しただけの相手が家の中に入り込んでくるというのもずいぶん大げさです。それよりは、土間のようなところで少しの間滞在させた相手がほかの部屋にも入り込んだ、と考えるほうが自然な解釈かもしれませんね。

「獅子身中の虫」の対義語は?

次に、「獅子身中の虫」と逆の意味を表す言葉をご紹介します。「組織の内部で害をなす者」の反対ですから、「組織を内側で支えてくれる人」を意味するものがいいでしょう。

「縁の下の力持ち」

目立った活躍をすることはなくても、いつも地味な仕事で支えてくれる人を指します。運動部のマネージャーや、会社の総務部門などに使われることが多いこの言葉。「獅子身中の虫」とは反対に、ぜひとも身近にいてほしい存在ですね。

「腹心」

深く信頼し、なんでも打ち明けられるようなする相手のことを言う言葉です。「腹心の部下」「彼は代表者の腹心だ」などの形で使われることが多く、「右腕」や「懐刀(ふところがたな)」と言い換えることもできますよ。

「獅子身中の虫」の英訳は?

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最後に、英語でも「獅子身中の虫」を表すならどんな言葉を使うのか見ていきましょう。

\次のページで「「A thorn in one's flesh.」」を解説!/

「A thorn in one's flesh.」

fleshは「肉、肉体」、thornは「トゲ」なので、直訳は「体の中のトゲ」という意味です。

ずっと抱える悩みの元といったニュアンスなので、必ずしも人を指すわけではありません。「苦労の種」とか「目の上のたんこぶ」と訳されることもあります。

「獅子身中の虫」を使いこなそう

この記事では「獅子身中の虫」の意味・使い方・類語などを説明しました。

親しいと思っていた人が実は良からぬことを考えていて裏切られてしまったら悲しいですね。せめて自分はそうならないよう、組織の改善点も上手く伝えつつ、周囲との関係を良好に保っていきたいものです。

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【慣用句】「獅子身中の虫」の意味や使い方は?例文や類語をWebライターがわかりやすく解説!

この記事では「獅子身中の虫(しししんちゅうのむし)」について解説する。

端的に言えば獅子身中の虫の意味は「内部にいながら害をなす者」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

国語力だけでこれまでの社会人生活を乗り切ってきたライター、ヤザワナオコに、「獅子身中の虫」の意味や例文、類語などを説明してもらおう。

ライター/ヤザワナオコ

コールセンターの電話応対指導やマナー講師、テレビ番組の字幕製作経験もあるライター、ヤザワナオコ。

「獅子身中の虫」は会社内の裏切り者を指してよく使われるが、終身雇用など会社への帰属意識が強い時代はいざ知らず、ドライな働き方も増えるとともにピンとこない人も増えるのではないかと感じているそうだ。「獅子身中の虫」とはどんなときに使う言葉なのか、似た言葉はあるのか、解説してもらう。

「獅子身中の虫」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「獅子身中の虫」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「獅子身中の虫」の意味は?

「獅子身中の虫」には、次のような意味があります。

1.仏徒でありながら、仏法に害をなす者。

2.組織などの内部にいながら害をなす者や、恩をあだで返す者。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

「獅子」とはライオンのこと。

百獣の王といわれるライオンは、外敵に襲われて死ぬことはなくとも、体内に巣くう害虫に食い荒らされて死ぬことがある、という意味です。ですから「身中の虫」を「心中の虫」と書くのは誤り。心情の問題ではなく、実際に体の中に虫が巣くうのですから「身」を使うべきとわかりますね。

次の語源で説明するように、元は仏教の世界で使われた言葉でした。それが後に、広く組織や会社における裏切り者を指すようになったのです。

「獅子身中の虫」の語源は?

次に「獅子身中の虫」の語源を確認しておきましょう。

仏教で出家した人が守るべき戒律を示したお経である「梵網経(ぼんもうきょう)」。この中に、「仏教は外から壊されるのではなく、仏徒を名乗りながら害をなす仏弟子によって壊される」という意味のことが書かれています。

外敵ばかり気にしていて内部統制をおろそかにしていると、思わぬところで足をすくわれるといった意味でしょうか。

ちなみに、鎌倉新仏教の一つである浄土真宗を開いた親鸞(しんらん)も、息子への手紙の中で「獅子身中の虫に気をつけろ」と書いたそうです。ところが実はその手紙の相手である息子自身が「獅子身中の虫」で、親鸞を裏切って自分の利益ばかり考えていたとのこと。親鸞ほどの人でも息子にはだまされることがあるのですね。

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