今回のテーマは不思議な景色を作ってしまう「蜃気楼(しんきろう)」。モノの見え方はは光の進路によって決まる。景色Aからの光を捉えてそこに景色Aがあることを認識する。景色Aからの光の進路が大きく変わった結果、無いはずの場所に景色Aが見えるといった現象で、富山県魚津市や北海道の石狩湾など各地に名所があり観光地にもなっている。名探偵コナンのトリックにも使われたことがある蜃気楼(しんきろう)のしくみについて理系ライターのR175と解説していこう。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許持ち。日常の身近な現象に結びつけて分かりやすい解説を強みとする。

1.モノの見え方と蜃気楼(しんきろう)

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私たちは、物体を認識する時、そのモノから来る光を頼りにしています。

例えば、景色Aがa地点にあるように見えるのは、光がイラストのように進むからですね。

もし、景色Aから光の進路が途中で大きく変わったら、まるで異なる地点(例えば地点a')に景色Aがあるように見えて、その結果景色Aが伸びて見えたりする象が蜃気楼(この場合は上位蜃気楼)です。

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2.光の進路が変わる理由

光はどんな時も直進するのか?そんなわけはありませんね。同じ屈折率の物体を進む間は光は直進しますが、途中で屈折率の異なる物質を通過した場合、進路が変わります。

屈折について

物質によって光の進み方が異なります。なぜかと言うと、物質によって原子核電子の並び方が異なるから。詳しい説明は割愛しますが古典物理の考えでは次項のようなイメージです。

光の進みやすさと屈折率

光の進みやすさと屈折率

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光は光子という微小な粒子で構成されていると考えることも出来ます。光子は物質中の原子に衝突すると、原子が別の光子を放出する。放出された光子が別の原子に当たり、またその原子から光子が放出されるこれを繰り返すことで光は進んでいくのです。例えば、原子の存在密度が高いと光子が原子と衝突して再び光子が放出されるというプロセスが増えて光が進むのに時間がかかる可能性があります。屈折率はその物質中での光の進みやすさを数値化したもので、数値が小さいほど光が進みやすいと考えましょう。

進みやすさが異なる時に起きること

進みやすさが異なる時に起きること

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例えば、屈折率が1の空気から屈折率が1.33の水に入射角θにて光が斜めに進む時の挙動を考えましょう。空気中を進む間、光は直進を続けますが水中に入ると屈折率θ'なる角度に進路を変えます。なぜでしょうか。よく用いられる例えが運動会種目としてお馴染みの台風の目で曲がる時の動き内側の人は外側の人より走る距離が短い、「走らなくて良い」です。

台風の目では、方向を変えるために敢えて内側の人が動きをセーブしているわけですが、逆に内側の人の走路が走りにくく速度が落ちた場合、自ずと進行方向が変わりますね屈折でもこれと同じことが起きているとイメージしましょう。

 

水面に向かって斜めに入射する光線も、若干の幅を持っていると考え、先に水面に達する内側の速度が落ちることで進行方向が変わります。外側部分も水中に入ってきてからは、外側内側足並みを揃えて進むため再び直進です。

3.蜃気楼発生原理

通常、空気中の温度や密度はほぼ均一なため、屈折率(光の進みやすさ)もほぼ同じ。よって、光は直進することでしょう。景色Aはa地点にあるように見えるわけです。

\次のページで「空気中の屈折率と景色の見え方」を解説!/

空気中の屈折率と景色の見え方

空気中の屈折率と景色の見え方

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蜃気楼は空気中で屈折率のばらつきがある場合に起こります。冒頭で述べたように景色Aからの光があらぬ方向から来たかのように見えると違う見え方になるのです。ここでは上位蜃気楼の伸びるパターンのイラストを示しています。

密度と屈折率

2項で述べた通り屈折率は光の進みやすさを示すもの。一般に光が通過する物質の密度が高くなるとほど(光子と原子の相互作用の頻度が増えるため)光が進みにくい。では、どんな時に空気中の密度差が出来るかというとそれは温度差です。

温度が高いほど分子運動が激しく、分子密度が小さい状態。体育の授業で準備体操をする時に広がるのと同じイメージで、分子も運動が激しい時は広がりあって密度が小さくなります。

よって温度が低い部分と高い部分の境界で光の進路が変わるのです

4.主な蜃気楼パターン

空気中の温度ムラのパターンによって発生する蜃気楼の種類も異なり、主に以下2つのパターンがあります。

上位蜃気楼

上位蜃気楼

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景色が縦長に伸びたり上下反転したりするパターンの蜃気楼です。上空の方が気温が低い(屈折率が高い、光が進みにくい)に起こります。上空で光の進路が一旦上向き方向に変わって進むため、上の方の景色や輪郭は通常の位置より高い角度から目に入ってくることになり、本来より高い位置にある虚像を見ることになるのです。

 

また、空気中の上下方向の温度ムラがさらに激しいと光の進路の方向が大きく変化して、景色の下側からの光が上側からの光の進路と交差してしまい結果反転して見えます。気温は低いものの、海水面近くは暖かい場合に起こりえますね。

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下位蜃気楼

下位蜃気楼

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上述とは逆に高い位置に行くほど温度が高い場合は下位蜃気楼となります。光が一旦下側に向かった後、上側に進路を変えるような動きをしてから観測者の目に届くため、まるで景色が下側にあるように見えるのです。

5.名探偵コナンでのトリックが成立する条件

5.名探偵コナンでのトリックが成立する条件

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ところで、名探偵コナンにて蜃気楼を使ったトリックが使われたことがあります。山道でカーチェイスを仕掛け、追いかけてくる車に、本来崖である所に道が続いているよう錯覚させて崖に突っ込むよう誘導し殺害するというもの。本来崖である所に道が続いているように見えるのは蜃気楼によるものだと作中で解説されています。実際にこのような現象が起きるためには以下のような条件が必要です。

カーブ付近で、何らかの原因で左右方向に屈折率のムラが出来ている必要があります。そうすれば、本来右に曲がっている道がまるで真っ直ぐ続いているように見えるでしょう。現実にも、横方向の蜃気楼が起きる可能性はありますが極めて稀です。

蜃気楼が見える原因

私たちがモノを見るとき、そのモノから来る光を認識するもの。私たちが景色を見るとき、光が見えた方向にその景色があるものと認識します。しかし、空気中での屈折率のムラがあると光の進行方向が途中で変わるため、「光は直進するもの」として景色を見ている私たちにとっては、まるで別の場所にその景色があるように見えるのです。

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地学大気・海洋理科

「蜃気楼」って何?その原理や出現条件について教員免許持ちの理系ライターがわかりやすく解説

今回のテーマは不思議な景色を作ってしまう「蜃気楼(しんきろう)」。モノの見え方はは光の進路によって決まる。景色Aからの光を捉えてそこに景色Aがあることを認識する。景色Aからの光の進路が大きく変わった結果、無いはずの場所に景色Aが見えるといった現象で、富山県魚津市や北海道の石狩湾など各地に名所があり観光地にもなっている。名探偵コナンのトリックにも使われたことがある蜃気楼(しんきろう)のしくみについて理系ライターのR175と解説していこう。

ライター/R175

関西のとある国立大の理系出身。学生時代は物理が得意で理科の教員免許持ち。日常の身近な現象に結びつけて分かりやすい解説を強みとする。

1.モノの見え方と蜃気楼(しんきろう)

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私たちは、物体を認識する時、そのモノから来る光を頼りにしています。

例えば、景色Aがa地点にあるように見えるのは、光がイラストのように進むからですね。

もし、景色Aから光の進路が途中で大きく変わったら、まるで異なる地点(例えば地点a’)に景色Aがあるように見えて、その結果景色Aが伸びて見えたりする象が蜃気楼(この場合は上位蜃気楼)です。

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