この記事では「昔取った杵柄」について解説する。

端的に言えば昔取った杵柄の意味は「過去に鍛えた腕前」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

国語力だけでこれまでの社会人生活を乗り切ってきたライター、ヤザワナオコに、「昔取った杵柄」の意味や例文、類語などを説明してもらおう。

ライター/ヤザワナオコ

コールセンターの電話応対指導やマナー講師、テレビ番組の字幕製作経験もあるライター、ヤザワナオコ。

自身には昔取った杵柄といえるほど自慢できるような経験も技術もないせいか、年配の人から昔の手柄をとくとくと語られるとどうしてもいらっとしてしまうとのこと。「昔取った杵柄」について解説してもらう。

「昔取った杵柄」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「昔取った杵柄(むかしとったきねづか)」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「昔取った杵柄」の意味は?

「昔取った杵柄」には、次のような意味があります。

過去に鍛えた腕前。若いころに身につけた技能。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

上方(京都)いろはかるたの一つでもあり、ビジネスシーンでも耳にすることがある「昔取った杵柄」。意味は単に「昔身につけた技術」を指しますが、その技術が今も衰えていない場合に使います。

よくある使い方は、学生時代に野球部だった上司が今も運動能力に優れていると知ったときに、「さすがは昔取った杵柄ですね」と褒めるケース。また自分のことを言う場合もあり、経験を伝えるために用いるほか、何かの出来を褒められたときに「いやいや、昔取った杵柄というだけですよ」と謙遜する状況にも用いられます。

「昔取った杵柄」の語源は?

次に「昔取った杵柄」の語源を確認しておきましょう。

「杵」は餅つきの際に臼に入れたもち米(お餅)を上から叩くのに使う道具ですね。もともとは穀の脱穀や籾すりをするための道具だったようです。「柄」は傘の柄と同様、持ち手の棒状になっている部分のこと。慣用句では「取った」となっていますが、これは昔は「操った」だったのではないかという説もあります。餅つきの経験がある人は分かるでしょうが、この作業は簡単そうに見えて、力の入れ具合や餅をひっくり返してくれる人とのタイミングの合わせ方など意外と難しいのです。

つまり「昔上手に操っていた杵の柄」ということになり、かつて餅つきを上手に行えた人は、年を取っても習得した技術を忘れることはなく、いつまでも上手に餅をついてくれるものだ、といっています。なお、ここでいう「柄を取る」は、餅つきではなく豊作祈願などで行う祭りで行われた「杵振り」を指すという説も。いずれにしても、重たい杵をうまく操れる達人は尊敬の対象だったのでしょうね。

そこから、スポーツや芸能などで以前に身につけた優れた技能を保ち続けている人を指して使うようになりました。

\次のページで「「昔取った杵柄」の使い方・例文」を解説!/

「昔取った杵柄」の使い方・例文

「昔取った杵柄」の使い方を例文を使って見ていきましょう。この言葉は、たとえば以下のように用いられます。

・父と海に行ったら、70になるというのに泳ぎの腕前に驚かされた。さすがは昔取った杵柄だ。

・子どものころはピアノを習っていたので、昔取った杵柄で今でも簡単な曲なら弾けるんです。

このように、今も衰えぬ技術を褒めるときや、過去に経験があることを伝えたいときに使える言葉です。ただ、過去に経験があるといっても、悪い意味で使う言葉ではない点に気をつけましょう。「彼は中学のころから遅刻魔だったらしいから、今日の寝坊も昔取った杵柄だな」などと使うのは誤用です。

「昔取った杵柄」の類義語は?違いは?

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では、「昔取った杵柄」の類語にはどのようなものがあるでしょうか。使い方の違いも含めて見ていきましょう。

「昔の勘を取り戻す」

過去に持っていた技術や能力を再び発揮できるようにすることです。過去も今もその技量が発揮できる点では「昔取った杵柄」と共通しますが、こちらはいったん忘れていたことを思い出すようなニュアンスで使う点に気をつけましょう。

\次のページで「「雀百まで踊り忘れず(すずめひゃくまでおどりわすれず)」」を解説!/

「雀百まで踊り忘れず(すずめひゃくまでおどりわすれず)」

若い頃に身につけた癖は年をとっても直らない様子を表す言葉です。

若い頃と今とで変化がない様子を表す点は「昔取った杵柄」と同じですが、こちらは悪い意味で使う表現という点に注意が必要。褒め言葉のつもりで「部長のデザインセンスはさすが美大出身だけのことはありますね、雀百まで踊り忘れずですね」などと使うと怒られてしまうかもしれませんよ。

・キャッチボールなんて何十年ぶりだろう。野球部にいたとはいえ、昔の勘を取り戻すには時間がかかりそうだよ。

・雀百まで踊り忘れずとはいうが、学校をさぼってばかりいた兄がいくつになっても就職もせずふらふらしているのはどうしたものか。

「昔取った杵柄」の対義語は?

次に、「昔取った杵柄」とは反対の意味を表す言葉を紹介します。

「昔千里も今一里(むかしせんりもいまいちり)」

若い頃は優れた能力があったのに、年を取るとそれが衰えてしまう様子を表します。

昔は千里もの長い距離を進めた駿馬も、年老いた今は一里しか歩けないというのが語源。ちなみに「里」は尺貫法における長さの単位で、日本では約3.9kmほどを意味します。運動能力の面で使われることが多い言葉ですが、それ以外の技術や能力の衰えについても使用可能です。

「騏驎も老いては弩馬に劣る(きりんもおいてはどばにおとる)」

「騏驎」は一日に千里も走る駿馬、「駑馬」とは足ののろい駄馬のこと。

1つ目の対義語として紹介した「昔千里も今一里」と同様に、名馬であっても年を取ると駄馬以下になるということから、どんなに優秀な人でも年には勝てず、平凡な人以下になってしまうことを表しています。なお、この「騏驎」は中国の伝説上の動物で大河ドラマのタイトルにも使われた「麒麟」とは字が違う点にお気づきでしょうか。誤って書かれているサイトもありますが、意味を考えると区別がつきますね。

「昔取った杵柄」の英訳は?

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最後に、「昔取った杵柄」と同じ意味を表す英語表現を見てみましょう。

\次のページで「「old hand」」を解説!/

「old hand」

過去に身につけた技術が今も使える人を表したいので、「熟練者、ベテラン」という意味を持つold handがいいでしょう。ただ、この言葉には「昔取った杵柄」にあるような「しばらく遠ざかっていたけれど今も上手にできる」というニュアンスまではありませんので、必要なら言葉を補ってください。

 

「昔取った杵柄」」を使いこなそう

この記事では「昔取った杵柄」の意味・使い方・類語などを説明しました。若い頃に頑張って練習したスポーツや楽器、勉強の知識などは、年を取ってから意外な場面で役立つこともあります。何事にも本気で取り組むことはそれ自体が力にもなりますし、いつかどこかで日の目を見る機会があれば嬉しいですよね。

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【慣用句】「昔取った杵柄」の意味や使い方は?例文や類語をWebライターがわかりやすく解説!

この記事では「昔取った杵柄」について解説する。

端的に言えば昔取った杵柄の意味は「過去に鍛えた腕前」ですが、もっと幅広い意味やニュアンスを理解すると、使いこなせるシーンが増えるぞ。

国語力だけでこれまでの社会人生活を乗り切ってきたライター、ヤザワナオコに、「昔取った杵柄」の意味や例文、類語などを説明してもらおう。

ライター/ヤザワナオコ

コールセンターの電話応対指導やマナー講師、テレビ番組の字幕製作経験もあるライター、ヤザワナオコ。

自身には昔取った杵柄といえるほど自慢できるような経験も技術もないせいか、年配の人から昔の手柄をとくとくと語られるとどうしてもいらっとしてしまうとのこと。「昔取った杵柄」について解説してもらう。

「昔取った杵柄」の意味や語源・使い方まとめ

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それでは早速「昔取った杵柄(むかしとったきねづか)」の意味や語源・使い方を見ていきましょう。

「昔取った杵柄」の意味は?

「昔取った杵柄」には、次のような意味があります。

過去に鍛えた腕前。若いころに身につけた技能。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

上方(京都)いろはかるたの一つでもあり、ビジネスシーンでも耳にすることがある「昔取った杵柄」。意味は単に「昔身につけた技術」を指しますが、その技術が今も衰えていない場合に使います。

よくある使い方は、学生時代に野球部だった上司が今も運動能力に優れていると知ったときに、「さすがは昔取った杵柄ですね」と褒めるケース。また自分のことを言う場合もあり、経験を伝えるために用いるほか、何かの出来を褒められたときに「いやいや、昔取った杵柄というだけですよ」と謙遜する状況にも用いられます。

「昔取った杵柄」の語源は?

次に「昔取った杵柄」の語源を確認しておきましょう。

「杵」は餅つきの際に臼に入れたもち米(お餅)を上から叩くのに使う道具ですね。もともとは穀の脱穀や籾すりをするための道具だったようです。「柄」は傘の柄と同様、持ち手の棒状になっている部分のこと。慣用句では「取った」となっていますが、これは昔は「操った」だったのではないかという説もあります。餅つきの経験がある人は分かるでしょうが、この作業は簡単そうに見えて、力の入れ具合や餅をひっくり返してくれる人とのタイミングの合わせ方など意外と難しいのです。

つまり「昔上手に操っていた杵の柄」ということになり、かつて餅つきを上手に行えた人は、年を取っても習得した技術を忘れることはなく、いつまでも上手に餅をついてくれるものだ、といっています。なお、ここでいう「柄を取る」は、餅つきではなく豊作祈願などで行う祭りで行われた「杵振り」を指すという説も。いずれにしても、重たい杵をうまく操れる達人は尊敬の対象だったのでしょうね。

そこから、スポーツや芸能などで以前に身につけた優れた技能を保ち続けている人を指して使うようになりました。

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